一ノ瀬愛理
電気交渉人。この連載の主人公。名前の「愛理」は両親が「愛(あい)と理(ことわり)の両方を持った人に育ってほしい」という願いを込めて名付けられた。後輩の小林さんと田中さんの良き相談相手
電気交渉人。この連載の主人公。名前の「愛理」は両親が「愛(あい)と理(ことわり)の両方を持った人に育ってほしい」という願いを込めて名付けられた。後輩の小林さんと田中さんの良き相談相手
真面目で技術に優れているけれど人との関係が苦手
のんびり屋で明るく人から好かれるけれど段取りが苦手
はじめまして!私は一之瀬愛理(あいり)、現場では後輩の“ 交渉” についてアドバイスをしたりしています。
皆さんも、私の後輩と同じように交渉事でうまくいかないなと思うことがときどきあるんじゃないかな。
この連載を通して、皆さんのそんな悩みを少しでも解決できたらと思っています。まずは、交渉の基本的な話から始めましょう。
田中君は、工程計画を詳細に作るし、施工図もしっかり描いているね。でも、ときどき工程が遅れたり、手戻りがあったりうまくいかないこともあるよね。
いやあ、電工さんが、こちらが考えたとおりに理解してくれなかったり、思うように動いてくれなかったりして・・・。
確かに、どれだけ正確に工程表を作っても、電工さんや関係者がそれを理解して、動いてくれなければ、残念ながらそれは「絵に描いた餅」になってしまうんだ。
(自慢げに)工程表がなくても、電工さんと打ち合わせを密にしていれば、結構こちらの思いどおりに動いてくれますよ。
小林君は、電工さんとの関係作りがうまいな。ただ、工程の工数や手順が検討不足で、ムラが多いようだ。
(シュンとして)工程表は必要ですよね。
仕事には二つの視点が必要なんだ。一つは田中君が得意とする工程管理や施工技術などの「仕事の側面」、もう一つは小林君が得意とする人に伝えたり納得させたりする「人の側面」だ。この両方ができて、一人前の監督と言えるんだ。
田中さんと私を足したら、一人前ということかぁ~。
田中君は、論理的に話をするし、きちんとした理由や根拠を、理路整然と話すのは大したものだ。
だからといって、交渉がうまいということではなく、むしろ下手なんです。
人は論理で納得しても、感情が納得しないと動かないからね。人は欲しい商品でも嫌な人からは買わないこともあるし、必要としていない商品を、気に入った人から買ってしまうこともある。
この間、電工に「明日の工程に支障があるから、今日は残業をして終わらせてください。」って言ったら、「今日は予定があるから無理です。」と断られてしまいました。
小林君だったら、どう言うかな。
そうですね。電工さんの名前で呼びかけて、「とても困ってしまっているのですが、ここが完了していないと明日の作業ができなくなってしまうんです。申し訳ありませんが、なんとか残業をして終わらしてもらえませんか。」と、頭を下げて拝み倒します。
そうだね。そこまでされれば、電工さんも「しょうがないな。今日は予定があったんだけれど、終わらせてしまうよ。」と言ってくれるかもしれないなぁ。
同じ内容でも、伝え方によって相手が受け入れたり、受け入れなかったりするということですね。
交渉は「論理」と「感情」の両輪で前に進んでいくんだ。電工さんに残業をお願いする場合には、「申し訳なく思う気持ち」が伝わり、「必要な理由」を聞くことで交渉を受け入れようとするんだ。
そう言えば、相手といい雰囲気でも、質問にきちんと回答できずに提案がうまくいかなかったことがあるなぁ。選択の理由がきちんと理解されなければ、納得しないということですね。
私の名前は愛理だけれど、両親が「愛(あい)と理(ことわり)の両方を持った人に育ってほしい」という願いを込めて名付けたそうだ。この名前のおかげで「論理」と「感情」の二つの面を常に考え交渉がうまくなったし、その結果として仕事もスムーズに進めることができるようになった。
学生時代に読んだレイモンド・チャンドラーの「プレイバック」というハードボイルド小説で、名探偵フィリップ・マーロウが「男はタフでなければ生きられない。優しくなければ生きていく資格がない。」と言っていたが、タフさとともに人に対する優しさが必要なんだなぁ~。
うんうん、愛(あい)と理(ことわり)か、交渉のベースは「論理」と「感情」なんですね。
実はそれ以前に基本的なことがあるんだ、それは次回お話しよう。
著者:志村コンサルタント事務所 志村 満
イラスト:日暮里本社