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建物の投光照明

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建物に対する投光照明の考え⽅

建物の投光照明は、都市の夜間景観の形成において、その建物の存在をアピールするとともに、昼間には⾒られない⽴体感や美的効果を演出するものです。
投光照明を⾏うことによって、都市の夜間景観にメリハリを与えることができ、アイストップとして都市に⽅向性を与える役割を果たします。
例えば、旅⾏者として初めて、その都市を夜間に訪れた場合など、⼟地勘のない都市のランドマークや施設がライトアップされていた場合、遠距離からの視認が可能になり、⽅向や⾃分の位置の把握の⽬安となる、など、安⼼感や利便性に対する積極的なメリットも⽣じます。
また⼀⽅で、周囲への漏れ光などにも同時に配慮する必要があります。動植物などへの光による環境影響の観点と、夜間の活動に伴う照明視環境の安全・安心との観点をバランスさせることが必要です。環境省の光害対策ガイドライン1)の他、市町村や自治体などにおいて障害光に対するガイドラインや規制が設けられている場合があります。投光照明を計画される地域の事情や環境に合わせた照明計画が重要です。
建物の投光照明の計画を⽴てる際には、以下の事項についてよく検討する必要があります。

1.視点位置の設定

対象となる建物が、どの⽅向から眺められる確率が⾼いか、また、どの程度の距離の地点から眺められることを想定するのかを検討する必要があります。それによって、照明⼿法・明るさ・照明する部分などが決定されます。

2.明るさの設定

適切な対象物の⾒え⽅を確保するための投光照明の明るさ(輝度)は、背景輝度、対象物の⼤きさ、視点からの距離によって決定されます。背景輝度が⾼いほど、対象物が⼩さいほど、視点が遠いほど、輝度を⾼くする必要があります。CIE 150:屋外照明設備による障害光規制ガイドで設定されている建築物壁⾯の平均輝度の最⼤許容値を表1に⽰します。

表1:建築物壁⾯の平均輝度の最⼤許容値

環境区域2) 環境2) 光環境2) 建築物壁面の平均輝度の最大許容値 [cd/m2]3) 2)
減灯時間前 減灯時間以降
E1 自然 本来暗い < 0.1 0 国立公園、保護された場所
E2 地方 低い明るさ 5 産業的又は居住的な地方領域
E3 郊外 中間の明るさ 10 産業的又は居住的な郊外領域
E4 都市 高い明るさ 25 都市中心と商業領域

輝度を設定すると、対象物表⾯の反射率から照度に換算することができます。これは表⾯が均等拡散⾯であると仮定した上、以下の式で求めます。

数式:E=L×π/ρ

ただし、Lは平均輝度(cd/m2)、Eは照度(lx)、ρは反射率です。

  • CIE150:屋外照明設備による障害光規制ガイドは2017年に改訂され、新たに「E0(ユネスコのスターライト保護区、DarkSkyのダークスカイ・パーク、主要な光学天文台が対象)」が設けられ、厳しい指針値が示されています。
    一方で、現在の日本では本記載事項を満たすことは難しいため、環境省の光害対策ガイドラインやJIS Z9126屋外照明基準(2021)ではE0を設けていません。こうした背景から、本章ではCIE150(2003)2) または(2017)3)を項目に応じて参照し分けています。

3.照明器具の取付け位置を決定する

建物の照明には建物を均⼀に照明する⽅法と、適当な陰影により、建物にアクセントをつける⽅法とがありますが、ここでは前者について述べます。
照明器具はなるべく⽬⽴たないように、また建物を⾒る⼈や、通⾏する⼈に強いまぶしさを与えないように取り付ける必要があります。
照明器具の取り付けには次のような⽅式が考えられます。

(a)隣接の建物から投光する⽅式
建物と投光器との距離が15〜30mの場合は中⾓形や広⾓形の配光の投光器を使⽤します。3090mの場合は、狭⾓形や中⾓形の投光器を使⽤します。

