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P.L.A.M. | 照明設計サポート設計知識とツール 照明設計資料

照明設計資料

光放射の作用

1.光放射と生物

1 光放射と植物生育

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(1) 植物生育への影響
 光放射は植物の生育において、温度、湿度、気流条件、CO2、水分、養分などとともに不可欠な要素です。光放射は、その分光特性、強度、照射時間、明暗周期などが相互に関連し、光放射の作用の程度も、植物の種類や生育の段階によって異なります。このため、光放射と植物生育の関係は多様・複雑ですが、両者のかかわりは大別して二つの側面からとらえることができます。一つは、光放射がエネルギーとして植物に作用するもので、光合成と呼ばれています。もう一つは信号として植物に作用するもので、光形態形成と呼ばれています。
表1図1に光放射の植物に対する主要な作用と放射照度および分光特性を示します。
表1に示すように、光放射がエネルギーとしての作用をもつためには数100W/㎡の放射照度が必要であるのに対し、信号としての作用のためにはその1/1000以下の量で作用を発現する場合もあります。また、光放射の植物に対する作用を分光特性からみると、光合成に関与するのはPAR(光合成有効放射、Photosynthetically Active Radiation)と呼ばれる400〜700nmの光放射であり、光形態形成には紫外放射および短波長域の光放射(300〜400nm)、赤色光(600〜700nm)、遠赤色光(700〜800nm)が関与しています。また葉色や果実の着色(サニーレタスの赤、イチゴの赤、ナスの紫など)には色素(アントシアニンなど)の働きが不可欠ですが、この色素の発現は近紫外放射(300〜380nm)によって促進されます。したがって近紫外放射を含まない光放射環境の下では、色素の発現が促進されず着色が悪くなることがあります。

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(2) 光放射による植物育成
 植物の生育にとって必要な光放射をはじめ、温度、水分、養分、二酸化炭素などの環境状態を最適生育条件に適合するように制御すれば、気候条件の悪い冬期などでも育成促進が図れ、年間を通じて安定した栽培を行うことが可能になります。当資料では、植物生育の支配的条件の一つである光放射環境のご提案をするための基礎データを紹介します。なお、植物が順調に生育できるようにするためには、温度、水、風、養分などの条件も最適なものにしなければならないことはいうまでもありません。
(2)-1 光放射環境について
 植物が生育するためには光合成が不可欠で、光合成促進のための照明方法には、
 (a)補光照明(自然光併用型)
 (b)完全人工光型照明
の2種類の方法があり、それぞれに得失があります。(a)は照明電力コストが少なくてすみますが、天候に左右されやすいという問題があり、(b)は安定した生産ができますが、電力コストが課題です。そのため、栽培目的に応じて適切な照明方法を上手に使い分ける必要があります。
(2)-2 光合成に必要な光放射とは
 光合成に必要な光放射は、図2の光合成感度に示すような波長特性を持っていますが、実用的には400〜700nmの範囲にある光子束(光子感度)で評価されます。言い換えれば光合成は、光化学反応ですからクロロフィルに吸収される光子の量(400〜700nmに含まれる光子量)、即ち光合成有効光子束PPFで評価されます。単位照度当たりの光合成有効光子束密度は、表2のようになります。また、ランプごとに発光効率に差があり、単位入力電力で比較すると、パルック蛍光灯・マルチハロゲン灯・高圧ナトリウム灯などが植物育成用光源として優れています(表3参照)。照射距離が近い場合はパルック蛍光灯が、照射距離が離れている場合は、配光制御が容易で高出力が得られるHID光源が適しています。

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(2)-3 遠赤色光による植物の成長制御
 植物の形状を左右する葉や茎の伸長は660nm(赤色光:Red)と730nm(遠赤色光:Far-Red)を中心とする二つの波長域に含まれる光子束比(R/FR比)と密接な関係があり、この値が大きいと葉面積や茎の背丈は小さくなる傾向があります 3)図3は、同一の蛍光ランプ本数の下で、ランプのR/FR比のみを変えたヒマワリの栽培試験 4)で、それぞれのR/FR比はA:0.78、B:1.26(自然光の値は約1.10)、C:2.09、D:8.68(パルック蛍光灯)となっています。このようにR/FR比を変えることで、草高を大きく変えることができます。

