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光源の光色と演色性

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光源の光色と演色性について

“光源の色”である「光色」と“光源によって照らされた物の色の見え方”「演色性」は光源から出てくる光が持つ波長ごとの成分の割合によって変化します。光色は空間の印象に影響を与えますし、演色性は物の色の見えに影響を与えるため、快適な照明環境を実現するためには、照度レベルや明るさの分布だけでなく、光色や演色性を十分に考慮する必要があります。

光色

1.色温度

点灯中の光源の光の色には、青みがかったものや黄みがかったものがあります。これを光源の光色といいます。光源の光色は色温度で客観的にあらわすことができます。光源の光色は白色光と有色光とに大別できますが、色温度という概念を適用できるのは白色光に対してだけであり、有色光については色温度を定めることはできません。

白色光とは、光源のみかけの光色が白いとか、黄色味を帯びているとかいう光源自体の色のことではなく、人間が見ることができるすべての光(可視光)をほぼひととおり含んでいるような光源の光色のことをいいます。このような光色をもつ光源を白色光源といい、一般照明用の光源のほとんどが白色光源であります。例えば、昼光色蛍光ランプはいくぶん青みを帯びた光色を持ち、白熱電球はいくぶん黄色みを帯びた光色を有していますが、可視光をひととおり含んでおり、ともに白色光源です。

白色光に対して、特定の色だけを発する光源の光色を有色光源といい、このような光色を持つ光源を有色光源といいます。黄色の光だけを発する低圧ナトリウムランプやカラード蛍光ランプなどは有色光源です。

白色光源の特徴は、一見、いくぶん青みを帯びているとか、黄色味を帯びているとか、それぞれの光色を持っている光源であっても、その光源で照明された室内にある程度以上の時間滞在していると、これらの光がいずれもほぼ白色光に見えてきます。このような現象は、人間の眼の機能のなかで、光源の光色を白色に見せるように補正する働きによって生ずるもので、これを「色順応」といいます。

白色光源の光色を、われわれが主観的に感ずる白さの度合で表わそうとすると、色順応という現象があるためにかえって非常に不正確なものとなるので、物理的かつ客観的な尺度が必要となります。このために用いられる客観的な尺度が「色温度」です。
光源の「色温度」は、次のように定められます。物理学的に定義される“真っ黒な物体”(黒体といいます)を外部から熱して温度を高めていくと、この物体の色が、黒色から暗赤色、暗赤色から赤色、さらに、赤色から淡いピンク色、黄色、オレンジ色、白色、青白色へとしだいに変化していきます。この黒体の光色と、ある光源の見かけの光色とが等しくなったとき、黒体の絶対温度(K:ケルビン)で示したのがその光源の色温度です。したがって、ある光源の色温度が低いということは、赤色を帯びたほうへ寄った光色であることを意味し、逆に色温度が高いということは、その光源の光色が青味を帯びたほうへ寄っていることを意味します。

一般に、約3,000K以下の光源はやや赤みがかった光色を、約7,000K以上の光源はやや青みがかった光色を有しています。

2.色温度と相関色温度

色温度と相関色温度とは、両者は基本的に同じ概念を持ちますが、厳密には両者の意味するところは異なります。色温度は、光源の色度が基準となる黒体(完全放射体)の色度と等しい場合に適用されます。これに対して相関色温度は、光源の色度が黒体軌跡上にない場合に適用されるものです。一般照明用光源ではその色度が黒体軌跡から外れていることが多いことから、これらの光源の光色の尺度として、厳密には色温度ではなく相関色温度で表現されます。表1は、代表的な光源の相関色温度と、後述する演色評価数を示したものです。

