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照度

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照度の重要性

照明の目的は種々の場所、作業において見ようとするものを見やすくして、その結果、作業能率の向上に、また同時に安全で快適な視環境の形成に寄与することです。
したがって、照明の設備はその目的に対して合理的に設計、設備され、運用されなければなりません。

一方、ものの見え方などは人間の生理・心理的視覚特性に基づいて照明条件と視対象物、および周囲環境の諸特性とによって影響されますが、特に照明のレベルが基本的に重要です。

たとえば、暗い場所では視覚の能力が低下し、認識できる視覚情報が少なくなります。照明のレベルに最も関係の深い照明要件は照度です。
したがって、照明環境における作業性、安全性、快適性を維持、向上するためには照度の検討がたいへん重要です。

照度の効果

1.照度と視力

照度の効果のひとつとして、視力の向上があります。

図1は順応輝度と視力の関係を示す一例です(順応輝度は眼が順応している面の照度と反射率の積に比例すると見なされますので、反射率を一定とすれば照度とおきかえてもよい)。図1では、視標の輝度対比がパラメータになっていますが、この大小にかかわらず順応輝度(照度)の増加により視力の向上がみられます。これは小さいものを見分けるには高照度が必要なことを意味しています。また、同じ順応輝度(照度)でも輝度対比が低下すると、視力も急激に低下しますので、輝度対比の低い対象物では、照度を高くして、順応輝度を上げることが見え方をよくする方法だといえます。
なお、図1に示されている輝度対比とは、下記式により計算されます。

C=|Lt-Lb|/Lb

図1:順応輝度と視力の関係1)

輝度対比が3%、10%、30%、92%の時の順応輝度と視力の関係グラフ

ここで、C:輝度対比、Lt:ランドルト環の輝度、Lb:順応輝度となります。

また、ここでいう「視力」とは、たとえば視力測定に使用される図2に示す「ランドルト環」のようなものを用いて環の切れ目の方向を識別させ、その最小の角度θを求め、この角度(θ)を分で表わし(1分=1/60度)、その逆数をとったものです。すなわち、θ=1分のランドルト環の切れ目の方向が何とか見分けられる目の視力は1.0以上で、もし、これの2倍の開き角のランドルト環しか見分けられない場合の目の視力Vは

V=1/θ=1/2=0.5

となります。

図2:ランドルト環

ランドルト環と角度(θ)と目の絵

2.照度と文字の読みやすさ

文字の読みやすさを心理学的に計量化し、照度が文字の大きさと読みやすさに及ぼす影響を調べた結果が図3です。

図3は、照度が高くなるほど文字の読みやすさが向上することを分かりやすく示しています。10ポイントの活字の大きさはおおよそ3.5mm(1ポイント=0.3514mm)となりますので、750 lxの照度を確保すれば、10ポイントの文字は「読みやすい」となることが図3より分かります。旧JIS2)に示されている推奨照度は、図3のデータをベースに決められました。

図3:照度、活字の大きさ、読みやすさの関係2)

輝度対比約80%、観察距離30cmで、活字の大きさと照度によって、読みやすさがどうなるか感覚を表す言葉(非常に読みやすい、読みやすい、だいたい普通に読める、細かいところまで完全には見えない、読めるけれど努力を要する、読めると読めないとの境目、見えるか見えないかの境目)で表したグラフ

3.照度と文章の読みやすさ

図3は文字単体の読みやすさに対しての結果でしたが、佐藤・原は、輝度が一様な視野の視線上1m先に平易な日本文を視対象として呈示し、文字サイズ6種類、輝度対比5種類、背景輝度5種類の計150種類の条件に対して、文章の読みやすさを評価させる実験を行いました3)
この評価実験で被験者は、呈示された文章に対し、「読めない」、「やっと読める」、「多少読みにくいが読める」、「苦労せずに読める」、「読みやすい」、「非常に読みやすい」の6段階の評価カテゴリーに基づき読みやすさを評価しています。図4はこれら評価実験結果の一部であり、「多少読みにくいが読める」と「苦労せずに読める」の境界の評価を与える明視三要素4)の関係を示したものです。ここで、明視三要素とは、定常的な視認性を支配する主要因として知られている、文字サイズ(視角)、背景輝度(順応輝度)、文字と背景との輝度対比を指します。

