マーティン・リデゴー 氏

再生可能エネルギー立国をめざすデンマークの挑戦 マーティン・リデゴー Martin Lidegaard

広報誌掲載:2013年8月

2020年に再生可能エネルギーで国内消費する電力の70%を賄い、2050年には石油・石炭などの化石燃料への依存から脱却する目標を掲げたデンマーク。そのエネルギー政策では、原子力を用いることなく、風力発電をはじめとした再生可能エネルギーを根幹に据えた基本政策を進めている。他国の追随を許さない高い環境目標を掲げたデンマークの気候変動・エネルギー・建設大臣、マーティン・リデゴー氏に、環境政策の現状と展望についてたずねた。

経済的にもメリットのある再生可能エネルギーデンマークはどのような環境配慮型の国家をめざされているのでしょうか。

わが国のグリーン成長戦略は、環境だけでなく、経済的にも有益な再生可能エネルギーへの転換をめざしています。このため、産業界も政府のグリーン経済政策を全面的に支持しています。

その一つは、私たちが非常に費用対効果の高い方法でグリーンエネルギーに転換することを可能にした点です。たとえば、デンマークの電力価格は高く見えますが、税金を除いた発電コストだけを見ると、ヨーロッパ全土の平均より安価です。すでに消費電力の40%を再生可能エネルギーで賄っているにもかかわらず、デンマークの電力市場の競争力は極めて高いといえるでしょう。私たちが誇れることは、風車(Wind Turbine)を造る技術ではなく、風車を経済的に製造し、安定して運用するノウハウとソリューションなのです。それこそが、もっともわが国が競争力を発揮できるところです。私は政策を決断する際に、この点を重要視していますし、産業界の支持を得ることができた理由もここにあります。

もう一つは、産業界自身が、独自の環境技術やエネルギー効率向上の技術を確立していたことです。そして最後に、気候変動問題を目の前にして、産業界も何かしなければいけないと感じていたのだと思います。化石燃料は環境への影響だけでなく、資源として有限であるため、持続可能性という観点からも問題があります。ヨーロッパ諸国では、エネルギー源の半分以上をヨーロッパ以外から輸入する化石燃料に頼っています。これでは短期的には需給変動によるリスクがあり、長期的に見ても持続可能な社会を実現することはできないと考えます。

「エネルギー効率」はもうひとつのエネルギー資源さまざまな再生可能エネルギーの中で特に力を入れているのはどの分野ですか?

再生可能エネルギーの中で、デンマークでもっとも利用されているのが風力です。理由は極めて単純で、私たちが風という資源を持っているからです。そもそもデンマークは風の強い土地で、私たちの歴史も風とともにありました。その昔、バイキングは風を利用した帆船でスコットランドに渡りましたし、わが国では何世紀にもわたって、灌漑や製粉など、さまざまな目的に風車を利用してきました。日本の場合は、太陽の光も豊富で、山国のために水力の利用も考えられますが、デンマークには高い山もなく、日射量も少ないので、必然的に風力が最大のエネルギー源となるのです。しかし、もっとも大切なのはエネルギー効率を高めて省エネを実現することです。過去30年間、デンマーク経済は80%という高度成長を遂げました。しかし、エネルギー効率を高める努力を重ねた結果、エネルギー消費量の増加はゼロに抑えることができました。エネルギー効率を高めることは、新たな電源開発と同様に重要なエネルギー資源です。さらに風力だけではなく、バイオマスをもう一つの柱として用いながら、エネルギー効率の良さを組み合わせることは、私たちのグリーンビジネスにとって非常に重要なポイントなのです。

天然資源の重要さを教え継ぐ国民デンマークではエネルギー効率を上げるためにどのような啓蒙活動をされているのでしょうか。

デンマークでは、天然資源は無尽蔵に与えられているのではなく、大切にしなければいけないと、昔から教え継がれてきました。こうした基本的な行動は子供の時から教え込まれており、ほとんどの家庭や学校では、使っていない部屋の照明を消すのが常識になっています。ティーンエイジャーの子供たちは「もっとシャワーの時間を短くしなさい」などと、常にムダのないように指導されています。

建築にしても同様で、断熱性の低い建物は熱エネルギーのロスが多く、暖房のためのエネルギー資源を浪費している状態といえます。このため、国民に対しても建物の断熱の重要性を認識してもらうための啓蒙活動を継続しています。最大の難問は戸建住宅です。一般家庭に断熱化改装の費用負担を求めるのは難しいことで、現在のところ、これが一番大きな問題です。政府は、今後30年間で既存建物の断熱化を完了する計画を立てており、そのための方策を練っているところです。

国民に対する啓蒙の形でもっとも効果的なのは課税かもしれません。わが国では、エネルギー税が高いので、エネルギー使用料は非常に高価になります。しかしそれは、全国民にもっと効率よくエネルギーを使ってほしいと考えているからなのです。「金がものをいう」というのは本当で、お金は偉大な教師にもなり得るのです。

本当に難しいのは2020年の目標2050年までに「化石燃料ゼロを達成する」という目標は極めて高いハードルではありませんか。

本当にハードルが高いのは2050年ではなく、2020年の目標です。デンマークは向こう7年間で、エネルギー効率向上と再生可能エネルギーへの投資を倍増する予定です。これにより、2020年にはわが国の電力生産量の70%を再生可能エネルギーで賄えると期待しています。これは極めて達成が難しい目標です。