色温度に関して注意すべき点は、同じ色温度(厳密には、相関色温度)を持つ光源でも、光色が異なって見えることがあります。例えば、光源の色度が黒体軌跡から上にある場合と下にある場合では、ともに相関色温度は同じですが、両者の光色は異なります。
光源の色度が黒体軌跡から上側にある光源の光色は、一般にやや緑味を帯びて見え、逆に、光源の色度が黒体軌跡から下側にある場合はその光色はやや赤味がかって見えます。光源の色度が黒体軌跡から離れるほど緑味あるいは赤味が強い光色となります。

表1:商品別演色評価数一覧(代表例)

表1のスクリーンショット

3.光色による心理的効果

(1)光色と温涼感

光色と温涼感(温かい-涼しいといった感覚)の関係については、個人差や地域・季節の違いによって異なるため必ずしも一定していませんが、JIS(日本工業規格)では相関色温度と温涼感について次のように整理しています1)。つまり、相関色温度が5,300K以上の光源のもとでは涼しい感じが得られ、逆に3,300K以下の光源のもとでは暖かい感じが得られ、5,300K~3,300Kの範囲の光源のもとではそれらの中間の感じが得られるとしています。

(2)光色・照度レベルと雰囲気

光源の色温度は、この光源を用いて照明された室内の人間に、以下のような心理的効果をもたらすことがクルイトフ(Kruithof)により1941年に発表されました2)

  1. a.

    色温度の低い光源を用いて照明された室内は、落ち着いた、暖かい雰囲気になり、色温度の低い光源は、比較的低い照度の照明に適します。

  2. b.

    色温度の高い光源を用いて照明された室内は、低い照度では、やや寒々とした陰気な雰囲気になり、色温度の高い光源は、比較的高い照度の照明に適し、これを用いた照明は、数千ルクスの高い照度でも快適な雰囲気が得られます。

但しクルイトフ(Kruithof)の実験で用いた光源としては、色温度の低い領域では電球、色温度の高い領域では演色性の低い蛍光ランプが使用されており、色温度だけでなく演色性、光の拡散性(モデリング)も同時に変化しているなどの実験方法の問題点が指摘されています3)
また、色順応の影響が考慮されているのか否か述べられていないという問題点もあります。さらに、他の研究では特定の照度と色温度の範囲では、上記の結果は成立しないことが報告されています4)5)。同じ光色の部屋に長い時間滞在している場合、その部屋にいる人の眼は色順応のために、光源の光色は色温度に関わりなく白く見えるようになり、おのずから前述のような光色の心理的効果は弱くなります。従って、いつも前述のような効果が現れるとは限りません。しかし以下のような場合、光色の心理的効果は強く表われることがあります。

  1. I.ある光源で照明された室内に長く滞在していて、色温度の異なる光源で照明された他の室へ入った直後の短い時間の間
  2. Ⅱ.室内に入らないで室外から見ている人、たとえば商店街を歩いている人が外から異なる色温度の店内を比較して見る場合

上記I. の場合について色温度の心理的効果を紹介するため、住宅のリビング照明の雰囲気の快適性が照度・色温度の組合せによって、どのように変わるかについて行われた心理評価実験の概略を次に記述します6)。この実験では、判断基準の前提となる生活行為を、くつろぎとだんらんに決めて、観察者指示を与えて意識を統一した上で、心理評価データを取得しました。
住宅内の人間の行動には色んなパターンがあります。リビングに長時間滞在することもあり、短時間しか滞在しないこともあります。リビングからダイニングへ、あるいは廊下からリビングへと移動することも多いでしょう。今回は、色温度の異なる部屋に入った直後の印象を明らかにするために実験用リビングルームの照度・色温度を変化させて、継時的に比較する方法によって評価しました。まず基準側の照明シーンを1分間呈示し、続いてテストの照明シーンに切り替えて、基準側に対するテスト側の「好き-嫌い」を7段階のカテゴリーで評価しました。

