小泉誠さんと探るパナソニック「Archi Design」整えることで生まれる自由

#2025年4月号掲載
(取材・文/植本絵美 撮影/下村康典)
小泉誠さんと探る
パナソニック「Archi Design」
整えることで生まれる自由
パナソニックが電気設備で掲げる新たなビジョン「Archi Design(アーキデザイン)」。
一体どんな取り組みなのか─。
建築から生活用品まで幅広く手がけるデザイナーの小泉誠さんと、大阪府の門真本社を訪ねた。

「門真(かどま)本社内の「Archi LAB」でこれまでのパナソニックの電気設備製品を見ながら、話に花を咲かせるパナソニック エレクトリックワークス社 デザインセンター所長の杉山雄治さん(右)と小泉誠さん(左)。小泉さんからは「こんな製品が欲しい !」という具体的なリクエストも。
小泉 誠
Makoto Koizumi 家具デザイナー1960年東京生まれ。デザイナー原兆英と原成光に師事。90年Koizumi Studio設立。2003年「こいずみ道具店」開設。建築から箸置きまで生活に関わるすべてのデザインを手がけ、現在は日本全国のものづくりの現場を駆け回り、地域との協働を続けている。武蔵野美術大学名誉教授。毎日デザイン賞など受賞多数。
杉山 雄治
Yuji Sugiyama パナソニック エレクトリックワークス社デザインセンター所長
1970年大阪府生まれ。93年京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業、同年松下電工入社。照明器具のデザインに20年、住宅設備、建材、空間デザインに7年従事する。2021年よりパナソニック エレクトリックワークス社デザインセンター所長。グッドデザイン賞やドイツiF賞など多数受賞。
目次
空間に不可欠な電気設備の
当たり前をアップデート
していく

「Archi LAB」で既存製品と「Archi Design」を設置した展示を見比べる2人。「一目瞭然ですね。いつもあれやこれやとアレンジして、本当に苦労してたんですよ……」と小泉さん。

「まず言語化して、社内共有した点がすばらしい!」(小泉さん)
色や仕上げを統一し、建築と同様、水平・垂直で構成されたシンプルなデザインにアップデート
照明器具、インターホン、スイッチ……。電気設備は空間になくてはならない存在だ。必要ではあるものの、目立たせたくはない。建築家やインテリアデザイナーたちは分厚いカタログから選定するが、色もサイズもディテールも微妙に異なり、設計で工夫せざるをえなかった。「必死に設置する場所を探すんです。壁を一段掘り込んでスイッチ類をまとめたり、苦労してミリ単位で配置を検討したり……。本来なら生活の動線上に設置した方がいいはずで、人が道具に歩み寄るのはちょっと違う。なんでこんなことに苦労しているのかな?って、矛盾を感じる時があるんですよ」と話すのはデザイナーの小泉誠さん。小泉さんは食器や家具のデザインから住宅や店舗の設計まで幅広く手がけ、シンプルながらも、素材や産地と向き合った実直なものづくりで知られる。空間のために電気設備の本来あるべき姿とは何か─。その問いを追求し、生まれたのがパナソニックの「Archi Design」である。
これは製品やデザインのシリーズ名ではなく、同社が商品カテゴリーを横断して掲げる新たなビジョンだ。全体を指揮するパナソニック エレクトリックワークス社デザインセンター所長の杉山雄治さんは、このビジョンを長年温めてきた。小泉さんには20年ほど前に照明デザインを依頼したことがあり、当時からこのビジョンを熱く語っていたという。