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 これらの研究成果に基づき、「現行の蛍光灯」の中でPPFが最も高いパルック蛍光灯をベースにしてFR蛍光体(700〜800nmにエネルギーを放射する遠赤色蛍光体)を付加し、自然光に近いR/FR比(1.0)になるように開発した「4波長域発光形植物用蛍光灯」5)を採用することにより、光合成の促進と自然光の下での生育に近い環境が実現できます。
(2)-4 光合成有効光子束(PPF)
 光はエネルギーを持つ一個の粒子(光子またはフォトンと呼ぶ)の集まりであるとみなされ、単位時間当たり放射される粒子の数を光子束と呼んでいます。400〜700nmの波長域に含まれる光子束を、光合成有効光子束(PPF)と定義しています。現在の人工光源の中では、高圧ナトリウム灯、マルチハロゲン灯、パルック蛍光灯がPPF効率が高くなります。
PPF…Photosynthetic Photon Flux
(2)-5 R/FR比
 R/FRの評価は、600〜700nmと700〜800nmの波長の光子束比が望ましいといわれています。白熱電球を除く人工光源は自然光に比べてR/FRが大きくなるため、植物の葉や茎の背丈が小さく育つ傾向になります。
(2)-6 植物用蛍光灯(育成用FR)の育成効果
 植物用蛍光灯(育成用FR)はこれまでの実験により、パルック蛍光灯に比べて顕著な育成効果があることを実証されています。(表4

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(3) インドアスペースの植栽に対する光放射環境
 空間のアメニティの向上をはかる有効な手法の一つとして、インドアスペースへの植栽(以下、インドアグリーナリーと記す)の設置が取り上げられるようになり、アトリウムをはじめとするビル・オフィス空間や地下空間での緑化が活発化しています。
(3)-1 光強度と光合成
 光や温度、湿度への要求が高い植物と、高温多湿を嫌う人間やコンピュータとは、それぞれ求める最適環境が異なります。このため、両者がうまく共存できる環境の接点・領域の探索が、グリーンアメニティ構築の課題となります。その中で、光は植物の光合成のエネルギー源として、また茎・葉の伸長や花芽形成などの光形態形成の刺激源として重要な役割を果たしています。
 光合成の活性は、通常、光合成速度として、単位葉面積、単位時間当たりのCO2吸収量で表されます。温度、CO2濃度を一定とした場合の、一般的な光強度と光合成速度の関係をみてみると、図5のようになります。光合成で吸収するCO2量と、呼吸で排出するCO2量が同一になる光強度の値を補償点と呼びます。この補償点より弱い光強度では、CO2の吸収量よりCO2の排出量の方が大きくなり、光合成量が負の値になります。こうした状態が長く続くと、植物体は活力が弱まり、場合によっては枯死します。また、光強度の増加とともに光合成速度は増加しますが、ある光強度で飽和状態になります。この状態を光飽和と呼び、光飽和になる点の光強度を飽和点と呼びます。補償点や飽和点は植物の種類によって異なります。得られる光強度が制約された室内で、旺盛な生育を期待しないまでも、活力を維持できる程度の生育を目的とするインドアグリーナリーにおいては、必ずしも飽和点に近い光強度を確保する必要はありません。しかし、インドアグリーナリーにおいても、補償点は必ず確保することはもちろんのことですが、補償点あるいはこれを幾分上回る程度の光強度では、植物を長期間生育させることは不可能になります。

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 各種植物の光合成特性の測定結果、ならびにこれまでのいろいろな研究報告から、インドアグリーナリーによく用いられる植物について、その必要とする光強度をまとめると、表5に示すようになります。ただし、ここに示す所要光強度はおおよその目安となる値であって、自然界の環境下と同様の生育を示すための値ではありません。花芽形成、葉や果実の色付き、落葉等の形態形成には、光強度のほかに、光質、光照射時間、温度条件等多くの要因が複雑に関与するため、光強度のみを充足させても形態形成が発現するとは限りません。

