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プサリ(PSALI、昼間人工照明)

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プサリとは

プサリ(PSALI)1)2)3)とはPermanent Supplementary ArtificialLighting of Interiorsの略で、日本では昼間人工照明と呼ばれています。これは1959年に英国のホプキンソン(Hopkinson、R. G.)とロングモア(Longmore、J.)1)2)が論文を発表し、1963年にウイーンで行われた国際照明委員会(C.I.E.)でも討議され、その重要性は世界的に認められました。

プサリのコンセプト

プサリとは昼間の屋内照明において、窓から入ってくる昼光と室内の人工照明を快適かつ合理的に協調させて、よい照明環境を形成することを意味します。

従来「照明とは暗いところを照らすためのもの」であって、照明といえば夜を意味していました。ところが、光源や照明器具および照明技術の発達などにより、今や、「照明とは夜だけのものではない」、あるいは、「昼間こそ照明が重要である」という時代になっています。すなわち、窓があっても昼光のほとんど入らないような部屋や地下室などでは、昼間でも照明をつけなければならないのはもちろん、一般のオフィスや工場など、窓から相当昼光が入ってくる部屋でも、仕事をするときは昼間も照明をつけるのが普通になっています。

そうであるのに、このような施設の照明を設計するときは、従来は窓から昼光の入ってこない状態を仮定して、すなわち夜間を対象として照度計算を行い、照明器具の台数や配置を決めていました。この場合、一般に「昼間は夜間用の人工照明に昼光がプラスされるので、より明るくなるから良くなるはずだ」と考えられやすいのですが、しかし実際には明るい窓外の景色を見て起こる目の順応により、室内は夜の場合より暗く見えてしまいます。夜間は快適な照明状態になるよう設計された部屋でも、昼間は均衡を欠いて照明の質、量ともに不適当になっている場合が多いといえます。一方、普通のビルやオフィスなどでは、人工照明の使用時間は夜間より昼間の方がはるかに長くかつ重要です。したがって、照明設計の対象は、夜間よりもむしろ昼間を主体として設計すべきです。この意味において、自然昼光の採光と共存し融合協調した新しい人工照明設計技術が必要といえます。

図1:昼間のオフィス照明

(a)人工照明を点灯した場合

(b)人工照明を消灯して、昼光のみの場合

昼間の人工照明の考え方としては2つ挙げられます。

  • A.

    推奨照度を満たすため、採光設計による昼光のみでは得られない不足を補う。

  • B.

    照度が低いためだけでなく、窓外の明るい空や景色を見ることによって起こる目の順応のため、室内が主観的に暗く感じられることを解決する。すなわち人工照明により室内の輝度を高め、空からのグレアを防ぐことといえます。

A.については、昼間の人工照明の必要量はその部屋に対する推奨照度、たとえばJIS照明基準総則などによって定まる値に対して、採光設計によって得られる昼光を差し引いたものとなります。しかし、最近では採用される人工照明の照度も高くなり、しかもたいてい昼間も点灯されていますから、このA.の条件についてはそれほど考慮を払う必要はなくなってきました。しかし、プサリで重要なのはB.の問題であり、目の順応を考慮すれば“窓外が明るいときほど、室内の人工照明を明るくしなければならない”ということです。

このようなことは、図1(a)、(b)に示すオフィス照明の比較写真でよく理解されることと思われます。(a)は人工照明を点灯した場合、(b)は人工照明を消灯した場合を示します。人工照明を消灯した場合は、室内の視対象の表面がうす暗く見え、シルエットになって不快になります。最近では人工照明を全く用いないといった極端なことは行われず、通常は人工照明を点灯していますが、人工照明の用い方が不十分であったり不完全であったりすれば、やはり(b)のような状態に近くなることは免れません。この図1から昼間の人工照明の重要さがよく分かります。

