熱中症予防を見直そう①

長く暑い夏が到来しました。建設業では直射日光に当たりながら作業を行うことも多いため、一般に求められる以上に熱中症予防が必要です。また、昨年から続くコロナ対策のためのマスク着用での作業も求められます。そこで、改めて建設現場における熱中症への対策を考えてみたいと思います。

猛暑日、真夏日、夏日の違い

天気予報などで「猛暑日」「真夏日」「夏日」という用語を耳にしたことがあるでしょう。猛暑日は日中最高気温が35℃以上、真夏日では30℃以上、夏日が25度以上と気温の分類を示しています。
参考までに、東京都の日中最高気温の10年間の推移を第1図に示します。年度によって差異はあるものの、30℃以上は平均で65.9日、25℃以上は191.8日もあることがわかります。このような「気温」は熱中症予防の参考にはなるものの、危険度の判断する材料としては不十分なのかもしれません。熱中症予防には、WBGT値(暑さ指数)という指標を理解する必要があります。

第1図 2010~2020年における東京都の日中最高気温の内訳(気象庁HPより編集部が抜粋)

WBGT値とは

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)とは、熱中症予防を目的に1954年にアメリカで提案されました。WBGT値は、人体と外気との熱収支(熱のやりとり)のなかで人体に与える影響の大きい「湿度」「日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境」「気温」の3つの要素を考慮した温度の指標です。

WBGT値の求め方

WBGT値は以下の式で求められます。

屋内、屋外で太陽照射のない場合(日かげ)
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度
屋外で太陽照射のある場合(日なた)
WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

この計算によって求めたWBGT値は、身体作業強度(代謝率レベル)等に応じたWBGT基準値表(第1表)に照らし合わせて利用します。もし、基準値を超える場合には休憩を設けるか、身体の安全を確認したうえで身体作業強度の低い作業へ変更します。

第1表 環境省HP「熱中症を防ごう!」の表2「身体作業強度等に応じたWBGT基準値」を編集部が一部調整

WBGT値を現場で得るには

作業中に計算をしてWBGT値を求めていては作業効率が悪くなります。そのため、リアルタイムでの把握が可能なWBGT測定器の導入が望ましいでしょう(写真1)。
環境省HP「熱中症予防情報サイト」では、全国のWBGT値が確認できるので地域単位の情報を入手するには便利です(2021年10月27日(水)までの公開予定)。また、暑さ指数の予測や暑さ指数週間頻度集計ランキングなどの情報も入手できて、登録すれば熱中症警戒アラートや暑さ指数のメール配信も受けられます。

写真1 WBGT測定器(提供:鶴賀電機(株))

作業中の熱中症予防の注意点

暑熱順化は早めに!

暑さに慣れていない春先では25℃程度の気温でも「暑い」と感じた経験はあるでしょう。この原因の1つには、身体が汗をかきにくい状態にあることが挙げられます。一般に暑い環境で身体を動かしていると発汗しやすくなるため、体温の上昇が抑えられるように適応していきます。このことを「暑熱順化」といいます。暑熱順化には、7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くしていく方法があります(中断した場合は4日後には順化の喪失が始まり3~4週間後には完全になくなる)。
現場での作業が中心の人は、無意識に暑熱順化できるケースもあるでしょう。しかし、普段はオフィスワークが中心の設計者などが炎天下で現場確認などを行う場合は、十分に気をつけましょう。
暑熱順化は、「やや暑い環境」で「ややきつい」と感じる運動を毎日行うことでも可能です。暑さに慣れていない人は、暑さが本格化する前から習慣的にウォーキングなどで順応していくと良いのかもしれません。

Column 建設業の熱中症リスク

熱中症から身を守るため建設業では、さまざまな対策の導入が進んでいるものの、いまだ多くの死傷災害が発生しています。厚労省発表の「令和2年の「職場における熱 中症による死傷災害の発生状況」」によると、2016~2020年における熱中症の死傷災害の発生件数は、全業種中で建設業が最多となっています。死亡災害に関しても全業種の平均が2.5%に対して、建設業は4.9%と2倍近く発生しています(過去5年間においても全業種中で最多)。そして、昨年の建設業における熱中症の死傷者数は215件、死亡災害は7件と、全業種で最も高いことがわかります(第2図)。