図4の各曲線は、同じ読みやすさ評価となる明視三要素の組合せを示していますが、背景輝度の増加と共に右肩下がりになっていることが分かります。すなわち、背景輝度が増加することにより、文字と背景の輝度対比を下げても、同じ読みやすさが得られることを示しているのです。逆に言えば、反射率を一定とすれば、背景輝度は照度と比例しますので、照度が高くなるに従い、文章が読みやすくなることを図4は示しています。

図4:「苦労せずに読める」と「多少読みにくいが読める」の境界の評価が得られる明視三要素3)

文字の視角(分)と輝度対比、背景輝度[cd/㎡]の関係を表したグラフ

井上・秋月も同様の実験を行っています5)。井上・秋月は、読書作業を想定した実験条件のもとで、B5サイズの紙面に印刷された日本語の文章を40cm前後の観察距離に呈示し、若年者(平均23歳)と高齢者(平均70歳)に対して読みやすさ評価をさせる実験を行っています。

図5 は、その実験結果の一部を示したもので、図より照度が高くなるのに従い、「普通に読める」以上の評価が50%となる文字のサイズが小さくなっていくことがわかります。すなわち、照度が高くなるほど、小さい文字でも「普通に読める」以上の評価が得られやすくなることを意味しており、図4と同様、照度が高くなるのに従い、文章が読みやすくなることを示しています。

図5:「普通に読める」以上の評価が50%となる照度と文字サイズ5)

輝度対比0.93で「普通に読める」以上の評価となる累積確率50[%]となる文字サイズ[分]と照度[lx]を表したグラフ

「読めない」、「やっと読める」、「多少読みにくい」、「普通に読める」、「読みやすい」、「非常に読みやすい」の評価尺度を用い、「普通に読める」以上(「普通に読める」~「非常に読みやすい」)の評価を50%得ることのできる照度と文字サイズとの関係を示したもの、上記は、文字と背景との輝度対比が0.93で、若年者に対する実験結果。

4.照度と作業能率

「1.照度と視力」にて示されているように、照度が高い程、視力がよくなりますので、それに伴い作業能率も上がります。

単純作業ではありますが、作業数と作業面照度との関係を調査した浦山の実験結果6)図6に示します。縦軸の「5分間抹消作業数」の値が大きいほど、作業効率が良いということを意味しています。一方、照度が高くなるのに従い、作業効率が上昇していきますが、500 lx以上になると、その効率が飽和することが分かります。

この結果は、作業能率を高めるためには明るくする必要があるものの、一方で質の良い照明が必要であり、せっかく明るくしたとしても、まぶしい光が目に入ったり、あるいは周辺が暗すぎたりすると、かえって作業能率の低下を招く可能性があることを示しています。照度を高めるだけでなく、まぶしさを抑えるなど照明の質に配慮することも作業能率を高めるために重要です。

図6:照度と作業能率6)

5分間抹消作業数と作業面照度[lx]を表したグラフ

5.照度と疲労

細かい字を読んだり、記号を選別するような視作業を長い時間にわたって続けると、目は疲労してきます。図7はいろいろな照度でこまかい抹消作業を30分間行わせた後の、毛様筋の疲労による調節時間の変動率(作業前を1.0とする)を測定したデータです。同図(a)は対比の強い抹消用紙、(b)は対比が弱く見にくい抹消用紙を用いた場合です。両者のデータとも、500 lxは目の疲労の少ない最低照度であり、できれば1,000~2,000 lxが望ましいという結果を示しています。