(3)-2 環境条件による影響
 室内においては、年間を通じた光放射環境および環境温度のサイクルが自然界とは大きく異なる上、現実に植物の形態形成に合わせて環境条件を細かく制御することが困難になります。そのため、現段階では常緑植物以外の植物を、その季節的な形態の変化を楽しみながら室内で生育させることは困難であり、落葉樹では落葉が遅れたり、枯葉が枝に付いたまま落葉しないでいつまでも残ったり、花芽が形成しなかったり、果実は開花、結実しても肥大しなかったり、落果したりすることもあります。
(3)- 3 人工光の補光時間と計画移植
 インドアグリーナリーの光環境は光強度が不足がちになるため、人工光で12〜16時間程度の日長になるよう補光を実施することが望ましいといえます。
 植物は光を受容しやすいように枝・葉を展開し、樹形を整えます。このため、建物の採光面や照明光源の位置が特定位置に固定されてしまう場合が多い、インドアグリーナリーの空間では植物体への光照射方向が偏りがちになり、樹形が自然の姿から崩れることもあり注意を要します。これらのことから、インドアグリーナリーの計画に際しては、樹木の定期的な入れ替えや枯れた場合の対策も、計画当初から考えておく必要があります。

2 光放射と昆虫

 農業では害虫を人為的に防除することが生産性向上のために不可欠なものであり、農薬などが積極的に使用され、大きな効果を上げてきました。そして、害虫防除法のひとつに夜間照明を利用した方法があります。光放射を利用した害虫防除は、昆虫の光放射に対する反応を利用しているため、薬剤の残留毒性や耐性の心配もなく、環境に優しい防除法のひとつです。
 この防除方法は、「黄色蛍光ランプによる害虫の忌避」と「捕虫器用蛍光ランプによる害虫の捕獲」の2種類に分類されます。このふたつの防除方法は、照明器具を使う点では同じですが、光の利用の方法は根本的に異なっています。いずれの方法も夜行性の昆虫が対象であり、昼間活動する害虫に対しては照明の効果は期待できません。そのため、光放射を利用して害虫防除を行う場合、対象となる害虫の光に対する反応特性を前もって調査しておくことが重要です。
(a) 黄色蛍光ランプによる害虫の忌避
 農薬の長期・大量の利用に伴い、薬剤耐性のある害虫の出現が問題となってきています。そのため、天敵を温室内に放したり、フェロモンディスペンサーを利用して害虫の繁殖を抑制しようという、バイオロジカルコントロールの新しい試みがなされています。農薬を使わない害虫防除法のひとつとして、黄色蛍光ランプによるヤガ類の防除があります。この防除法は、ナシやモモなどの果実を加害する吸汁性ヤガに関しては、既に実用化7)8)されています。
 最近では、吸汁性ヤガの防除に加えて、青ジソのハスモンヨトウ、カーネーションのオオタバコガ、スイートコーンのアワノメイガなどのヤガ類の防除に黄色蛍光ランプが利用されはじめています。吸汁性ヤガでは黄色蛍光ランプを点灯し、成虫を明適応させ吸汁活動を抑えます。一方、花木や野菜のヤガ類では成虫そのものが被害を与えるのではなく、葉や蕾に産卵された卵が孵化しその幼虫が葉や蕾を食べて被害を与えます。そのため、黄色蛍光ランプを点灯し成虫を明適応させ、産卵を抑えるために使用する点が吸汁性ヤガの場合と異なります。
〈ヤガの明適応と暗適応とは〉
 ヤガの複眼は昼間は「明適応」、夜間は「暗適応」しており、ヤガの果樹園への侵入・果実の吸汁、葉や蕾への産卵は暗適応時にのみ起こります。夜間照明を行うと、ヤガの複眼が明適応化して活動が抑制されます。この効果は黄色光で最も大きいことから、黄色蛍光ランプを果樹園に設置する吸汁性ヤガの防除法が実用化されています。なお、複眼の明適応化には白熱ランプ1 lxで40分を要します 7)
〈活動抑制に必要な明るさ〉
 ナシ園において吸汁性ヤガの被害を十分に防止するために必要な平均空間照度(補足参照)は1 lx 8)であり、栽培圃場内を少なくともこの照度以上に維持しなければなりません。この照度以下の所があれば、その部分の果実が被害を受ける可能性があります。ナシ園やモモ園では棚上灯・棚下灯などを設置して最低照度を確保し、光のベールで果樹園全体を覆います。
(補足)平均空間照度とは光源の方向に関係なく、受光部を垂直にした東西南北の4方向と上方水平面の計5方向の測定値の平均をいう。
(b) 黄色蛍光ランプによる防蛾照明の事例
 栽培対象によって防蛾灯の配置設計基準は異なりますが、防蛾灯を設置することによって害虫による被害を軽減することができます。
〈ナシ〉
 ナシの吸汁性ヤガの防除には、40W黄色蛍光灯を10a当たり7台使用します。その内訳は、棚下灯5台、棚上灯2台設置し、光のベールでナシ園全体を覆います9)
〈カーネーション〉
 カーネーションのオオタバコガの防除では、蕾に成虫の産卵を行わせないために、40W黄色蛍光灯を約9m間隔(施設の幅7.4m、取り付け高さ3.1mの場合)に設置すれば、防除効果が得られます10)
〈バラ〉
 バラのハスモンヨトウの防除では、葉に成虫の産卵を行わせないために、40W黄色蛍光灯を約14m間隔(施設の幅8.3m、取り付け高さ3.5mの場合)に設置すれば、防除効果が得られます11)。但し、器具の汚れによる照度低下を考慮すれば、所要照度を得るための事前の照度計算に基づき、必要に応じて器具間隔を短くする必要があります。
〈青ジソ〉
 青ジソのハスモンヨトウの防除では、葉に成虫の産卵を行わせないために、20W黄色蛍光灯を器具の長手方向3m、器具の幅方向3.6m間隔(取り付け高さ1.5m)に設置すれば、害虫防除と開花抑制効果が得られます12)。但し、青ジソの開花抑制は種子の違いにより所要照度に差が生じる可能性があり、予備実験が必要と考えられます。
〈スイートコーン〉
 スイートコーン(露地未熟トウモロコシ)のアワノメイガを防除する場合、スイートコーンは草丈が高いため、防除時期である雄穂の抽出開花期において、薬剤を効率的かつ的確に散布することは困難になっています。そのため、アワノメイガの被害軽減のためには、40W黄色蛍光灯を垂直に、設置高さは地上3mとし、約8〜10m間隔で1灯、10a当たりおよそ10灯設置する必要があります13)

