“シェア”を可視化する豊かな色彩

“シェア”を可視化する豊かな色彩【建築を整える】Archi Design By Panasonic
2026年3月2日
#建築を整える #商う

成瀬友梨氏、猪熊純氏は
店舗設計においては、建築家としての作家性にはとらわれず
各ブランドイメージに最適な提案をすることが自分たちの役目だと話す。
個性的な店舗空間において設備を調和させるヒントを訊いた。

アーキデザインの商品が採用された「meet tree GINZA」のコスメ売り場。設計は成瀬・猪熊建築設計事務所の成瀬友梨さんと猪熊純さん

丸山木材ホールディングス(岐阜県中津川市)が手がける、スイーツとコスメのブランドの旗艦店「meet tree GINZA」のコスメ売り場にて。
ヒノキから誕生したプロダクトを岐阜県産ヒノキのヴォールト天井がやさしく包む。
※2025年1月現在、スイーツは一時販売を休止している
[写真=平林克己]

成瀬友梨

Yuri Naruse 成瀬・猪熊建築設計事務所

1979年愛知県生まれ。2002年東京大学工学部建築学科卒業。’04年東京大学大学院工学研究科修士課程修了。’05~’06年成瀬友梨建築設計事務所主宰。’07年東京大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学。’07年成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。’10~’17年東京大学助教。編著書に『シェアをデザインする』『シェア空間の設計手法』(ともに学芸出版社)

猪熊純

Jun Inokuma 成瀬・猪熊建築設計事務所

1977年神奈川県生まれ。2002年東京大学工学部建築学科卒業。’04年東京大学大学院工学研究科修士課程修了。’04~’06年千葉学建築計画事務所。’07年成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。’08~’20年首都大学東京(当時)助教、’21~’23年芝浦工業大学准教授、’24年より同大学教授。編著書に『シェアをデザインする』『シェア空間の設計手法』(ともに学芸出版社)

目次

“シェア”という設計思想で取り組む

アーキデザインの商品が採用された「meet tree GINZA」の内観

5.3mの天井高を生かし、形状の異なる2つの岐阜県産ヒノキのヴォールト天井を設置することで、空間を緩やかに仕切っている。左がスイーツ売り場、右がコスメ売り場。

個々のブランドイメージを尊重し、その魅力を伝えられること

猪熊純(以下、猪熊)
独立当初、私たちはシェアハウスやシェアオフィス、ものづくりカフェといった“シェア空間”の設計の仕事が多かったのです。当時はほとんど浸透していない業態で、そのための空間設計も分からないことばかりでした。

成瀬友梨(以下、成瀬)
シェアハウスに住んだ経験もなかったので、リノベーションも自ら手がけたという運営者に、人数当たり必要なトイレの数といった設計の初歩を教えてもらうことから始めましたね。先進的な事業を手がける施主やその運営者に張りつき、彼らの知識や経験を勉強させてもらいながら空間にしていくスタイルは、今も継続しているところがあります。

猪熊
加えて、どんな業態の設計であれ、今でも“シェアする場所をつくる”という思想の延長で考えているところもあります。勤務先でしか人とつながれる場所がなくなりつつあるような現代社会において、建築家はどのような居場所をデザインしていけるのか。それは、店舗設計においても同じこと。事業主と消費者が、新しいものや価値観を“シェア”するのが店舗という場であり、それが実現できるような建築空間を設計することが、われわれの役割だと思います。
だからこそ、あえて建築家としての個性や作風にはあまり固執していません。プロジェクトに応じてそれぞれゼロベースで設計を練り上げ、何よりも個々のブランドイメージを尊重し、その魅力を伝えられることが、最も大切なことだと、われわれは考えています。

時間や施主との関係性を『整える』

アーキデザインの商品が採用された「meet tree NAKATSUGAWA」(2025年1月現在休業中)の内観

岐阜県産ヒノキをラミナに用いた5層5プライのCLT(Cross Laminated Timber)の天井と、岐阜県産ヒノキを用いた集成材の柱・梁、無垢材の筋かいが、構造の力強さとヒノキならではのやさしさを表現している「meet tree NAKATSUGAWA」(2025年1月現在休業中)の内観。
2つの屋根の交差によって生まれる高窓の方向に視線が抜ける。内装はシックなグレーでまとめ、適度なコントラストを付けている。