図7:照度と調節時間変動率の関係7)

(a)対比の強い抹消用紙と(b)対比の弱い抹消用紙を用いた場合の作業時の照度[lx]と調整時間変動率の関係を表したグラフ

6.照度と安全性

照度が不足していますと、安全標識の誤認や疲労を招きやすく、したがって事故が増えます。作業者の安全を守るためにも適切な照度の確保が必要です。

年齢と照度

加齢に伴う視覚特性の変化は、今まで数多くの研究者により研究され報告されています。まずは、カメラに例えればレンズに相当する水晶体が加齢に伴い黄変化して透過率が低下することが知られています8)。さらには、カメラの絞りに相当する瞳孔径が加齢により縮小する老年性縮瞳と呼ばれる現象もあります9)。そして、これらの要因により、眼に入射した光の網膜に達するまでの光量は、高年齢になるのに従い減少していきます。岡嶋は、これら水晶体と瞳孔径の加齢変化のデータに基づき、網膜上に達する光量をシミュレートした結果、70歳代の高齢者は20歳代の若年者に対して、3.5倍前後の照度で、網膜上に達する光量が同量になると報告しています10)

また、加齢による視覚系の変化は、これら眼光学系の変化に加えて、網膜周辺部における錐体の減少11)や、神経節細胞の減少12)、青錘体系の反応の低下なども報告されています13)

以上述べてきましたように、眼に入射した光により伝えられる情報量は、加齢に伴い確実に低下します。したがって、高齢者がその情報量の低下を補うには、より高い照度が必要となるのは間違いありません。しかし、高齢者対応の照明方法として定説となっている「高齢者は若年者の3倍以上の照度を必要とする」を、そのまま照明設計に当てはめると、たとえば、現在のオフィスの設計照度は机上面照度で750 lxですから、高齢者が働いているオフィスに対しては、2,000 lx前後の照度を目指して設計しなければならないということになります。タスク専用のスタンド照明を用いるのならともかく、全般照明(部屋全体に対する照明)で2,000 lxは現実的にはありえない光環境です。おそらく、かなりのまぶしさを感じるでしょうし、省エネルギーの観点からも望ましくないことです。

図8:年齢と各視力を得るために必要な順応輝度14)

年齢(歳)が50、60、70、80歳の場合の視力と順応輝度(cd/㎡)を表したグラフ

図9:年齢と文字を読むために必要な照度15)

小さい文字2.5ポイント、中位の文字3.5ポイント、大きい文字6ポイントの場合の年齢と必要照度[lx]を表したグラフ

「3倍以上の照度」という数値は、その数値を呈示した報告の引用文献から、図8に示される年齢と視力との関係を示した報告14)や、図9に示される文字を楽に読むための下限値を与える照度と年齢との関係を求めた報告15)から出てきたものと推測できます。

図8において、視力0.5を得るための輝度を読み取りますと、80歳代と50歳代とでは、1.2cd/㎡と0.4cd/㎡で3倍もの差があります。また、図9から、6ポイントの文字を読むのに必要な照度を読み取りますと、60歳代は50 lxと20歳代の15 lxの3倍以上の照度となっています。したがって、これらの結果からは、確かに「高齢者は若年者の3倍以上の照度を必要とする」と結論付けることは可能であります。しかし、高齢者の行う視作業すべてが視力0.5を必要とするとは限りませんし、6ポイントという小さい文字を読む視環境を常に必要とする人もそれほど多いとは思えません。また、図8から得られた0.4cd/㎡、1.2cd/㎡、図9から得られた15 lx、50 lxと、これらの図で示されている値は、一般的な照明環境で得られる輝度、照度値よりもかなり低い値であり、現実離れした値であります。また、JISの照明基準総則で示されています住宅居間における読書時の推奨照度は500 lxですから、JISの推奨照度を満たすように照明が設計されていれば、図9が示す60歳代の6ポイントの文字を読むのに必要な照度50 lxを十分に満たしていますので、高齢者が存在する空間だったとしても、照度を現状の3倍以上に上げる必要はないということも図9の結果から読み取ることができます。

