バリー・A・バーカス 氏

健やかな体と心を育む街のデザイン President, Berkus Design Studio バリー・A・バーカス Barry A. Berkus

広報誌掲載:2012年8月

バリー・A・バーカス氏は45年以上にわたって米国内外における建築設計の最前線で活躍されてきた。彼の設計事務所が手掛けてきた件名は、リゾートやコミュニティ開発のマスタープラン作成、都市再開発、さらに、商業施設や公共施設、住宅の設計にいたるまで、多岐にわたっている。また、ウエストコーストや全米のコンテストにおいて、設計・プランニングに関連した受賞は450以上におよぶ。

Residential Architect誌は「20世紀の住宅設計において、もっとも優れた功績をあげた10人」の一人として選んでいる。現在も精力的に、国内外で活動を続けるバーカス氏に、街づくりの課題と住宅のあるべき姿についてたずねた。

急速な変化を遂げた住宅まず、米国の住宅事情についてお聞かせください。

米国において、住宅の大きな変化は第二次世界大戦の終戦後に起きました。戦争から戻った若い兵士が新しい家庭を持つための多くの住宅が必要とされました。また、戦後のモータリゼーションの発達はめざましく、都心から郊外にハイウェイが整備されることにより、住宅と職場の距離も自動車が解決していきました。人々はハイウェイを利用して都会の喧噪から離れ、郊外の緑豊かな場所に新しい住まいを築きたいと考えたのです。こうして、郊外に大規模な住宅地が建設されました。しかし、その多くは自動車交通に依存した、単なる箱を並べたような画一的な住宅でした。

急速な変化を遂げた住宅

同じ箱を並べたような住宅地(1950年代)

同じ箱を並べたような住宅地(1950年代)
©Berkus Design Studio

また、郊外にはアメリカンドリームを象徴するような住宅地も開発されました。その住まいは敷地面積が広く、隣人との距離を広く保たれてはいましたが、逆に隣人との関係が希薄になり、各住戸は孤立して犯罪の標的となることも多くなったのです。

1970年代になると、治安の悪さから家族を守るために、周囲を外壁やフェンスで覆い、入り口にゲートを設けて外部からの自由な出入りを禁止する、ゲーテッド・コミュニティも誕生することになりました。このような反省から生まれたのが、ニューアーバニズムだといえるでしょう。

ニューアーバニズムとは、5分で歩ける半径1/4マイル(約400m)の中にショッピングモールや学校などの都市機能を配置し、住宅の密度を高めることで隣人との関係を深めて街全体の防犯レベルを高めるコミュニティを形成しようという考え方です。

体と心のヒューマンスケールをもとに街をデザインする先生もニューアーバニズムに賛同されているのですか。

私は、設計にあたって、常に人間的な尺度を大切にし、人間の心の動きや行動を踏まえた設計を心がけています。そういう意味ではニューアーバニズムに近いといえますが、私が重要視するのは「庭園」なのです。全ての人が庭園に住む権利があると考えています。現代はコンピュータやスマートホンが登場し、ビジネスも生活もすべてが高速化しました。しかし、住まいはもっとゆっくりとリラックスできる場であるべきです。人間的な尺度を言う場合には、肉体的なスケールとあわせて、精神的な側面も重要です。そのキーとなるのが庭園や公園であり、その緑が創り出す景観(ランドスケープ)です。これまで、人類は塀や壁を建てて、建物で自分たちの生活を守ってきましたが、将来は私達の身体や精神をランドスケープによって守らなくてはならないのです。

すべての住居は庭園に接することが必要条件人間的な尺度について具体的にお教えください。

私のプランでは全ての住戸は必ず庭園に接しています。それは広い庭園の場合もありますし、コンパクトな庭の場合もあります。庭に接しているということは、太陽や風などの自然を住戸に取り込むことであり、緑の景観を手に入れることでもあります。

また、子供たちの安全も考えた街を創り出す必要もあります。そのためには、自動車と歩行者を分離して、歩行者優先の都市を計画する必要があります。2000年に私が設計したプラン(fig. 1)では、通りが全て公園に面し、すべての住宅を庭園に沿うように配置しています。中央に位置する商業施設から伸びる道路の延長上に、住戸を設けています。このような配置は日本庭園から影響を受けました。日本庭園の小径は緩やかに蛇行して回遊性の高い空間を創り出しています。歩くたびに緑のランドスケープが変化する、歩いて楽しく精神が落ち着く街を創り出したいのです。

