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店舗の照明

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店舗照明の⽬的

店舗照明においては、照明器具のデザインもさることながら、いかに顧客の⽬を引き、来店者を増やし、主役である商品またはサービスを引き⽴て、購買意欲を盛り上げるように演出するかということが⼤切です。
すなわち、商品を視覚的に、かつ美しい陳列で⾒せることを⼤きなポイントとするVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)が重要です。これは利益を⽣み出すための「商品提供スタイル」を最終的な⽬標とする、経営戦略上の主要なシステムの⼀つとしての総合的なノウハウといえます。
また店舗のように、その空間における楽しさや充実感のような⼼理的な満⾜感が必要な空間では、商品の⾒え⽅のような機能の充⾜は当然のこととして、売り場に応じた雰囲気づくりも重要です。

したがって、店舗照明は照明による空間演出と商品演出の2つの⾯を考慮しておく必要があります。前者は⼈間的な⾯、つまり顧客の⼼理的な部分に働きかけて店に呼び込むための演出⽅法です。後者は物の⾯、つまり商品の特⻑を⼗分に発揮させることを主眼におく演出⽅法です。
さらに店舗にとって⾮常に⼤切なことは、顧客に真の満⾜をもたらす店側の応対、もてなしです。飲⾷空間においては、このことがとりわけ重要で、お客相互や店側のスタッフとのコミュニケーションが⼤切であり、⼈の顔の⾒え⽅も⾮常に⼤切です。これをコミュニケーションのための、対話演出ということにします。
照明の⽬的をまとめて表1に⽰します。

表1:照明の⽬的

照明の⽬的 設計
店内への引き⼊れ 空間演出設計
商品への引き付け 商品演出設計
商品の選択と決定 商品表現設計
接客、応対
(コミュニケーション)
対話演出設計

照明計画のフロー

⼀般に照明計画の⼿順は、図1のようなフローで⾏われます。もちろん、業種や業態あるいは具体的な店舗ごとに、その順序や開始ステップ、あるいはウエイト付けの相違や省略もあります。

図1:照明計画のフローチャート1)2)

1.調査企画と空間のコンセプトの設定

店舗の業種や業態、想定する顧客のセグメント、経営者の経営ポリシーなどを明確にした上で、その空間の使⽤者、すなわち顧客、店舗の経営者、運営管理者側の希望をよく調査し、特別の希望や空間の特徴づけがあれば、これを明確にします。

2.構想計画

特に空間イメージに⼤きな影響を及ぼす内装と⼀体で計画することが望ましく、クラシックあるいはレトロなどといったデザイン様式も併せて計画します。

(1)照明のコンセプトの設定

店舗空間のコンセプトを満たすための照明のねらい、特徴的な事柄をまとめます。

(2)照明演出⽅針の決定

主要な照明対象を選定し、これらをどのように⾒せたいかをその表現を考え、併せて空間に持たせたい雰囲気を定めます。

(3)光の状態の決定

照明演出⽅針を実施するために、光の状態を決定します。

  1. (a)照明による、商品の⽴体感と材質感の表現
  2. (b)所要雰囲気の照明による演出

などを含みます。

表2:商品の選択性から⾒た業態の差異による照明の⽬的と⼿法のセグメント2)

選択性
選択性の尺度 「衆知の商品群」つまり買い物が必須である商品群。 利⽤価値や、買う側にとっての有⽤性を⾃⼰確認しなければ購⼊の意志決定の困難な商品群。
店舗の例 スーパーマーケット
ディスカウントストア
ドラッグストア
百貨店、各種専⾨店、ホーム
ファニシング店など。
陳列に要求される機能 同質の商品間で材質的な品質の判断が素早く⾏えて⽬的の商品が早く⼿に取れること。 購⼊するかどうか、あるいは選択に慎重を要し、商品の機能や有⽤性を含めた質の⾼い情報伝達が要求される。
⼀⽅、滞店時間も⻑くなるので環境的な快適性がさらに重要となる。
提供を必要とされる商品情報 同質の商品がほぼ同じ情報を提供する。 店として重点を置いた提案が必要。
(アイデンティティ)
照明の具備条件 ⽐較的照度が⾼く均⻫度のよいこと。 ⽐較的低照度による落ち着きと重点照明によって、商品提⽰におけるウェイトを明確にし選択を容易にすること。
照明⼿法 均⻫度がよく不快グレアの少ない全般照明。
  • 重点照明(スポットライトなど)の有効活⽤。
  • タスク・アンビエント照明〔タスク照明(商品照明)とアンビエント照明(環境照明)〕の適切な協調設計。

