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病院の照明

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病院照明の考え⽅

⼈間の健康を⽀える医療現場において、治療⾏為を効率よくサポートする機能性はもちろん、⼈に本来そなわる治癒⼒をサポートする環境づくりが求められます。医療施設における省エネ照明器具のあり⽅を追求し、治療と治癒の融合した光環境を実現することが重要です。
それは、⾼度な医療技術による治療を⾏うだけでなく、患者の快適性を⾼めることによって、⼈のもつ治癒⼒を呼び起こそうというものです。環境そのものに“癒し”の効果が期待されているといえます。
病院の照明は、もはや患者の⽣活や医療⾏為を照らすだけのものではありません。患者の体と⼼をすこやかにし、社会に復帰する⼒を培うための“癒し”の場を提供することが重要となります。また、病院にはさまざまな機能をもつ空間が集まっていますが、その⽤途によって、病室など患者の⽣活を中⼼に考える「病棟部⾨」、外来待合室など病院外から⼈の出⼊りが多い「外来部⾨」、⼿術室など医療スタッフ側の作業的要素の強い「診療・検査部⾨」に⼤別することができます。空間の⽤途が異なると、照度や器具取り付け位置など照明に求められる条件も異なるため、照明設計ではそれらの違いについて考慮することが必要です。1)

サーカディアンライティングシステム

1.体内時計と光

⼈間には体内時計(⽣体リズム)があり、睡眠-覚醒・ホルモン分泌・体温変化等の時間的なコントロールを⾏い、⽣活サイクルの基盤となっています。⽣体リズムは様々な刺激で変化しますが、物理的な刺激では、光の影響が最⼤であることが分かっています。2)

2.サーカディアンライティングシステムとは

単調な⼊院⽣活で弱りがちな⽣体リズム(サーカディアンリズム)を、光による昼夜変化を体感することで維持を図り、⼊院患者の朝の⽬覚め・⽇中の覚醒・就寝前の落ち着きという⽣活サイクルの安定化をサポートするシステムです。
サーカディアンライティングシステムにおける⼀⽇の照度・⾊温度スケジュール例を図1に⽰します。

図1:サーカディアンライティングシステムにおける⼀⽇の照度・⾊温度スケジュール例

照度

照度はJIS照明基準総則(JIS Z9110-2010)および屋内作業場の照明基準(JIS Z9125-2007)によりますが、各国での推奨照度は表1の通りです。

表1:各国・病院各部⾨推奨照度 単位[lx]
国名 ドイツ イギリス アメリカ ⽇本
(JIS Z9110-2010)
(JIS Z9125-2007)

照度[lx]

病室 全般 100 100 100 100
枕元 読書200 全般30〜50
読書150
200〜500 読書300
検査300
準夜 ⼩児20 3〜5 20〜50
深夜 0.1〜10 5
⼿術 全般 1,000 400〜500 1,000〜2,000 1,000
術野 20,000〜100,000 10,000〜50,000 27,000 10,000〜100,000
検査 全般 500〜1,000 300 200〜500 500
局部 1,000以上 1,000 500〜1,000 1,000
ICU 全般 ベッドエリア100〜30 30〜50 100〜200 100
局部 検査1,000 400 500〜1,000 1,000
診察処置 全般 500 300 200〜500 500〜1,000
局部 >1,000 500 500〜1,000
廊下
(病棟)
200 300 100〜200 200
50 150〜200 50〜100 50
深夜 3〜5 5

病室の照明

1.病室照明の基本コンセプト

病室環境としては、患者にストレスをできるだけ与えることなく、特別な場所に来ていると感じさせない⽇常の家庭⽣活に、できるだけ近い環境、いわゆる癒しの環境づくりが基本となります。そこで、病室の照明は、⼊院患者の⽣活の場としての照明であるとともに、診療および看護のための照明を満⾜する必要があります。

(1)全般照明

弊社で⾏った、患者が病室に対して感じる快適性の⼼理評価実験では、第⼀に寄与するのが“落ち着き感”“安らぎ感”という結果がでています。(図2

図2:快適性の評価要因と寄与率3)

そこで次に、どんな照明⼿法にもっとも落ち着き感・安らぎ感を感じるかについて実験をしたところ、間接照明によるソフトでコントラストが少ない照明環境に、多くの⽀持が集まりました。(図3

