旅人について

この企画ではワークプレイスの空間だけでなく、実際の使われ方を通して「場」がどのように育てられていくのか、オフィス研究の第一人者である仲隆介先生と、住まいやモビリティなど新しい生活空間の創出を事業にされている余合繁一さんに、その新しい価値や視点をお聞きしながらさまざまな事例に触れていきます。

ナビゲーター・イラスト/西濱愛乃

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Vol.04
WeWorkが拓く新しい働き方
「WeWork
赤坂グリーンクロス」

急速に普及している
フレキシブルオフィス

西濱今回は2025年2月にオープンしたばかりのWeWork 赤坂グリーンクロスにやって来ました。首相官邸が目の前にあり、日本の中枢って感じです。まずは、ここを運営されているWeWork の日本法人、WWJ株式会社(WeWork Japan)の代表取締役社長 兼 CEOである熊谷 慶太郎さん。WeWorkの概要や赤坂グリーンクロスの特長などについてお話しいただけますか。

熊谷さんWeWork は2010年にニューヨークで設立されました。フレキシブルオフィスを展開する企業として、2025年2月時点、世界35カ国以上で約600拠点が開設されています。主要国の中で進出が後発だった日本では、2018年にはじめて六本木のアークヒルズサウスタワーに日本1号店がオープンし、現在は国内7都市で約40拠点を開設しています。
内装からWi-Fi環境、什器までがセットアップされているので、契約した翌日からでも仕事ができる環境をご提供しています。ラウンジや会議室などの施設はシェアリングできるのでとても効率的に働けるだけでなく、カード1枚で世界中の施設が利用できるのも魅力的です。

WeWork 赤坂グリーンクロスは溜池山王駅と国会議事堂前駅に直結したビルの5・6階にあります。落ち着いた色調のインテリアと高級感のある家具が洗練された空間をつくり出しているだけでなく、各所に赤坂をテーマにしたオリジナルアートもちりばめています。様々なワークスペースや会議室があることから、集中作業からクリエイティブなコラボレーションまでが可能となっています。

ラウンジの開放的な共有スペース。一般的なオフィスよりも多くのスペースや空間を他の人とシェアする体験に充てる。

音楽や照明、景観など、
五感にもこだわった環境

仲先生僕は最近、いろんな所に行って外ワークにチャレンジしています。僕は、何かクリエイティブな仕事をする時は身体で考える必要があると思っているので、たまに外で働くと本当に気持ちが良い。そんな環境がオフィスにもあれば良いと思っています。


熊谷さん働く場所には五感に訴える環境が重要だと考えていて、色温度と明るさのバランスを考慮した照明を配置し、入居メンバー同士が話しやすい雰囲気を演出する音楽を流すなど、従来のオフィス空間とは異なる演出をしています。また、虎ノ門ではあえてテラスのあるビルを借りたり、みなとみらいでは屋上庭園がある景観の良い場所を選んだりすることで、創造性を刺激する環境づくりに配慮しています。

私は入社後から拠点開発や営業部門の責任者を務めていましたが、当社がソフトバンク株式会社の100%子会社になった2024年にCOOに就任し、今年2025年3月にCEOに就任しました。COOになって初めて取り組んだのが名古屋の新拠点です。駅直結のJRセントラルタワーズのオフィスフロア最上階である50階、特徴的な扇形のフロア形状で、素晴らしい眺望の拠点です。それまでのグローバル基準では、プロダクトチームとフロント業務、コミュニティ、営業などの組織は縦割りでしたが、私はこれらの組織を横断する「Growth」というチームを作りました。そして、営業やコミュニティ、マーケティングなど多くの部門の意見を取り入れ、扇形の部分をプライベートオフィスにしてプレミアム感のある設計にしました。この設計・施工の責任者がプロダクトチームのヘッドである真秀津(マシューズ)です。

仲先生全ての施設の設計を内部でされているのですか?


真秀津さんまず初めに、社内で建築及び建築設備のコンセプトを反映した基本計画を作成した後、社外の設計会社に基本・実施設計業務を発注し、設計図の作成段階でWeWorkの内装デザインを反映します。拠点周辺の地域性とビルの特性などをしっかり捉えて、設計図に反映していくため、同一のデザインとなる拠点はありません。以前は、拠点の開設スピードを考慮してグローバルのスタンダードをそのまま踏襲しようとする流れがありましたが、現在のWeWork Japanではメンバー様からの声や運営上の課題をしっかりデザインに反映させて、日本の入居メンバー様に合ったオフィス環境を構築するべく、スタンダードを日々アップデートしています。最近の竣工案件である赤坂グリーンクロスは、外壁からの採光性に留意して、廊下とプライベートオフィスの仕切りもガラスパーティションにするなど、開放感や眺望性を考慮したデザインにしています。