(4)内装と照明の様式の決定

売場のコンセプトに合わせて、内装と照明の様式を定め、売場の商品グループにふさわしい演出を⾏います。

(5)照明構想の決定

想定した光の状態を実現するために、採⽤する照明⽅式、光源や器具の⼤略の⽅針を定めます。
ここで売場の視覚的所要条件は、業態によって⼤きく異なっています。⼀般に商品の差異によって分類された⼩売業の様式を業態と呼びますが、照明の⽬的とあり⽅に差異を⽣じるのは「商品の選択性」の⾯からのセグメントです。選択性の意味と照明⼿法のセグメントをまとめると表2のようになります。

3.基本設計

設定されたコンセプトに対応した、完成された空間の光のイメージが定まれば、選んだ照明構想において実現していく⽬標としての照明要件を定め、基本設計を進めます。

(1)照明要件の決定

店舗の照明構想が決まれば、照明要件についてそれぞれ⽬標値を定めていきます。照明要件は、空間を演出する店舗全体の照明、商品を演出する商品照明に分けて考えます。また、店舗は商品の販売だけでなく、顧客と販売員、顧客同⼠など、⼈と⼈とのコミュニケーションスペースでもありますので、⼈の顔がどう⾒えるかという対話演出についての考慮も必要です。照明要件には、表3に⽰すように多くの照明の質的要因があり、それぞれ照明の⽬的ごとに快適な推奨範囲が存在します。

表3:照明の諸要因1)

照明計画の対象 要件
空間演出 店内全体 照度
光源 照明器具 輝度、不快グレア
付随した各要件
周壁 天井
壁(窓)
好ましい輝度分布と照度配分
好ましい反射率
店内の⽴体 光の⽅向性
光源の光源⾊と演⾊性
商品演出 商品⾯ 照度
照度分布、かげ
光の⽅向性
と拡散性
かげ、材質感の表現
反射グレア
光源の光源⾊と演⾊性
対話演出
(コミュニケーション)
対話中の
⼈の顔
照度
光の⽅向性 モデリング
光源の光源⾊と演⾊性

(1)-1 商品の照度

(a)⽔平⾯照度
店舗照明の基本となる明るさについて、その⼤略は、JISにより業種別の明るさ基準(JIS Z9110照明基準総則)で⽰されています。しかし、この数値は⼀応の基準となるものであって、実際は店のイメージ等によって異なってきますので、それぞれの店にあった⼯夫をプラスすることが必要です。

量販店における実験例
(コンフォートシリーズ照明器具の場合)
調光装置を利⽤して、関係者が売場3)ごとに下限と考えられる明るさを設定し、売場の所要照度を求めました。実験により求めたこの照度を設計照度(室内に物品がない時)に換算したものを表4に⽰します。

表4:設計照度(コンフォートシリーズ照明器具による床上1mの⽔平⾯照度)3)

照度レベル 売場
1,000 lx ⽣鮮⾷品 グローサリー
700 lx 呉服 フォーマル 紳⼠服 スポーティカジュアル
肌着・靴下 ファミリーシューズ カバン・ハンドバック 傘
スポーツ⽤品(アウトドア)サイクル⽤品 玩具・ゲーム
釣具 書籍 ⽂具 薬 化粧品 ⽇⽤品 ⾷器 調理家電
調理⽤品 園芸〔レジ〕
500 lx 婦⼈服 ⼦供服 ベビー服 ランジェリー・ファウンデーション
⾼級靴 アクセサリー 寝具 家具 レコード オーディオ
インテリア(カーテン、カーペット)