このように、落ち着き感・安らぎ感を重視した快適照明には、ソフトな間接光による光環境が効果的です。

図3:照明⼿法と落ち着き・安らぎ感の関係

(1)-1 壁⾯取付け照明⼿法

多床室の場合、⼿元の照明をつけたいとき、隣や向かい側のベッドからの光がまぶしく感じることがあります。図4のような壁⾯取付け照明⼿法により、周りへの光を抑えて必要な明るさを確保することができます。図4は病室⽤ブラケット照明器具の⼀例です。器具正⾯の光を抑えてまぶしさを軽減しながら、器具の上⽅へ照射する間接光による全般照明で空間をやわらかく照明し、器具の下⽅への光で読書など⼿元のあかりとして視作業を快適に⾏うことに配慮した機能を備えた器具です。

図4:壁⾯取付け照明の考え⽅

グレアのない落ち着き感、安らぎ感のある光環境であるとともに、多床室でのプライベート空間を演出することも重要と考えています。そのため、壁⾯取付けの器具で患者ごとに照明の⼊切ができ、ベッド頭側を中⼼とする⽣活空間の照度確保と壁⾯・天井⾯への限定された光の広がりによってパーソナル感を表す⼯夫をします。また患者の快適性向上のために⽬的に合わせた光や⼀⽇の変化を与える光などを組み込んだ多機能の病室⽤ブラケット照明器具があります。以下に例を⽰します。
図5に⽰すのは、間接光に直接光を付加して⽬的に合わせて点灯切替が可能なブラケット照明による⼿法です。(壁⾯取付け照明⼿法1)

図5:壁⾯取付け照明⼿法1のイメージ

図6に⽰すように、点灯パターンの切替えによって、通常のベース照明、読書時の照明、⾷事や処置の時などに明るくしたい場合の照明など、シーンに合わせた照明で患者やスタッフに利便性を提供できます。

図6:⽬的に合わせた点灯パターン

写真はイメージです。

壁⾯取付け照明⼿法1のイメージ

アッパー光が天井を照らし、やわらかい光空間をつくります。

読書灯点灯時

左右からの拡散光で頭の影を和らげた読書環境をつくります。

全点灯時

読書・⾷事時などに明るい光環境をつくります。

図7に⽰すのは、⼀⽇の⽣活に合わせて、点灯シーンを変えることができる⼿法です。(壁⾯取付け照明⼿法2)

図7:壁⾯取付け照明⼿法2のイメージ

図8に⽰すように、昼間の快活で爽やかな光や⼣⽅から夜間の落ち着きの光など⼀⽇の時刻と⽣活に合わせた調光・調⾊シーンで患者に快適な空間を提案できます。

図8:⼀⽇の⽣活に合わせた点灯パターン

写真はイメージです。

シーン①
下部点灯<昼⽩⾊>

起床から消灯までの基本となる照明シーン

シーン②
上部点灯<電球⾊>

消灯前のリラクゼーションを考慮した照明シーン

シーン③
上下部点灯(①+②)

⼣⽅から消灯前までの明るさが必要な場合の照明シーン

図9に⽰すように、全般照明と読書⽤の照明と常夜灯という病室照明に必要な機能を1つの器具にコンパクトにまとめたブラケット照明でプライベート空間を構成するというシンプルな考え⽅もあります。空間をすっきりさせることができるとともに利便性の⾼い機能的な器具と⾔えます。(壁⾯取付け照明⼿法3)

図9:壁⾯取付け照明⼿法3のイメージ

この時、ベッドで横になっている患者だけでなく、ベッド上で体を起こしている患者に対しても、グレアについて配慮する必要があります。弊社ホスピタルコンフォート・ブラケットタイプは、向かい側のベッドで体を起こした患者の約95%に対して、全くまぶしさを感じさせない設計になっています。

図10:まぶしさを感じない反射板輝度の累積出現率4)

(1)-2 天井取付け照明⼿法

従来のように多床室の天井中央部に取り付ける器具であっても明るく、グレアを抑えた光環境は重要です。図11に⽰す例は、ベッドの患者へのまぶしさを抑えたグレアカット⾓45度の照明器具による⼿法です。病室の天井⾯、壁⾯を照射して間接光とすることで、明るさ感と安らぎ感のある病室空間をつくりだします。

