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法人向け不動産スペシャリストが見るオフィスの未来像

法人向け不動産スペシャリストが見るオフィスの未来像

リモートワークを中心とした「働き方改革」、生産性を高めるためのDX(デジタルトランスフォーメーション)などの必要性は以前から取り沙汰され、既存のオフィスの在り方の見直し、設備やデジタルツール積極導入の機運は高まっていました。そこに降りかかった新型コロナウイルスの感染拡大。働き方や働く場所の変革がいま、急速に求められています。これから重要な働く場所の条件と、今後あるべきオフィス像とはどのようなものなのでしょうか。シービーアールイー株式会社 リサーチヘッドの大久保 寛さんにお聞きしました。

<ここがポイント!>
●コロナ禍で一気に実現したリモートワーク。
●精神的・身体的負担軽減の反面、心身の健康管理が難しいという課題も
●「交流」「意思決定・伝達」「価値発信」。浮き彫りになったオフィスの存在意義
●ニューノーマル時代のオフィスは「働く人目線」がカギ
●オフィス不要論ではなく働く人目線でのオフィスイノベーションが活性化する

コロナが引き離したオフィスと従業員 期せずして達成したリモートワークで見えたもの

2020年のあまりの変化に、コロナショック以前の状況がどういうものだったか忘れてしまいそうですが、日本が先進国でも類を見ない少子高齢社会であること、また、生産年齢人口が減少する中で、いち早い働き方の改革が求められている状況であることに変わりはありません。
そのため企業では、リモートワークをはじめ多様な働き方の検討、育児や介護中の労働力やシニア、外国人などの活用が進む一方で、より働きやすく生産性を高めるワークプレイス・ワークスタイルの検討、常識にとらわれない新しいルールづくり、リモートワークをより快適に行えるデジタルツールの導入などが徐々に進んでいました。
ただ、日々の業務が綿々と続く中では、それまでの慣習に大きく影響を及ぼす施策は受け入れにくく、リモートワークやフリーアドレスといった新しい働き方の取り組みは、あまり進んでいるとは言えない状況でした。
そこに襲い掛かったのがコロナショックです。職場や学校など、集まることが当然だった場所から人を遠ざけ、やむにやまれぬ理由とはいえ、デジタルツールをフルに活用した「オフィスに出社しない」「オフィスで密にならない」働き方を急ごしらえで整え、結果としてリモートワークを達成しました。
法人向け不動産のスペシャリストとして50年の実績を持ち、世界最大規模の事業用不動産サービス会社CBREグループの日本法人「シービーアールイー株式会社」で、リサーチを基にアドバイザリーなどを行うリサーチヘッドの大久保 寛さんは、最近の調査から、「9割の企業が、なんらかの形でリモートワークに取り組んだ」ことが分かったといいます。まさに国民的社会実験の様相です。

シービーアールイー株式会社 リサーチヘッド 大久保 寛氏

試してみたからこそ分かった リモートワークのメリット・デメリット

この結果を得た「CBRE オフィステナントアンケート」(2020年10月調査)では、リモートワークのメリット・デメリットについても尋ねていますが、「リモートワークで生産性は上がったか」という質問では、良し悪しの判断が拮抗する興味深いものになりました。

なぜ拮抗する結果になったのか?その理由を「リモートワークで感じたメリット・デメリット」から読み解いてみましょう。
まずメリットからです。「従業員の通勤時間の短縮、通勤に伴う精神的・身体的負担の軽減」「育児や介護と仕事の両立の一助となる」「ワークライフバランスを図ることが可能」「業務効率化、時間外労働の削減」がいずれも40%を超え、多くの回答者がメリットと感じたようです。このことから、企業は今回の体験で、リモートワークが社員の働きやすさやウェルビーイングに資する一定の効果があったと感じていることがうかがえます。

ただ一方で、デメリットも実感しています。「リモートワークを実施する上でどのような点が課題になりましたか?」という質問では、「従業員同士のコミュニケーション」「部下・チームマネジメント」「捺印(電子決済が進んでいない)」「働き方・評価制度の見直し」などの回答とともに、「心身の健康管理が難しい」という項目を挙げ、どれも40%以上の回答者が課題に感じていると答えています。
メリットに感じた項目のうち、同じ40%以上の回答者が該当すると答えた項目が4つだったのに対して、デメリットの方は8項目。これを見ると、「リモートワークをしてみてよい発見があったが、課題も多かった」。そんなところかもしれません。
特に興味深いのは「社員の心身の健康」で、多くの回答者がメリット・デメリット双方に挙げています。最初のうちは「これもいいかも」と思ったものの、「長期化するにつけデメリットが目立ってきた」というのが、社員の本音ではないでしょうか。他の調査では、リモートワークについて、「仲間の存在が感じられず不安」「会社に行きたい。みんなと話したい」などの声も聞かれ、長期化するリモートワークに限界を感じている様子がうかがえます。