なお、この結果は概略的な代表値であり、内装の⾊彩の改装、季節による展⽰商品の変化により上下があります。また、周辺の売場の照度、店舗演出のねらいによって独⾃の照度を設定することもあります。

照度決定の原則は、⼀般に、

  • ベビー服や肌着売場など特別に清潔感を必要とする商品や、清潔感を必要とする場所
  • 屋外で使⽤することを前提とした商品
  • 平⾯で図柄を⾒せる商品
  • 同種類のものなら何でもよいという、選択性の低い商品

には⾼照度が必要です。

(b)鉛直⾯照度
鉛直⾯には壁⾯、柱⾯、商品陳列⾯などがあります。従来の照明設計は、床⾯の平均照度を中⼼に考えられていますが、⽔平⾯だけでなく、鉛直⾯の照度を考える必要があります。なぜなら、⼈の⽬が明るさを感じるのは⾒る物(陳列⾯)の輝度によるためであり、⾒せたい物(陳列⾯)の鉛直⾯を照らす照度が⼤切です。
したがって、むやみに照明器具の間隔を⼤きくしてはいけません。

(1)-2 照度分布(重点照明)

⽬⽴たせて売りたい商品、あるいはその売場における商品の性格を代表するステージにおける商品、例えばマネキンなどで客を引きつける誘⽬点には、ハイライトを与える必要があります。⼀般的には、他の商品群に対して、全般照明の数倍にします。

(1)-3 光の⽅向性と拡散性

各要因の関係を以下に⽰します。

図解:光の⽅向性と拡散性のかげと反射の関係性を示した図

(a)光の性質と⾒え⽅(⾯光源と点光源)
光の来る⽅向は、物の⾒え⽅を左右し、良い質の照明をする場合は重要です。光の当たり⽅によって⽴体がどのように⾒えるかの⼀例を表5に⽰します。
拡散光だけで照明すると、⽴体が曇天下のようにほとんどすべての⽅向から、ほぼ同じ強さの光を受け、⽴体上に⽣じるハイライトとシャドウは⾮常に薄く、室内の雰囲気は平板単調で陰うつなものとなります。
⼀⽅、スポットライトのように、発光⾯の⽴体⾓が⼩さい点光源で照明すると、はっきりしたかげとつやが得られ、空間はいきいきとしてきます。

表5:設計照度(コンフォートシリーズ照明器具による床上1mの⽔平⾯照度)

⾯光源 点光源
⽴体⾓の⼤きい光源
幅や⻑さの⼤きい光源
例:蛍光灯
⽴体⾓の⼩さい光源
例:⽩熱電球
拡散光 指向性の光
りんごを蛍光灯で照らしている図:かげと光沢感が得られない りんごを⽩熱電球で照らしている図:かげと光沢感が得られる

※⽴体⾓=発光⾯積/距離の2乗

(b)かげ

光の当たり⽅によって⽣じるかげと反射には次のものがあります。

(b)-1 必要なかげ
ベース照明による適度のかげも必要です。店内にあまりにもかげの少ない状態を形成すると、あたかも曇天の下のような平板で陰気な感じとなりやすいため注意が必要です。光天井なども注意が必要です。特に間接照明は⾼級な照明として従来から⽤いられていますが、設計にあたってはスポットライトなどを⼗分併⽤して、平板な感じにならないように努めなければなりません。
商品の形状、材質、⾊柄などの特⻑を照明によってより効果的にするためには、光の質についての考慮が必要です。⼀般的な⽅法として、商品全般に必要な基準のベース照明を⾏い、これに質量感、⽴体感をもたせるように直接光を重点的に加えて、商品に⽴体感を与え快適な感じが得られるようにします。

(b)-2 ⽀障となるかげ
商品上にかげが⽣じて暗くなると商品が⾒にくくなります。店舗照明において、特に什器⾼さが⾼い売場、量販店の⾷品売場、雑貨売場などでは照明器具の取り付け間隔に注意する必要があります。