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(c) 捕虫器用蛍光ランプによる害虫の捕獲
 生物が照明などの外的な刺激を受けると、能動的に体を一定の位置、または方向に保とうとする性質があります。刺激に対応して移動を起こすものを走性といい、昆虫の場合には多くのものが光に反応して走性を示します。光源の方向に進むものを正の走光性、光に対し忌避するものを負の走光性といいます。昆虫の走光性の波長特性については多くの研究がありますが、図6に示す分光特性が昆虫視力の代表例です。この昆虫視力に近い分光特性をもつ光源が「捕虫器用蛍光ランプ」であり、同じく図6に示します。

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 捕虫器用蛍光ランプは、「誘虫灯」と「電撃殺虫器(図7)」に使用されます。
<誘虫灯>農業試験場などでは、昆虫による被害発生の事前予測を行うため、ランプ周辺に集まってくる夜行性の昆虫をできるだけ傷をつけないように捕獲し、昆虫の種類別の発生数の季節的な推移を調査するために点灯します。
<電撃殺虫器>ランプ周辺に集まってきた昆虫はその周辺を飛び回ります。その時、ランプ近くに設置された高圧の電撃格子(6,800〜10,000V)に昆虫が触れると感電死してしまいます。この電撃殺虫器は店舗周辺や駐車場など昆虫が飛来するのを好まない場所に設置されます。なお、電撃殺虫器を圃場などに設置した場合、光によって害虫を引き寄せるため、電撃殺虫器の周辺では逆に農作物の被害を受ける場合があり、設置場所の選定には細心の注意が必要になります。

