松本真由美 氏

再生可能エネルギーと地域経営戦略 東京大学教養学部 客員准教授 松本真由美 氏 Matsumoto Mayumi

掲載日:2014年11月26日

政府は太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーの導入・普及を促すための、多様な施策を投入。大規模な再生可能エネルギーの開発も全国で行われるようになった。しかし、開発はさまざまな課題も生むこととなる。 環境・科学技術コミュニケーションを専門とする松本氏に、まちづくりにおける再生可能エネルギー普及のありかたについてたずねた。

急速に普及した太陽光発電ここ数年、再生可能エネルギーによる発電量が伸びていますね。

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、原子力をベース電源としていた日本の電力事情は大きく変わりました。全国的な節電活動があったものの、低下した電力供給を補うために石油・石炭などの化石燃料も大量に使用することとなり、CO2排出量も急増しました。

2012年7月4日から再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社に一定期間固定価格で買い取ることを義務付けた固定価格買取制度(FIT)が導入されると、再生可能エネルギーの導入は急速に伸び、発電量の年平均伸び率は13%に上昇しました。このペースで推移すると、今後10年間で3.4倍(2012年度比)にもなる計算です。

2013年には、年間の再生可能エネルギー発電量(大型水力含む)が、電力会社10社の総販売量の10%を超える規模になりました。特に買取価格が高く設定された太陽光発電の伸びは大きく、出力が1MWを超えるメガソーラーが各地に建設され、2013年度は世界の太陽光新規導入量比較で日本がトップとなる見通しです。

再生可能エネルギー普及のための施策が次々に登場再生可能エネルギー普及のための施策は他に何がありますか。

2013年4月には農林水産省が、これまで農地転用にあたるとして認めていなかった農地への太陽光パネルの設置「ソーラーシェアリング」を認めました。ただし、農地に支柱を立てて架台を設置し、その下の農地で農業生産が支障なく行えること、などの条件がつけられています。

さらに2013年11月には、農林水産省の「農林漁業の健全な発展と調和の取れた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」が成立しました。再生可能エネルギーの推進地域を市町村が作成する基本計画の中で推進していくことができます。

基本計画は、市町村と発電事業者、農林漁業関係者、市民の代表やNPO・NGOの代表などが協議する必要がありますが、設備整備計画が認定されると農地転用許可の「みなし取得」となり、同様に森林法、漁港漁場整備法、海岸法、自然公園法や温泉法などもワンストップでの「みなし取得」が可能になります。
このため、再生可能エネルギーの建設を進めたい自治体は整備を加速化できることになります。

大規模再生可能エネルギー開発と地域住民との軋轢日本各地で大規模な再生可能エネルギー整備が進むのですね。

しかし、大規模な再生可能エネルギーが急速に導入されると、さまざまな問題も発生します。

大規模太陽光発電の例としては、富士山周辺の自治体による「富士山の景観を阻害する大規模太陽光発電設備等の抑止」があげられます。これは、世界文化遺産の景観を守るために11の市町村がメガソーラーの抑止地域を指定し、富士山麓の景観を阻害しないように太陽光発電の自粛を要請するものです。再生可能エネルギー普及の必要性は認めていますが、景観保全への配慮を求めています。このように、CO2を排出せず、資源が枯渇しなくて環境に良いといわれる再生可能エネルギーであっても、地域経営戦略(まちづくり)との整合性が問われる事になってきたのです。

風力発電では低周波騒音や振動などの課題があります。住民の健康への影響を配慮し、洋上風力発電も推進されていますが、今度は漁業事業者との共存が課題となっています。再生可能エネルギーは新しいエネルギーとして期待は大きいのですが、地元漁業者にとってはリスクにもなり得ます。リスクに対して明確なベネフィットが提示できなければ、リスクばかりが強調されかねません。

