自然とつながる環境で働く意味

自然とつながる環境で働く意味【建築を整える】Archi Design By Panasonic
2026年3月2日
#建築を整える #働く

オフィスの環境は閉じて設備で制御するほうが簡単で効率的かもしれない。
しかし、それは本当の意味で快適な環境を整えたといえるのだろうか。
自然とのつながりを通して歓びを感じられる空間設計を目指す川島範久氏に訊いた。

アーキデザインの商品が採用された「REVZO虎ノ門」のエントランス。設計は川島範久建築設計事務所の川島範久さん

「REVZO虎ノ門」のエントランス前にて。軒下にはアカマツやアガベ、紅葉など多種多様な植物が植えられており、自然とのつながりを象徴するスペースになっている。
[写真=水谷綾子]

川島範久

Norihisa Kawashima 川島範久建築設計事務所

1982年生まれ。2005年東京大学工学部建築学科卒業。’07年東京大学大学院修士課程修了。’07~14年日建設計。’12年UCバークレー客員研究員。’14~20年東京工業大学助教。’16年東京大学大学院博士課程修了、博士(工学)取得。’14年「NBF 大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)」にて日本建築学会賞(作品)、’ 24年「GOOD CYCLE BUILDING 001‐淺沼組名古屋支店PJ」にて日本建築学会作品選奨を受賞。

目次

自然とつながるオフィスとは?

アーキデザインの商品が採用された「REVZO虎ノ門」の北側外観

北側外観。コアをスプリットして建物の東西に分け南北2面に大きく開口部を設けた。
ファサードは植物の緑が印象的だが、全体的にシンプルにデザインされていて、ここで働く人たちの“額縁”をイメージしている。
[写真=長谷川健太]

“自然とつながる建築”をつくり、
その空間から歓びを感じてもらえること

私はどんな建築を設計するときも、“自然とつながる建築”をつくり、その空間から歓び(delight/デライト)を感じてもらえることを目指しています。かつては、仕事に集中できることばかりが優先され、無機質なオフィスが大量につくられました。しかしこの10年間で、私たちは震災やコロナ禍を経験し、働く環境を見直さざるを得なくなった。おかげで現在は、働く場所を選びやすくもなっています。それでもなお、出勤したいと思えるオフィスとはどんな空間か。改めて問い直したとき、とてもシンプルな答えですが、オフィスでも歓びを感じられることが、最も重要だと考えました。私自身も長年、組織設計事務所の大きなオフィスで働きながら、高層オフィスビルの設計に携わってきた。この考えには、そうした実体験も大きく影響しています。

「REVZO虎ノ門」は、ディベロッパーの中央日本土地建物による中規模賃貸オフィスビルシリーズの第1号です。余計な資材やコストを省いて全体をシンプルに構成することで、賃貸オフィスに求められるスペックや事業性を担保しながら、随所に自然とつながるための工夫を施しています。

たとえば温熱環境は、自然通風と空調機器のハイブリッドでの調整が可能です。オフィス空間では、グリッド状に空調機や吹出し口を配置するのが一般的ですが、天井高が空調機のスペースに割かれると、特に中規模オフィスでは狭さを感じさせてしまう。そこで今回は、空調機を片側に寄せて吹き出す計画としました。事前のコンピューター解析で、グリッド配置と同等以上の均質性を出せることを検証済みです。

アーキデザインの商品が採用された「REVZO虎ノ門」の10階北側の共用ラウンジ

レイアウトを自由に変更可能な無柱空間とした「REVZO虎ノ門」の基準階。空調機を片寄せ横吹きとしてダクトを排除し、天井の高い空間を実現(階高は4,000mm)。入居退去時に発生する廃棄物量が最小限となるようにも設計されている。
[写真=長谷川健太]

照明環境も、自然光をうまく利用する前提で検討しました。ファサードと背面の2面から採光し、空間全体に昼光が届くよう設計しています。

建物の緑化も、私が継続して取り組んでいることの1つ。「REVZO虎ノ門」では、メインのファサード側に植栽を施したバルコニーを設けています。桜や紫陽花など季節を感じさせるもの、ブルーベリーなどの食べられるものなど、親近感が生まれやすい植物を取り入れました。

人工物だけの空間になりがちなオフィスに長く居ると、自然のなかで生きているという当たり前の事実さえ忘れてしまうときがあります。風や光、植物といった刻々と変化するものを身近に感じるだけでも、ふと自分に立ち戻れる。それは人間にとって基本的で大切なことだと思っています。

語弊を恐れずにいえば、オフィス環境は、閉じきって設備機器のみで環境をコントロールしてしまうのが手っ取り早いし、緑化だって不要かもしれません。でも、そうやってつくられた環境を、私には“整っている”とは感じられないのです。細かな設計や高度な技術が求められるし、課題もたくさんありますが、自然と手を組んで環境をつくることこそ、私にとっての環境を『整える』ことなのだと考えています。

材料の特性を見極めて『整える』

アーキデザインの商品が採用された「REVZO虎ノ門」の10階北側の共用ラウンジ

10階北側の共用ラウンジは、入居する企業が自由に使用することができる。2層分の天井高を確保し、天井にはダウンライトをグリッド状に散らして配置。
壁際にはユニバーサルダウンライトを採用して角度を変え、場所ごとに照度を調整した。

アーキデザインの商品が採用された「REVZO虎ノ門」のバルコニー

境界面から2,000mmセットバックすることで、各階にバルコニーを設えている。ステンレスメッシュと手摺の間の植栽帯には、四季を感じやすい植物や、食べられる植物が。バルコニーに出るきっかけにもつながっている。

