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照明計画の基本

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照明の⽬的

よい照明計画とは、施設の⽬的や⽤途に適合した機能や雰囲気を有する照明環境を形成することといえます。
このためには、施設の⽬的や⽤途を明確にして、これにふさわしい照明⽅式を選ぶことと、照明の具備条件が⼗分考慮されていることが必要です。
照明の⽬的は⼤きく分けて、視覚を通じて次の要件

  1. (a)空間の使⽤者が知りたい対象を正しく認識できる
  2. (b)使⽤者が周囲環境を、適切に認識できる

が容易に⾏えるように、周囲の各種対象に適切な光束配分を⾏うことといえます。

表1:照明対象と照明技術の関連1)

照明対象 照明技法 照明の要件の属性
視作業対象 明視照明 照明⽣理
環境 雰囲気照明 照明⼼理

視る対象を

  1. 視作業対象:現在、⾏わなければならない作業⽬的に直接に関係したもの
  2. 環境:意識して注意を向けることの少ないもの
に分けて考えることにします。
視作業対象は、必ずしも⼀つとは限らず、最重要のものと副次的なものとがあり、照明を⾏う分野ごとに、適切に視作業対象を抽出しなければなりません。
照明の⽬的として、明視性の重要性はもちろんのこと、快適性、楽しさ、⼼豊かさも⾮常に重要であり、前者は機能主体の明視照明として視作業対象に関係が深く、後者は快適性が主体の雰囲気照明として環境に関係が深くなっています。
また照明の要因の属性からみれば、照明⽣理と照明⼼理に分けられますが、主として前者が視作業対象に、後者が環境に⼤きく関係します。
これらは、もちろん⼀義的に定まるものではなく、ウエイトの⼤⼩があり、各分野、たとえばオフィス・⼯場・商業施設ごと、あるいは施設の使⽤⽬的ごとに、これらのウエイトが変わってくると考えるべきです。これらをまとめて表1に⽰します。1)
なお、各分野ごとにおける考え⽅については各章を参照してください。

照明計画の⼿順

⼀般に照明計画の⼿順は図1のようなフローで⾏われるものと考えられます。
もちろん、各分野ごとや、設計件名ごとに各ステップのどこから開始されるか、あるいは省略されるのか等、各ステップでの実⾏事項やそのウエイトも異なってきます。
以下に調査・企画から基本設計段階までの各ステップを解説します。

図1:照明計画の⼿順2)

図:照明計画の手順, 調査, 企画, 構想計画, 基本設計, 実施設計, 施工, 評価

1.調査・企画

これから照明設備の設計を⾏おうとする建築施設、たとえばビル・体育館・店舗などの⽤途・使⽤⽬的を明確に設定する必要があります。あまりにもあたりまえのことですので、従来ややもすると等閑視されたり、強く意識せずに設計が始められていましたが、設計を始めるにあたっては、施設の⽬的を明確に意識して始める必要があります。また、施設に複数の⽬的があれば、同時にその⽬的を満たす照明設備とするのか、可変の照明設備とするのかも決定する必要があります。
たとえば、和室などは多⽬的な部屋でありますし、体育館で歌謡ショーが⾏われたり、⾷堂で講演会が⾏われたりという多⽬的使⽤の場合が少なくありません。
これらの⽬的は、できるだけ克明に列記しておかなければいけません。
上記の⽬的に対して、その空間の使⽤者すなわち

  1. (a)利⽤者:その空間に来室あるいは在室する⼈
  2. (b)運営管理者:利⽤者に使わせることを⽬的として運営管理する⼈

の使⽤上の希望をよく調査して、特別の希望や空間の特徴づけがあれば、これを明確にしてまとめて表現しておく必要があります。

2.構想計画

前記に対して、⼤略どのような照明状態をどのような照明⼿法によって作り出すのか、⼤まかな構想を定める必要があります。特に、空間のイメージに⼤きな影響を及ぼす内装計画とよく協調を保つことが重要です。

(1)照明のコンセプトの設定

空間のコンセプトを満たすための照明のねらい、特徴的な事柄をまとめて簡明に表現することが⼤切です。コンセプトは事柄のイメージをとらえて抽象的に表現されることもあります。たとえば法廷であれば「法の威信と尊厳を表わす照明」3)、あるいは住宅であれば「⾷事のあかり」、「くつろぎのあかり」、「だんらんのあかり」2)などがあります。