アーキデザインの商品が採用された「meet tree NAKATSUGAWA」(2025年1月現在休業中)の外観

CLTならではの高い剛性を生かしたバタフライ屋根と、木造では難しい2方向への跳ね出しを実現。軒天井を見上げると唐草の内部に小口が現しになったCLTが確認できる。
[写真=ToLoLo studio]

良好なコミュニケーションを積み重ねること

猪熊
こうした仕事のスタイルなので、クライアントとはスケジュールから設計内容まで、綿密に打ち合わせをしています。よくある業態やビルディングタイプ、どんなに大きな面積のプロジェクトであっても、必ずスイッチ・コンセントの位置1つまで全部確認していますね。

成瀬
そうすることで、さらに新しい学びを得られることもあります。最近では、スイッチ類のプレートは、艶々したものが敬遠されがちです。清掃の頻度が多いホテルや店舗では、何度も拭くことで表面の艶が剥がれ、傷も目立ちやすくなる。高価でも、指紋レスのメラミンを使ってほしいと要望されることさえあります。人手不足にもかかわらず、清掃しなければならないスイッチ類は膨大なので、掃除がしやすくオペレーションを効率化できるものが好まれますね。とにかく2人とも心配性で。最後に施主から「丁寧に仕事をしてくれてありがたかった」と声をかけていただくことも多いのですが、最初から念入りに説明しすぎて「そんなに時間がかかるなら……」と言われてしまうときもあります(笑)。

猪熊
でも、責任感を共有してもらわないと、結果的に損をしてしまうのは施主ですからね。基本的なことですが、同じ土俵に立ち、丁寧にものをつくっていくには、お互いの関係性やスケジュールを『整える』、プロセスを開き、共有する必要があると思うのです。それは設計や空間自体の出来栄えには関係ないことのように思われるかもしれませんが、良好なコミュニケーションを積み重ねることは、小さな部分にはもちろん、ときに全体に関わる点でも、よい影響を及ぼすことが本当にあります。ただ真面目にやっているだけ、ともいえますが(笑)。

空間と設備を結びつける色彩

アーキデザインの商品が採用された「meet tree GINZA」の天井

「meet tree GINZA」にあるスイーツ売り場側のヴォールト天井。ダウンライトの枠を、天井のものは壁と同じ深緑色に、木材上のものはベージュに塗装。鉄骨も深緑色やヒノキの色と調和しつつ、強すぎない色として茶色で塗装。

アーキデザインの商品が採用された「meet tree NAKATSUGAWA」(2025年1月現在休業中)の商品陳列棚

「meet tree NAKATSUGAWA」の商品陳列棚はヒノキで造作。凹凸感のある塗り壁はグレーで仕上げ、空調吹出し口をグレーで調色して建築との同化を図った。
[写真=ToLoLo studio]

ほんの少し細部を『整える』ことが、空間全体をがらりと変えてしまう。

成瀬
「meet tree GINZA」は、日本有数のヒノキの産地である岐阜県中津川市の丸山木材ホールディングスが手がける、スイーツとコスメのブランドの旗艦店です。同じ事業主による店舗「meet tree NAKATSUGAWA」やホテル「お宿Onn 中津川」の設計に携わったことを機に、岐阜県産ヒノキの魅力をさらに伝え、知名度を向上させるための店舗設計を依頼していただきました。
最近では、店舗やインテリアデザインで木材を使用するのがトレンドになっています。こうしたなか、ヒノキを今までにないかたちで使用するにはどうすればいいのか、議論を重ねました。