この実験結果をクルイトフ(Kruithof)の結果と比較して、図1図2に示します。ここでは丸のサイズが大きい程好ましいことを示します。白ヌキのエリアはクルイトフ(Kruithof)の快適領域、ハッチングは同じく不快領域を示します。図1のだんらんの場合の評価においては、照度が100 lxの場合、丸のサイズは小さく、400 lxでは丸のサイズは大きい。クルイトフ(Kruithof)の快適領域の中では、おおむね「どちらでもない」以上の好ましさとなっています。下側の不快領域の中では「どちらでもない」以下です。従って、この評価結果とクルイトフ(Kruithof)の結果は似ています。

図2のくつろぎの場合は、クルイトフ(Kruithof)の不快領域に存在する照度と色温度の組み合せはそれほど好まれていません。これは両者の結果が類似であることを示します。クルイトフ(Kruithof)の快適領域に存在する照度と色温度の組み合わせの中では、800 lxの照明状態がそれほど好まれていません。これはクルイトフ(Kruithof)の結果と異なる点です。

図1:色温度・照度の好ましさへの影響(だんらん)6)

好ましさの評価

図2:色温度・照度の好ましさへの影響(くつろぎ)6)

生活行為がだんらんの場合、クルイトフ(Kruithof)の結果と比較的よく似ていますが、くつろぎの場合は異なる結果となりました。これは生活行為に応じた所要雰囲気の違いが大きな理由の一つではないかと考えられます。即ち、だんらんでは格式ばらない、にぎやかな雰囲気が好まれるのに対して、くつろぎでは落ちついた、静かな雰囲気が好まれる傾向があると言われています。従って、くつろぎの場合は高照度はやや嫌われる結果になったと推察されます。好ましい照度・色温度は、その照明環境の使用者の行為によって異なることは、日常的にも経験することです。
前述の実験でも明らかなように、また他の研究で報告されているように3)4)5)、クルイトフ(Kruithof)の快適領域に位置する照度と色温度の組合せが、必ずしも不快領域に位置する照度と色温度の組合せよりも快適にならない場合があり得ます。従ってクルイトフ(Kruithof)のカーブに基づいて快適な照明環境を設計するための照度と色温度を求めても、照明以外の環境条件や生活行為によっては余り快適でない雰囲気になってしまうケースも考えられます。特に、快・不快限界線付近での照度・色温度の数値は厳密には成立しないケースも予想されます。
しかし、クルイトフ(Kruithof)のカーブは色温度が低いと低照度が快適であり、色温度が高いと高照度が快適であることを説明するのに便利です。このように日常生活で体験する照度と色温度の雰囲気効果を定性的に説明するのに便利であるので、現在でも用いられることがあります。また、クルイトフ(Kruithof)のカーブは、建築設計者を中心に浸透しており、照明計画の段階で議論の対象になることがあります。クルイトフ(Kruithof)のカーブは、屋外あるいは屋内のどんな構成条件の照明環境で、さらにどんな生活行為の場合に適用できるかについては今後の詳細な検討が望まれます。

(3)光色と明るさ感

光源の光色の違いによって、心理的な明るさ感が影響されるかどうかについては、光源の光色に十分順応した場合、光源の光色(色温度・相関色温度)の違いによって明るさ感はほとんど変わらないことが明らかにされています7)8)。光源の光色の違いによって明るさ感が異なると言われる場合、(a)比較する光源の光色が異なるだけでなく、演色性も異なっていないかどうか調べておく必要があります。もし演色性が異なる場合は明るさ感は当然異なってきます。(b)比較する二つの光源を同時比較して観察していないかどうかを調べておく必要があります。二つの光源の光色を同時に比較すれば、それぞれの光源の光色のいずれにも色順応できず、かえって対比効果が生ずるため、場合によっては両光源の明るさ感は異なることがあります。