「ここから選べば間違いない!と思ってもらいたい」(杉山さん)
「設計者の方々に無理を強いてしまっていることに、『本当にごめんなさい!』と思っていました。改めて設計者目線に立ち、ものづくりをしたいと思ったんです」
杉山さんらは建築家やデザイナーを招いて議論を重ね、コンセプトを練り上げて、社内で共有できるよう言語化していった。「建築そのものになること」「環境配慮を重ねること」を2つの大きな軸に定義した。
「まずは、建築に同化させること。デザインには図と地の法則がありますが、我々は “図”ではなく、その背景となる“地”に徹しようと。これまでは一つひとつの製品をプロダクトとしてデザインしてきましたが、それだと単体ではよくても、複数になるとノイズになることも。群として調和しながら空間に溶け込むよう、建築的な作法でデザインを整理し直しました」と杉山さんは話す。
色や仕上げを統一し、建築と同様、水平・垂直で構成されたシンプルなデザインにアップデート。サイズは製品に合わせてモジュール化した。たとえば、小型化の傾向にあり、埋め込み穴の径が50、80、100ミリとこれまでマチマチだったダウンライトは、すべて75ミリに統一していく。このサイズは、明るさと施工性の両方を考慮して導き出された。「ダウンライトだけでなく、天井に設置する電気設備は今後このサイズに統一してきたい」と杉山さん。そうすれば施工効率も上がり、すでに直面する職人不足問題にも貢献できる。普遍的なサイズは長いスパンで見ても更新しやすく、建築100年時代と言われるいま、建築の時間軸に応えられる。

「資料館でも見たことがない!」とパナソニックの人たちも驚いた、小泉さんの私物であるナショナル時代のトグルスイッチとコンセント。約80年前のもの。ものづくりの精神は、この時代からいままで変わらない。

働く居場所を点在させた住宅
小泉さんが2024年に設計した「いとう家の住宅」。暮らしながら働く住まいとして、小上がりや窓辺のベンチなど働く居場所を点在させている。中央に配した階段がリビングとダイニングを緩やかに分節する役割を果たす。電気設備は玄関から室内に入る扉のすぐ脇に並べて設置し、生活動線や効率に考慮している。
Koizumi Studio / 東京都国立市富士見台 2-2-5-104
[写真=ナカサ&パートナーズ]
同時に、製品の小型化も追求。それによって製造時のエネルギーを抑えるとともに、輸送効率も向上して二酸化炭素を削減。さらに、部品の共通化にも取り組み、スポットライトとダウンライトに共通で使用できる小型LEDランプを新たに開発した。一般的にLEDランプと本体が一体となった照明器具が主流だが、ランプを回すだけで交換できる構造により取り替えやすくした。ランプから開発できたのは、光源メーカーだからこそ。環境配慮は製造や施工だけでなく、物流や販売の面でも実施。取扱説明書などの情報は電子化して紙の使用を約73パーセントカットし、梱包する段ボールの印刷を最適化しインクの使用量を見直すなど、徹底して取り組んでいる。「単なるミニマルデザインの追求ではなく、一貫した思想であることに共感しました」と小泉さん。
さらに、そこには日本のデザインの本質を感じると、“素うどん”を例に挙げる。「僕は、日本のデザインは“足し算のデザイン”だと思ってるんです。たとえば素うどんは、見た目はすごくシンプルだけど、麺も出だ汁しもそれぞれ極めて、さらにそれを納得のいく組み合わせにすることで、究極の素うどんができる。そこに具を組み合わせて“○○うどん”になるわけです。つまり、全体から削ぎ落としていくのではなく、それぞれの素材から何ができるかを考えていく。長く使い続けられる道具をつくるには、その素材なりの理にかなった構造である必要がある。シンプルなデザインにするために無理をするのも、機能を盛り込みすぎるのも違う。八分でも十二分でもなく、“十分”がいい。『Archi Design』には素うどんのような、つくり込んだからこそのシンプルさと、十分なちょうど良さを感じます」。