表6:かげと反射

好ましい状態 好ましくない状態
かげ ⽴体感(モデリング)、材質感 暗いかげ
反射 つや、光沢、輝き 反射グレア

図2:商品上に⽣じるかげ

商品上に生じるかげの良い例と悪い例の図:悪い例は良い例に比べて取付ピッチが広すぎる

(b)-3 モデリング
●⽴体感表現設計
商品が⽴体的に活き活きと⾒えるためには、適度の陰影が必要です。かげは付き過ぎてはいけません。特にディスプレイ上のマネキンや商品にスポットライトを当てる場合、照明器具の位置や⽅向に注意します。例として、能⾯の⽴体感が得られる光の効果について説明します。照明の位置と照射されるものの性質に応じた適切な配光が必要で、能⾯のような対象物には、前⽅斜め上45度の⽅向からの光が最適のようです。(図3

図3:能⾯の陰影

写真:斜め45°からの光を当てた場合と、真上からの光を当てた場合の写真
写真:真横からの光を当てた場合と、真下からの光を当てた場合の写真

●光の⽅向による能⾯の陰影効果
斜め45°からの光
⽴体感の誇張された像が浮かび上がります。
真上からの光
照射されるものの形によっては、繊細な⽴体感がつぶれてしまい、不明確な照明になります。
真横からの光
⽴体感を強烈に表現し、照射されている物の正確な形状はつかめませんが、コントラストのおもしろさで印象的に⾒せています。
真下からの光
⽬新しい効果を得るための演出をする照明。本来は不⾃然な光のため、⼀般的な能⾯などを正しく⾒せるには適していませんが、ガラス、⾦属などの抽象的造形には効果的な場合があります。

(c) 反射とつや
(c)-1 必要な反射
貴⾦属や宝⽯などの輝き、真珠や磁器の光沢は、豪華な、あるいは魅⼊られるような美しさ、⼼豊かな楽しさを与えます(図4)。このような効果は、⽴体⾓(発光⾯積)が⼩さい⾼輝度光源を当てると、光を屈折・反射して得られます。

図4:貴⾦属の輝き

写真:指輪を点光源の指向性の強い光で照射した場合と、面光源の拡散光で照射した場合

(c)-2 ⽀障となる反射
照明器具や窓、外景が、ショーケースやショーウインドに反射して、ミラー現象を起こし、まぶしかったり、中の陳列品が⾒えにくくなるなどの障害が起こることがあります。
この⽀障となる反射(ミラー現象)を防ぐには、図5のように陳列品の輝度を外景輝度の少なくとも10%以上にしなければなりません。⼀般的には20%を最低の⽬安にすればよいでしょう。また、ウインドガラスの⾓度を検討する⽅法もあります。

●ミラー現象を防ぐ条件
図5はショーウインドにおける陳列品と外景輝度の関係を⽰すものです。陳列品が外景の反射像に妨げられないで⾒えるためには、

陳列品の輝度(Li)≧ガラスの反射率(r)/ガラスの透過率(t)×外景輝度(Lo) …(1)

の関係が成り⽴つことが最低の条件です。通常5mm厚程度の透明ガラス⾯に垂直に光が⼊射するときは、⼤略r=0.08 t=0.9ぐらいですから、(1)式は

Li≧0.08/0.9×Lo Li≧0.1×Lo …(2)

図5:ショーウインドのミラー現象4)

すなわち、陳列品の輝度を外景輝度の少なくとも10%以上にしなければなりません。⼀般的には20%を最低の⽬安にすればよいでしょう。

●ミラー現象を防ぐ計算例
ここでは、陳列品が外景の反射像に妨げられないで⾒えるための照度条件について説明します。
外景輝度(Lo)は
屋外照度を50,000 lx(表7)と外壁の反射率50%と仮定し、