再生可能エネルギーが電力の主流を占めると、新たな課題も出てきます。その一つが、再生可能エネルギーの特徴である電力量の大きな変動をどのように吸収するかです。風や太陽光は天候に左右されるために発電量は刻々と変化し、需要電力量との乖離も大きくなります。このため、発電と需要家の間でその変動を調整し、電力不足や過供給を防いでくれる「スマートグリッド」システムをいかに構築していくか、という難問を解決しなければなりません。この目標を達成するためには、世界でもっとも賢く高度なシステムの構築が必要です。とても大きなチャレンジですが、同時にとてもエキサイティングでもあります。当然、私たちの体験と結果は他の諸国とも共有したいと思っています。次の課題は2035年までに暖房をすべて再生可能エネルギーで賄う計画をいかにして達成するかです。そして最大の課題は言うまでもなく、運輸・交通分野の再生エネルギーへの転換です。この分野への取り組みは2050年を目標年として進めています。

ヨーロッパの仲間たちは皆、この難しい目標をそんなに早く達成できるなんて、正気の沙汰ではないと考えていたと思います。私は「2030年の段階で、どの国の電力料金が一番安いか」賭けをしないかと誘ってみたのです。私は勝つ自信がありましたよ。結局、誰も賭けに乗ってきませんでしたけどね。

エネルギー効率が良い国どうしの連携日本は小さな島国で、デンマークもそうですが、何か共通点はあるでしょうか。

私の知る限りでは、日本とデンマークは周囲を海に囲まれており、伝統的に航海をベースとした貿易が活発だったと思います。日本を訪問して感じたのは、日本人が自然や天然資源に対して、とても強い想いを持っているということです。これに関してもデンマーク人に通じるところがあります。両国とも「小さな島国」だということで、国を強くする必要があったことが理由かどうかはわかりませんが、自然に畏敬の念を示し、その豊かな恵みを大切にする気持ちは同じだと思います。また、魚好きという点でも共通しています。日本は世界有数の漁業国ですし、デンマークはヨーロッパ最大の漁獲量を誇っています。

さらに忘れてはならないのが、日本とデンマークは、世界でもっともエネルギー効率の良い国だということです。日本は、1970年代から80年代にかけて省エネ技術の開発に多くの資金を投入しましたし、デンマークも同様に投資を行いました。国民1人当たりのGDPが高いという点を見れば、両国民が世界でもっとも効率よくエネルギーを使用している人々だということがわかるでしょう。

デンマークは環境問題の「first mover」に、
日本は「fast mover」に
技術面や投資など、気候変動問題における日本への期待をおきかせください。

日本は今も世界のトップ3に数えられる経済大国です。日本は国内外に巨大な市場を持っており、数多くの企業が巨大な資金力を持っています。これらのリソースを再生可能エネルギーに投入し、日本のような経済規模を持つ国でさえも、グリーン経済に移行することが可能だと世界に示すことができれば、世界に大きな変革をもたらすことになると思います。

ですから皆さんには、これらの目標を追い続けてほしいと願っています。日本はグリーン経済への移行において、デンマークの強力なパートナーになり得ると思います。日本は従来、原子力発電を推進してきましたが、デンマークでは、石炭火力発電が中心だったというように両国の状況は大きく異なりますし、歴史的背景も違います。しかし、私たちはエネルギー効率をベースにしたエネルギーシステムの構築という点で、同じ方向をめざしていると思います。経験と革新を共有し続けることができれば、両国は強いパートナーシップを築けるはずです。デンマークはこの分野における最初に行動を起こした「first mover」かもしれませんが、日本は、最速で目標を達成する「fast mover」になれる可能性があると思うのです。

世代を超えた気候変動問題への挑戦最後に、将来を担うデンマークや日本の子供たちに向けたメッセージをお願いします。

私たちは、気候変動問題を解決するため、なすべきことをしたと、子供たちに堂々と言えるようになりたいと思っています。私たちと次の世代は、非常に困難な気候変動問題と取り組むチャンスを与えられた、人類の歴史の中でも特別な存在だと思っています。ですから、今、解決に向けた行動を起こさなければ、将来は悪化の一途をたどることになるでしょう。私たちに与えられた責務は非常に重いのです。私の仕事は、これを子供たちに伝えていくことです。どうすれば、彼らが未来に恐怖心を抱かず、絶望的な気持ちにならずに、この責任を受け入れてくれるかを真剣に考えています。

私たちは、ともに同じ責務を担っていることを教えていくと同時に、私たちが拓く未来の明るいビジョンを伝えることも大切です。さまざまな課題をクリアして再生可能エネルギーへの完全移行に成功した時には、もっと賢く、より経済的で暮らしやすく、さらに美しい社会と世界が待っています。そのプランを具体的に示した上で、子供たちとともに世代を超えて、未来を拓いていきたいと考えています。

世代を超えた気候変動問題への挑戦
マーティン・リデゴー 氏
1966年、デンマークのコペンハーゲンに生まれる。ロスキレ大学の修士課程を修了。2008年、共同創立者とデンマークのグリーンシンクタンクCONCITOを設立。2011年、総選挙で気候変動・エネルギー・建設大臣に任命される。

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