4.光色と色の見え方

光色は光源から放射される光を直接見て評価されるのに対して、物体の色の見え方は光源から放射された光が物体を照らし、その物体からの反射光を見て評価されます。このように、光色は光源の光の特性だけに関係しますが、物体の色の見え方は、光源の光の特性と対象となる物体の反射特性の両方に関係するため、光色と色の見え方とは明確に区別する必要があります。したがって、光源の光色から物体の色の見え方の特性を判断することはできません。例えば、光源の光色が赤みがかっていても、この光源のもとで赤い物体を赤く見せるとはかぎらないということです。このことは、光源の選択を行なう場合に注意する必要があります。

演色性

1.演色性

一般に、物体の色は、その物の固有の一定の色と考えがちですが、異なった組成(分光分布)の光で照明すると違った色に見えます。このように、物体の色の見え方に及ぼす光源の性質を演色性といいます。したがって、演色性の良い光源とは、一般に色の見え方の良い特性を持つ光源のことをいいます。演色性は、照明光源の特性の中で極めて重要な特性の一つです。
光源の演色性を定量的に評価することは、演色性の良否を客観的に判断し、所要の光源を選択する場合に重要です。このような演色性を定量的に評価する方法は、大きく二つに分けられます。一つは「色の見えの忠実性の評価方法」であり、他の一つは「色の見えの好ましさの評価方法」であります。色の見えの忠実性の評価方法とは、対象とする光源が基準となる光源(基準光源)にくらべ、どの程度忠実に色を再現しているかを定量的に評価する方法です。これに対して、色の見えの好ましさの評価方法とは、対象とする光源が基準光源と比較すると色ズレをおこしているが、その色ズレが好ましい方向へのズレか好ましくない方向へのズレかを定量的に評価する方法です。
いずれの評価方法も光源の演色性を評価する上で重要ですが、現在までのところCIE(国際照明委員会)やわが国のJISでは、色の見えの忠実性の評価方法しか定められていません。色の見えの好ましさの評価方法については、これまでにいくつかの方法が提案されているものの、標準化された方法は定められていません。このため、次節ではJISの色の見えの忠実性の評価方法について紹介します。

2.JISの演色性評価方法

光源の演色性を定量的に評価しようとする試みは、これまで数多く行なわれてきたが、今日、最も広く活用されているのがCIEが定めた演色性評価方法です。CIEは1965年にCIE第1版の演色性評価法を定めました9)。わが国では、CIE第1版の評価方法にもとづいて、1967年にJIS Z 8726「光源の演色性評価方法」が制定されました。その後、CIEでは、1974年に第1版の評価方法を一部改訂し、第2版の評価方法を出版し10)、1995年に、第2版の誤字などを修正した第3版を出版しています11)
わが国では、演色性評価方法に関して国際的整合性を保つ必要性から、CIE第1版の評価方法から第2版の評価方法にJIS改訂が進められ、1990年3月に第2版の評価方法を取り入れたJISの光源の演色性評価方法が制定されました12)
現在、各種光源の演色性は、改訂されたJISに基づいて評価されています。
JISの演色性評価方法は前述したように色の見えの忠実性を評価する方法です。色の見えの忠実性の評価には15種類の試験色を使用して、次のような方法によって評価します。つまり、ある光源の演色性を評価するために15種類の試験色を、その光源で照明したときの色の見え方と、その光源の色温度と等しい色温度の基準光源で照明したときの色の見え方を比較し、その色ズレの大きさ(色差:ΔE)で表わそうとする方法です。
15種類の試験色のうち、中程度の鮮やかさ(マンセルクロマ4~8)で、明るさ(明度)が等しい(マンセルバリュー6)8種類の色相(赤系統から紫系統の色合い)を持つ個々の色票の色ズレ(ΔEi;i=1~8)の平均(ΔE)を表わすものが平均演色評価数Raであり、次式で表わされます。

Ra=100-4.6ΔE……………(1)
他の7試験色は、特殊演色評価数Ri(i=9~15)を求める場合に用いる色票であり、No.9~No.12は非常に鮮やかな赤、黄、緑、青の代表的な色票、No.13は西洋人の肌色色票、No.14は木の葉の緑に近い色票、No.15は日本人女性の平均的な顔色です。特殊演色評価数Riは、試験色個々の色ズレ(ΔEi;i=9~15)の程度を表わすもので、次式で求められます。
Ri=100-4.6ΔEi……………(2)