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(d) 光源の誘虫性
 現在一般に使用されている光源は、いずれも人間の視覚を助ける目的で開発されたものであって、光束、輝度、演色性などで光源の照明特性を示します。人間の目に光として感じるのは、380〜780nmの波長に限られるので、光源の照明特性もこの波長範囲のなかで考えられています。一方、昆虫の視感度特性を考える場合、人間の目に感じない紫外放射が特に重要になります。
 光源が放射する電磁波を単位波長域ごとに数値化したものが、光源の分光放射パワーになります。光源の種類が決まれば、その分光放射パワーが定まり、一定照度における放射照度の値も決まります。昆虫に対する光放射の作用を定量的に評価するには、昆虫の分光視感度と光源の分光放射パワーで行うべきであって、照度、輝度などの人間の視覚の測光量で評価するのは適切ではありません。
 昆虫の誘虫性を検討する場合、それぞれの光源によって得られる同一光束の下での昆虫への影響度を求めれば、光源そのものが持つ特性を定量化できます。換言すれば、それぞれの光源に同じ光束を与えた場合に昆虫の視力に作用する効果はどの程度かを知ることができます。
 昆虫の誘虫性は次式で求められます。
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 I    ; 単位光束の持つ誘虫性
 P(λ); 光源の分光パワー分布
 R(λ); 昆虫の視力の波長特性(Bickfordのデータ)
 V(λ); 標準分光視感効率(標準比視感度)
<低誘虫照明器具ムシベール>
 昆虫を寄りにくくするためには、図6の昆虫の視力曲線に沿った光をできるだけカットする必要があります。従来より、380nm以下の光(紫外線のみ)をカットした照明器具はありますが、それだけでは虫の低減効果は十分とはいえません。一方、青色光をカットし過ぎると、光束が低下する上、黄色っぽい色になるため見た目の印象が良くありません。
 当社の低誘虫照明器具ムシベールは、従来の紫外線カットの器具に比べて虫の低減効果を向上させながら、黄色っぽさを感じない領域として、410nm以下の光をカットする特許カバーを採用しています。

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表6に各種の光源に同じ光束を与えたときの誘虫性を示します。白熱ランプ単体の誘虫性を基準(100)として各ランプで、ランプ単体の場合とムシベールを使用した場合の誘虫性を相対値で示しています。ランプにより傾向は異なりますが、ムシベールを使用することで誘虫性を大幅に低減することができます。

3 光放射による植物への影響

(1) ライトアップや道路照明の影響
 植物育成の場合は積極的に光放射を利用しますが、ライトアップや道路照明は人間のための照明であり、樹木への照明光や道路周辺への光のもれが植物に与える影響への配慮はされていません。植物の種類によってはマイナスの影響を生じる場合があります。そのためライトアップによく使用される「スダジイ(ブナ科シイノキ属)」「ケヤキ(ニレ科ケヤキ属)」「イチョウ(イチョウ科イチョウ属)」の3樹種について、ライトアップによる影響を明らかにすることを目的とした実験を行いました。また、稲については照明学会の調査報告書や和歌山県農業試験場の試験結果の概要を紹介します。それぞれの詳しいデータに関しては、原文をご参照ください。
(a) スダジイ・ケヤキ・イチョウに対するライトアップの影響14)
 新葉の展開期から成葉期(1994年4月7日〜7月6日)の4ヶ月間、マルチハロゲン灯を使用した照明実験を行いました。一般に、ライトアップによる葉の被照面は2,000 lx(28μmol/㎡・s)を超える場合は少ないため、実験では1,000 lx(14μmol/㎡・s)区〈中照度区〉、2,000 lx(28μmol/㎡・s)区〈高照度区〉、5,000 lx(70μmol/㎡・s)区〈超高照度区〉、非照明区〈自然光のみの対照区〉の4照度区を設定しました。(日没から午後10時まで点灯)
試験結果の概要はつぎのようになりました。