写真左から西濱、熊谷さん、仲先生、余合さん。プロフィールは「旅人について をご覧ください。

コミュニティチームがサポートして
企業マッチングが活発に

仲先生大部屋の中にいろんな企業がいるって最高の状態だと思います。日本企業の多くは秘密主義で自前主義ですが、ここは逆に見通しも風通しも良くてとても良いですね。多くの企業は新しいアイディアの種ができても隠してしまい、結局育てることができずにいます。種のうちに多くの人の意見を聞いた方が実のなる樹に育つと思うのですが、隠してしまいます。私が一時、お付き合いしていた企業は、素晴らしい製品を開発したのに、完璧なものを追求して時間が経ち過ぎて商品化できませんでした。WeWorkでは、入居している企業同士がマッチングすることはあるのですか。

熊谷さんWeWorkでは当初から「コミュニティ」を大切にしており、全世界の拠点にはコミュニティチームが常駐して入居メンバー間の交流を積極的にサポートしています。WeWork Japanは国内約40拠点で年間2千から3千回のイベントを開催してマッチングやプロモーションを後押ししています。2024年の企業マッチング数は約150件にものぼっています。

あるケースでは、大手鉄道会社とドローンのベンチャーが鉄道のメンテナンス契約を結ぶなど、事業化まで進んでいます。
ここに来れば、自然と「交流しよう」「コラボレーションしよう」と意識が変わるような、WeWorkらしいカルチャーの醸成に努めています。

西濱WeWorkはオープンな場所だと思ってもらえれば、良いですね。


余合さんこういう場所に来る目的の一つとしてコミュニティへの参加があって、それはオープンであるべきなのは理解していますが、経営者の視点からすると研究開発などの場合、秘密にしておきたいところもあります。そんな時にはどうすれば良いでしょうか。


熊谷さん透明なパーティションのデメリットを最初に感じられたかもしれませんが、WeWorkの廊下は大手企業やスタートアップなどの、多くのキーパーソンやその来訪客が通っています。そこで、廊下に面して企業プロモーションを行っている会社もあります。

通路側に事業概要や商品を展示することで、逆にメリットとして活用いただいているケースもあります。また、ご希望に応じて中が見えないようにフィルムを貼れるようにもしています。

ベンチャー企業であっても一定の規模を超えると「 “自分の城”が欲しい」とよく言われます。そこで、現在プロダクトチームで力を入れているのがプライベートオフィスのカスタマイズで、入居メンバーのニーズに合わせた柔軟なデザイン変更を提案しています。さらに、フロアの半分や1フロアなどを1社で専有する契約プランを設けていますが、これが好評です。これだと、プライベートスペースに加え専有した範囲の共用会議室や廊下なども自社専用で利用できます。セキュアな自社独自のスペースと他のWeWorkスペースが全て使える、良いとこ取りのプランです。

ラウンジにあるミーティングルームの大きな窓には液晶フィルターが組み込まれていて、スイッチひとつで見えなくできる。

ワーカーの行動が変わり、
WeWorkも変化を続ける

仲先生いきなりオープンにするというのも経験が必要なので、少しずつWeWorkを利用して育っていく感じが良いかもしれませんね。


熊谷さんそれがWeWorkの魅力でしょうか、皆さんがカジュアルで笑顔になっていきます。ある日本企業が本社をWeWorkに置かれたのですが、最初はスーツにネクタイで「ザ・日本企業」のようにされていました。しかし、最近はファッションがカジュアルになりイベントにも参加されるようになって、先日ご挨拶に伺うとパターゴルフをされていました。これだけ企業も変わるのだと驚きました。


仲先生僕は工学系の出身なので、ここに試作品を作って皆でいろいろ評価できる場があれば良いなと思いました。

熊谷さんWeWorkの本来のコンセプトは「働く場所」だけを作ることではありませんでした。たとえばWeWork Globalでは、サーフィンをした後にWeWorkで仕事をするなど「趣味」と「仕事」が身近にあったり、歴史的建造物をWeWorkにして賑わいを生み出すという事例もあり、日本でもそのようなことを実現しても良いと考えています。また、WeWork Global急成長期では、くらしに関わるWeLiveや教育を考えたWeGrowなど、さまざまな空間を追求しており、その一つにWeWork Labsもありました。現在は主要事業であるWeWork事業を中心とした展開ですが、そのコンセプト自体は間違えていないと思います。新生WeWork Japanとしても、ワークスタイルはもちろん、くらしに関わるというコンセプトに原点回帰し、ライフスタイルに重点を置いて事業に要素を加えて行こうと議論を重ねています。

