住まいは文化

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2004年9月更新

先人たちが遺してくれた住まいづくりの知恵 「住まいは文化」

■ 住まいは文化 高知県室戸市 町家 松本家

白い漆喰と瓦が独特の景観を作り出す、室戸の吉良川地区。台風による被害を防ぐため、雨仕舞いを工夫した建築になっている。床の間や欄間に贅をつくした座敷も興味深い。

松本家の座敷。中央に見えるのが四方柾の柱。重い瓦屋根や、重量を分散させる為の梁を支えている。

高知県室戸市といえば、「台風銀座」の異名を持つほどの豪雨暴風地域です。
そのような地域でありながら、吉良川地区では明治・大正時期の建物が良好な保存状態に保たれています。明治から昭和初期にかけて、炭の集散地として繁栄し、その経済力によって土佐漆喰、水切り瓦などを多用した雨仕舞のしっかりした堅牢な建築ができたのです。この吉良川地区は、平成9年に重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。

土佐街道に面した松本家は、明治29年に建てられました。
とりわけ目をひくのが街道沿いの表蔵で、妻面の水切り瓦が特徴的です。幾段にも重ねた庇(ひさし)のような水切り瓦は、壁に雨水がかからないためのものです。土佐漆喰と呼ばれる漆喰塗りの壁は、地灰、砂、ネズサ(醗酵させたワラスサ)を練り上げたものです。一般の漆喰に比べると、のりが入らないため、職人の手間がかかりますが、耐久性には優れています。塗った当初は土色ですが、時間が経過するにつれ白色になってゆくことも、街並みの美しさに寄与しています。

吉良川地区は風が強いので、火災が大きな被害に結びつく可能性があります。蔵外部の木造部分は、いざというときにすぐ取り外しできるような構造になっており、延焼を避けるよう工夫されています。また、扉など開口部のすきまを目張りするために、味噌つぼも設置されています。

住居の床下は、一般的な日本家屋では、通気性を確保するために風を通す構造になっています。ところが、松本家では、床下部分を自然石と漆喰で封じ、強風で床が下から煽られることがないようになっています。

室内でまず目をひくのは、日本槇の四方柾の柱です。これは贅(ぜい)をつくしながら、さらに重量のある屋根を支えるための機能を担っています。高い天井と鴨居の間の小壁には梁が通され、座敷からは見えない床の間部分にも、貫(ぬき)と呼ばれる梁が渡されていて、暴風や地震によって揺れるのを防いでいます。

吉良川地区の住宅によく見られる、床の間の上の立派な神棚や、恵方棚(えほうだな)と呼ばれる可動式の神棚などに、昔からのしきたりを大事に守ってきた暮らしぶりをうかがう事ができます。

ぬれ縁の上の庇は、急勾配で低く張り出している。雨の降り込みを少しでも軽減するための配慮。

土佐街道に面した表蔵。堅牢な石組の上に水切り瓦が整然と並び、漆喰で塗り固められている。暴風雨や火災に優れた構造。

屋根瓦が強風で吹き上がるのを防ぐための「風切瓦(下り棟)」は、吉良川地区独特の工法。

一見、書院造りのように見えるが、床の間の上に見える神棚は、吉良川地区独特の造り。

天井から吊り下げられた構造の恵方棚は、回転させることができる。その年の年神(歳徳神)の方角に向けて祀る。

吉良川地区で見られる天然石を積み上げた塀は、「いしぐろ」と呼ばれる防風壁。「いしぐろ」の多くは明治、大正期のもので、美しい街並みを作り出している。


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