  • (ⅰ)外見上はいずれの樹種にも光の照射による障害は特に見られなかった。
  • (ⅱ)照度の高い試験区では、非照明の対象区と比較し枝葉の伸長度に低い部分が見られた。現地で撮影した写真から、外部形態的には照度の高い試験区で主枝の周辺に側枝が成長し、非照明区と比較して枝葉が密になる傾向が観察された。
  • (ⅲ)内部形態的には、葉の内部の柵状組織層が増加し厚みが増している傾向が照度の高い試験区で観察され、光合成がより活発に行われていると推測された。

 これらの実験結果から、ライトアップによる葉の被照面照度が1,000 lx以下(通常のライトアップ照度の範囲)と想定すれば、光による障害は特に認められませんでした。また、局所的に5,000 lxレベルの照射が行われたとしても外部・内部形態に及ぼす基本的な障害はなく、むしろ枝葉の成長の充実・葉の内部組織形成を促進する効果が働くものと思われました。
 なお、ライトアップを年間スパンで見た紅葉・落葉現象等の樹木の生体リズムに及ぼす影響や、通常行われるより長い時間連続的に照明された場合の影響等を明らかにすることは今後の課題であります。
(b) 稲に対する照明光の影響
 稲は短日性植物であり、照明光が稲に当たると出穂が遅れるなどの影響が出ます。この影響については既に研究報告がされており、その概要を次にまとめます。

(ⅰ)照明学会「農作物に対する夜間照明の影響」研究調査委員会報告書15)

  • ・水稲は短日性植物であり、一般に夜間照明によって出穂遅延が生じる。
  • ・一方、品種によっては初期夜間照明によって、かえって出穂が早まる例もある。
  • ・水稲の品種によっては出穂遅延の小さいものから大きいものまである。
  • ・夜間照明の影響は気象条件によっても大きく左右される。
  • ・出穂遅延は1〜5 lxの間でも認められるが登熟歩合は登熟期が比較的高温の年には10 lx以上、低温の年には5 lx程度で低下が見られる。
  • ・光源の種類の差については、同一照度の場合、蛍光ランプ、水銀蛍光ランプ、白熱電球の間に大きな差はないが、低圧ナトリウムランプではやや出穂遅延が少ない傾向にある。
  • ・水稲の品種によっては40〜50 lxの照明でも正常に稔実する系統もある。

 なお、コシヒカリの水銀ランプでの実験では、2 lxで出穂遅延日数2日(無照明に対する収量比率109%)、10 lxでは4日(同90%)、40 lxでは26日(同15%)と報告されており、照明光による出穂遅延程度が大きいといえます。

(ⅱ)和歌山県技術資料No.4216)
水銀灯による夜間照明が水稲の生育、収量に及ぼす影響は次のとおりです。

  • ・夜間照明によって出穂遅延、成熟遅延を生じる。
  • ・品種によって出穂遅延の程度は異なる。キヌヒカリ、コシヒカリは低い照度で出穂遅延を示し、5 lx以上の照度で出穂遅延は顕著になる。ミネアサヒは比較的高い照度値においても出穂遅延は小さい。
  • ・収量および収量構成要素への影響は、登熟歩合と干粒重の低下によるもので、収量は減少する。その照度は品種により異なるが10〜15 lxからである。
  • ・日没から22時までの照明条件下における出穂遅延は、終夜照明より1〜5 lx高い照度から始まる。
  • ・夜間照明による出穂遅延は年次変動があり、移植後の気温が低く推移する年には大きくなる。

  以上のふたつの報告書から、照度は5 lx程度以下に抑えることが望ましいといえます。また、光の影響をできるだけ避けるには、照明器具の位置や光のカットなどへの配慮を行い、できるだけ照度が低くなるようにしなければなりません。