ところで、窓から空が見えたり昼光が差し込むことにより障害が起こっているならば、最初から窓のないビルを作ったり、窓をルーバなどで完全にふさぐことが考えられます。しかし、デパートやその他特殊な建物は別として、普通のビルなどではその中で仕事をする人の感情を考えれば、窓のない、あるいは窓があってもブラインドなどで外の景色の見えない部屋で一日中仕事をすることは、何か隔離されたような閉鎖感を生じ、労務管理的な立場からも決して好ましいものではありません。したがって一般のオフィスビルでは、できるだけ窓外の景色の見える状態で気持ちよく仕事ができるようにする必要があるといえます。

昼間照明の問題点

1.オフィス照明の側窓採光による問題点

オフィスビルでは仕事を行うのはほとんど昼間ですから、昼間の照明状態を検討することが大切です。
側窓採光と人工照明とを比べた大きな相違と問題点は、

  • a.

    窓を境にして屋外と室内の照度の差が大きい。
    比較的高照度の設備でも人工照明の照度は1,000 lx程度ですが、一方屋外の照度は100,000 lxにも達しますから、両者の比は100:1程度になります。したがって屋外に対して照度の低い屋内の照明を、屋外に対して適切に調和させなければなりません。

  • b.

    窓が明るい場合、通常の人工照明の蛍光ランプとほぼ同程度かそれ以上の輝度となり、しかもこの面積が比較的大きい。

  • c.

    天井に設置された人工照明の光の方向は上より下の方向であるのに対し、側窓から入る昼光の光の方向は横方向。などが考えられます。

2.オフィス照明の具備条件

昼間の側窓採光の部屋における、昼光と人工光の協調の重要性については、最初ホプキンソン(Hopkinson、R.G.)によって指適されました1)2)3)。ここでは、昼光と人工光の協調の要件を更に詳細に明らかにするため、オフィス照明の種々の要因と照明対象に関して、側窓採光によって起こる問題を抽出します。

「良い照明の要件」を参照して、視作業対象や環境を構成している主要な物体や面ごとに必要な照明の条件を表1に示します7)。また、オフィスの第一の目的である視作業対象について、昼光が存在することによって特に問題となる事項を表2に示します。

表1:照明の諸要因4)5) -照明対象と光源に想定される問題点4)6)

照明計画の対象 要件

視対象

作業面(書類など) 照度
照度分布、影
光の方向性 影、材質感の表現
反射グレア
光源の光源色と演色性
VDT 表示文字の輝度
表示面の照度
反射像
対談中の人の顔 照度
光の方向性 モデリング
光源の光源色と演色性

環境

光源 照明器具 グレア
付随した各要件
周壁 天井
壁(窓)
輝度分布と照度配分
反射率
室内の立体 光の方向性
光源の光源色と演色性

表2:側窓採光の部屋の視作業対象の照明における主要な問題点4)

視作業対象 事項
机上の書類など 照度・照度分布
影・反射グレア
VDT 映り込み反射像
対談中の人の顔 シルエット現象(窓向)
モデリング(窓に平行)

机上面の視作業対象の問題

1.照度と照度分布および影

(1)所要条件

作業面照度について考えますと、一般に側窓採光によって得られる昼光だけであれば、窓際と部屋の奥の照度の相違が大きいため分布が悪く、また奥のほうでは所要照度の確保が困難となります。しかし、現在のオフィスビルでは昼間に人工照明を行っていますので、部屋の奥での所要の照度は確保されています。逆に窓際では必要な照度は昼光で得られますので、省エネルギーの見地から人工照明を消灯したいという要請がしばしばあります。これを「照度バランス形プサリ設計」と呼ぶことにします。

窓際照明の消灯、もしくは連続調光による減光については、照度の絶対値の確保さえ行われていればよいわけではなく、次の点に留意する必要があります。

すなわち、前述したように窓からの昼光は横方向の光ですから、座った作業者の作業面に手や身体の影を生じがちです。手暗がりや身体の影を緩和する条件は以下のように考えます。

  • a.

