寶神尚史さん、永山祐子さんと語る「Archi Design」

#2025年4月号掲載
パナソニックが打ち出した、ジャンルを超えて統一する電気設備群
設計思想としての「Archi Design」本格始動
パナソニックでは、2024年11月より、
「空間の価値を高める美しさ」と「環境への貢献」を追求した配線器具、
照明器具などの電気設備の製品群「Archi Design(アーキデザイン)」の本格展開を開始した。
建築そのものになることを目指した「Archi Design」の仕掛け人である
パナソニック エレクトリックワークス社デザインセンターの
杉山雄治さんと、同プロジェクトのアドバイザーでもある寶神尚史さん(日吉坂事務所)、
そして、設計者の視点から永山祐子さん(永山祐子建築設計)が、建築と設備機器について語り合った。

左:寳神尚史(日吉坂事務所) / 中央:永山祐子(永山祐子建築設計) / 右:杉山雄治(パナソニック エレクトリックワークス社)
寳神 尚史
Hisashi Houjin 日吉坂事務所1975年生まれ。’99年明治大学大学院修了。青木淳建築計画事務所を経て、2005年日吉坂事務所設立。「銀座 伊東屋」リニューアルなど多くの設計を手掛ける他、小規模複合ビル「KITAYON」(東京・西荻北)では、設計だけでなく、自身がオーナーとなりビルの運営も行っている。
永山 祐子
Yuko Nagayama 永山祐子建築設計1975年生まれ。’98年昭和女子大学生活科学部生活美学科卒業。青木淳建築計画事務所を経て、2002年永山祐子建築設計設立。「JINS PARK」「ドバイ国際博覧会日本館」「東急歌舞伎町タワー」など多くの設計を手掛ける他、大阪万博では「パナソニックグループパビリオン」も設計した。
杉山 雄治
Yuji Sugiyama パナソニックエレクトリックワークス社デザインセンター所長
1970年生まれ。’93年京都工芸繊維大学工芸学部造形。工学科卒業。同年松下電工入社。照明器具のデザインを20年、住宅設備、建材、空間デザインに7年。グッドデザイン賞やドイツiF賞など多数受賞。2021年よりパナソニック エレクトリックワークス社デザインセンター所長。
目次
建築を整えるArchi Design

永山祐子(永山祐子建築設計)
共に統一感のある建築をつくっていく味方となってくれる電気設備がArchi Designなのである。
まずは、設計者として空間、特に天井をどう設計していくかという話題から座談会は始まった。永山さんは、2021年に設計を手掛けたアイウェアブランド「JINS」のロードサイド店舗「JINS PARK前橋」で、何もないまっさらな天井をつくり上げている。
永山さん
「眼鏡だけでなく、パンやコーヒーを販売し、地域の人たちによるマルシェなどのイベントも開催できる公園のような施設です。空に何もないように、ここの吹き抜け天井には一切の照明器具を取り付けず、天井面をリフレクターと捉え、アッパーで光を当てることで柔らかい明かりを確保しています。訪れた人たちが天井に何もないことに違和感を覚えることではないでしょうが、これを実現するのは実は簡単なことではないんです」
商業施設をつくる際、非常照明や非常スピーカー、煙感知器、スイッチパネルや電源コンセントなど、機能や法規の面で、どうしても天井や壁に設置しなければならない機器や器具は数多く存在する。これらとデザインとをどう統合していくか。設計者は建築や空間を整えるために、長きに渡ってこの問題と対峙してきた。
Archi Designが目指すコンセプトは、「建築そのものになること」。設計者にとっての敵ではなく、共に統一感のある建築をつくっていく味方となってくれる電気設備がArchi Designなのである。

寳神尚史(日吉坂事務所)
「Archi Designは建築における“図と地”の“地”づくりのためのものです」
2022年からアドバイザーとしてArchi Designに関わってきた寶神さんは、「Archi Designは建築における“図と地”の“地”づくりのためのものです」と語る。
寶神さん
「“図”とは華になるもの、“地”とは黒子に徹するもの。天井にも壁にも、“図”と“地”があり、Archi Designは“地”を美しくしてくれます。例えば、配線器具『SO-STYLE』のスイッチやコンセントは反射を抑えたマットな質感で壁面に馴染み、更にコンセントの差込口に使われている硬度が高くシボが入れにくいユリア樹脂までにもマット加工が施されています。スイッチ音にも耳触りが良くなるように工夫されている。設計者の仕事は美しい華を咲かせることです。そのための黒子として、設計者がArchi Designを思い出してくれるといいと思っています」
永山さん
「壁面にさまざまな機器のパネルを並べるとき、同じような色でそろえても質感や厚さ、角のR形状が微妙に違っていて、気持ちが悪くなる。これらが綺麗に整うのは、私たち設計者が求めていたことでした」

Archi Design商品群を採用した空間イメージ

Sプレート
配線器具「Sプレート」。シンプルでスクエアなデザインが空間に調和し、スペースが限られた場所に最適。プレート表面は質感の高いマット仕上げもあり、カラーはセラミックホワイト、グレー、ベージュ、ブラックを用意

建築部材ではなく、建築素材になることを目指す
「Archi Designはパナソニックが電気設備を建築的視点で捉え直した思想です」
Archi Designには、配線器具の他にもLED交換型コンパクトランプ照明器具、シリンダースポットライト、一体型LEDベースライト、ラインブラケット、屋外用配線器具、住宅用分電盤、V2H蓄電システム、天井用配線ダクト、DC電源用配線ダクトなどがラインアップされており、そのどれもが統一された世界観をもっている。
だが、Archi Designは単なる製品シリーズではない。杉山さんは、「Archi Designはパナソニックが電気設備を建築的視点で捉え直した思想です」と語る。

コンパクトランプ スポットライト
LED交換型コンパクトランプ対応照明器具 「コンパクトランプ スポットライト」。灯具径φ45×灯具長93mmのコンパクトサイズを実現し、用途やシーンに応じて容易にランプを交換できる

OSラインダブル
天井用配線ダクト「OSラインダブル」。4本の導体を上段・下段に分けて内蔵し、1本で2回路の供給を実現する。スポットライトや電源など必要に応じてさまざまな使い分けが可能
杉山さん
「設計者にとって建築部材ではなく、建築素材になることを目指し、電気設備のあるべき姿を要件化しました。この要件をすべての商品に反映し、同じ世界観の商品を“群”として提供していきます。電気設備が主張するのではなく、建築・空間・人が主役となるために、空間価値の向上を目指す。それがArchi Designです。同じサイズ、色、ツヤで空間を美しく整える“空間価値”。更新性、互換性を担保し、サーキュラーエコノミーに貢献する“環境貢献”。この2本の柱で電気設備全体が統一された世界観を構築していく取り組みです」
環境貢献の観点から、コンパクトライト対応照明器具はスポットライトとダウンライトのランプを共通化。ニーズによって明るさ・配光角度や色温度の交換が可能で、これは、とりわけ大規模な商業施設にとって大きなメリットとなるだろう。
最後に永山さんは、Archi Designの未来をこう見据える。
永山さん
「ヨーロッパに行くと、日本の光の方が綺麗だなと感じます。多分、日本人の方が明かりに対する感性が細やかで、それだけ照明器具の精度も高いのだと思います。
Archi Designがリードすることで、日本の電気設備の仕様がメーカーや業界の枠を超えて共通化していくことを願っています。実現すれば、きっと、海外の設計者も日本を羨ましいと思うでしょう」
掲載雑誌
商店建築 2025年4月号
