尾島俊雄 氏

「まほろば」の街づくりをめざして早稲田大学名誉教授 尾島俊雄 氏 Ojima Toshio

広報誌掲載:2012年11月

2011年3月11日の東日本大震災および、東京電力の福島第一原子力発電所の事故以降、日本という国のあり方やエネルギー問題を根底から見直そうという機運が高まっている。明治維新から続いてきた東京への中央集権、一極集中の課題を指摘し、美しい日本のあるべき姿を追求されてきたVol3 尾島 俊雄氏氏に、これからの日本の都市のありかたをたずねた。

東西の拮抗が日本を形成した東京への一極集中を懸念され続けておられました。

私が提案しているのは首都の移転ではなく、首都機能の分散です。首都が持つ、政治、経済、祭祀の機能を分散すべきなのです。日本は災害列島であることを自覚し、万一首都が機能を喪失しても、他の都市が機能をバックアップできるように国を設計し直すべきなのです。

明治維新以前の日本では、東と西が拮抗することで日本特有の文化を形成してきました。日本は糸魚川─静岡構造線で東西に分かれ、気候風土だけでなく、文化的にも大きな違いがあります。この違いが共存していることが日本の活力を維持してきました。古くは、水田農耕文化と狩猟・漁労・採取文化、平氏と源氏、京都の朝廷と幕府などの緊張関係が日本の文化を培ってきたのです。西は変わらないことで継続される文化、東は変わることで継承される文化ともいえます。祭祀を基として変わらないことで畏敬を集める「権威」と、幕府のような武力を背景にその時々で変わる「権力」の構造が日本にはあるのです。そう考えると、「権威」の象徴である天皇が東京の旧江戸城という「権力」の場におられるのは相応しくありません。京都を祭祀の首都として、大阪を経済の首都とすることを考えてはどうでしょうか。近畿圏と中京圏を合体させることで、東京圏とすべての面で相互支援が可能になります。

そうすれば、万一の災害時にも2極のどちらかが機能をバックアップし、避難する人を一時的に預かって災害後の復興を進めることが可能になります。

日本各地にある「まほろば」首都機能が分散された時の地方都市はどのようにあるべきなのでしょうか。

古事記に「やまとは国のまほろば たたなづく青垣 山こもれる やまとしうるはし」という倭(やまと) 建命(たけるのみこと) の歌があります。これは、静かな賑わいがあり山々に包まれ安心できる空間、安心できる国、しかも美しい国、それこそが大和の国...という意味です。都市もまた、安心できて賑わって美しくなくてはいけません。そういう都市づくりをすることが建築にたずさわる者の役割だと思い、日本や世界各国の都市を歩きました。毎年20都市ずつ5年間歩き、100都市を目標に歩きました。そこで分かったのは、日本の地方都市の美しさです。それぞれの都市に、美しい自然と二千年を超える歴史文化とコミュニティが存在しました。

地方都市は。この資産を有効活用しなければいけません。日本は国際交流がまだまだ足りません。観光客や留学生はもとより、研究者や技術者の国際交流も極めて少ない状況です。地方都市は、もっと美しい都市景観を創りだし、国際交流による活性化を図るべきです。

江戸時代の日本は、行政の首都である江戸と、祭祀や商業の首都である上方の二大都市と、200余りある藩が相互に自立していました。各藩は軍事も含めた自給自足を建前としつつ、江戸と京・大坂を活用し、参勤交代や講によるネットワークも構築していました。現代でも地方都市の自立と国際化が求められています。戦後、大都市への人口集中や社会資本集中への対応策として進められたのが、国土の均衡ある発展を図った「全国総合開発計画」です。これによって、日本中に98の空港、997の港湾が整備されました。現在の地方都市は、これらの社会資本を活用する成熟社会の段階にあります。

大都市と地方都市が共存するための「二拠点居住」地方にある空港や公的建築は多すぎるように思えるのですが。

2050年までに、地方都市では2,000万人以上の人口減が予測され、高齢化も進んでいます。このままでは、せっかく整備した社会資本が無駄になってしまいます。東京から地方都市に機能を分散すると同時に人口も分散することによって、地域の活性化を図る必要があります。その方法の一つが「二拠点居住」です。

江戸時代に参勤交代のために大名が江戸と国元に屋敷を持っていたように、現代人も二拠点で居住すべきだと考えています。大都市に働き場所や住まいを持つと同時に、地方にも住居や墓を持つのです。住民票は大都市でも、戸籍は地方。財産は地方に蓄え、税金も地方に納める。これにより、災害時のリスクを分散するだけでなく、長期の休暇には地方でリフレッシュすることができます。