第2図 建設業における熱中症の死傷者・死亡者の推移

第2表に2020年度における建設業の熱中症が原因で発生した死亡災害例を抜粋します。この事例からも解体や撤去など身体への負担の大きい作業時に災害が発生していることがわかります。

業種 年代 気温 WBGT値 事案の概要
7 木造家屋建築工事業 40歳代 26.8℃ 26.4℃ 個人宅の解体作業を行っていたところ、突然倒れ、救急搬送されたが午同日中に死亡した。
8 その他の建設業-その他 40歳代 34.2℃ 31.2℃ 敷地の開発工事において、現場作業員として、アスファルトの舗装作業に従事していた。正午頃に休憩のため付近にあった公園の水飲み場に歩いて移動していたところ、倒れたため、直ちに病院に救急搬送されたが翌日に死亡した。
8 その他の建築工事業 40歳代 32.9℃ 31.0℃ 集合住宅の解体工事現場にて、解体により生じた廃材を手作業で仕分けする作業を行っていたところ、倒れているのを発見され、救急搬送されたものの死亡した。
8 建築設備工事業 60歳代 29.8℃ 28.8℃ 配管撤去工事現場において、高所作業車にて配管等の撤去作業に従事していたところ、当該高所作業車上で死亡しているのが発見されたもの。
8 鉄骨・鉄筋コンクリート造家屋建築工事業 30歳代 29.0℃ 29.0℃ マンション新築工事において、外部足場の組立作業の補助を行っていた。10時の休憩のために移動する途中、足場の踊場で痙攣を発症し倒れたため、救急搬送されたが同日中に死亡した。

第2表 2020年度の建設業における死亡災害の概要

注) 現場での気温が不明な事例は気象庁HP、WBGT 値が不明な事例には環境省熱中症予防サイトで公表されている現場近隣の観測所における気温の参考値を採用

参考文献

環境省:平成23年度第1回熱中症関係省庁連絡会「厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課提出資料」

熱中症予防情報サイト

熱中症予防を見直そう②

前回は、熱中症予防を講じるために必要なWBGT値(暑さ指数)と暑熱順化の方法などを解説しました。
今回は、熱中症の予防策と万が一、発症してしまった際の対応を学んでいきましょう。

直射日光を遮る工夫をしよう

気象庁から発表される観測データは「露場」という芝生の上で、日差しなどの放射熱を遮った状態で秒速5m程度の風を強制的に流した条件で気温や湿度を観測しています。それに比べて建築現場などは、直射日光や建物からの輻射、地面からの反射などがある厳しい環境のケースがあります。特に直射日光を遮へいできない日中のアスファルト舗装面などは高温となるため、作業者の体感温度は、さらに高くなるでしょう。
環境省によると、子どもや車いすの人を想定した「50cmの高さ」は、大人を想定した150cmの高さと比較するとWBGT値が平均で0.1~0.3℃高いことがわかっています。さらに風が弱く、日射が強いときには2℃程度高くなった事例もあるようです。そのため日中に日光を遮ることができない現場で、しゃがんだ状態で作業を行う場合は注意が必要です。

汗の気化を促す

人間の体温を下げるには気化熱を利用した冷却が効果的です。そのため、透湿性が高く乾燥しやすい素材のシャツ、ファン付きジャケットなどを着用して汗の気化を促しましょう。また、一般に電気用ヘルメットは感電防止の観点から通気孔がないため熱がこもりやすい設計になっています。しかし、最近の製品のなかには安全性を担保しつつ風が抜けやすい構造を採用したものもあるので検討してみてもよいのかもしれません。そのほか、充電工具のバッテリーを活用した「工事用充電扇風機」の活用も効果が期待できます。こうした熱中症対策アイテムを組み合わせて使用することで対策を強化しましょう。

現場事務所など休憩場所の整備をしよう

作業により上昇したWBGT値を下げるには休憩時の工夫も必要です。 高温多湿な作業場所の近くには冷房を備えた現場事務所や仮設テントなど直射日光を遮る涼しい休憩場所を設けます。休憩所には製氷機やクーラーボックスなどを活用して氷や冷たいおしぼりを用意します。さらに、屋外の休憩所ではスポットエアコンや扇風機に加えてミストシャワー「グリーンエアコン」など身体を冷却できる設備もあるとよいでしょう。
また発汗すると体内の水分と塩分、ミネラルなどが奪われるため、冷たいスポーツドリンクなども用意して補給しやすい環境を整備してください。