図3:平均演色評価数の8種類の試験色の色票

図4:特殊演色評価数の7種類の試験色の色票

図3に、平均演色評価数を計算する場合に用いる8種類の試験色の色票を、図4に、特殊演色評価数を計算する場合に用いる7種類の試験色の色票を示します。また、JISの演色性評価方法に基づいて計算した代表的な光源の演色評価数を表1に記載してあります。
平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数Riは、(1)式及び(2)式からわかるように、対象とする光源での色の見え方が基準光源での色の見え方と同じ場合に100という数値になります。両者の色の見えが異なれば異なる程、色差ΔEが大きくなり、光源によっては、演色評価数が負の値となります。しかし、演色評価数の値が負になる光源は、色が全く見えないかといえばそうではありません。例えば、白色蛍光ランプの特殊演色評価数R9 (鮮やかな赤色の試験色:No.9)の値は、マイナス100程度の値になりますが、赤い色彩はややくすんで見える程度で赤色には見えます。
このような演色性評価方法を用いる場合に、この評価方法がどのような原理でできてきたものかをよく知らないと、計算した結果が数値で表わされるだけに重大な誤解を生じることになります。

3.演色評価数の意味と問題点

  1. a.演色評価数は、対象とする光源の基準光源に対する色の見えの忠実度を数量的に表わしたものであります。したがって、色比較・色検査などの色の見えの忠実性の評価が要求される用途に対してのみ正当な評価が得られる可能性があります。
  2. b.演色評価数は、物体の色の見えの好ましさの程度を表わす指数ではありません。Raの値は、対象とする光源の基準光源に対する色ズレの大小を数量的に表わしたものであるため、その色ズレが好ましい方向の色ズレであっても、好ましくない方向の色ズレであってもRaの値は小さくなります。したがって、Raの数値の大小で色彩を好ましく見せるかどうかを判断することはできません。
    例えば、人間の顔色は少し本来の色彩よりもややピンク系にずれている方が好まれますが、黄色もしくは緑色にずれた場合には非常に不快に見えます。
    演色評価数は色ズレが好ましいか不快かについて全く関係なく計算されているので、演色評価数が同じ値であってもその実用価値は全く異なります。
  3. c.平均演色評価数Raや特殊演色評価数Riの数値で示される光源の演色性は、この光源の色温度と「同じ色温度」の基準光源との色の見え方の差を数量的に表わしたものであります。このため、例えば色温度の異なる二つの光源の演色評価数の大小を比較して、両者の光源の演色性の良否を厳密に比較・評価しても意味がないと言えます。例えば、色温度が2,800Kの白熱電球と色温度が6,500Kの自然昼光のRaは、ともに100であるが両者の色の見え方は異なります。
  4. d.同じ色温度の光源であっても、平均演色評価数Raが低い、例えば60以下のような光源については、Raの大小でその光源の演色性の良否を厳密に比較することはできません。Raは8種類の試験色それぞれに対する色ズレを平均したものです。したがって、例えばRaが50の二つの光源間で、一つの光源は8試験色の色ズレがすべて50点として、他の一つの光源が対象とする試験色によって100点から0点に分布したとすると、当然のことながら両者の光源の実際の色の見え方は異なります。
    しかし、Raが80以上の特性を有する光源間では、8試験色の演色評価数がいずれも高い値を持つ必要があるため、両者の色温度・色度がほぼ等しい場合、いずれも高い演色性を有していると考えられます。
  5. e.色差ΔE=1.0という値は、一般の観察者が二つの物体の色の差をやっと識別できる程度の差です。したがって上述した演色評価数の計算式[(2)式]からわかるように、演色評価数の実用的に意味のある差は約5程度と言えます。
    これより細かい演色評価数の差で、光源の演色性の良否を論じても実用的には意味がないといえます。以上のような点を考えると、演色評価数を用いるにはいくつかの制約があると考えられます。このため、JISの演色性評価方法は光源の色の見え方を知るためのある限られた範囲での尺度とはいえるが、その数字の大小のみで演色性の良否を論じることを慎む必要があります。