猪熊
商業空間の設計で毎回悩ましいのは、設備の色です。われわれの設計やデザインは、色が特徴的な計画が多い。中に入ったときの高揚感を演出するにあたって、色は圧倒的に強い要素になります。そのため、毎回どんな建築でも、その空間に最適な色合いをこだわって調色しますが、やはり設備機器は色の選択肢が非常に少ない。デザインとして気になる箇所には見積り図書に“必ず指定色塗装とする”と指示を書き、現場を見ながら調整するという作業を繰り返しています。

アーキデザインの商品が採用された「meet tree GINZA」の外観

「meet tree GINZA」の外観。銀座みゆき通りに面する角地のビル1階。ガラス張りのファサードで、通りからも、深緑色の壁面とヒノキのインテリアが一際目を引いている。

成瀬
「meet tree GINZA」でも、それは同様でした。今回は、天井下にもう1枚岐阜県産ヒノキのヴォールトを架けているので、いずれの下にもスプリンクラーの設置が必要です。そのため設備設計においては、最初に設備をなるべくヒノキを使わない箇所に配置するよう計画し、どうしてもヴォールト上に必要な照明などは、位置や色を検討しながら配置決定をしています。懸案のスプリンクラーなどは、やはり黒か白しか色の選択肢がなく、悩ましいところでしたね。
一方、照明器具の枠などは、どちらかといえば特注色塗装がしやすく、壁や木材の色に溶け込ませやすいと思います。ヴォールト天井に設置するダウンライトのベージュの色味は、実際にヒノキに色見本を当てながら、最もなじみのよい色番号を選びました。
2022年にオフィス家具メーカーのイトーキで家具のデザイン監修をした際も、私たちが一番こだわったのは、色の見直しでした。既存の家具や什器には充分な機能が備わっていたし、クラシックで普遍的なデザインには、むしろ現代にも通用する強度を感じました。カラーリングを再編集するだけでも、現代的で多様な働く場に調和する家具になったと思います。色や質感、微細な部分を少し『整える』というのは、とても簡単に聞こえますが、製造現場にとってはすごく大変なことだし、大きな改革だったと、身をもって知りました。

猪熊
“たかが色、されど色”といえるでしょうか。しかし、そんな小さな手数でも、プロダクトの展開の可能性が大きく広がったことを実感しました。それは、設備にもつながる部分が大いにあり、ほんの少し細部を『整える』ことが、空間全体をがらりと変えてしまう。そんな可能性さえあるような気がしています。

成瀬・猪熊建築設計事務所の成瀬友梨さんと猪熊純さんが設計した「meet tree GINZA(内装)」の図面

断面図[S=1:150]

meet tree GINZA(内装)

所在地 東京都中央区
施工 乃村工藝社
延床面積 87.9㎡

設計者から
Archi Designへのメッセージ

Designer's Insight for Archi Design

成瀬・猪熊建築設計事務所の成瀬友梨さんと猪熊純さん

[写真=平林克己] 

ディテールを整え直す挑戦の意義

「Archi Design」の取り組みとは、1つのメーカーの製品改善にとどまるものではなく、日本の住環境やデザイン産業のベーシックなクオリティを、大きく底上げするきっかけとなり得るものだと思います。特に“モジュール発想でデザインする”というコンセプトはインパクトが強く、とても共感しました。私たちは、大きさや形がバラバラな電気設備の配置なんて「もう頑張って割りつけるしかない」と諦めていました。しかし、それを考えなくて済むようになるなんて、設計者にとってその解放感は計り知れないものだと思います。

家具の開発・監修に携わった経験から、私たち自身も、既製品のディテールを整え直すことの大変さを知っています。デザインや寸法を少しシンプルに整え直すだけでも、膨大な調整が必要になってしまいますからね。その大変さを知っているからこそ、「Archi Design」が敢えてこうした課題に挑戦してくれることをうれしく感じます。建築も設備も、些細にも思える調整こそが、空間全体をがらりと変えてしまうことにつながると、私たちも信じています。

成瀬友梨・猪熊純 成瀬・猪熊建築設計事務所

Archi Design(アーキデザイン)。電気設備を建築視点で考えるパナソニックの思想。

関連コラム

関連リンク

パナソニックの電気設備 SNSアカウント