Lo=外壁の反射率(r)×屋外照度(Eo)/π

より、

Lo=0.5×50000/3.14=7,960cd/㎡

(1)式より、

 陳列品の輝度(Li)≧0.08/0.9×7,960 cd/m2 となり、

陳列品の照度は、
陳列物の反射率60%とすると

陳列品の照度(Ei)=Li×π/陳列品の反射率(ρ)より、=710×3.14/0.60=3,715 lx

この条件においては少なくとも3,715 lx以上照射する必要があります。

表7:屋外照度

特に明るい⽇ 50,000 lx
普通の⽇ 15,000 lx
快晴の⽇ 10,000 lx
直射⽇光 100,000 lx

(d)材質感
カーテンやカーペット、家具などのテクスチュアをよく⾒せるため、適当な指向性の光が有効です。商品の表⾯の粗さや凹凸などを表わす細かいかげを⽣じることによって、テクスチュア・材質感の現われ⽅も変化します。⼀般に斜⽅向から指向性の光を当てると、材質感が強調されます(図6)。

図6:材質感

セーターの写真:点光源の指向性の強い光で照射した場合と面光源の拡散光で照射した場合
グラスの写真:点光源の指向性の強い光で照射した場合と面光源の拡散光で照射した場合

(1)-4 光源⾊と演⾊性

物体の⾒かけの⾊や雰囲気などに影響を及ぼします。

(a) 光源色
光源の⾊温度によって⼈々はさまざまな⼼理的影響を受けます。⾊温度が5,000K以上になると、⻘みが強くなって涼しい感じを与え、3,300K以下では、⾚みが多くなって暖かい感じを与えるといわれています。
売場の光源の⾊温度はVMDの⾒地で、影響を及ぼしますので、適切な⾊温度の光源を選ぶことが必要です。

(b) 演色性
商品情報を正しく伝えるために、演⾊性のよいランプを選ぶことが必要です。

表8:⾊温度と各種光源5)

⾊温度(K) 受ける感じ 光源の例
>5,300 涼しい ●昼光⾊LED(蛍光灯)
●⻘空
3,300〜5,300 中間 ●⽩⾊LED(蛍光灯)
●パルック蛍光灯
●マルチハロゲン灯
<3,300 暖かい ●⽩熱電球
●ハイカライト(HID)
●電球⾊LED

(1)-5 照明器具の輝き(輝度)

(a) 装飾照明〔スパークル設計〕
店舗の業態や店舗のイメージ、顧客層などによって、輝きときらめきを効果的に使うことで、⼀層店の華やかな雰囲気をかもし出すことができます。
しかし、こうした装飾照明は、⾒せる照明であって、器具そのもののデザインを⽣かすことや、配置や配列による装飾性、店内の活気づくりなど、いずれもインテリアとしての効果を⼗分に考慮に⼊れて設計しなければなりません。装飾的な照明で商品を照らしたり、全般照明を兼ねたりすると、肝⼼の印象が弱くなるため、全般照明や局部照明を省略することはできません。

(b) 不快グレアの低減
⾼輝度の光源が視野内に多く⾒えると、不快グレア(まぶしさ)をひき起こすため、全般照明の照明器具の輝きは過剰にならないようにする必要があります。不快グレアの多い場合は、不快であるだけでなく、商品もかえって⽬⽴ちにくくなります。したがって、全般照明には、グレア規制形蛍光灯器具を⽤いることが望ましく、店内の明るさ感も向上し、スポットライトの効果も⼗分に発揮できることにより、省エネルギーにもなります。

(2)光源・照明器具の選定

(2)-1 光源の選定

光源には、形状、発光原理によってたくさんの種類があります。
店舗では⼀般に⽩熱電球、蛍光灯、HIDランプ(セラメタ、ハイカライト、マルチハロゲン灯など)、LEDが使われます。蛍光灯やLEDの中でも、特性や効果によっていろいろと分類されますので、⽤途にあった光源を選択することが⼤切です。

(2)-2 器具配光の選定

照明器具は、そのスタイルによって配光パターンも異なりますので、照明⽬的に合わせて器具配光を選定します。
店舗空間全体のベース照明に使⽤する場合は、拡散形配光の直接照明形器具や間接照明形器具が適していますが、商品やディスプレイなど、必要な部分だけを引き⽴たせる商品照明には、集光形配光の直接照明形器具が適しています。