4.演色性と使用用途

光源の使用分野、用途に応じてどのような演色性の光源が適切かについて、JIS(日本工業規格)では一定の基準を設けています。
これによると、Raが80未満の光源は、仕事したり、長い間滞在する室内では使用しないことが望ましいとしています。また、高天井照明や屋外照明は例外となる場合があるが(6m以上の高さに設置して使用する産業用ダウンライト)、絶えず使用されている作業場や安全色彩が識別できなければいけない場所では、より演色性の高い光源を使用し、適切な数値を確保しなければなりません。

演色性と明るさ感

光源の演色性の違いは、色の見え方に影響を及ぼすばかりでなく、その照明によって私たちが感じる心理的な明るさ(明るさ感)に変化を与えます。一般に、演色性の良い光源は演色性の劣る光源にくらべ、明るさ感が高いといえます。例えば、白色蛍光灯で照明された部屋から演色性の良いパルック蛍光灯で照明された部屋に移動した場合、室内照度が同じにもかかわらずパルック蛍光灯で照明された部屋のほうが明るく感じられます。
このような、光源の演色性によって明るさ感が変化する現象に関して、海外では「visualclarity」という明るさ感と同様な概念を用いた実験が行なわれ、明るさ感と同様な効果が報告されています。
光源の演色性と明るさ感の定量的な関係を明らかにするため、白熱電球、蛍光ランプ、高圧ナトリウムランプ(基準光源よりも色彩を鮮やかに見せるランプを含む)を用いて明るさ感の実験を行ないました13)14)15)
光源の演色性による明るさ感を観察によって評価する場合、どのような視対象を観察するべきかという視対象の選定が重要です。
人間がある部屋で感じる「明るさの感じ」には大きく二つあります。一つは「強い光で照明されているな」という明るさの感じであり、他の一つは「明るい内装で仕上げられているな」という明るさの感じです。照明による明るさの感じは、前者に対する印象であり、後者は主として内装の反射率に対応する明るさの印象です。照明による明るさの感じを判断しているのは、日常よく観察して一定の判断基準が働く物体の明るさに基づいており、その代表的な物体は「人の顔」です。
このため、人の顔を視対象として、演色性の異なる光源の照明下で、明るさ感の効果を実験・検討しました。図5に実験結果を示します。図5の実線は、蛍光ランプに対する結果であり、破線が高圧ナトリウムランプに対する結果を表わし、横軸が平均演色評価数Raを、縦軸はRaが100である白熱電球を基準として、同じ明るさ感となる各光源の照度の比(これを等明るさ感照度比という。等明るさ感照度比=白熱電球の照度/各光源の照度)を表わしたものです。
図5からわかるように、蛍光ランプに関しては平均演色評価数Raと明るさ感とは良好に対応し、Raの高い光源ほど明るさ感の効果が大きくなります。しかし、高圧ナトリウムランプについては、平均演色評価数Raと等明るさ感照度比とは一義的には対応しません。特に、Raが最大86をピークに低くなるにもかかわらず(色彩がさらに、鮮やかに見える)、等明るさ感照度比はさらに高くなることがわかります。したがって、すべての光源に対して、演色性の改善によって生じる明るさ感増加を定量的に評価する指数として、平均演色評価数Raは不適切であるといえます。これは、Raが光源の色再現の忠実性の程度を評価する指数であるからです。