街と住宅は平行して同時にデザインする
©Berkus Design Studio

fig.01 バーカス氏が2000年に手がけたプラン。中央の商業施設モールから曲線で伸びる街路沿いに住戸が広がる

歩行者と自動車の動線は明確に分ける先生はセレブレーション・フロリダの計画にも参画されていたと聞きました。

それ以前にもディズニー社の依頼でフランスのユーロ・ディズニーランドなど、街の基本設計に関わっていましたから、セレブレーションの開発にも参画することになりました。当初、1980年代にジャック・レバートソンとともにマスタープランの策定に携わり、その後にロバート・A・M・スターンが加わりました。

セレブレーションは、伝統的近隣住区開発(TND:Traditional Neighborhood Development)の代表的な例としてあげられており、開発手法はニューアーバニズムと同様の考え方です。

当時、私は原設計に対してもっと多くの庭園や公園を作るべきだと主張し、自動車と歩行者の動線は明確に分けるべきだと主張しました。しかし、彼らが最終的に選んだのは私がデザインしたプランではありませんでした。セレブレーションでは、車は表通りを走り、バックアレー(裏道)も走ります。歩行者のための歩道は整備されてはいますが、歩行者優先の街づくりとはいえません。

魅力的な街の価値は下がらない土地の価値が上がる街とはどのようなものでしょうか。

魅力的な街を創るには、特別な場所を設けることです。それはコミュニティ専用の公園であったり、くつろげる水辺空間などです。日本と違って米国では湖や海などの水辺空間を非常に重要視します。たとえば、単なる住宅地であっても湖や池を配置して街並みを美しくすることで、その土地の価値は上がります。これは米国では陸地の面積が広く、ほとんどの土地が水辺に接していないからかもしれません。米国人は水に対する憧れが強いのでしょう。

日本で学んだ自然との関わりを街づくりに活かす現在はどのようなプロジェクトを進めておられるのでしょうか。

現在進めているのは、カリフォルニア州ロサンジェルスのプラヤビスタです。プラヤビスタは航空機の製造会社「ヒューズ・エアクラフト社」の跡地を開発した巨大な都市開発で、2007年までに1期計画が完了し、現在は2期計画がスタートしています。(fig. 2)はその一部ですが、1エーカーに17~100軒の密度で設計しています。セレブレーションが1エーカーに5軒なので、セレブレーションよりあえて密度を高めていますが、より快適な街になるように計画し、住宅の前に庭を設けてフロントポーチを前に配置しました。車はバックアレーからしかアクセスできないように歩車分離を徹底しています。また、住戸はブーメラン型で他の家の視線を遮るように計画。米国ではあまり例のないことですが、南からの採光を考えたレイアウトとしました。方角を取り入れる事は、住宅と自然との関わりについて、日本から学んだ多くの事柄の一つです。

バーカス氏が2000年に手がけたプラン。中央の商業施設モールから曲線で伸びる街路沿いに住戸が広がる

街と住宅は平行して同時にデザインする街と住宅の関係についてお話しください。

プラヤビスタの住宅は、主に2×6の木造建築で、街区ごとに建築様式は統一するものの、各住居はデザインが異なるようにしています。これにより、街並みの統一感を創り出すことができるのです。私は都市開発と住宅の建設は平行して進めるべきだと考えています。地割りをして、そこに住む人たちが勝手に住宅をデザインして建ててしまうと、素敵な街にはなりません。庭園や緑の配置と住宅も含めた景観が、健康な体と健全な精神、そして安全で心安らぐ暮らしを創り出すのです。これも、日本古来の住宅の考え方に近いものです。

バリー・A・バーカス 氏
米国、ロサンジェルス市生まれ。南カリフォルニア大学で学び、21歳でB3建築事務所(バーカス設計事務所)を立ち上げ、国内外のリゾートやコミュニティのマスタープラン設計、商業施設から住宅設計まで、広範囲のプロジェクトを手がける。受賞・表彰多数。