空間における電気設備の役割を改めて考える

門真本社「Archi LAB」につくられたArchi Designの展示スペース。隣接するオフィスではラインナップの拡充のため、デザイナーたちが日々格闘している。
空間が整えば、その先を安心して住み手に委ねられる
昨年の展示会ではプロトタイプを発表し、世に問うた。しかも、既製品による空間と「Archi Design」の空間の2つを比較展示したという。「比較展示は自分たちがこれまでやってきたことを否定しているようなものですから、勇気のいることでした。これからは20年、30年という長いスパンで、日本の定番となるもの、空間のインフラとなるものをきちんとつくっていきたいと思っているからこそ、必要だと思ったんです。やっぱり『Archi Design』で整った展示を見ると、みなさん『気持ちいい!』と言ってくれるんです」と杉山さん。
ビジョンをわかりやすく伝えるため、昨年11月、第1弾として15カテゴリーの製品群を発表。今後はさらにラインアップを拡充していく予定だ。パナソニックは1950年代にスイッチボックスを、1970年の大阪万博のために配線ダクトを初めて開発し、2012年には白熱電球の生産を終了するなど、常に業界を牽引してきた。今回の画期的な取り組みは、業界が空間における電気設備の役割を改めて考えるきっかけとなるだろう。
小泉さんは、空間が整えば、その先を安心して住み手に委ねられると話す。「空間には、物としての魅力も必要なんですよね。そうじゃないと楽しくない。たとえば、シャンデリアが好きなら飾ればいいし、その人なりに楽しめばいい。背景が整っていれば、みんな自由に発想したくなると思う」。小泉さんの意見に杉山さんも大きくうなずく。「私たちもホワイトキューブのような空間を目指しているのでは決してなくて、お気に入りのものに囲まれた豊かな生活をおくってもらうため、好きなものを引き立てるためのビジョンなんです」。もう隠さなくても、無理をしなくてもいい。違和感なく、そこにある。「当たり前がレベルアップするって本当にすばらしい!」と小泉さん。小さなアップデートの積み重ねが、真の意味での空間の価値を高めてくれる。
PICK UP
小泉さんが気になった
Archi Designのプロダクト

ワイヤレスで施工が簡単
従来のインターホンはロビーから親機への追加配線が必要だったが、ワイヤレスインターホンシステム「エアイーズ」は共用部配線をワイヤレス化。施工時間を短縮できるうえ、施工費も抑えられる。配線数削減によって環境面にも配慮している。「これは、賃貸でも後付けでオートロックにすることができる。その仕組みも含めてすごいですね !」と小泉さん。シンプルながら視認性の高いデザインも特徴。

1本2回路の配線ダクト
4本の導体を上段・下段に内蔵する天井用配線ダクト「OSラインダブル」。用途に応じて上段と下段を使い分けることで、1本で電源と照明など2回路での電力供給が可能。「天井は照明だけでなく、スピーカーなど取り付けるものが多くなってきているから、1本で2回路あるのはすごく助かる!」と小泉さん。耐熱素材でスポットライトに対応するほか、リーラーコンセントプラグで手元への電源の取り出しも可能。色はホワイトとブラック。

小型でパワフルな蓄電池
リチウムイオン蓄電池ユニットは、室内に置いても圧迫感がないよう、幅480×奥行き245×高さ660mmと、コンパクトかつスリムなデザインに。蓄電容量は6.7kWhを実現させている。システムのパワーステーション、蓄電池用コンバータ、V2Hスタンドなどもスッキリとしたデザインに統一させた。
プロダクトの変遷

突き付け設置できる分電盤
25年来販売されてきた分電盤の扉にはアールのデザインが施され、なぜかシルバーの帯がつけられていた。新たな分電盤「フレキシード」はシンプルな四角のデザイン。以前は扉の開閉のために周囲に余白を設けて設置する必要があったが、扉のヒンジ軸を外側にもってくることで躯体に干渉せずに開閉できるようになった。このため、天井や壁、収納に突き付けて設置することが可能に。上下左右に隙間なく連続設置もできるほか、狭い場所なら縦向きにも。幅350〜800mmで、50mmピッチで10種類のサイズを展開。

ランプ部が取り替え可能なスポットライト
従来のスポットライトは本体内部のソケットにランプを入れる構造だったが、ランプ自体を露出できるデザインとした。さらに、これまで製造時に金型から製品をスムーズに取り出せるようコーンに抜きテーパーがつけられていたが、シンプルな筒形に変更し、灯具幅をφ85mmからφ45mmと約53%に小型化。LEDランプから開発し、工具や工事なしで簡単にランプ交換ができる構造へと変更した。ランプはダウンライトと共通で、小型ながらも十分な明るさを実現させた。
