電気交渉人 一之瀬愛理の人を動かすスキルアップ講座電気交渉人 一之瀬愛理の人を動かすスキルアップ講座

登場人物紹介

  • 一ノ瀬愛理

    一ノ瀬愛理

    電気交渉人。この連載の主人公。名前の「愛理」は両親が「愛(あい)と理(ことわり)の両方を持った人に育ってほしい」という願いを込めて名付けられた。後輩の小林さんと田中さんの良き相談相手

  • 田中さん

    田中さん

    真面目で技術に優れているけれど人との関係が苦手

  • 小林さん

    小林さん

    のんびり屋で明るく人から好かれるけれど段取りが苦手

第5回交渉における選択肢「バトナ」を持つ

電気交渉人 一之瀬愛理

今回は私の後輩に「バトナ」という交渉の考え方を教えています。もし相手が「どうしてもそれが欲しい」と考えていることがわかったら、交渉は有利に運ぶことができます。ちょうど競りで、どうしても欲しい者同士が、値段を吊り上げていく心理と同じです。
「バトナ」とは「交渉が決裂したときに、次にとる最善の選択肢」のことです。価格交渉では、この値段を割ったら撤退するという線引きのことです。撤退できるという選択肢がなければ、相手の要求にどこまでも引きずられていくでしょう。惚れた恋人の言うことに、別れてまで逆らえないのと同様です。

技術に優れているけれど人との関係が苦手な田中君と、明るく人から好かれるけれど段取りがうまくない小林君と、交渉の基本を学んでいきます。

愛理
愛理

前回は、交渉の最初に提供する情報が、その後の交渉相手の判断を左右してしまう「アンカーリング」という考え方を学んだね。

小林
小林

相手に提供する情報で、相手の判断基準を誘導するということでした。

愛理
愛理

そして、田中君の話から、今回のテーマを「バトナ」と決めたんだったね。

田中
田中

そうです。すぐに着工しなければならない現場で、協力会社と値交渉もままならず、やや高めの発注をしてしまった話です。

愛理
愛理

もし、すぐに海外に移住するなどの理由で、自分の家を売ろうとする人がいて、売り急いでいたとしたら交渉はどうだろうか。

田中
田中

売り手に売らなければならない期限があれば、買い手の値引き要求に応じてでも、早く契約したいと思うでしょう。

愛理
愛理

買い手側が、売り手に期限があることがわかっていたら。

小林
小林

相場よりも安く、指値をしてくるかなぁ。

愛理
愛理

逆に買い手がその家を気に入ってしまって、どうしても欲しかったら。

田中
田中

今度は買い手は、多少高くても契約したいと思うでしょう。

愛理
愛理

売り手側が、買い手がとても気にいっていて、どうしても手に入れたいと望んでいることがわかっていたら。

小林
小林

相場よりも高い値段を言うだろうね。他にも買いたい人がいることを匂わせたりして…。

愛理
愛理

交渉では、選択肢が限られることは「交渉の弱み」になる。他の選択肢を持つことによって、相手の無茶な要求を避けることができるんだ。

田中
田中

たとえ選択肢がなくても、他にもあるようなそぶりが必要ということか。

小林
小林

ほんと彼女の気を引くために、もてる振りをするのも大変だなぁ~。

愛理
愛理

田中君、協力会社への発注の話では、交渉を不利にしないために、どうしたらよかったのだろう?

田中
田中

協力会社に「自分のところ1社しかいないぞ」と思わせないように、相見積りにしておくことです。それと、着工間近で交渉するのではなく、時間的に追い込まれないように、早く交渉を開始することです。

愛理
愛理

発注者に対しても、考え方は同じだよ。

バトナとは「交渉決裂時の次の最善策」
田中
田中

工事が終了してから追加見積を出しても、なかなかもらえないですね。

小林
小林

「ない袖は振れない」とか言われてね。

田中
田中

早い段階、できれば追加工事着手前に交渉し、合意しておくことですね。それが無理でも、工事着手前ならば発注者はこちらの話を聞いてくれるし、追加予算の必要性を理解してもらえます。

愛理
愛理

早い段階ならば、発注者が追加予算を確保できないとわかれば、仕様変更等を代替案で出して、増減によって対応することができるかもしれない。

田中
田中

発注者から追加予算を獲得するという以外に、他の選択肢がまだあるということですね。

愛理
愛理

工事終了間近では、減額案もなくなってしまい対応できなくなる。

田中
田中

すべてが終わってしまってからでは、代替案なしということか。

小林
小林

資格試験間近になっては、手の打ちようがないということかぁ。

田中
田中

それは自分が怠けているせいだろう!

小林
小林

そうなんですけど…。

田中
田中

スコット・フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」で、主人公ギャツビーが昔の恋人で、すでに結婚したデイジーにひたむきな愛を傾けます。デイジーの無責任と夫の嫉妬とで、最後は殺されてしまいます。恋は盲目というけれど、他に愛せる人ができてたら、こんな悲劇にならなかっただろうに…。

小林
小林

僕も彼女には振り回されてばかりいて、悲惨だけれどなぁ。

愛理
愛理

ところで、田中君と小林君はずいぶんと性格が違うね。性格の違う相手には、その性格に合ったアプローチが必要なんだ。ところが、同じアプローチしかしていないために、交渉がうまく進まないということも起こっている。次回は、タイプ別にみる対応方法を説明しよう。

著者:志村コンサルタント事務所 志村 満
イラスト:日暮里本社

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