礼拝や仮眠にも利用できる多目的ルーム

ラウンジ の「パントリー」では、各種飲み物がフリーで楽しめる。メンバー同士や他の会員の方とフランクな会話ができ、信頼関係を築くことができる。

育児もできる働く環境が
広がってほしい

西濱私はかつて東京の設計事務所に勤務していて、その時の同僚のママは激務をこなしながら子育てをされていました。私は子育てをしながら女性として働くという将来のイメージが持てなくて、そこを辞めて現在は京都で宿泊施設を運営しながらコミュニティづくりに取り組んでいます。
自分の出産と子育てを通して、京都でデスク横に作った場所に子どもを連れてきて打合せをするなどした経験から、子育てなどのくらしを職場に持ち込むといった新しい働き方が広がっていけば良いと思います。

熊谷さんWeWorkでは、子育てと仕事を両立する皆さんに必要な環境を提供することを目指しており、先ほどもご覧いただいたように授乳室もあります。多くの拠点で「KIDS DAY」というイベントを実施したり、子どもの職場体験の一環としてプログラミング教室を開催したりしています。WeWorkにも子育て中の社員が多く、柔軟性のある勤務体制の導入や、女性が活躍できる職場の認定を取るなど、新しい取り組みを模索しているところです。

ペアレンツルームは、授乳室となっています。泣いちゃってもここであやすこともできます。安心して連れてくることができますね。

西濱働く場所を魅力的にすることに取り組まれているWeWork Japanさん。子育てをするママの視点でも取り組まれていると知りました。今では、学生や職員のためのナーサリー(保育施設)を備えた大学も存在しています。

卒業し仕事のスキルを獲得してからの出産というより、これからは子育てをしながら学んで働くというライフスタイルも選べるようになってくるのかもしれません。そうすれば、社会も変わるかな…

西濱「旅するワークプレイスメイキング」では、ワークプレイスの空間だけでなく、働き方を含めて生き方や、その新しい価値観を探っていく企画です。「場」をつくるだけでなく、どうアップデートしていくのか。その中で人と人とがどうつながって触れ合っていくのか。「場」や自然、人がどう関わり合っていくのか、旅をしながら探っていきます。次回もご期待ください。

「WeWork 赤坂グリーンクロス」
https://wework.co.jp/location/tokyo/roppongi-kamiyacho-area/akasaka-green-cross

東京都港区赤坂2-4-6
赤坂グリーンクロス6F


あと描き - IDEA MEMO -


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旅人について

仲 隆介

オフィス研究の第一人者
仲 隆介

合同会社Naka Lab.代表
京都工芸繊維大学 名誉教授

1983年 東京理科大学大学院修士課程修了。PALインターナショナル一級建築士事務所。1984年 東京理科大学工学部助手。1994年 マサチューセッツ工科大学建築学部客員研究員。1997年 宮城大学事業構想学部デザイン情報学科専任講師。1998年 同大学助教授。2002年 京都工芸繊維大学デザイン経営工学科助教授。2007年 同大学教授。2023年 同大学名誉教授。

余合 繁一

新しい生活空間の創出を事業に
余合 繁一

余合ホーム&モビリティ株式会社
代表取締役社長

1992年 トヨタ自動車株式会社入社。2001年 東富士研究所研究員として次世代ハイブリッドや、モーター制御による車両運動コントロールを研究。2004年 製品企画リーダーとしてLEXUSLS600hプロジェクトを牽引。2008年 トヨタ自動車を退社。2009年 余合ホーム&モビリティ代表取締役社長に就任。

西濱 愛乃

ナビゲーター
西濱 愛乃

株式会社NINI
共同代表

京都工芸繊維大学デザイン経営工学科にて仲研究室を卒業後、設計事務所でワークプレイスデザインに携わる。2017年に株式会社NINIを設立し、京都に「HOSTEL NINIROOM」淡路島に「TORIKKA TABLE & STAY」を企画運営。

テーマイラスト

近年、働き方の多様化に伴い、ワークプレイスのあり方が変化してきました。在宅勤務が普及したものの、集まり、コミュニケーションを深める重要性が見直され、オフィスも再評価されています。オフィスではABWの考え方が広まり、働く場所を自分で決めるようになりました。これからの働く空間はどのようなものになるのかを考えました。この企画にあたって、タイトルに、「ワークプレイス」と、まちづくりで使われる「プレイスメイキング」を取り入れています。

これは、「人」を中心に「まち」を考え、つくり続けることと通じるからです。そして、ワークプレイスを什器やデスクのレベルから、「ワーク」と「ライフ」を分けないライフスタイル、そしてまちづくりのレベルまで広げ、さまざまな場所を訪れる計画を立てました。訪れるのは、オフィス研究の第一人者である仲隆介先生と、住まいやモビリティなど新しい生活空間の創出を事業にされている余合繁一さん。ナビゲーターは京都と淡路島で宿泊施設を企画運営している西濱愛乃です。


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