人が自然に集う現象の建築

人が自然に集う現象の建築【建築を整える】Archi Design By Panasonic
2026年3月2日
#建築を整える #商う

商業施設の設計では
お店の個性を際立たせつつ地域の風景とも調和するように、
繊細なバランス感覚が必要だ。
厳しい条件のなかで永山祐子氏は
どんなことに気を配りながら個性的な建築を生み出しているのか。

アーキデザインの商品が採用された「ソラトカゼト西新井」の西側外観。設計は永山祐子建築設計の永山祐子さん

「ソラトカゼト西新井」の西側外観。2階は2枚の屋根に覆われているが、道路側の屋根は1階の軒先空間と同様に道路側に向かって傾斜をかけ、奥の屋根とギャップを設け、下から見上げた際に空に向けて視線と風が通り抜けるようにデザインしている。街に対して風通しのよい施設という「ソラトカゼト」の名前はここから生まれた。
[写真=渡辺慎一]

永山祐子

Yuko Nagayama 永山祐子建築設計

1975年東京都生まれ。’98昭和女子大学卒業。’98年〜2002年青木淳建築計画事務所(当時)。’02年永山祐子建築設計設立。’20年より武蔵野美術大学客員教授。’23年「JINS PARK前橋」にてiF Design Award 2023 Retail ArchitectureカテゴリーにてWinnerに選出。

目次

光+素材で生まれる“現象”

アーキデザインの商品が採用された「ソラトカゼト西新井」の大通りから見る正面

大通りを挟んで正面を見る。50mの間口に、各店舗が路面店のように通りに向かって並んでいる。

接道面が広く細長い敷地を生かして、
軒先が連なる商店街を意識した商業施設を設計しました。

ECサイトでの買い物が一般的になった現代、商品の香りや手触り、場所の居心地といった、リアルな空間だからこそ得られる体験の価値が、改めて見直されているように思います。それを強く確認したのは、コロナ禍以降でした。外出自粛の反動もあり、話題の飲食店やアパレルショップへ足を運び、商品に実際に触れたいという欲求が高まったのではないでしょうか。私たちが、いかに五感を通して情報を得ているのかを再確認したように思います。こうした体験にさらに付加価値を与える要素として、商業建築はこれまで以上に大きな役割を果たすはず。私たち設計者の出番も増えていくのではないか、と感じています。

「ソラトカゼト 西新井」は、東京都足立区の西新井駅から徒歩5分ほどの場所に立つ、低層の商業施設です。人々の往来が多い大通りに面し、生鮮食品店やベーカリー、美容室や小児科クリニックなど、地域の暮らしに欠かせない業態の店舗が入居しています。接道面が広く細長い敷地を生かして、軒先が連なる商店街を意識した商業施設を設計しました。

アーキデザインの商品が採用された「ソラトカゼト西新井」

軒を内部空間に食い込ませ、視線が斜め上へと抜けるように誘導する。酸化被膜発色チタンを採用した屋根は、ピンクとゴールドが重なり合うような発色に。

アーキデザインの商品が採用された「ソラトカゼト西新井」ライトアップイメージ

ライトアップされた夜の「ソラトカゼト 西新井」。建物のシルエットを炙り出すかのように、軒裏、スラブ下、屋外階段などを柔らかな光が包み、その時にしかない“現象”を生み出している。
[写真=高栄智史]

頭のなかに、素材や光がセットで描かれている

アイウエアブランド「JINS」が展開する「JINS PARK前橋」(群馬県前橋市)は、近隣住民が徒歩や自転車でアクセスする「ソラトカゼト 西新井」とは対照的な、ロードサイド型の店舗です。ただ眼鏡を販売・購入するだけの場所ではなく、滞在することでさまざまな出合いや体験が得られるような、新しいロードサイド店舗のプロトタイプを目指しました。

私は、素材と光をセットで組み合わせて設計をしていきます。そうすることで、素材がただ固定された物質ではなく、“現象”としてそこに立ち現れていくように感じられるから。「ソラトカゼト 西新井」は、店舗が低い軒を連ねることが大きなコンセプトだったので、その軒と屋根をさらに象徴的にするため、屋根の一部にチタンを採用しました。チタンに反射した光のピンク色の具合が、光の強さや角度によって、異なる色合いに微妙に変化していきます。毎日ここを通る人たちが目にする風景に、さりげなく変化を挿入する。それが、この建築のあるべき佇まいだと思いました。

天井を受光面と捉え、自然光や照明を下から当てて反射させるのも、私がよく使用する手法です。「ソラトカゼト 西新井」の2階の床スラブ下は、昼間はチタンの反射光を受け止め、夜は下から照明を当てて光を反射させることで、建物全体が柔らかな光で包まれるように計画しました。

私の場合はいつも「この建物はどこに光を当てようか」と設計後に考えるのではなく、最初から頭のなかに、素材や光がセットで描かれていることがほとんどです。美しさとは、ものが発しているのではなく、その瞬間に生まれているもののように感じます。それを建築で表現していきたいと思っています。

設計とは“違和感”を整えていくこと

アーキデザインの商品が採用された「ソラトカゼト西新井」の1階の軒先空間

1階の軒先空間部分を、店舗間の仕切り壁をガラス張りとしている。目線を横に通し、にぎわいを共有する。各店舗をまたぐように2本のライティングレールを通し、スポットライトで任意にライトアップできるようにしている。
[写真=高栄智史]

“違和感”がコンセプトやデザインの発想の起点

これまでの設計活動を振り返ると、“違和感”がコンセプトやデザインの発想の起点になることが多々ありました。自分のおぼえた違和感を、違和感のない状態に“整えたい”という意思が、私の設計には無意識に組み込まれているのかもしれません。