(2)照明演出⽅針の決定

主要な照明対象を選定し、これらをどのように⾒せたいかの表現を考え、併せて空間に持たせたい雰囲気を定めます。

(3)光の状態の決定

部屋の照明の最終完成形について、光の状態を想定します。次に、これを光に関係した⾔葉をあてはめて表現することが望まれます。
たとえば、好ましいオフィス照明の例として、花曇り状態にする⽅法も⼀例と思われますので、これを「オフィス照明は花曇り」と表現することも可能です。

(4)内装と照明の様式の決定

照明は空間のイメージを左右する⼤きな要素であり、内装(⾊彩やテクスチャなど)と切り離せない関係にあります。
空間の基本的なコンセプトが定まれば、そのコンセプトをイメージとして適切に表現できるように、内装と照明を計画しなければなりません。
住宅や商店などでは、インテリアに和⾵・洋⾵などの様式スタイルを定めて設計されることも多くあります。空間の利⽤者にどのような体験空間として特徴づけるのか、あるいはどのような擬似体験空間を提供しようとするのか、という意図を端的に表現する⼿段として、様式を採⽤することもよいと考えられま す。
ただし、照明と内装のスタイルは様式の統⼀がとれていることが必要です。

(5)照明構想の決定

このように、光の状態についてイメージが設定されたら、この状態の光束配分について、物理的な照明⼿法に置き換える必要があります。どのような⼿法によるのか、採⽤する光源や器具の⼤略の⽅針を定めます。
たとえば「花曇り」を実現するためには、拡散光を⽤いて、なるべく影のやわらかい状態を形成し、かつ、本格的な⾬曇りのようなどんよりした陰気な状態にならないようにします。視野内の輝度分布についても、極度の輝きやきらめきを避けて、なだらかな変化をつけることが必要です。
このような照明状態を得るためには、⼀つの案として遮光⾓を設けているベースライトを⽤いた全般照明があげられます。

3.基本設計

構想計画が定まったら、具体的に空間の⼨法形状に合わせて照明設計を⾏う必要があります。各分野ごとの詳細は、照明設計・計画編を参照してください。

(1)照明要件の決定

照度、照度分布などの、照明の各要件の設計⽬標値を定める必要があります。どのように定めるのが好ましいかは、照明設計・計画編の各分野ごとの章を参照してください。

(2)光源・照明器具の選定

(3)照明器具の配置の決定

(4)照明要件に対するチェック

上記で作成した照明設計案が、基本設計の当初に定めた照明要件の設計⽬標値を満たしているかチェックします。

照明計画における空間イメージのコミュニケーション

照明設計の際に⼤切なことは、施主、建築設計者、内装設計者および照明設計者の間で、対象空間の完成予想図について同じイメージを想起することです。このことは新規性の⾼い空間ほど難しいので、コミュニケーションの⼿段(ツール)が必要となります。このため弊社では次のようなものを準備し、活⽤の実績も上がっています。図2に(d)の⼀例を⽰します。

  1. (a)データバンク(事例写真、フォトシートなど)
  2. (b)シミュレーション実験室
  3. (c)
    シミュレーションモデル3)
  4. (d)コンピュータグラフィックス(2次元、3次元、VR)
  5. (e)空間の雰囲気イメージのSD法を⽤いた表記技術

これらのツールは、特に、従来例の少ない空間の照明計画の際に、構想計画や基本設計の全体を通じて、あるいは各ステップでの問題解決や、設計案の効果予測に役⽴っています。
以上のような⼿順で適切なツールを⽤いて、空間の使⽤者の希望に沿った有効な空間づくりを⾏うことが望まれます。

図2:コンピュータグラフィックス(当社独⾃技術によるCG(リアルCG))

図:コンピュータグラフィックス(当社独⾃技術によるCG(リアルCG))

図3:リアルCG(左)と⼀般的なCG(右)の⽐較

リアルCGと一般的なCG画像の比較:左側 当社独⾃技術によるリアルCG、右側 一般的なCG

(参考文献)

  1. 1)照明学会編:照明ハンドブック 10章 照明計画の基礎,オーム社(昭53)
  2. 2)⽥淵義彦:照明計画とその評価,照明学会研究資料,LE-86-14-16(昭61)
  3. 3)松⽥,⽥中,⽥淵,吉瀬,⽥中,⼈⾒,中桐,中⽮,⻑⾕川:最⾼裁判所・新庁舎の照明模型実験および照明設計への展開例について,照学誌,59-3,pp.25-34(1975)

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