各地で洋上風力発電事業や実証実験は行われていますが、ステークホルダーである地域住民の合意が得られなければ、再生可能エネルギーの普及拡大は実現できないのです。

まちづくりに際してと同様の住民との
コミュニケーションが必要になる
再生可能エネルギーにも地域の理解が必要なのですね。

再生可能エネルギーを大規模に導入する際に、住民の声は無視できません。まちづくりと同じで、環境影響に関する学術的データを提示し、説明しないと推進できないのです。

説明会を開催して、こういう実証実験を始めると、こんな「まち」になるということを広く住民に理解してもらう必要があります。新しいプロジェクトを進める上で重要なのは、最初から地域住民をはじめ利害関係者に参加いただくことです。景観問題は主観に左右されるので、「心証」が悪ければ歓迎しないといった意見も出てくることにもなります。「聞いていない」というのも、反発を買いかねません。

電力調査統計、RPSデータ、固定価格買取制度の買取実績等より、資源エネルギー庁作成

本来、再生可能エネルギーは地域の資産なので、開発にあたっても地域のステークホルダーが多くの部分を担い、社会的・経済的利益の大部分が地域に分配される取り組みを拡げていくべきです。市民ファンドなどでお金が地域に落ちて市民にメリットがある仕組みを作ると、反発は少なくなります。
地産地消のエネルギー利用で地域内の経済が回ることが重要なのです。

また、地域によって日射量や風の強さなど、地域資源は異なります。まちづくりを考える場合は地域の特長を活かした再生可能エネルギーを導入すべきです。複数の再生可能エネルギーを組み合わせて設計する、エネルギーアーキテクトも求められるようになるでしょう。

メリットとデメリットを示し理解者を増やすことが肝要実際に進められる時に注意されているのはどのような点ですか。

2013年11月に改正電気事業法が成立しました。電力システム改革が順調に進めば、これまで全国の電力会社が地域ごとに独占していた家庭向け電力小売りビジネスにさまざまな業種の企業が参入し、2016年をめどに電力小売りが自由化されると、消費者は価格や発電方法を比較して好きな電力会社が選択できるようになります。サービスを競い合うことによる再生可能エネルギーの拡大や電力消費量の削減が期待されています。

さらに、2018~20年には電力会社の発電部門と送電部門を切り離す「発送電分離」を実施するとしています。電力システム改革により再生可能エネルギーの普及拡大が期待されていますが、電力システム改革は国会を通ったものの、まださまざまな課題について議論しているという状況です。

再生可能エネルギーのメリットはたくさんありますが、太陽光や風力には周波数変動や発電効率などの問題があり、現状の送電網だと、再生可能エネルギーを組み込める量に限りがあるなど、課題が多いのも現実です。

また、送電網のコストをどうするかも議論中です。私たちはメリットとデメリットを明確にすることで、皆さんがエネルギーを選べる2020年に向けて、多角的にエネルギー問題を考えていただく助けになればと考えています。

再生可能エネルギーは家庭に直結した問題再生可能エネルギーにはコストの問題もありますね。

忘れてはいけないのは、再生可能エネルギーの普及は国民理解を通して進めなくてはならないことです。それは固定買取制度の費用を電気料金で負担していることにも表れています。買取制度の導入以降、太陽光発電は急速に普及しましたが、それに伴って電気料金の上昇が懸念されています。

再生可能エネルギーにはコストの問題もありますね。

現在は1世帯・月120円くらいですが、2000年にFITを導入したドイツでは、すでに一般住宅で月に2,400円程度の賦課金となっており、太陽光の買取価格を毎月のように下げるなど制度の見直しを行っています。FITは再生可能エネルギーの発電設備を導入するためのインセンティブであり、制度が永久に続くものではありません。しかし、国民負担で普及を図る再生可能エネルギーは、まちづくりなどの社会インフラという視点だけでなく、家計に直結した問題としても捉える必要があります。