    一般に、昼光と人工照明の照度の合計がその部屋の設計照度となるように計画して、人工照明を消灯もしくは減光しても設計照度が得られるように定めることがほとんどです。しかし、この方法であれば作業者が座ることによって、作業面照度は設計照度より確実に低くなります。しかも低下の度合は、窓を背にして座った人の場合、天井照明より側窓採光の昼光のほうが大きいと考えられます。

  • b.

    したがって、減光方法を次のようにします。窓に近いある点で、「人工照明と昼光との合計」でなく、「昼光だけ」でその部屋の設計照度が得られるならば、その点より窓側の人工照明を消灯もしくは減光することにします。なぜかといいますと、窓側の人工照明を消灯もしくは減光しても、他の人工照明により、この点で設計値の約1/2以上は得られていると考えられますので、昼光に関しては、手暗がりや身体の影による照度低下は1/2まで許容されることになります。

2.反射グレア

反射グレアに関しては、机上のほぼ水平な視作業対象については側窓採光はほぼ水平方向の光を与えますので、窓を背にした場合と側方にした在室者は有利となります。在室者が窓を向いて座る場合は次の注意が必要です。

一般に水平な視作業は、図2に示すように大部分が鉛直角0~40°の範囲で見られており、この範囲に反射するはずの天井の範囲には照明器具を配置しないことが望ましいとされています(IES Code19777))。したがって、この不快な範囲に窓が入らないことが望ましく、この条件を求めますと図3に示すとおりになります。

図2:光源の反射が平たい作業対象のコントラストを
低下させる不快な範囲7)

オフィスの作業の約85%は鉛直角0~40°の範囲で見られています。この範囲の照明器具は反射グレアを生じ得る

窓から約0.9H以上奥へ入れば、窓による反射グレアは生じないことになりますので、窓向きに座る場合は窓に0.9H以下に近寄らないことが必要です。天井高さが通常の2.5m程度であれば、この距離は約1.5mとなります。

図3:窓による反射グレア4)

作業面が窓から0.9H離れていて、作業面の高さは0.8m、視界と作業面の角度が40°、作業面と天井の角度が40°の絵

人の顔の照明条件

1.視線の方向

一般に室内で在室者は窓に平行に座ることもあれば、窓のほうを向いて座ることもあります。室内において対談している人の視線の方向を、模式的に平面図で図4に示します。

図4:対談の際、相手の顔を見る視線の方向4)

方向Aは窓の方を向いて座っている人の視線、方向Bは窓に平行に座っている場合を示します。

2.窓を背景にした人の顔

(1)シルエット現象の防止

図4で方向Aの場合、すなわち窓を背景にした人の顔を見る場合の所要条件を検討します。窓を背景にした人の顔の見え方を図5に示します。昼間は窓面の輝度が高いため、目の順応輝度が高くなり、人工照明が不十分な場合はこの図のように人の顔がシルエットで暗く見えがちです。

さらに、在室者がお互いに向き合って対談している部屋の断面を図6に示します。この図の黒く塗りつぶした人物がシルエットになります。窓近くの人物だけでなく、室内の比較的奥にいる人物であってもそれよりさらに奥の人物から見れば窓が背景となってシルエットになることが分かります。

人の顔のシルエット現象の防止のためには、顔に十分な照度を与えることが必要です。これを「輝度バランス形プサリ設計」と呼ぶことにします。

図5:窓を背景にした人の顔の見え方

図6:室内で対談している人物(部屋の断面図)4)

(2)人の顔に必要な輝度と照度4)8)

高輝度の背景の前にある人の顔に必要な輝度を求める実験の結果を図7に示します。

図7:背景の輝度と必要顔面輝度の関係4)8)

背景の輝度(cd/㎡)と顔面輝度(cd/㎡)の関係を表したグラフ

充足率は、下記のカテゴリーであると判断する人の累積確率を示します。

カテゴリーは、

  • a.

    「必要輝度の下限-これ以下の輝度では不満足でる。」

  • b.