すなわち、「高齢者は若年者の3倍以上の照度を必要とする」という定説には、多くの問題が存在しており、そのまま、照明設計に適用するべきではありません。

照度の法規

作業場所の照度の最低値が、労働安全衛生規則によって定められています。

労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)
第3編 衛生基準 第4章 採光及び照明
(照度)第604条

事業者は、労働者を常時就業させる場所の作業面の照度を、右の表の左欄に掲げる作業の区分に応じて、同表の右欄に掲げる基準に適合させなければならない。ただし、感光材料を取扱う作業場、坑内の作業場、その他特殊な作業を行なう作業場については、この限りでない。

作業の区分 基準
精密な作業 300 lx以上
普通の作業 150 lx以上
粗な作業 70 lx以上

照度の選定

照度には、作業に直接必要な照度と、安全確保および快適な生活環境をつくるのに必要な照度があります。高い生産性を要求される精密作業には高い照度を必要としますが、全般照明をそのレベルまでもっていくのは経済的にも省エネルギーの点からも大変なので、局部照明を併用して高い照度を確保してもよいとされています。

照度の選定については、各国において自国の経済状況や生活レベルに応じて自国に最も適した照度基準が決められており、我が国では、JIS Z 9110:2010照明基準総則の中で、場所別、作業別に必要な照度が定められています。
したがって、まずその値を基準にした上で、施主の意向などを考慮して照度を選定する必要があります。

(参考文献)

  1. 1)池田,野田,山口:ランドルト環指標の輝度対比および順応輝度と視力との関係,照学誌,67-10,pp.527-533(1983).
  2. 2)照度基準,JIS Z 9110-1979
  3. 3)佐藤隆二,原 直也:明視三要素で構成される3次元空間における種々の見やすさレベルを表す曲面,照学全大,pp.130-131(1999).
  4. 4)中根芳一,伊藤克三:明視照明のための標準等視力曲線に関する研究,建学論,229,pp.101-109(1975).
  5. 5)Y. Inoue and Y. Akizuki : Influence of age and visual acuity on Readability and Brightness
    -The proper illuminance for reading(Part1)-, Proceedings Lux Pacifica ‘97, A-55-60(1997).
  6. 6)浦山久夫:3波長域発光形新蛍光ランプ照明と視作業能率および眼疲労に関する実験的研究,日眼誌,83-9,pp.1556-1563(1979).
  7. 7)照明学会編:照明ハンドブック(1978).
  8. 8)柴田崇志:生体眼における水晶体の色度に関する検討,眼紀,Vol.39,p. 598-605(1988).
  9. 9)B. Win, D. Whitaker, D. B. Elliott and N. J. Phillips : Factors affecting light-
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  10. 10)岡嶋克典:水晶体と瞳孔の年齢変化から導出した高齢者の等価照度換算式,照学誌,Vol.83,No.8A,p. 556-560(1999).
  11. 11)C. A. Curcio, C. L. Millican, K. A. Allen and R. E. Kalina : Aging of the human photoreceptor mosaic
    : evidence for selective vulnerability of rods in central retina., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., Vol.34, p. 3278-3296(1993).
  12. 12)C. A. Curcio and D. N. Drucker : Retinal ganglion cells in Alzheimer’s disease.,Ann. Neurol., Vol.33, p. 248-257(1993).
  13. 13)G. Haegerstrom-Portnoy : Short-wavelength-sensitive-cone sensitivity loss with aging
    : a protective role for macular pigment?, J. Opt. Soc. Am., Vol.5, p. 2140-2144(1988).
  14. 14)(社)照明学会:新時代に適合する照明環境の要件に関する調査研究報告書(1985).
  15. 15)(財)建材試験センター:住宅性能標準化のための調査研究報告書(1978).

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