「ソラトカゼト 西新井」を低層の商業施設にしたのは、街の雰囲気やスケールとはそぐわない、近くに立地する箱型の商業施設の存在が要因の1つでした。西新井は、レトロな商店街が現在もにぎわう街です。路面店で商品を眺め、コミュニケーションを取りながら行うリアルな買い物の楽しさを、継承し体験できるような商業施設が駅前にあったらいいな。そんな想いから、設計が始まりました。

アーキデザインの商品が採用された「JINS PARK前橋」外観 アーキデザインの商品が採用された「JINS PARK前橋」外観

「JINS PARK 前橋」の外観。敷地前面には芝生の庭が広がる。ベーカリーカフェが併設された滞在型店舗で、前庭では地域住民によるマルシェやイベントも開催されることも。斜めに葺かれた赤茶色の銅板のファサードは、自然光やライトアップによって、時間ごとに色合いや質感が刻々と変化する。
[写真=阿野太一+楠瀬友将]

「JINS PARK前橋」は、新しいロードサイド型店舗への挑戦です。ロードサイド型店舗の多くは、車道側に駐車場が広がり、建物は平屋で奥に引っ込んでいる。せっかくのファサードも車で隠れ、一番目立つのは大きな看板。国道を自動車で走っていると、まるで駐車場のなかをずっと走っているような感覚にさえ陥ってしまう。こうした、モータリゼーションが生んでしまった風景とは違うものをつくりたかった。前面を公園のような庭にしたことで、そこでイベントが開催され、その風景がファサードになります。通りがかったらマーケットがやっていた、知人に会えたなど、偶然の出会いが生まれる場所になってほしいですね。

商業建築のデザインは、商業性やお店の個性とのバランス、街や地域とのバランスに、繊細に取り組む必要があります。どんなにいい建築を建てても、なんだかなじまない、ちょっと気になる、建築のほうが強いかも……という少しの違和感が、持続性に大きく影響してしまいますから。

空間と設備の調和を理想に

アーキデザインの商品が採用された「JINS PARK前橋」内観

南側の角から入店すると一気に視界が開け、大階段から2階へと視線が抜けていく。
フラットで美しい大天井には、入隅に仕込んだ照明の光が反射し、空間全体が光で柔らかく包みこまれる。
平屋ではなく2階建てにして大きな吹抜けを設けたのも、新しいロードサイド型店舗への挑戦の1つ。
[写真=阿野太一+楠瀬友将]

「JINS PARK前橋」では、
設備が一切ない光天井を設計することに心血を注ぎました。

商業施設では、スイッチ類のほとんどはバックヤードにありますが、代わりに煙感知器や非常用照明など、住宅にはない特有の設備が壁や天井にたくさん並ぶことになります。純粋に受光面としてフラットにつくりたかった天井が、普通に設計すると散らかってしまう。そのため、常にそれを図面やパース上、現場でも一所懸命に整えています。照明やスプリンクラーを実物大でコピーした紙を、事務所の天井に張って検証するという、アナログな方法で位置関係を確認することもありますよ(笑)。

「JINS PARK前橋」では、設備が一切ない光天井を設計することに心血を注ぎました。ペリメーターゾーンを一部メッシュ状にして他の設備も一緒に納めたり、空調の吸気口は壁のスリットに入れ込んだりして、徹底して設備が表出しないよう並々ならぬ労力をかけています(笑)。

「設備類をきれいに納めたい」のは、商業施設や電気設備だけに限りません。たとえば、住宅などでキッチンを設計するとき、冷蔵庫を選ぶのに苦労することがあります。さらに横に洗濯機などが並ぶ場合は、家電ごとに奥行きのサイズや質感が異なり、造り付けの収納とのバランスを考えて納めるのに、骨が折れてしまう。しかし最近では、ビルトインタイプの家電などは、空間によりなじんでいくことをコンセプトにデザインされつつあります。今後さらに、家電や電気設備がプロダクト単体としてではなく、他の製品と並んだときに違和感がないような設計がされていくと、空間の調和がこれまで以上に高まるのでは、と私は期待しています。

永山祐子建築設計の永山祐子さんが設計した「ソラトカゼト西新井」の図面

断面図[S=1:200]

ソラトカゼト 西新井

所在地 東京都足立区
構造・階数 S造・地上2階
施工 TC神鋼不動産建設
延床面積 1,164.2㎡

設計者から
Archi Designへのメッセージ

Designer's Insight for Archi Design

永山祐子建築設計の永山祐子さん

[写真=渡辺慎一] 

電気設備にとどまらない展開を

スイッチやコンセントをはじめ、私たちはさまざまな種類の電気設備を扱います。たとえば住宅では、エアコンや給湯器、インターホンの操作パネルが、1箇所で横並びになるシチュエーションが多々ある。しかし、どの器具もサイズや角のアール、色のトーンまでもが微妙に異なるため、いつも頭を悩ませていました。
今後「Archi Design」のような、すでにデザイン統一されたものから器具を選んで設置できるのであれば、それは本当に大きな革命だと思います。これからのシリーズ展開が楽しみですね。

「Archi Design」は、電気設備にフォーカスしたプロジェクトですが、ゆくゆくは家電にも取り組んでほしい。電気設備と同様に、どの冷蔵庫や洗濯機を選び、美しく納めるかも、私たちが苦労している部分ですから。家電も「Archi Design」と同じ考え方で、空間になじみ、ほかの家電と並んでも統一感を図ることができれば、より調和した空間が実現できる。新しい家電のあり方の提案を待ち望んでいる設計者も、たくさんいると思います。

永山祐子 永山祐子建築設計

Archi Design(アーキデザイン)。電気設備を建築視点で考えるパナソニックの思想。

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