空間の明るさ感評価指標「Feu(フー)」

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Feu(フー)人の感じる空間の明るさ感を数値化する照明における新しい指標

空間の明るさ感指標「Feu(フー)」をよりよく理解いただくため、理論から設計への応用方法を解説いたします。

空間の明るさ感評価指標「Feu」とは?

我々は空間を観察した時に、「この空間は明るい」や「この空間は暗い」と自然に空間の明るさを評価します。この人間が空間を観察した時に空間全体に対して感じる明るさの印象を表す心理量は、一般的に「空間の明るさ感」と呼ばれています1)

照明設計者にとって、「暗い」と言われるクレームは最も避けなければいけないことであります。また、「明るさを落として落ち着いた空間にする」や「明るくして開放的な印象の空間にする」など、空間の雰囲気は「空間の明るさ感」と密接な関係にあります。そのため、「空間の明るさ感」を配慮することは、照明設計をする上で、とても重要なことであると言えます。

しかし、従来からの照明設計の指標である床面照度や机上面照度などの水平面照度では、この「空間の明るさ感」を適切に表現できないことが知られています2)。 例えば、図1に示す大きさと内装が全く同じで照明方法の異なる左右の空間を比較してみて下さい。空間としてみた場合、明るい空間と感じるのは、床面を重点的に照明した左空間よりも、壁面を重点的に照明している右の空間です。
ところが、床面だけを見てみると、左のほうが明るく、当然のことながら、床面照度は左の空間のほうが高いのです。すなわち、従来からの照明設計の指標である水平面照度で判断をすれば、「左の空間のほうが右空間よりも明るい」と言う誤った評価をしてしまうのです。

図1 照明手法の異なる空間の比較(左:床面重点照明、右:壁面重点照明)

床面平均照度415 lx Feu 9.5

床面平均照度290 lx Feu 12.5

この時に、「Feu」を用いれば、左空間のFeu値9.5に対して、右空間のFeu値12.5と、見た目どおりに、左空間より右空間のほうが明るい空間であると、適切に数字で評価することができます。このように、「Feu」は、空間の明るさ感を高い精度で予測し、数値で定量的に表現することのできる指標として当社が開発した、現段階では当社独自の指標であります3)。なお、「Feu」はフランス語であり、「火」や「炎」の意味です。

色モード境界輝度測定方法と「Feu」

空間の明るさ感に関連した既往研究では、空間の明るさ感と相関の高い物理的な量の提案はしているものの、空間の明るさ感を数値で表現する定量化法の開発までには至っていないものが多かったのです。すなわち、各研究で提案されている輝度分布から算出される物理的な量を上げることにより、空間の明るさ感を高めることは明らかにされてきたのですが、その明るさ感の増加の程度を、照度や輝度などのような物理的な値で表現することはできなかったのです。

実際の照明設計での活用を考えますと、照度や輝度と同様、物理的な値での定量化が不可欠なのです。そこで注目したのが、立命館大学の篠田博之教授の研究室で開発された色モード境界輝度法による空間の明るさ感評価法4)であります。

ここで、色モード境界法による空間の明るさ感評価法の概要を述べたいと思います。図2に示す明るさ感の高い空間A(図2左)と低い空間B(図2右)の中央部の位置のそれぞれに、輝度を自由に変えられる視対象(以下、パッチと呼ぶことにします)を配置します。この時、図2に示すように、パッチの輝度を同じにしても、人間の目には、明るい空間Aではパッチが暗く見え、逆に暗い空間Bでは明るく見える現象が生じます。すなわち、パッチの見え方は空間全体の明るさの影響を受けることを図2は示しているのです。さらに、このパッチの輝度を高めていくと、物体のように見えていた(物体色モード)パッチが、発光しているような見え方(光源色モード)に変化する現象を観察することができます。これは視覚心理物理学の分野で「色の見え方のモード変化」と呼ばれています。

図2 明るさ感の異なる空間(A:左、B:右)に同じ輝度のパッチを置いた時のパッチの見え方

この現象を利用して、空間A・Bに配置されたパッチの輝度を上げながら、見え方が物体色モードから光源色モードに変化する境界の輝度(これを色モード境界輝度と呼ぶ)を測定してみます。その結果は、明るい空間Aでは色モード境界輝度は高く、暗い空間Bでは低くなるという結果になります。すなわち、空間の明るさ感と色モード境界輝度は高い相関関係にあるのです。この色モード境界輝度で「空間の明るさ感」を評価する方法が、色モード境界輝度法による空間の明るさ感評価方法です。すなわち、「空間の明るさ感」を「色モード境界輝度」という輝度の絶対値に置き換えることで、空間の明るさ感を輝度と同様に定量的に扱えるようにしたことが、色モード境界輝度法の最大の特徴なのです。

(参考文献)

  1. 1)特集 明るさ感の研究と活用事例、照明学会誌、86-2、pp.746-786(2002)
  2. 2)A.R.Bean:Impression of Brightness of Object and Interiors、Light. Res. Technol.、9-2、 pp.103-106(1977)
  3. 3)岩井 彌:空間の明るさ感評価指標「Feu」の開発と照明設計への適用、照明学会誌、93-12、pp.907-912(2009)
  4. 4)山口秀樹、篠田博之:色モード境界輝度による空間の明るさ感評価、照明学会誌、91-5、pp.266-271(2007)

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