暮らしに寄り添う家のつくり

暮らしに寄り添う家のつくり【建築を整える】Archi Design By Panasonic
2025年3月27日
#建築を整える #住む

家族の暮らしの舞台である個人住宅において設備とはどんな存在か。
建築家は暮らしと設備をどのように架橋したデザインをするべきだろうか。
リオタデザイン・関本竜太氏が語る。

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」のリビング・ダイニング。設計はリオタデザイン関本竜太さん。

「drop」の2階にあるリビング・ダイニングは6寸勾配の天井。木の素材感を大切にした丁寧な仕上げで、空間を整えた。
[写真=平林克己]

関本竜太

Ryuta Sekimoto リオタデザイン

1971年埼玉県生まれ。’94年日本大学理工学部建築学科卒業。’94~99年エーディーネットワーク建築研究所。2000~’01年フィンランドヘルシンキ工科大学(現アールト大学)留学、現地の設計事務所でプロジェクトにかかわる。’02年リオタデザイン設立。主著に『上質に暮らすおもてなし住宅のつくり方』『詳細図解木造住宅のできるまで』『すごい建築士になる!』(いずれもエクスナレッジ)

目次

“ゆるい完璧さ” で『整える』

しっかりとしたフレームを提示することで、
住まい手を自由にするような設計を心がけているのです。

住宅の設計において、僕がいつも目指しているのは“ゆるい完璧さ”です。設計って、突き詰めればどこまでもきめ細かくできてしまうもの。だからといって、空間を完全に整えると、それが住まい手の暮らしを不自由にしてしまうことがあります。反対に、まったく秩序を設けなければ、家具や収納のサイズやテイストの選択がむずかしくなり、こちらも同じくらい住まい手に不自由さを感じさせてしまうでしょう。だから“ゆるい完璧”― しっかりとしたフレームを提示することで、住まい手を自由にするような設計―を心がけているのです。

別の言葉に置き換えると、“普遍性と更新性のバランスを整えている”とも言えます。たとえば、造作する棚の幅や高さを、無印良品の収納ボックスがぴったりと収まるモジュールで設計すれば、整頓された状態を保ちつつ、住まい手はストレスなく収納整理をしたり、インテリアコーディネートを楽しんだりできるようになります。生活を支えることができるだけの強度を備えたフレームを設計しておけば、今後も家族構成やライフスタイルといった変化を柔軟に受け入れ続けることができます。

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」のキッチン。

キッチンの収納は、無印良品の収納ボックスのモジュールに沿って設計されている。給気口のパネルは“2分の1ルール”に則って、窓の中央に配置されており、ニッチを設けて壁と面にすることで、“一歩下がる”設えとした。

したがって、住宅の設計において『整える』というのは、とても大切な言葉です。『整える』という言葉の本来の対義語は“乱す、散らかす”だと思いますが、僕の感覚だと“プリミティブな状態で残す”という言葉のほうがしっくりときます。というのも、設計では、塗装や仕上げをもうひと手間かけて整えるか、それとも素材の質感や構造体をそのまま生かして残すかは、とても対義的な操作だからです。

この「drop」は非常にコンパクトな木造住宅のため、前者の『整える』という方針で設計を行いました。建物の気積が大きければ、梁をあらわしにして屋根の構造をそのまま見せても荒々しさはほどよく薄まり、それが建築の迫力にもつながります。しかし「drop」の空間はとても小さく構造との距離も近いため、それが生活の中でノイズに感じられてしまう可能性がありました。そのため、ここでは木の天井を張り、空間に対する印象をソフトに整えています。しかし塗装はせず、ベイツガに鋸目を入れて小幅板風にした板を張って、木の荒々しい素材感もやや残している。こうすることで、天然素材の色むらが際立ち、空間に揺らぎや奥行きを感じさせることができます。こんなふうに、空間に合わせて仕上げや質感を『整える』ようにしています。

“設備は一歩下がるべき”という意味

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」の浴室と洗面所のスイッチ。

浴室と洗面所のスイッチは白色の「アドバンスシリーズ」。同じ思想でデザインが統制されていれば、並んでも主張しすぎることはない。生成り色の壁紙(背景)にも同化している。実際には、調光機能や換気扇のタイマー運転機能などを組み合わせて使用している

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」の各種スイッチ。

階段室と書斎Bの中心に、インターホンモニターや給湯などの各種スイッチ類を整然とまとめ、ニッチに収める。上から3番目のスイッチ「アドバンスシリーズ」の中心高さはFL+1,000mmとなっており、それを基準としてニッチ内の配置が決められた

設備はなるべく見せない、
主張しないようにデザインをしています。

こうした設計思想は、住まい手が主役であるべき、という想いから生まれたものにほかなりません。したがって、その暮らしを支える設備は、舞台袖に隠れた黒子のような存在であるべきだと考えているのです。だからいつも、設備はなるべく見せない、主張しないようにデザインをしています。

たとえば、壁に照明のスイッチを設置するときも、壁の中央に設けるのか端なのか、または、そこに窓があるかによってもスイッチを設ける位置は変わってきます。その際、設計者の不注意から視覚的に違和感のある位置に設けてしまうと、そこに意図せず“意味”を発生させてしまうことがあります。それは空間にとって不要な情報や主張だと思うのです。設備に無用な意味を発生させてしまうことは、なるべく避けるべきだと考えています。