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(2) 紫外線照射によるイチゴうどんこ病害防除
 近年、健康や環境に対する意識の高まりから、無農薬・減農薬野菜を購入する人が増えてきています。国レベルでも、改正農薬取締法(平成14年2月改正)、ポジティブリスト(農薬基準)の導入(平成18年5月導入)やIPM(Integrated Pest Management(総合的病害虫・雑草管理)の略)政策などが進められています。タフナレイは、ある特定の波長域の紫外線(UV-B)を照射することで、イチゴが本来持っている免疫機能(抵抗性)を活性化させ、うどんこ病の発生を抑制します。自然の力を活用するため、有害成分の発生や病原菌の耐性進行などの副作用がない、安全な防除法です。これらの効果は、2006年度に兵庫県農林水産技術総合センターにおいて、イチゴうどんこ病の発病果率が大幅に減少することが実証されました。

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2.光放射の作用(非生物)

1 照明による被照射物への作用

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(1) 光源の光放射特性
 光源は、電気エネルギーを可視放射に変換することを目的とした装置です。しかし、可視放射だけでなく、それに隣接する紫外放射、赤外放射も同時に行われます。
表7は被照面の照度が1,000 lxになった時の紫外放射、可視放射、赤外放射を含めた放射パワーの値を示しています。同じ照度であっても白熱電球は放電灯に比べて放射照度が高くなっています。
 これは、赤外放射成分の比率が放電灯より白熱電球の方が大きいことによるためです。
表8は光源に加えられた電気エネルギーが光放射パワーに変換された場合の構成内容をまとめたものです。
 ハロゲン電球では約0.2%が紫外放射に変換され、蛍光灯では約0.5%、水銀灯、メタルハライドランプでは2〜3%、高圧ナトリウムランプでは約0.3%が、紫外放射に変換されていることを示しています。

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(2) 損傷の特性
 光放射による損傷や変退色は、照射された光の量(照度×時間)に比例します。光源により損傷の度合は異なりますが、N.B.S(米国商務省標準局)が色紙を使用して求めた特性がよく知られています。図11に損傷の分光特性を示します。
  この損傷特性より次のことがわかります。

  • ?@580mm以下の可視放射、および紫外放射が変退色に作用します。
  • ?A短波長の光放射ほど作用が大きく、特に紫外放射の作用が大きい。

 損傷係数とは、表9に示す光源で同一の照度で同じ時間照射した場合の変退色の度合を計算して求めたものです。昼光に比べ人工光源の損傷度が低いことがわかります。中でも、紫外線吸収膜付蛍光灯や特定の高演色形蛍光灯(EDLタイプ)は、損傷度合が低く、美術館、博物館用としても使用されています。

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(3) 温度による影響
 損傷の要因としては、光源の分光分布や光の量の他に、温度・湿度・材料などがあります。温度による影響については、絹や木綿の場合50℃以下であれば、ほとんど問題はありません。しかし、65℃以上になると退色の割合が30℃の場合の約2倍になります 23)
(4) 被照射物の保護
(4)- 1 光源の選択

 光放射による損傷を軽減するには、表9に示す損傷係数の小さい光源を選択してください。また、美術館・博物館等で使用する場合は、色彩が正しく見える必要があるため、美術・博物館用演色AA白色蛍光灯(W-SDL・NU)、美術・博物館用演色AAA電球色蛍光灯(L-EDL・NU)、白熱電球などが適しています。
(4)- 2 紫外線カットフィルターの使用
 短波長をカットすると損傷度合が低減します。しかしながら可視域の波長をカットすると、色の見え方に影響を及ぼします。紫外線領域の光のみをカットすることが適切です。紫外線を取り除くフィルターは一般には紫外線カットフィルターと呼ばれ、その材質により透過率が違います。
(4)- 3 照度の低減と照明時間の短縮
 先に述べましたように、変退色は照射された光の量(照度×照射時間)に比例します。損傷係数の小さい紫外線吸収膜付蛍光灯を使用しても、高照度で長時間照明すれば損傷が起こりますので、照度は必要最小限の値とするとともに、照明する時間も短くすることに留意しなければなりません。