    「ややよい-この輝度ならば満足ではないが妥協できる。」

としました。
また、全体のうちの何%の人が主観的に満足するかの割合を示す「充足率」は、90%と50%の場合を示します。
なお、実験の諸元は次のとおりです。

  • イ.

    モデル:マネキン人形(見込み角6°)

  • ロ.

    背景:1.2x1.2mの人工窓(見込み角27°)

  • ハ.

    観察距離:2m

  • ニ.

    背景輝度:500~16,000(実測17,000)cd/㎡

  • ホ.

    観察者:7名(繰り返し3回)

この結果より、シルエット現象の防止に必要な顔面照度を求めると表3となります。

表3:シルエット現象の防止に必要な顔面照度4)

段階 R = 顔面照度/背景照度[lx/(cd/㎡)]
Ⅰ ややよい 0.25~0.3
Ⅱ 必要下限 0.12~0.15

顔面の反射率を約30%として、背景輝度に対して必要な顔面の
照度の比率R(lx/(cd/㎡))を段階的に示します。

3.モデリングの改善4)9)

側窓採光の部屋の窓際では、特に多くの昼光が得られます。

図4のBの方向、すなわち在室者が窓と平行に座っている場合は、図8のように顔面上の窓側は明るくなり、反対側は影になって暗くなります。昼光だけで照明した場合、もしくは人工照明の量が不足した場合、この明暗はどぎつくなり好ましくありません。
照明によって、立体対象を好ましく見せることを一般に「モデリング」といいます。人の顔に好ましいモデリングを得るためには、極度の明暗を生じさせないことが望ましく、窓からの昼光と反対側から人の顔に当たる光のバランスをとることが大切です。人の顔において窓向き鉛直面の照度と奥向き鉛直面の照度の比をrとすれば、望ましいrは表4の値の範囲となります。

図8:窓際に座っている人の顔のモデリング4)9)

机の高さが0.8m、目の高さが1.2mで、窓から昼光が入っている絵

窓側は明るく、窓の反対側は影を生じて暗くなります。

表4:人の顔に好ましいモデリングを得るための鉛直面照度の比(r)

段階 モデリング r
Ⅰ 好ましい 好ましい 2~6
Ⅱ 下限 ややどぎつい 10

値はMoon and SpencerのModeling Ratio10)を参考にして定めています。

4.人の顔に必要な鉛直面照度の条件の総合

(1)必要な条件

視作業対象としての人の顔に必要な照度について、シルエット現象、およびモデリングの見地から必要な条件をまとめて、次に模式的に示します。

ある側窓採光の部屋があり、この部屋に座った人の顔の高さ(床上1.2mとする)の昼光の照度を、それぞれ窓向き鉛直面の照度EDV1、奥向き鉛直面の照度EDV2とします。部屋の奥行きに対して鉛直面照度を対数にとってプロットした図を図9に示します。図中での各条件は次のとおりです。

(1)-1 シルエット現象の防止

必要な奥向き鉛直面の照度をESとしますと、

ES=τRLS ……………………………(1)

ただし、

τ : ガラスの透過率
LS : 天空輝度(cd/㎡)

ESを図中に破線で示します。この値は、目の順応輝度によって影響されますので、相手の人の顔までの距離と見込む窓の大きさによって変わってきますが、詳しい研究は今後に譲り、ここでは一定値と仮定します。

昼光の奥向き鉛直面の照度EDV2が窓際で十分高ければ、ESより高くなる場合もあります。EDV2とESが交わる点をPとします。Pより奥では、必要な人工照明の奥向き鉛直面の照度ESAは、

ESA=ES-EDV2 ………………………(2)

となり、これを図中に示します。

図9:人の顔に必要な鉛直面照度の条件の総合4)