改めて浮き彫りとなったオフィスの役割 「出社する意味」と「働く場所の多様化」

こうしたことをはじめ、この一年の体験から多くの気付きを得ましたが、中でもオフィスの存在意義、そこに集まって仕事をする意味の問い直しは、今後の働き方に大きな影響をもたらすに違いありません。
大久保さんは、今回の体験で浮き彫りとなったオフィスの役割について、下記の項目を挙げています。

●従業員同士や大切な顧客とのコミュニケーションの場
●マネジメントの意思決定と周知の場
●自由に意見をやり取りするブレインストーミングの場
●企業の価値の発信拠点

そして、一部にある「完全リモートになったら、この先オフィスは不要になるのでは?」という考え方に対して異を唱えます。オフィスは単なる個々の従業員の執務スペースではなく、多様なワークプレイスのハブとなる「センターオフィス」であり、そこでしかできないことを行う場所。これからはセンターオフィスを中心に、ますますワークプレイスが機能によって多様化、分散化すると見ています。
「センターオフィスは、どこからも比較的アクセスが容易な場所に、営業拠点は顧客に近いエリアに、その他、その日の都合に合わせてサテライトオフィスやコワーキングスペースを活用、育児や介護など個々の状況に応じて在宅ワーク、カフェやジム、出張先、移動時間など、ワークプレイス・ワークスタイルの選択肢が広がる時代が来ます」

コロナショックでオフィス用不動産に異変 2008年のリーマンショックとは異なる特徴

今回はコロナウイルスが引き金になりましたが、過去にオフィス用不動産市場に大きな影響を与えたのが、2008年のリーマンショックです。リーマンショックは金融危機であり、日本でも多くの金融機関があおりを受けて企業への影響も広範囲に及びました。中でもBtoBの比較的規模の大きな企業が事業縮小や撤退を余儀なくされ、オフィスビルの空室率も上昇しました。
対して今回のコロナ禍では、特に飲食や観光などBtoCの事業者への影響が顕著です。そうした企業のオフィス床面積は比較的小規模なため、オフィス用不動産全体に対するインパクトは比較的小さいかもしれません。ただ、大久保さんは次のように今後を展望しています。

「規模の大きな企業がオフィスとして利用するいわゆる“グレードA”のオフィスビルは、5年間など長期の定期貸借契約が中心です。契約期間がまだ長く残っているのに、中途解約などの動きを取るのは逆にコストがかさんでしまいます。今経営陣は、売り上げが下がっているから固定費を減らすといった拙速な判断をするのではなく、コロナ禍で身をもって知ったソーシャルディスタンスなどを織り込んだ“ニューノーマル時代の働き方”を確立し、それを実現するために、トータルの床面積を増やすべきか減らすべきか、今後を見据えて戦略を練っているのだと思います」冒頭で触れた調査でも、今後のオフィスについて「増床」と「減床」が拮抗している様子がうかがえます。そうした企業が動きだすのはいつなのでしょうか。

企業目線のオフィスから 従業員目線で誰もが働きやすいオフィスへ

今後、オフィス用不動産市場が動くのは2021年半ば以降ではないか、と大久保さんは予測しています。その時、企業を指揮する経営者の判断基準となるのは、「企業」ではなく「働く人」だと言います。
「これまでオフィスの立地や広さはビジネスの利便性や社員数などで決めることが主流でした。伸びをすると隣の人に当たってしまうほど狭いオフィスに社員を詰め込んでいるようなオフィスも少なくありませんでした。しかし今後は、従業員が通いやすい場所、どのような働き方を望んでいるのかといったことに着目するABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング=時間と場所を自由に選択できる働き方)や感染症対策の観点から、スペースにゆとりを持たせるため、センターオフィスの増床を検討する企業も出てくるでしょう」(下図参照)

さらにこうした企業からは、コミュニケーションを促進する仕掛けなど、従来以上に実験的な試みも出てくるはずだと見ており、それらのニーズからリノベーションが活性化する可能性にも言及します。また、オフィスがどのように使われているかを知るために、さまざまなテクノロジーを駆使して、オフィスをモニタリングする動きにも関心が集まるのではないかと言います。
「禍を転じて福と為す」の言葉通り、コロナ禍を経て得た学びが、日本のワークプレイス・ワークスタイルのイノベーションにつながり、持続的な成長のきっかけになれば…。2021年を迎えた多くの企業経営者がそう願っているのではないでしょうか。

シービーアールイー株式会社
リサーチヘッド エグゼクティブディレクター
大久保 寛氏

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