(2)-3 器具デザインの選定

売り場は扱う商品や顧客の層によって、求められるイメージや雰囲気が違ってきます。
売り場のベース照明には、まぶしさを抑えたコンフォート形器具が適していますが、ひとくちにコンフォート形器具といっても、反射板やルーバなどの違いで、そのデザインは多種多様です。
ベース照明は、光の質だけでなく、器具デザインも空間全体の雰囲気を⼤きく左右する⼒をもっていますので、売り場のイメージにふさわしいデザインの選定が必要です。

(3)照明器具の配置の決定

店舗照明の器具の配置は、⼊店した顧客に商品別売り場の位置をよくわかってもらい、店内移動を円滑にすることなどをよく考慮したうえでベース照明、重点照明、装飾照明を光源・器具の種類、配置、照度の差などにより効果的なものにしなければなりません。
ここでいう移動とは、顧客が同じ階のフロアを移動する平⾯流動と上下階のフロアへ移動する⽴体流動を含むものです。
最近の売り場の動線計画は、縦、横、あるいは斜め⽅向とフレキシブルに計画される傾向にあり、いろいろな⽅向からのアクセス(売り場への導⼊)に対して、ベース照明の照明器具が特定の⽅向性を有する印象を避けることが望まれています。このため、縦配列、横配列よりも格⼦点状配列、格⼦状配列が好まれます。

照明の具体的な計画

1.共通の機能

規模の⼤⼩を別にして、売り場共通の照明の機能、照明要件、照明器具の種類をまとめて、表9に⽰します。

表9:売場の機能に対応した照明の計画のプロセス6)

売場に共通した機能 照明の機能 照明要件 照明器具
1 売場の存在を気づかせる
  1. (1)内装計画によって店の役⽴を伝える
  2. (2)商品の性格を代表させるステージやショーウィンドを照明する
例えばステージのハイライトの照度:

鉛直面照度/水平面平均照度=6

カラーコルトン
サイン照明
ネオン
ショーウィンド⽤の器具
2 客を売場に導⼊する
  1. (1)奥の壁を照明する
  2. (2)全般照明の不快グレアがないこと
  3. (3)売場にふさわしい雰囲気を形成する
  1. (1)
    壁の照度:

    鉛直面照度/水平面平均照度=3

    壁⾯照明の光源⾊温度は、売場の局部照明の⾊温度推奨範囲に納める
  2. (2)適切な遮光⾓の照明器具を使⽤する
  3. (3)雰囲気に合った照明器具を使⽤する
壁⾯照明器具
壁⾯ダウンライト
壁⾯スポットライト
ウォールウォッシャ
グレア規制形器具
3 商品の特徴を強調して訴求する 商品や内装のかげ、つやを制御する 指向性の光の活⽤ スポットライト
ダウンスポットライト
4 商品の情報を正確に伝える
  1. (1)客が商品を選択する
  2. (2)接客して
    コンサルティングを⾏う
  1. (1)客が商品を⼿に取って選択するとき他の商品との違いがわかる
  2. (2)客・店員は、互いの表情がわかる
  3. (3)商品を使⽤する空間が想定できる
商品⽔平⾯照度:各売場の⽔平⾯
平均照度を確保する
演⾊性がよい:Ra80以上
⼈の顔の鉛直⾯照度:
例えば100〜150 lx
必要に応じて、局部照明を設ける

全般照明器具

器具間隔に注意する

フィッティングルーム照明など

5 客が商品を買う
  1. (1)商品を包装する
  2. (2)精算する
  3. (3)最後の接客をする

(1)(2)誤りなく早くできる

  1. (3)客・店員は、互いの表情がわかる
レジの⽔平⾯照度:750〜1,000 lx
全般照明でこの照度が得られない場合は、局部照明を併⽤する
全般照明器具のみ、
もしくは局部照明器具
ダウンライト
ペンダント
スタンド