大都市で働く人は「生け簀(す)」で泳ぐ魚と同じです。そこで働きはすれど、地方で自分を取り戻すことも必要なのです。地方で国際交流や生涯学習、国際観光などに力を貸すことが、地方に賑わいをつくりだします。今、日本に求められているのは、どのような国を創っていくのかという日本人の覚悟です。それを世界中が注目しているのです。新しい生活様式、ライフスタイルが求められているのです。

新エネルギー「バイオマス」で発電と熱供給をこれからの低炭素社会都市のありかたとエネルギーについてお話しください。

低炭素社会の都市モデルは、政府も指針を示しているコンパクトシティです。ガソリンを消費し、CO2を排出する自動車を減らし、公共交通でスプロール化した都市をコンパクトに再構築することで、歩いて暮らせる街を創り出します。住宅は、集合住宅にすることで冷暖房に使うエネルギーが約1/5になるという試算もあります。

大きな方向性としては都市がシュリンクしてコンパクト化していくのですが、その途中で限界集落が発生します。また、里山を守るためには飛び地のようなエリアも必要になるかもしれません。そこには太陽光や太陽熱など自立分散型のエネルギー供給と最先端の浄化槽を設けて、途中の給電インフラを省くなどの工夫も必要でしょう。

地方都市のエネルギー供給にはバイオマス発電・熱利用が最適だと考えています。バイオマスとは、植物などから得られた有機物をエネルギー源として利用する方法です。東日本大震災の被災地には、リアス式海岸の周囲に山があり、間伐材などのバイオマスが多くあります。失業対策費を下草刈りや間伐材の収集など、バイオマスを集めることに回せば、豊富なバイオマスを利用することができます。

現状では低温で燃やす場合にダイオキシンが発生するということで、大都市と同じような環境省の公害規制が適用され、十分に能力が発揮できていません。ダイオキシン対策のために、バイオマスをガス化して燃焼するには100倍くらいコストがかかるのです。地方はバイオマスが利用できるように法規制を改めるべきです。オーストリアでは、全エネルギーの15%をバイオマスで賄い、小さな地域暖房を面的に利用しています。

排熱を利用するネットワークバイオマスは、暖房にも利用されているのですか。

バイオマス発電に限らず、火力発電でも原子力発電でも熱が出ます。この熱を有効活用する必要があります。私たちは電力のみを考えがちですが、エネルギー利用の約60%は熱利用なのです。発電時の熱や、電気を利用した後の熱を利用する仕組みを考えなければいけません。水で説明すると上水道の水を使ったら下水道に流します。しかし、都市には電力・ガスなど、エネルギーの供給ネットワークはありますが、排出する方法がありません。これがヒートアイランド現象の要因の一つにもなっています。冷房や暖房の際に発生する熱を、冷却塔で大気に捨てているのです。これが環境を悪くし、エネルギー効率を悪くしています。熱を捨てるためには莫大なエネルギーが必要なのです。この熱を利用するために、都市の地下に熱供給配管を張り巡らすことを提案しています。CGS(コジェネレーション・システム)やゴミ焼却で出る熱を、このパイプラインに集め、必要とする人がこの熱を暖冷房や給湯などに利用すれば、温熱と冷熱、両方のエネルギーを削減できます。これが都市熱供給処理システムです。都市環境エネルギー協会ではこのプランを50年間提案し続けていますが、いまだに実現できていません。

ヨーロッパではエネルギーの面的利用が進み、デンマークでは国中に都市熱供給処理システムを整備しています。マンハッタンにも同様の排熱利用ネットワークがあります。日本も社会全体のエネルギー消費量を減らし、CO2排出量を減らして低炭素の都市を実現するためには、熱供給パイプラインの整備が必要でしょう。

日本(やまと)は世界(くに)の「まほろば」

近代日本は、明治維新に西洋文明を取り入れ、殖産興業と富国強兵の下に、西から天皇を迎えて東京一極集中を進めました。敗戦による第二の開国では、再び東京を中心に、東京・大阪を結ぶ太平洋メガロポリスを形成して、米国に次ぐ第二の経済大国になりました。ところが近年、アジア諸国が急速な近代化を推し進め、存在感を強めています。しかし、日本は「まほろば」であり、温室効果ガス排出をゼロに近づけるだけのライフスタイルや高い環境技術を持っています。日本は、「世界をリードする日本文明」をグローバルに発信していくべきだと思います。

日本(やまと)は世界(くに)の「まほろば」
尾島俊雄 氏
1937年、富山県生まれ。早稲田大学名誉教授、社団法人都市環境エネルギー協会理事長、財団法人建築保全センター理事長、アジア都市環境学会理事長、日本景観学会会長(現職)。東京大学客員教授、日本建築学会会長、早稲田大学理工学部長、日本学術会議会員など(歴任)。

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