シルエット現象の防止とモデリングの改善に必要な人工照明の
鉛直面照度を併記しています。

EDV1:昼光の窓向き鉛直面の照度、EDV2:昼光の奥向き鉛直面の照度、ES:シルエット現象の防止、EM:モデリングの改善。シルエット現象の防止に必要な人口照明の奥向鉛直面の照度:ESA=ES-EDV2、モデリングの改善に必要な人工照明の奥向き鉛直面の照度:EMA1=EM-EDV2・EMA2=EM-ES

(1)-2 モデリングの改善

必要な奥向き鉛直面の照度をEMとすると、

EM=(1/r)EDV1 ……………………………(3)

で与えられます。これを図中に破線で示します。照度は対数にとっていますので、図中でEMは昼光の窓向き鉛直面の照度EDV1と平行になります。EMは図中に示されるように、窓から奥へ入るにしたがって小さくなっていき、シルエット現象の防止に必要な照度ESと等しくなる点をQとすると、ここから奥ではESの値が確保されていますので、これによって、モデリングの改善に必要な照度EMも同時に満たされることになります。

点Qより窓側において、モデリングの改善に必要な人工照明の奥向き鉛直面の照度EMAは次のようになります。
もし、シルエット現象の防止に必要なESより昼光の奥向き鉛直面の照度が高くなる範囲OPがあれば、この範囲では、ただし、点Pが点Qの右側にあっても(4)式は成立します。残りのPQの範囲では、

EMA1=EM-EDV2 ……………………(4)

で与えられます。

EMA2=EM-ES ……………………(5)

(2)人工照明による鉛直面照度

シルエット現象の防止、あるいはモデリングの改善に必要な人工照明の条件について次に検討します。すでに述べたところにより、人工照明によってなるべく多くの鉛直面照度が得られることが望ましく、特別な局部照明を用いる方法は別として、通常の配置による全般照明について検討します。人工照明による鉛直面照度について、ランプの管軸に直角な鉛直面(照度計のセンサ受光面がランプの管軸と直角とする)の照度と、ランプの管軸に平行な鉛直面(照度計の前面がランプの管軸と平行とする)の照度とどちらが大きいかを比較して、照明器具の配列は窓と平行とするか直角とするかを検討します。

事例として、側窓採光の部屋を図10に示します。
1 この部屋のほぼ中央部での床上1.2mの鉛直面照度を計算によって求めました。それぞれ、管軸に直角な鉛直面の照度を管軸に平行な線X1X1′、X2X2′、X3X3′上に沿って、管軸に平行な鉛直面の照度を管軸に直角な線Y1Y1′、Y2Y2′、上に沿って求めました。この結果を図11に示します。この例は、ある器具のある配置の一例にすぎませんが、蛍光灯器具をライン照明に近い状態で用いる場合は、管軸に直角な鉛直面の照度の変化のほうがなだらかであり、管軸に平行な鉛直面の照度のほうが、仮にその平均値が高かったとしても、極小値が存在するため特定の場所で照度が低くなり、鉛直面照度を下限においても所期の値を確保する目的のためには不利です。

したがって一般には、昼光との協調の見地から照明器具は窓に直角に配置することが望ましいといえます。

図10:鉛直面照度を求めた部屋の断面図4)

諸元は床面積12x12m、天井高さ2.5m、天井:壁:床キャビティの反射率はそれぞれ50:30:10(%)、保守率は0.7とします。遮光角15度の照明器具を器具間隔3mで配置するものとします。

図11:鉛直面照度の分布(床上1.2m)4)

X1X1'線上、X2X2'線上、X3X3'線上、Y1Y1'Y2Y2'線上それぞれの鉛直面照度(直接分)[lx]と鉛直面照度(間接分を含む)と奥行きを表したグラフ

上図は管軸に直角な断面に平行な鉛直面、下図は管軸に平行な断面に平行な鉛直面を示します。管軸に直角な鉛直面の照度はなだらかに変化するのに対して、管軸に平行な鉛直面の照度は一つの器具間隔の間で大小の変化が非常に大きく、ある照明器具の直下のごく少し前で極小値となります。