図11:天井取付け照明⼿法のイメージ

このように、全般照明器具が明るさを確保しながら寝ている患者にまぶしさを与えない配慮は⼤変重要で、ベッドに居る患者に直接ランプが⾒えないようにグレアカットゾーンを確保することが必要です(図12図13)。
このとき、照明器具と背景となる天井⾯との輝度差を少なくするために、天井⾯に光が拡がる照明器具であれば、より効果的です。

図12:直接照明タイプ(直付)5)

図13:直接照明タイプ(埋込)

(2)その他の照明(読書⽤・処置⽤照明 など)

(2)-1 ベッドライト

ベッドライトは、⼀般にブラケットタイプかアーム式タイプが使⽤されますが、

  • 患者が容易に点滅できること
  • 照射⽅向が容易に変えられること
  • 多床室では他の患者にグレアを与えないこと
  • 堅牢で安全な構造であること
  • 患者に熱線を感じさせないこと
  • 背もたれを上げても読書⾯が照明できる取付位置(図13参照)

などが要求されます。
アーム式ヘッドライトは、患者の読書⽤としてだけでなく医師や看護師の処置⽤としても使⽤できます。使⽤⽬的に合わせて、灯具の位置を動かしたり、明るさを調整したりできますので⼤変便利です。

図14:アーム式ベッドライト

(2)-2 処置⽤照明

診療処置⽤照明にはベッドライトを兼⽤するケースも多いですが、処置⽤照明としての明るさとしては充分とは⾔えません。ベッド毎に処置専⽤器具を天井⾯に取り付けるか、処置も考慮した明るさの専⽤ベッドライトを使⽤する必要があります。いずれも処置の箇所を明るく照射し、患者や他のベッドにグレアを与えないことに配慮することが重要です。
処置⽤照明としては、ベッドでの看護をサポートするのに適した⻑円タイプの配光設計が効果的で、弊社器具では照射⽅向が可変タイプと固定タイプの2種類があります。(図15
照射⽅向可変タイプの器具(ユニバーサル)の場合、⻑円タイプの配光でベッド⾯全体をしっかり照らすことができるとともに、ベッド位置を移動させてもベッド全体を照射できるように配光の形を保ったまま照射位置を調整することができます。ベッドの⾜元に取り付けると、処置の際に⼿暗がりを防ぐことができます。
照射⽅向固定タイプの器具(ダウンライト)の場合、ベッドの中央の天井に取り付けて、ベッド全体を照射することができます。また、通路部のベース照明としても利⽤可能で、⻑円タイプの配光でベッド間の通路を効率よく照射でき、通路以外のカーテンやベッド⾯への光の影響に配慮することができます。45度のグレアカットでベッドの患者へのグレアを抑えることも重要です。(図16

図15:処置⽤照明

図16:通路⽤ダウンライト(⻑円配光タイプ)の配置例

(2)-3 常夜照明

慣れない⼊院⽣活で夜間にトイレに⽴つとき、⾜元が暗いとつまずいたり転倒したりするおそれがあります。⾜元灯はベッドから⽴ち上がるときにスリッパの位置や床⾯を確認できるあかりとして患者に安⼼感を与えることができます。また、看護婦の深夜巡回時の明るさとしても必要になります。
常夜照明は、安全を確保するためには明るいほうが望ましいですが、単に明るいだけでは問題があります。深夜の病室は患者にとっては寝室としての機能があるため、グレアに対して特にシビアになる必要があります。よって、光源が直接⽬に⼊らないのは当然ですが、反射板輝度も極⼒抑えたものにする必要があります。また、器具のグレアだけでなく、床の照り返しによるグレアにも注意が必要です。床材によって、照度を変更できる調光機能があると⾮常に便利です。
具体的には、病室の通路部にダウンライトタイプの常夜灯を設置し、個々のベッドサイドに上⽅光束をカットした⾜元灯を配置するのが良いでしょう。
配置例を図17に⽰します。