素材の特性やモノの論理に沿いながら、
それぞれがそこに無理なく存在できるよう配置

材料に無理をさせるような使い方をしないことも、大切だと考えています。大規模なリノベーションを行った「GOOD CYCLE BUILDING 001‐淺沼組名古屋支店改修PJ」では、ファサード側にバルコニーと植栽を導入しました。改修前はビルが西向きなのに全面がガラス張りで、日中は常にブラインドが下ろされていました。強い西日をガラス1枚だけで乗り切るのはやはり難しいし、1つの素材に頼り切っているのには無理があると実感。全体をセットバックさせてベランダ空間を緩衝帯として新設し、西日を完璧に遮断しなくても、日射を和らげつつ、窓を開けることを可能にしました。機能をバランスよく分散させることで、総合的に快適な環境を設計できたと思います。

「REVZO虎ノ門」も考え方は同じ。正面のバルコニー側は、外側からステンレスメッシュ、植栽帯、半屋外の空間、ガラス引き戸とカーテンいう順番で既製品などを組み合わせてレイヤーを形成することで、段階的に室内環境を調整しています。

そもそも高層ビル自体が、モノに無理をさせてつくっている建築ですよね。だからこそ、素材の特性やモノの論理に沿いながら、それぞれがそこに無理なく存在できるよう配置していく必要があります。緑化も同様で、植物になるべく無理をさせないよう、必ず人の手が届きケアできる範囲にだけ配置することにしています。

さまざまな素材や既製品をうまく利用し、組み合わせて環境性能を整えながら、デザインとしても整えていく。これは建築家にとって重要なスキルでしょう。こうした私の設計に対する考え方は、恩師である建築家の難波和彦さんから学んだことが大きく影響しています。難波さんがサステイナビリティ(持続可能性)を総合的に考えるために挙げたのが“建築の四層構造”です。四層構造とは、物理性(材料や構造)、エネルギー性(環境や設備)、機能性(計画や用途)、記号性(歴史や意匠)のこと。建築をこの4つのレイヤーを行き来しながら検証し、最良のバランスに整えていくように、いつも心がけています。

建築と設備で“普及性”を目指す

アーキデザインの商品が採用された「淺沼組名古屋支店PJ」のバルコニー

「淺沼組名古屋支店PJ」のバルコニー。
[写真=JUMPEI SUZUKI]

アーキデザインの商品が採用された「淺沼組名古屋支店PJ」の西面ファサード

「淺沼組名古屋支店PJ」の西面ファサード。同社が古くから縁があるという、吉野の樹齢130年のスギ丸太を使用。2,500mmセットバックして、植栽豊かな半屋外空間を設けたことで、西日の厳しい環境を過ごしやすい空間へと改善した。
[写真=JUMPEI SUZUKI]

“普及性”を追求していく

こうした思想を下敷きとして設備のあるべき姿を考えてみると、“普及性”という言葉が思い浮かびます。僕がオフィスを設計するときも、ここで生まれた設計思想や手法がどれだけ世の中に広まりうるかを、強く意識します。建築は一品生産の面も強く、立地や条件に対応する設計が毎回必要になりますが、一方で「REVZO虎ノ門」や「淺沼組名古屋支店PJ」のバルコニーのように、同じテーマを繰り返し取り組み、設計をバージョンアップしていくという挑戦も続けています。よりシンプルでコストパフォーマンスのよい設計に改善していけば、さらに多くの人に対してdelightful(デライトフル)な環境を享受できるようになりますから。それはまさに、設備の開発と同じですよね。

そもそも『整える』って、そんなに大袈裟なことじゃないはずなのです。一定のレベルまでであれば、大きなコストをかけなくたって達成できるはずだし、実際、そうあるべきですよね。建築にとって、設備は環境を一緒につくるパートナーのような存在だと、私は考えている。だからこそ、“普及性”を追求していくことは私たちの大切な役目だし、それによって多くの人に快適な環境を提供したい、と思っています。

川島範久建築設計事務所の川島範久さんが設計した「REVZO虎ノ門」の図面

平面図[S=1:400]

REVZO虎ノ門

所在地 東京都港区
構造・階数 S造(一部RC造)・地上11階+地下1階
共同設計 中央日本土地建物
施工 安藤・間
延床面積 4,571㎡

設計者から
Archi Designへのメッセージ

Designer's Insight for Archi Design

川島範久建築設計事務所の川島範久さん

[写真=水谷綾子]

“普及性”や環境配慮の視点も重要

パナソニックの設備器具は、いつも“普及性”を大切にしながらつくられてきたと思います。私も、設計において“普及性”を大切にしています。コストをかけてデザイン性を高めたオリジナルな空間や設備器具をつくることは、もちろんできるはずです。しかしそれ以上に、できるだけ多くの人に当たり前に使ってもらえることのほうが、重要だと思う。これからも、“普及性”を常に念頭に置きながら、さまざまな製品を実現していってほしいですね。

また、私の設計テーマの1つは、できるだけ少ない材料やエネルギーで、delightful(デライトフル)な環境を実現することです。「Archi Design」では、意匠性だけを追求しているのではなく、ライフサイクルにおけるエネルギー使用の削減など、環境への配慮にも取り組んでいくと聞きました。製品の小型化や、部品点数の削減によって使用する材料を減らすことや、部品の互換性を高めて、必要なものだけを交換しやすくするという挑戦も、このプロジェクトにおいてとても重要なポイントだと思っています。

川島範久 川島範久建築設計事務所

Archi Design(アーキデザイン)。電気設備を建築視点で考えるパナソニックの思想。

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