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LIGHTING STYLE Vol.6

Special Column

〜良質空間の実現のための照明のあり方〜
空間設計とは、光を設計すること。光の体感とシミュレーションにより、イメージを具現化していく。

神宮司 高久様

神宮司 高久様

株式会社日本設計 建築設計群
チーフ・アーキテクト

1964年生。1988年東京藝術大学建築科卒業。
1990年同大学院修了。株式会社日本設計入社。
【設計プロフィール】
三鷹の森ジブリ美術館、日本橋三井タワー、
三井記念美術館、みどりコート平河町など。

建築空間 の変化に合わせ、光の質も変化していく。
繋がりと変化のストーリーを創る。

建築空間は、単独で存在するわけではなく、あるストーリーや関係の中で連続して繋がっていくものです。
例えば、部屋から部屋への動線の中で、その建築空間の目的や見せ方に応じて、空間のプロポーションの関係を意識しながら、映画のシーン展開に近いストーリーを組み立てていきます。
その繋がりと変化は照明計画においても同様で、単純な照度の明暗の変化から、そこを柔らかい部屋にしたいのか、冷たい部屋にしたいのか、シャープな部屋にしたいのかといった、空間の質感に合わせた、照明の光の質感の展開に到るまで、そのストーリーを意識しながら検討を進めていきます。その空間をどう見せたいかによって、照明計画も変わっていきます。
我々が設計する段階でこういった空間をイメージしているということは、光を意識していることと同じです。あたりまえのことですが、立体や空間、色彩は光がないと認識されません。 例えば絵を描くという行為も、実は形を描くのではなく光を描く行為です。微妙な光の変化をいかに掴み取って表現するか。その光をどう描くかというところに、人は感動を見出します。設計もそれと同じで、空間を計画するということは、形が反射する光、切り取っていく光の様を設計していることと言って良いかも知れません。
ただ、空間には照明とともに自然光も存在します。自然光は時間軸とともに変化します。夜は人工光だけでコントロールできますが、昼間から薄暮に移り変わる時間帯では、二つの光のバランスが時に難しくなります。薄暮の昼でも夜でもない時間帯は非常に幻想的な時間帯ですが、実際に空間がどういう印象で見えているかを最もイメージしづらい時間帯でもあります。

CGと体感を合わせてイメージを具体化し、進化させていく。

私の設計の進め方は、図面があってそれを空間としてイメージしていくのではなく、頭の中でイメージした空間を図面化していくというプロセスを取ります。平面図で設計しているのではなく、3Dの映像を作っていく感覚に近いのです。
そんな、頭の中にあるイメージの光にいかに近づくことができるか。それにはやはり、実際の光を経験し、感じることが大切です。私自身、照度計を持ってイメージに近い光を体感しに行くことがあります。
ただ、「この照明器具なら大体こういう雰囲気で光るだろう」といった明るさの感じは想像できても、壁に出る光のかさ(スカラップ)や、複雑な影の見え方などは、なかなかイメージできません。その様な光の効果の確認や、第三者に伝える手段としてCGを使います。
パナソニックさんのリアルCGは、反射率や物の映り込みまで見えるようになっているので、イメージを確認するものとしては大変有効だと思います。また、CGを見て、自分のイメージしていた空間から、さらに新しいアイデアが生まれ、アレンジして進化することができる。ベースがあって、それをいかに脚色していくかで、建物の出来は大きく変わってきます。クライアントの思いをきちんと反映したものを作りながら、さらにその期待を上手に裏切って、もっと良いところにたどり着くのが理想です。パナソニックさんには、図面段階から三次元で空間や光をイメージできる感覚の優れた人がサポートしてくれるので助かります。

今後、照明の認識は変わるのでは。
間引くのではなく、絞り込んで味わいのある空間を創る。

東日本大震災以降、照明環境という意味では、床面照度が何ルクスだという単純な判断基準はあまり重要ではなくなる可能性があります。
また、節電で単に照明を間引いて照度を落とすだけでは違和感があり、良い環境とは言えません。
パナソニックさんは早くからFeu という概念を提唱されているのですが、例えば、従来の照度では暗いかも知れないけれど、その空間を使う人にとって違和感がなく、雰囲気の良い明るさ感のある照明環境が望まれるようになって来ると考えます。
今後は、半分の電力でもいかに味わいのある環境を創るか、いかに自然光を取り入れ、自然光と仲良くするかという価値観がベースになっていくと思います。
さらに、調光という概念も非常に重要になってくるでしょう。1か0ではなく、光がグラデーションで変わっていく感覚がすごく大事だと思います。
例えば、ホテルの部屋は複数の光源を調光できます。部屋毎、時間毎に雰囲気が調整できます。住宅や、さらにはオフィスもそういう対応ができれば、時々の目的に合わせて明るさを使い分けることができる。そうなれば、ストレスを感じずに省電力を実現することが案外簡単にできるかも知れません。
また、これからはLEDが主役になって行くのだと思いますが、LEDは比較的きりっとした光のイメージがあります。それがどこまであたたかな世界、淡い世界を表現できるかが課題だと思います。LEDだからこそ、少ないエネルギーでそういう味わいのある世界が出来るんだと証明して欲しいですね。
体感に加え、Feuのようなシミュレーションを活用して、もっと絞り込んだ本当に必要な明るさの良質空間にたどりつければ良いと思います。

※Feuとは、人の空間観察時の視野に着目することで、人の感じる明るさ感を定量化したパナソニック株式会社独自の指標。