断熱性能を満たさなければ住宅が建てられない時代にエネルギー問題について政府の動きをお聞かせください。

もう一つ、2020年に照準を合わせた施策があります。それは、住宅や建築物をネット・ゼロエネルギーにするもので、住宅ではZEH(Zero Energy House:ゼッチ)、建築物はZEB(Zero Energy Building:ゼブ)とよばれています。これは、建物の断熱性能や建築設備の性能を抜本的に向上させることで、極限まで減らした消費電力量を再生可能エネルギーによって賄うことにより、年間を通した消費電力量をプラスマイナスゼロにするものです。政府は住宅に関して「2020年までに標準的な新築住宅でZEHを実現し、2030年までに新築住宅の平均でZEHを実現すること」と記しています。

さらに、国土交通省は2020年に新築住宅の断熱基準を義務化することを発表しました。この断熱基準に適合していなければ、住宅を建てることはできなくなります。欧米と比較すると、日本の住宅は断熱性能が非常に低いという現状があります。

日本の新築住宅のうち、建物外皮の断熱性能を指標とした平成11年基準を満たしているのは約50%。しかし、約5,000万戸あると言われる既存住宅の適合率は6~7%しかなく、欧米と比較するととても低水準です。これは、日本では必要な時だけ暖める間欠暖房や、必要な場所だけ暖める部分暖房が一般的で、断熱性向上による光熱費削減は投資コストから見ると費用対効果が少ないと思われているからです。しかし、断熱性能に優れた温かく温度差のない住宅では、脱衣場などでの高血圧によるヒートショックが起こりにくいのです。断熱に対する投資コストを光熱費だけでなく、健康維持・増進まで考えれば、多くのメリットがあります。

省エネによる直接的な便益である「エナジー・ベネフィット」だけでなく、健康や快適、安全・安心に暮らせる「ノンエナジー・ベネフィット」を消費者に訴求しなくてはなりません。このように、私たちを取り巻くエネルギー環境は加速度的に変化していきます。消費者が電力会社を選び、住宅の燃費までを考える時代になると、そのための情報提供が必要となるのです。そのキーマンである女性へのコミュニケーション戦略はより重要になってくるでしょう。

女性とのコミュニケーション戦略を組み込んだ まちづくりを具体的なコミュニケーション戦略の進め方をお示しください。

コミュニケーションという面で考えると、双方向の対話が最も重要です。また、施設を見ていただくことも効果があります。傍観者として見ていると、批判的なことを言いたくなるものです。実際に見て体験していただくと同じ視点から対象を捉えることができるようになり、意識も変わります。まちづくりの場合なら一区画でも良いので、まず見ていただくことです。

たとえば、説明会などの2時間のイベントなら、後半の30分はワークショップとして、知見を持った方が加わったディスカッションを設けます。談話する雰囲気の中で、意見交換しながらまちづくりを考えていただきます。また、女性を対象とする場合は、小さな子供のいるママというように対象を分け、「ママのための」という冠を付けると良いでしょう。そして、ケーキとお茶をいただきながら話し合いを重ねて合意をしていく...というように、女性たちとのコミュニケーションでは、細やかな配慮を行い、和やかな雰囲気づくりをすることが大事です。

お子さんとママ対象のイベントなら、太陽電池や風車のペーパークラフトづくりなども効果的です。まちづくりに関連のある45分くらいでできるものを準備すると良いでしょう。私が所属する東京大学の研究室ではこのようなワークも開発していますので、ご活用ください。大きな買い物、たとえば住宅や車を購入する際、家庭の主婦の意見が反映されることが多いのではないでしょうか。女性が「こんなまちは、いやだ」と言ったらまちづくりは進まないのです。女性とのコミュニケーションを充実させ、協働することでその意見を上手に取り入れていくことが大切だと思っています。

松本真由美 氏
上智大学外国語学部卒業。テレビ朝日報道局を経てCNNニュース、NHKBS-1 ワールドニュースのキャスターなどを務める。現在は東京大学での教育と研究活動の傍らシンポジウム、講演、執筆など幅広く活動する。東京大学教養学部付属教育高度化機構環境エネルギー科学特別部門客員准教授。専門は環境/科学技術コミュニケション。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。

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