(3)窓際の消灯と人の顔の鉛直面照度の確保

人の顔のシルエット現象の防止とモデリングの改善のためには、ある値以上の鉛直面照度を得ることが必要です。一方、「机上面の視作業対象の問題」の1の(1)「所要条件」に述べたように、省エネルギーの観点から窓際の照明器具の消灯も行われますが、作業環境を損わないためには、消灯する範囲を窓に近い範囲に限定しなければなりません。

側窓採光の部屋の断面図を図12に示します。

図12:窓際の消灯範囲の決定4)

消灯範囲を1列消灯から2列消灯に拡大する場合、F1(窓際から1〜1.5m)、F2(窓際から3m)

照明器具は前記4、(2)に述べたところにより、窓に直角に配置するものとします。人の顔の鉛直面照度(ある点Fにおける部屋の奥向き鉛直面の照度)は、F点より奥の器具が寄与し、窓側の器具は寄与しません。消灯範囲を広げることは人の顔の鉛直面照度を低下させることになります。

図中に示されるように通常の蛍光灯器具であれば、窓から1列目を消灯しても、人の顔における鉛直面照度はそれほど低下しないと考えられます。ただし、人の顔の鉛直面照度を得るために、その点に最も近い照明器具は点灯しておく必要があると考えられますから、2列目も消灯することは、窓際の人物はそれだけ部屋の奥F2へ入らなければならないことになり、部屋の有効利用の点からみて好ましくありません。したがって、一般に窓際の器具の消灯は、なるべく窓近くの器具だけに限ることが望ましい方法です。この理由を要約すれば、

  • a.

    窓から奥の場所では得られる昼光が少ないので、器具の消灯率は低くなるため

  • b.

    人の顔の見え方の点で鉛直面照度を低下させないため

といえます。

プサリ(PSALI)設計用天空輝度

プサリ設計に採用する外景輝度は、見晴らしのよい窓、たとえば高層ビルなどの窓においては、外景の大部分を占めるのは、天空ですから、天空輝度を採用します。ただし、窓の外に大きな建物などがある場合は、当然建物壁面の輝度を、計算もしくは実測によって求め、これを採用すべきです。

なお、照度バランス形プサリと輝度バランス形プサリでは、天空輝度に対する要求条件が少し異なります。

1.照度バランス形プサリの場合

天空輝度が高くて室内に十分な昼光が得られれば、人工照明を部分的に消灯もしくは減光するわけですから、天空輝度は、「少なくともいくらになるか」もしくは、「いくらの比率の時間は、ある値以上になり得るか」を知ることが必要です。

かつて、人工照明の経費が比較的高価と考えられていた時代の採光設計は、昼間には天候が悪くなって屋外が暗くなっても、人工照明を用いないで、昼光だけで作業面照度を得ることを目的としていました。したがって採光設計用の天空輝度は、年間を通じての昼間の作業時間における、通常天候での実用上の最低天空輝度が設計の根拠となっていました。特に北西ヨーロッパでは直射日光の少ない曇天空が多いため、このような状態でも作業照度が得られるための設計ということが念頭に置かれ、採光設計の基準天空輝度としては、曇天空輝度(1,700cd/㎡)などが採用されてきました12)

2.輝度バランス形プサリの場合

上記の照度バランス形プサリの場合とまったく逆に、「天空輝度が高いときほど、室内が暗く感じられるので、多くの人工照明が必要である」から、天空輝度は「最大いくらになり得るか」もしくは、「少なくともどのくらいの比率の時間は、ある値を超えてしまうか」を知ることが必要です。

すなわち、輝度バランス形プサリの考え方は、「窓外の景色の輝度が高いときほど、室内が相対的に暗く感じられるので、多くの人工照明が必要である」ということであります。したがって、設計用の天空輝度については、「最大いくらになるか」ということを知ることが重要です。