(b)地⾯に設置して投光する⽅式
場所的に周辺に余裕がある場所に⽤いられます。建物の壁⾯などの場合は中⾓形や広⾓形がよく⽤いられますが、⾼さの⾼い建物では狭⾓形が⽤いられます。

(c)建物に直接取り付ける⽅式
最もよく⽤いられる⽅式です。⼀般的に1階建て程度の⾼さの建物であれば広⾓形、2階〜3階建ての建物であれば中⾓形、4階建て以上の建物であれば狭⾓形を⽤います。

(d)歩道端などのポールから照明する⽅式
商店・劇場・駅ビルなどでよく⽤いられる⽅式で、⼀般的には建物と投光器との距離を3〜10mとして、広⾓形の投光器が⽤いられます。

図1:照明器具の取付け位置

(a)隣接の建物から投光する方式、(b)地面に設置して投光する方式、(c)建物に直接取り付ける方式、(d)歩道端などのポールから照明する方式

図2:建物の⾼さと取付け距離

なお、建物の高さH と照明器具の取付け距離D の比が10:1 以上になると、照明の効率が非常に悪くなりますので、10:1 以内が望ましい値です。 また、投光器の配光によるH:Dの比の基準値は、
狭角形 4:1 以上
中角形 4:1 程度
広角形 2:1 程度となります。

4.光源の選定

建物を最も効果的に演出する光源を選定することは重要です。光源の選定は、建物の壁⾯の材質と⾊彩や、周辺で使⽤されている光源の光⾊も考慮して⾏います。
⼀般的に、煉⽡や⽊でできた建物は、暖かみを感じさせる相関⾊温度が⽐較的低い光源を使⽤し、コンクリートやパネル建材などでできた建物は、清涼感を感じさせる相関⾊温度の⽐較的⾼い光源を使⽤します。
装飾的な⾊彩表現が重要な壁⾯への投光照明では演⾊性の⾼い光源の選定が望ましいと⾔えます。

壁⾯が⽩⾊の場合には、建物に求められる雰囲気によって適当な光源を選定します。また、⽬的に応じてカラー照明を⾏うこともできます。
周辺の⾊彩と、建物の雰囲気とのバランスも⼤切です。光源の選定の際には、周辺の照明の光源⾊と同系統として調和させるのか、異なる光源⾊でアクセントをつけるのかを決定します。
LEDでは⾊鮮やかなRGB(⾚・緑・⻘)の光の混光調節でアクセント的な照明カラー演出を多様に⾏うことができます。カラー演出において、例えば、各種イベントや季節・時間などに対応して、光⾊と意味を結びつけて演出するなどの活⽤も可能です。図3に⻘発光LED、緑発光LED、⾚発光LEDの参考⾊度を⽰します。RGBの3⾊の発光のLEDを混光し多様な⾊演出を⾏う場合は、図3の各々のLEDの⾊度で囲まれる広い範囲の光⾊が実現できます。

他⽅で、周辺の⼈々への不快や体調変化を与えるような短時間での急激な⾊や輝度の変化は⾏うべきではありません。また、⾚光のみ、緑光のみ、⻘光のみなどの、単⾊光のみの照明を恒常的使⽤するに際しては被照物に施された⾊彩の判断がつき難い状況が⽣じます。単⾊性の強い⾊光での照明を、⽬的のアクセント照明部以外のエリアに広げすぎないような配慮が必要です。例えば、CIE S 015(2005)4)においては、照明された安全⾊彩に対する演⾊性を背景にRaの値が20以上と⽰されており、安全設備などの安全⾊の(⾃発光ではない)⾊分けの視認性が必要になる場合は、最⼩限の演⾊性確保などへの配慮も⼤切です。
周辺の⾊彩と、建物の雰囲気とのバランスも⼤切です。光源の選定の際は、周辺の照明の光源⾊と同系統として調和させるのか、異なる光源⾊でアクセントをつけるのかを決定します。