高圧ナトリウムランプを用いた明るさ感に関する実験から、Raが86をピークにさらにRaが低くなる光源のもとでは、視対象である人の顔色がさらに鮮やかに見えるため、色彩の鮮やかさと明るさ感の効果とが関係あります。図6は、各光源のもとでの人の顔色の鮮やかさを表わすメトリッククロマと等明るさ感照度比との関係を示したものであります。この図から明らかなように、蛍光ランプ、高圧ナトリウムランプを問わず、顔色のメトリッククロマ(色表示の座標系の一つであります、u、v座標で表わしたクロマの値)と等明るさ感照度比とは非常に高い相関があり、各種光源の等明るさ感照度比は顔色のメトリッククロマで予測・評価できるといえます。

図5:光源の演色性と明るさ感の関係

高圧ナトリウムランプと蛍光ランプのグラフ

図6:各光源の照明下での顔色のメトリッククロマと等明るさ 感照度比の関係

上述しましたように、光源の演色性の変化によって照明環境の明るさ感やvisualclarityが変化し、実験で得られた等明るさ感照度比はメトリッククロマで求められることが明らかになりましたが、この明るさ感やvisualclarityの原因については明らかではありません。海外でのvisualclarityの研究には、数多くの有彩色サンプルが視対象として用いられています。
このため、明るさ感やvisualclarityの原因について、照明環境下に存在する色彩個々の色知覚の実験的検討や明るさ感及びvisualclarityに関連する研究の分析・評価を行なった結果、光源の演色性による照明環境下での明るさ感及びvisualclarityの変化は、照明環境下での色彩から受ける目立ち感(色彩が目立った-目立たないといった感覚)と密接に関連していることが明らかになりました16)。このような、光源の演色性による目立ち感の効果は高彩度の赤、黄、緑、青で構成された一つの配色サンプル(4色配色サンプル)が最も適しており、目立ち感の効果は4色配色サンプルの色再現領域の大きさで評価できます。
また、4色配色サンプルを用いて光源の演色性による目立ち感に関する実験を行ない、従来の明るさ感の実験結果とは良好に対応することが確認されました17)。したがって、照明光源下での有彩色照明環境から受ける明るさ感は、その有彩色の色彩が鮮やかに目立つことによって明るく感じることになります。
以上より、演色性の良い、色彩を鮮やかに美しく見せる光源ほど明るさ感の効果が高いため、同じ設計照度に対して、明るさ感の効果の高い光源を使用することにより快適な照明環境が得られます。

(参考文献)

  1. 1)JIS Z9125:2007:屋内作業場の照明基準
  2. 2)A.A.Kruithof Tubular luminescence lamps for general illuminaiton, Philips Tech. Rev.6(1941)65
  3. 3)金谷末子、吉瀬英雄:ランプの色温度・演色性が室内の所要照度に及ぼす影響,National Technical Report, 23-4, PP.58(4~1957974 August)
  4. 4)Bodmann, H.W.:Quality of interior lighting based on luminance, Transactions of the IES. London, 3-1, PP.22-40(1967)
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  10. 10)Publication CIE No.13.2:Method of measuring and specifying colour rendering properties of light sources-2nd edition(1974)
  11. 11)Publication CIE No.13.3:Method of measuring and specifying colour rendering of light sources(1995)
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  13. 13)S.Kanaya, K.Hashimoto,and E.Kichize:Subjectivee balance between general colour rendering index,colour temperature,and illuminance of interior lighting, CIE Pub. No.50 P-79-46(1980)274
  14. 14)金谷、橋本:ランプの演色性と明るさ感, 昭和58照明学会全国大会予稿集(1983)111
  15. 15)金谷、橋本:光源の演色性と明るさ感増加効果についての考察, 昭和59年照明学会全国大会予稿集(1984)126
  16. 16)橋本、納谷:演色性の異なる照明下での配色の目立ち感情の評価と予測,照明学会誌74(1990)96-101
  17. 17)橋本、納谷:4色配色の目立ち感情に基づく明るさ感の評価と予測, 照明学会誌74(1990)674-680

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