水分、塩分の補給の目安

作業場所のWBGT値が基準値を超える場合は、少なくとも、0.1~0.2%の食塩水、または、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンク、もしくは経口補水液などを20~30分ごとにカップ1~2杯程度の摂取することが望ましい、とされています(身体作業強度などに応じて、さらに摂取量が必要なケースもあり)。

エアコンを使用しよう

熱中症予防にエアコンの活用は有効です。現場事務所など使用が可能な場所では積極的な利用が望ましいでしょう。ただし、家庭用エアコンの多くは新型コロナ対策に必要な換気機能が備わっていないことに気をつけましょう。暑い日などは、冷気が外部に逃げないようにと換気がおろそかになるケースも考えられます。エアコンの設定温度を下げるなどの調整をして、定期的な窓の開放や換気扇を活用して対策しましょう。 また、次亜塩素酸空間除菌脱臭機殺菌灯などの除菌アイテムの併用を検討してもよいのかもしれません。

休憩時も体調の確認をしよう

休憩時は体温計や体重計などで体温の上昇の有無や脱水による体重の大幅な減少がないかなどを確認しましょう。なお、以下のケースに該当する場合は、熱のばく露を避けることが必要とされている兆候が表れている状態です。

Case1.
心機能が正常な労働者の1分間の心拍数が180から年齢を引いた値を超える状態が数分間継続する。
Case2.
作業強度のピークの1分後の心拍数が、120を超える。
Case3.
休憩中などの体温が、作業開始前の体温に戻らない。
Case4.
作業開始前より、1.5%を超えて体重が減少している。
Case5.
急激な激しい疲労感、悪心、めまい、意識喪失などの症状が発現した。

作業者の管理を徹底しよう

作業などに集中した状態では、のどの渇きを感じにくいことや「トイレが近くなるので水分補給を控えよう」と思うこともあるでしょう。管理者は、作業の前後や作業中の定期的な水や塩分の摂取を指導します。そして、巡視などを実施して各作業者の健康状態を確認します。熱中症が疑われる兆候がある人を発見した場合は、速やかに休憩などの必要な措置を講じます。

熱中症への対処方法

環境省HPにある「Ⅱ熱中症になったときには」における「3.熱中症を疑ったときには何をするべきか」「4.医療機関に搬送するとき」を参考に対策をまとめます。

身体を冷却する

重症者の救命のカギは、「体温をどれだけ早く下げられるか」にかかっています。熱中症が疑われるときは、自力で対応できないケースもあります。そのため、管理者もしくは周囲にいる人は、熱中症の人(熱中症を疑われる人も含む)のベルトを緩めます(腰道具を装着している場合は、胴ベルトも取り外す)。そして衣服を脱がせて、熱の放散を促した状態で露出させた皮膚に濡らしたタオルをかけて扇風機などで風を当てて身体を冷やします。冷やした水のペットボトル、ビニールに入れた氷(氷のう)等を首の付け根、脇の下、大腿の付け根の前面、股関節部に当てて血液を冷やすことも効果的です。そのほかにも服や下着の上から少しずつ冷やした水をかけて冷却する方法もあります。
こうした身体の冷却は、救急車を要請する場合でも到着前からの開始が必要です。

水分を補給させるときの注意点

「呼びかけや刺激に対する反応がおかしい」「意識障害がある」など自力で水分補給できないときに、無理に摂取させると誤って気道に流れ込む危険があります。また「吐き気を訴える」「吐く」症状が見られるときは、すでに胃腸の動きが鈍っているため口からの水分摂取は禁物で病院での点滴による補給が必要です。

日ごろの健康管理も忘れずに

対策を心掛けていても、体調や持病など、さまざまな要因が日射病を発生しやすくします。
特に夜ふかしによる睡眠不足、前日の飲酒、朝食の未摂取、風邪などによる発熱、下痢などによる脱水などの体調不良や糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全などの疾患は、熱中症の発症に影響があるおそれがあるといわれています。持病などがある場合は、事前に管理者などに報告して作業内容、場所を検討してもらうようにします。そして、管理者は産業医などに相談して適切に対処してください。

参考文献

環境省:平成23年度第1回熱中症関係省庁連絡会「厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課提出資料」

熱中症予防情報サイト

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