3.食品の温度上昇

 生鮮食料品売場は活気あるいきいきとした演出のため高照度のベース照明に加えスポットライトなどで商品をさらに照射しています。しかし、商品である野菜や食肉や魚介類はとてもデリケートな天然素材なので、過酷な条件にさらされているといえます。この「魅力的に見せる(演出性)」ことと「鮮度を保つ(安全性)」という条件を満たす照明計画が生鮮食料品売場には必要です。

1 物体の温度上昇の程度

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 物体の温度上昇は放射照度を用いて表しますが、物体の比熱や周囲温度など多くの要因に左右されるため実験的に求めるのが一般的です。当社で行った代表的な生鮮食料品の温度上昇の度合を実測した結果を図12に示します。
 それぞれの食品ごとに光に対する温度上昇度が違うことがわかります。(具体的には「ほうれん草」は「ひらめ」より温度が上昇しやすく「低い照度」でも影響を受けやすいということです)

2 生鮮食料品の温度管理

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 生鮮食料品売場の照明環境を設計する際は、生鮮食料品に定められている「最適保存温度」を考慮する必要があります。また野菜や果物では「最適保存湿度」も判明しており所定の範囲を下回ると品質が劣化します。これを防ぐために、食料品売場では厳密に温度調節を行ったショーケースを使用します。生鮮食品の最適保存温度・許容温度範囲・最適保存湿度を表10に示します。
 たとえば牛肉では−1〜1℃の温度で保存しなければ、牛肉特有の鮮紅色を失い商品価値が低下してしまいます。また、野菜や果物では最適保存温度も判明しており、所定の範囲を下回ると品質が劣化してしまいます。

3 光源別温度上昇の影響度

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 代表的な光源と、反射系の組み合わせによる1 lx当たりの放射照度(温度上昇の影響度)を表11に示します。
 照明から発生する熱を抑えるために開発された光学ミラーにダイクロイックミラーがあります。これは熱線を後方に透過し、前方にはクールな可視光だけを効率よく反射します。また、セラメタプレミアSと専用ミラーの組み合わせにより温度上昇を抑えた業界No.1のクールな光を実現しました。またLEDスポットライトも同等の性能です。
 同一照度の蛍光灯に比べ照射物の温度上昇を約1/2に抑えることが可能になり、まさに明るく演出した上での熱に敏感な生鮮食料品に最適な光といえます。

4 光源別温度上昇の予測

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 同照度での、光源別温度上昇の予測結果を紹介します。
表10の生鮮食品の最適保存温度によると、牛肉は−1〜1℃の温度で保存しなければ、牛肉特有の鮮紅色を失い商品価値が低下することを表しています。今回、牛肉の上昇を1℃に設定します。1000 lxの照度で照射した場合の、当社実測に基づく牛肉のシミュレーション例を図13に示します。
 ハイビーム電球で、牛肉を1000 lxの照度で照射すると約2.2℃上昇するのに対して、LEDスポットライトの場合は約0.3℃しか上昇しません。
 食品の温度上昇防止対策として、LEDスポットライトは優れた商品であるといえます。

〔参考文献〕
1)稲田勝美:光と植物成育(養賢堂)(1984)
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4)村上克介・洞口公俊・柴田治男・森田政明・相賀一郎:植物栽培用人工光源の開発に関する考察、生物環境調節30-4, p135-141(1992)
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13)那波邦彦・向阪信一;黄色蛍光灯によるスイートコーンのアワノメイガの被害軽減、日本応用動物昆虫学会中国支部会報第37号、19-24(1995)
14)真野克彦・福田耕三・向阪信一・洞口公俊・岡田俊也・染郷正孝:樹木のライトアップによる影響に関する照明実験(スダジイ、ケヤキ、イチョウの3樹種について)、平成8年度照明学会全国大会(1996年4月)No.192
15)照明学会「農作物に対する夜間照明の影響」研究調査委員会報告書(昭和60年3月)P15, P20
16)和歌山県技術資料No.42「水稲-10」(平成5年3月1日)P4
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18)L.R.&T.3-2-131
19)L.D.A 3-6-18
20)J.I.E.S 4-4-263
21)L.D.A 5-9-39
22)L.T25-1-17
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24)日本生物環境調節学会(1973)

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