2.総合的なバランス

前記のような売場ごとの計画のほか、⽐較的⾯積の広い店舗や⼤型店では、フロアの出⼊⼝が多く、客の動線も複雑で、主通路に沿って歩き回るため、客の位置と視線の⽅向が⼀定ではなく、客が店のファサードからエントランスを経て店内に⼊り、主通路に沿って奥へ引き付けられていくように、歩き回る視野に快適な刺激を与えられるよう、照度と輝度を計画しなければなりません。
主な通路の正⾯すなわち進⾏⽅向の鉛直⾯には⾼い照度が必要で、各フロアのビジュアルポイントに⽐較的強いスポットライトを⽤います。

  1. (1)
    ⼊⼝、エレベータ、エスカレータの前などの客の移動の拠点に位置し、そのフロアの商品の性格を代表させるステージにはハイライトを与える(図7◎印)。
  2. (2)主動線の正⾯、進⾏⽅向あるいは売場奥の壁⾯を明るくし、⼊りやすくする。
  3. (3)各売場のビジュアルポイントを照明する。

図7:代表的なフロアの照明ポイント6)

3.売り場別の機能に整合した照明計画

(1)売り場別の照明の機能

代表的な売り場別の照明の機能、照明要件(明るさ、光⾊など)、照明器具の種類をまとめて、表10に⽰します。
店舗空間の快適性、商品の特徴を強調する⾒え⽅を実現するために、空間別の望まれるウォーム・クール感に基づく推奨光源⾊温度と、存在する商品の影の濃さから決定した照明⼿法を図8に⽰します。

表10:売り場の照明の機能の例7)

売り場 売り場の特⻑ 商品の特⻑ 照明の狙い(タスク) 希望イメージ 全般照明(アンビエント) 商品照明(タスク)
照明の狙い
(アンビエント)
照明要件 照明⼿法 照明要件 照明⼿法
⽣鮮
⾷品
ケース販売
対⾯販売
新鮮⾷品
つや、⾊が豊富
パック売り
落ち着きがある
すっきりしている
商品の温度変化に
注意する
かなりウォーム
〜かなりクール
ニュートラル
〜ややハード
⽔平⾯照度
750〜1,500 lx
⾊温度
4,200〜5,000K
パネル付
〜ダウンライト
⾊温度
2,500〜5,000K
彩光⾊
スポットライト
ペンダント
明るい雰囲気を設定する
婦⼈服 ディスプレイなど
商品演出に
ポイント
カラフル
〜シック
材質感の強調 かなりウォーム
〜ニュートラル
ニュートラル
〜ややハード
⽔平⾯照度
200〜500 lx
⾊温度
2,800〜3,600K
ダウンライト〜
グレア規制形
(鏡⾯、⽩⾊)
⾊温度
2,500〜4,000K
美光⾊
スポットライト
ペンダント
ソフトなイメージ
スポーツ アクティブ 原⾊の商品
多い
壁⾯回りの照明重要 ニュートラル
〜クール
ニュートラル
〜ややハード
⽔平⾯照度
750〜1,500 lx
⾊温度
3,600〜5,000K
ダウンライト〜
グレア規制形
(鏡⾯、⽩⾊)
⾊温度
3,500〜5,000K
熱線対応
スポットライト
ペンダント
太陽光の下のイメージ
家電
⼀般
⽣活の便利さ
リッチ
ゆとり
⼤物、⼩物が
混在
商品説明書きが
はっきりわかる
ニュートラル
〜クール
ニュートラル
〜ややソフト
⽔平⾯照度
750〜1,500 lx
⾊温度
3,600〜5,000K
グレア規制形
(⽩⾊)
ルーバ天井
⾊温度
2,500〜5,000K
スポットライト
家庭の雰囲気の演出

図8:店舗での売り場別推奨⾊温度7)