だから設備は、なるべく隠れる場所に。見える場所であっても、意味や疑念が生まれる余地がない位置を考えて配置するようにしています。ニッチを設けて、壁のラインから数cmほど下げて設置することもありますね。別に設備を責めているわけではありませんが、やっぱり主役は住まい手の暮らしであって、設備は“一歩下がる、へりくだるべき”だと思うのです。

スイッチや操作パネルを、本当に見えない場所に集めて設置する、あるいは蓋をするなど、設備を一切見せないデザインもありますが、僕はそこまではしたくないと思っています。というのも、スイッチがより特別なものになってしまうということも、“住まい手の生活が主役”という僕のスタンスから外れていると思うからです。設備は、手をのばせばすぐそこにある、使いやすいところにあることが大前提で、そこにあっていいけれど、一歩下がっていてほしいという感覚でしょうか。

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」のリビング・ダイニング。

切妻のプロポーションを生かしながら気積を確保。リビング側は照明をダクトレールにまとめて天井面を一枚絵のように見せ、一方、ロフト側は天井に直接ダクトレールを設置し、場所ごとの使いやすさに基づいた配置がなされている。エアコンもニッチに収めて“一歩下がる”設えに

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」のリビング・ダイニング。ダクトレールに取り付けられたスポットライト。

空間を分節する3本の化粧バトン(タモ無垢材)には、30mm角のスチールの角パイプを下地にしてダクトレールを仕込んでいる。ダクトレールの下端高さはスポットライトやペンダントライトの交換を想定して、小上りFL+2,050mmで設定

こうした考えのもとに、「drop」ではキッチンからダイニング、ラウンジの上部に、ダクトレールを取り付けた化粧バトンを3本設置しました。これまで設計した住宅では、天井からペンダントライトを下げたり、天井面にスポットライトを設置したりすることが多かったのですが、スマートで空間も格好良く整う一方、後から位置の微調整や高さの変更希望に応じることがしにくいという制約を感じた経験もありました。今回は、ダクトレールの位置や高さといったフレームだけをきちんと設計し、あとは住まい手が使い勝手に合わせてスポットライトの数や位置を調整する、あるいはフックを取り付けて観葉植物をハンギングするなど、暮らしを自由に楽しめるように整えています。設備を付けないと、木の天井も一枚の絵としてきれいにみえるでしょ。

暮らしの背景に徹する

アーキデザインの商品が採用された住宅「drop」のラウンジ出窓。

ラウンジの出窓をソファに。グラスやスマートフォンを置ける壁側の棚、コンセントや照明スイッチも、ソファでの過ごしやすさを考えた位置と高さに設えられている

設備を建築空間に溶け込ませながら、
建築自体も、住まい手の暮らしを引き立てている

僕は“暮らしの背景に徹する住宅をつくる”という意識を強くもって設計しています。建築だけでなく、設備も過度に主張させたくありません。だからといって、設備にミニマルなデザインを求めているわけではない。大切なのは、設備も建築全体と一緒に足並みを揃えられることだと思います。先ほどもお話ししたように、空間全体が同じ思想や構成要素でつくられておらず、どれかが部分的に違ってしまうと、そこに無用の意味が発生してしまいますから。

今後もさまざまな商品開発が進み、住宅内の設備機器はさらに増えていくと予想されます。設備を減らすことは、もはや不可能でしょう。そんななか、各種機器のスイッチプレートの厚みやデザインが全部バラバラでは、それぞれが主張しはじめてしまい、存在感がさらに増してしまいます。しかし、それらが同じデザインコードで統一されていれば、たとえ数がたくさんあったとしても、存在が気にならないように整えていくことができる。設備を建築空間に溶け込ませながら、建築自体も、住まい手の暮らしを引き立てている。そんな住宅の設計を、これからも続けていきたいですね。

リオタデザイン関本竜太さんが設計した住宅「drop」の図面。

平面図[S=1:150]

リオタデザイン関本竜太さんが設計した住宅「drop」の図面。

drop

所在地 埼玉県川口市
構造・階数 木造・地上2階
施工 山崎工務店
延床面積 79.32㎡

設計者から
Archi Designへのメッセージ

Designer's Insight for Archi Design

リオタデザイン関本竜太さん

[写真=平林克己]

暮らしの背景に徹する設備を

他の建築家の内覧会で知って以来、「アドバンスシリーズ」は何度か採用してきました。スイッチプレートのチリの薄さなど、存在感を感じさせないディテールが気に入っています。またベージュ色は、木部で重宝していますね。性能も手を抜かれていない。最近ではスマートスピーカーの導入需要も多いのですが、最新の機器にも対応してくれるので、すごく心強く感じています。

「ArchiDesign」の思想には、とても共感します。コンセプトの1つである"建築の背景に徹する"と同じく、僕は"暮らしの背景に徹する住宅をつくる"ことを信念に設計をしています。建築にも設備にも、大切なのは、すべてに同じ思想が貫かれ、同じ要素で構成やデザインがなされていること。どれかが1つでも違ってしまえば、そこにはたちまち違和感が生まれてノイズとなり、背景に徹するということができなくなってしまいますから。建築も設備も、ともに背景の空間にしっかり溶け込んで、暮らしをより豊かに引き立たせることができれば、設計者としてとても理想的だと思っています。

関本竜太 リオタデザイン

Archi Design(アーキデザイン)。電気設備を建築視点で考えるパナソニックの思想。

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