視野の輝度分布から「Feu(フー)」を求める方法
空間の明るさ感を定量的に扱うことのできる方法として有効な色モード境界輝度法ではありますが、照明設計指標として使う上では課題があります。色モード境界輝度の決定は人間の視感評価によることから、照度設計のように、設計条件から計算で値を求められないのです。そこで、図3に示す住宅居間空間を想定した実際の空間を用いて、色モード境界輝度の測定と空間の明るさ感評価を行う実験を行い、視野の輝度分布から色モード境界輝度を推定する方法を検討しました1)。
図3 視野の輝度分布と色モード境界輝度の関係調査実験を行った空間
この実験結果に基づき、各照明条件の色モード境界輝度を精度良く予測できる計算方法を検討しましたところ、以下の1~3に示す人間の視覚特性を配慮した計算方法を採用することで、視野の輝度分布から部屋中央部に設置されたテストパッチの色モード境界輝度を高精度に予測できることが分かりました。
1. 誘導視野(視角にして左右100度×上下85度)内の輝度の平均値を取る。
畑田の研究では、空間座標軸への誘導効果に関与する視野として誘導視野を定義しています2)。そして、この範囲の視野を確保した映像は高い臨場感が得られると報告しております。すなわち、この誘導視野は空間からの影響を強く受ける視野の範囲であると言えます。
2. 幾何平均により視野内の輝度の平均値を得る。
明るさの感覚は、Fechnerの法則3)に代表されるように、輝度の対数に比例することが知られています。従いまして、視野内の輝度を平均する際にも、算術平均ではなく、幾何平均により誘導視野内の輝度を平均化したほうが人間の感覚に合った値を得ることができます。
3. 1,000(cd/m2)以上の輝度を除いて平均値を計算する。
空間内に存在する発光部の輝度とサイズが適切であれば、20%以上少ないエネルギーであっても、等しい空間の明るさ感が得られることが報告されています。しかし、その適切な輝度とサイズの範囲は非常に限定されておりまして、多くの照明器具の輝度とサイズはこの範囲外に存在しています4)。従いまして、照明器具発光部の輝度の多くは、空間の明るさ感に影響を与えない存在であることから、屋内照明環境下で明らかに発光部と知覚される1,000(cd/m2)以上の輝度は、視野内幾何平均輝度値の計算からは除くことにしました。
以上の1~3の条件を組み込んだ計算結果から得られたLgと、前述の実験で得られた色モード境界輝度Lcとの関係を図4のグラフに示します。色モード境界輝度LcとLgの関係は高い相関関係にあり、LcはLgの0.7乗に比例することを図4は示しています。
そして、この図に示す結果から、次の式(1)により計算される色モード境界輝度ならびに空間の明るさ感評価値と相関の高いLgの0.7乗値に対して1.5倍した値を「Feu」と制定しました5)。この係数1.5の導入により、住宅居間空間に対する設計目安のFeu値は10と分かりやすい数字で表現することを可能にしています。
Feu=1.5・Lg0.7・・・・・・(1)
図4 輝度分布からの算出値Lgと色モード境界輝度Lcとの関係
(参考文献)
- 1)井口雅行,岩井 彌、藤野雅史、山口秀樹、篠田博之:色モード境界輝度による空間の明るさ感評価の応用事例-住宅居室における間接照明を主体とした一室複数灯配置の明るさ感評価-、照明学会全国大会講演論文集、p.161(2005)
- 2)畑田豊彦:VDTと視覚特性、人間工学、22-2、pp.45-52(1986)
- 3)B. T. Fechner : Elemente der Psychophysik、Verlag Breitkopf und Hartel (1889)
- 4)Y. Akashi、Y. Tanabe、I. Akashi and K. Mukai: Effect of sparkling luminous elements on the overall brightness impression : A pilot study,Lighting Res. Technol.、32-1、pp.19-26(2000)
- 5)岩井 彌、井口雅行:空間の明るさ感指標「Feu」による快適な空間創りのための新しい照明評価手法、松下テクニカルジャーナル、53-2、pp.64-66(2008)