図3:⻘発光LED、緑発光LED、⾚発光LEDの参考⾊度

5.投光器の品種と台数・W数等を決める

建物の高さ・幅・取付け位置によって、投光器の台数を決定します。その時、建物の高さ・幅・取付け位置等の条件が⾊々と変わり、投光器の品種や取り付け台数、⼜は照度分布の予想がなかなか決定しにくい場合があります。その際には、次の⽅法で概略把握できます。

  1. (a)表2より条件を決めてください。そして表中の照明率を⽤いて照度計算を⾏います。
数式:E=F×N×U×M/A
  1. E:平均照度(lx)
  2. A
    :被照⾯の⾯積(m2
  1. F:光源の光束(lx)
  2. N:台数
  3. U
    :照明率(表2より)
  4. M:保守率

表2:建物の投光照明の照明率

照度計算範囲
(建物⾼さ-2m)
取付
間隔
投光器 器具出幅
1m 2m 4m 6m 8m 10m
10m 1m 狭⾓形 0.42⑥ 0.45③ 0.45③
中⾓形 0.44④ 0.43③ 0.42③
広⾓形 0.41④ 0.38③ 0.35③
2m 狭⾓形 0.42⑥ 0.44③ 0.45③
中⾓形 0.43③ 0.42③ 0.41③
広⾓形 0.40④ 0.38③ 0.35③
4m 狭⾓形 0.43① 0.42① 0.41①
中⾓形 0.42③ 0.41③ 0.40③
広⾓形 0.40③ 0.37③ 0.35③
20m 1m 狭⾓形 0.42⑥ 0.44⑤ 0.45③
中⾓形 0.43⑥ 0.42④ 0.41④
広⾓形 0.41⑤ 0.38④ 0.36④
2m 狭⾓形 0.42⑥ 0.44⑤ 0.44③
中⾓形 0.42④ 0.41③ 0.40③
広⾓形 0.40⑤ 0.38④ 0.35④
4m 狭⾓形 0.47⑤ 0.45① 0.43①
中⾓形 0.41④ 0.40④ 0.39③
広⾓形 0.40⑥ 0.38④ 0.36④

※HID放電灯投光器の場合の照明率の参考値

※照明率は、建物の幅が20mとした場合の値です。建物の幅が異なる場合は、多少変わりますので概算値としてご利⽤ください。

  1. (b)
    図4に示す照度分布図(表中の丸の中の番号)を目安として参照ください。希望通りの分布とならない場合は、照明器具の配光種別、取付位置等の検討を行ってください。

図4:照度分布図

①、②、③、④、⑤、⑥、⑦の⑦種類の照度分布図。①は壁画上部に照度ムラが生じているような場合。④は壁画中央部が明るくなる場合。⑦は壁画下方向が明るくなる場合。

6.建物の投光照明の設計⼿順

  1. (1)
    条件を設定(図5)。
  2. (a)照度計算範囲(建物⾼さ-2m)を設定。
  3. (b)投光器を建物からいくら離して取り付けるか(器具出幅D)を設定。
  4. (c)平均照度の設定。
  5. (2)
    表2の照度計算範囲と建物からの距離より次のことがわかります。

0.300照明率(照度計算範囲の照明率)、図4の②番目の照度分布のようになります。平均照度の計算、E=F×N×U×M/Aより計算。

図5:建物の投光照明の設計条件

(参考文献)

  1. 1)環境省:光害対策ガイドライン 改定版(2021)
  2. 2)CIE 150:Guide on the Limitation of the Effects of Obtrusive Light from Outdoor Lighting Installations(2003)
  3. 3)CIE 150:Guide on the Limitation of the Effects of Obtrusive Light from Outdoor Lighting Installations, 2nd Edition(2017)
  4. 4)CIE S 015:Lighting of Outdoor Work Places(2005)

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