実際の設計においては、天空輝度の最大値になるまで適応できる設備を設けることは、経済的制約を受けますので、まれにしか出現しない高輝度の場合を除いた大部分の天空輝度に対して適応できる設備とすることが望まれます。

3.天空輝度の超過率

上記「照度バランス形プサリの場合」「輝度バランス形プサリの場合」のいずれの場合も、天空輝度がある値を超える時間の比率を知ればよいことになります。これを天空輝度の「超過率」ということにします。超過率とは、天空輝度が所定の時間内で、ある値LSを超える時間の合計の比率を意味します。

天空輝度(LS)の超過率=[所定の時間内でLSを超える時間の合計]/[所定の時間]

ここで所定の時間として通常の労働時間9~17時をとるものとします。
参考のため、天空輝度分布の一例を図13に示します11)

また、天空輝度の一日における変化測定例を図14に示します。これは、東西南北各方向の高度10°方向を開口5°の遮光式輝度計で測定したものです。

これによれば天空輝度は、太陽位置、すなわち季節や時刻と天候状態により大きく影響を受けることが分かります。

図13:天空輝度分布測定例11)

(日時 昭和43年7月18日 14時8分〜14時26分)
(天候 晴れ)

図14:天空輝度の一日における変化(1968年10月1日)

東西南北それぞれの天空輝度(kcd/㎡)と時刻を表したグラフ

このような測定を連続約1年行った結果をまとめた、超過率曲線を図15に示します11)

図15:天空輝度の超過率11)

東西南北それぞれの超過率[%]と天空輝度(kcd/㎡)を表したグラフ

また種々の超過率に対応した天空輝度を読み取ったものを表5に示します11)

表5:種々の超過率に対する天空輝度[1.000cd/㎡]11)

超過率〔%〕 北東 南東 南西 西 北西
1 9.8 12.0 18.0 22.0 26.0 25.8 25.5 12.5
10 7.4 8.8 10.2 13.0 15.8 13.6 11.3 9.4
25 6.0 6.9 6.5 8.9 10.9 9.1 7.3 6.7
50 4.4 4.3 4.2 5.7 7.2 5.9 4.6 4.5

設計においては、適切な超過率を選ぶことが望まれます。通常の場合、設計用天空輝度は10,000cd/㎡とするのが妥当と考えられます。この値は、それぞれ超過率が北空1%、東空約10%、西空約15%、南空約30%となり、ほとんどの時間は10,000cd/㎡を超えないと考えてよいことになります。

(参考文献)

  1. 1)Hopkinson, R.G. and Longmore, J.:The permanent supplementary artificial lighting of interiors, Trans Illum. Engng Soc., 24,(1959)121
  2. 2)Hopkinson, R.G. et al.:Integrated daylight and artificial lighting in interiors, Proc, CIE, P-63,12,(1963)
  3. 3)IES Technical Report No.4:Lighting during daylight hours, IES(London),(1962)
  4. 4)田渕義彦:側窓採光の事務所照明における昼光と人工光の協調の要件,照明学会誌66(昭57)483
  5. 5)田渕義彦:昼光照明と人工照明の協調の要件,昭和56年電気関係学会関西支部連大,S8-6
  6. 6)照明学会編:照明ハンドブック10.1,照明設計の基礎,設計要件と目的,オーム社(昭53)355
  7. 7)ES Code for Interior Lighting, IES London,(1977)
  8. 8)松田宗太郎・田渕義彦:明るい窓を背景にした顔の見え方の実験,昭和43年照明学会全国大会,69
  9. 9)田渕義彦・松田宗太郎:側窓採光における鉛直面照度とその問題点,昭和43年電気四学会連大,787
  10. 10)Moon, P.and Spencer, D.E,:Modeling with light, Jour. of Franklin Institute, 251(1951)453
  11. 11)田渕義彦:天空輝度の連続測定記録,照学誌55(昭46)35
  12. 12)IES Technical Report No. 4:Daytime lighting in buildings, IES(London),(1972)

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