照明設計のトレンド

近年、店舗の照明設計では、省エネルギーはもちろんのこと、商品の⾊合いや素材感をより美しく、好ましく⾒せることや、⽬的に応じて照明の明るさや⾊温度を変えることへの関⼼が⾼まっています。
地球環境の改善・保護に向けて、世界中で「資源循環型社会」の形成を進める気運が⾼まっています。照明器具においても設計・材料調達・製造・流通・施⼯・使⽤消費・廃棄リサイクルのそれぞれの過程で環境への配慮は⽋かせません。
光源がLEDに変化したことで、スペクティング技術が進み、肌を美しく⾒せる照明『美光⾊』や⾊を鮮やかに⾒せる照明『彩光⾊』など照射対象物の特⻑に合わせて照明するように照明⼿法も変化しています。詳しくは波⻑制御技術で説明します。
また、LEDは光源部分が従来光源に⽐べ⼩さくなったことで光⾊を混ぜることが可能になり、コンパクトな1つの照明器具で複数の光⾊を時間やその時の気分で照射することができ、照明器具を変えることなく、空間の印象を変化させることができます。

1.省エネ照明機器に活かせる照明制御技術

(1)窓のある売場

窓のある売場では、下⾯からの反射光を検知し、常に下⾯照度が⼀定に制御するセンサを推奨します。このセンサは、器具に内蔵されているものと器具と分離して複数台の器具を⼀⻫に制御するものがあります。外光の明るさを考慮して、照明の明るさを抑えることができ、省エネを実現します

(2)窓のない売場

窓のない売場では、累積点灯時間に応じて⾃動的に初期照度を設計照度に補正することで、初期の余分な明るさを抑えるセンサを推奨します。このセンサは、器具に内蔵されているものが⼀般的で、⼩規模空間でもきめ細かく省エネを実現します。

(3)スーパーマーケット、百貨店、コンビニエンスストア

スーパーマーケットや百貨店などの中規模店舗では、ゾーニングによって売場ごとに最適な照明環境を設定し、時間ごとに適切な照明環境に切り替えることが可能な調光コントローラーを推奨します。スーパーマーケットでのゾーニング例を図9に⽰し、制御シーンを図10に⽰します。また、24時間営業のコンビニエンスストアでも時間帯に応じて調光し、また昼光を利⽤出来る窓⾯と、陳列部分の照度を変えることでより省エネを図ることが可能です。コンビニエンスストアの例を図11に⽰します。

図9:ゾーニングによる省エネ(スーパーマーケットの例)

図10:あかりのタイムテーブル(スーパーマーケットの例)

図11:あかりのタイムテーブル(コンビニエンスストアの例)

(4)バックヤード・通路

⼈の出⼊りが少ないバックヤードでは、⼈の動きを検知して⼈がいる場合は点灯し、⼈がいない時は消灯する、ON・OFF機能のセンサを推奨します。また、⼈の出⼊りが多いバックヤードや通路では、⼈がいる場合は点灯し、不在時は最低限の明るさで安全性を確保しながら省エネを図る段調光のセンサを推奨します。

2.空間演出に⽣かせる照明器具

(1)調光・調⾊システム

⾃動⾞ショールームや駅ビル、モールの共⽤部など昼光が差し込む施設において太陽の変化に合わせて、照明を変化させたいときや、地下街など昼光が全く⼊らない空間において1⽇の時間の流れを演出したいときは、調光・調⾊システムを推奨します。調光・調⾊システムは1台の器具を低⾊温度から⾼⾊温度まで変化することができ、明るさも調整できます。駅ビル、モールでの調光・調⾊システムの使⽤例を図12に⽰します。

図12:制御パターンの⼀例

(参考文献)

  1. 1)⽥淵義彦:照明計画とその評価、照明学会研究資料LE-86-14-16(昭61)
  2. 2)⽥淵義彦:ビジュアルマーチャダイジングにおける照明計画の基本,照明学会関⻄⽀部専⾨講習会講演論⽂集(昭60)
  3. 3)⽥淵,向坂:量販店における売場ごとの設定照度の検討,照学全⼤,p.127(昭57)
  4. 4)松⽥,⽥淵,森⽥:ショーウインドウの昼間⽤⾼照度照明について,照学誌,52-8,pp.486-490(1968)
  5. 5)JCIE-002:屋内作業上の照明基準設計ガイド,p.28(2009)
  6. 6)⽥淵義彦:店舗照明の計画とその評価,照学誌,75-1,pp.19-26(平3)
  7. 7)松島公嗣:光源の特徴と使い分け,電設学誌,15-1,pp.11-21(平5)

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