図17:常夜照明の配置例

通路の照明

病室やエントランス、診察室など、さまざまな空間をつなぐ廊下では場所によって照明要件が異なり、その役割に適した照明器具を選ぶことが重要です。病棟廊下の場合、ストレッチャーで運ばれる患者がまぶしくないように、間接照明やルーバ付照明器具などを採⽤したり、廊下の両側に寄せるなどの⼯夫をすると同時に、医療スタッフのための作業照明の機能も備えるようにします。病室に⾯した廊下では、光漏れへの配慮から、夜間には全体の照度を落としつつ安全なあかりを確保します。病院の⽞関となるエントランスには、患者や⾒舞い客を迎える意匠的な照明器具を⽤いるのもよいでしょう。また、エントランスホールや外来待合室をつなぐ外来廊下の場合、廊下は周囲の明るさとのバランスを考えることが⼤切です。待合室を兼ねた廊下は、呼び出しを待つ患者が読書できる明るさも必要となります。頻繁に使⽤しない関係者⽤通路などには、⼈の動きを検知して⾃動的に明るさを抑えることができるセンサ機能付照明器具を使⽤すると、省エネ効果が期待できます。

⼿術室・ICU

特に⾼い清浄度が要求される⼿術室やICU、細菌検査室などでは、常にクリーンな環境を保持しなければなりません。そこで、清浄な空気を逃さない密閉構造で、埃が付着しにくい制電性や耐薬品性に優れたガラスパネル採⽤のクリーンルーム⽤照明器具を使⽤します。基本的に⼿術室では、⼿術台の中央に20,000 lx程度の無影灯を設置し、⼿術台をロの字形で取り囲むように全般照明を設置します。この時、周辺が暗いと作業中の⼿元との間に明暗差が⽣じて⽬が疲れてしまうため、無影灯と全般照明との照度バランスに注意が必要です。⼀般的には⼿術室全体の照度を750〜1,500 lx程度の明るさにした上で無影灯を設置し、医療スタッフの⽬の疲労を軽減して作業効率を⾼め、精神的ストレスをやわらげるように配慮します。ICUは、処置を⾏うとともに、病室のように安静に過ごす場所でもあることから、患者の居住性に配慮して、グレアを抑えた照明器具を設置します。

検査室

⼈体の⽣理に関する検査を⾏なう⽣理機能検査室と⼿術による切除部分・細菌・⾎液等の検査を⾏なう検体検査室に分けられます。⽣理機能検査室は、⾒え⽅のほかに、圧迫感を受けない雰囲気の照明が必要です。検体検査室は、⼀般の化学実験室などと同様に、作業、⾒え⽅を重点にした照明とします。
検査室の照明計画は、検査内容や⽬的によってさまざまであるため、医療従事者との打合せにより設計照度も含め明確化しておくことが重要です。特に調光が求められる部屋については、⽩熱灯やLEDなどで0〜100%調光が必要であるのか、蛍光灯で25〜100%または5〜100%調光で満⾜できるのかを調整する必要があります。
脳波・筋電図室:脳波や⼼電図の測定は、最近では機器の進歩により特別に照明器具をシールドする必要は少なくなってきました。しかし、筋電計などの微⼩電圧を測定する場合は、静電誘導、電磁誘導の⽀障を避けるためシールドが必要です。ただし、医療機器の特性に依存しますので、医療機器メーカーに確認するほうが良いでしょう。
MRI検査室では、部屋全体がシールド処理され、室内は強⼒な磁場となります。そのため照明器具の材質は⾮磁性体とすることが望ましく、⼀般的には⽩熱灯が⽤いられます。電磁波低減LED照明器具(⾮磁性体仕様)が⽤いられることもありますが、MRI検査機器から発⽣する磁場が強く、ちらつきが発⽣する場合がありますので、現場での確認が必要です。

その他

スタッフステーション

スタッフステーションや事務所、医局、管理室などでは、そこで働くスタッフの作業効率を妨げない、明るく快適な照明環境が求められます。スタッフの作業性を重視した計画とし設計照度は500〜750 lx程度を確保できる計画とすることが望ましい。また、コンピュータを利⽤した作業が⾏われることが多いため、画⾯への映り込み防⽌に配慮し、適切な遮光⾓設計の照明器具を選定しなければなりません。
廊下に⾯したカウンターテーブルには、書類記⼊などの際に⼿元のあかりを確保するためにスタンドなどのタスク照明を使⽤するのもよいでしょう。廊下等の共⽤エリアの照明は看護単位で管理されるため、スタッフステーションにて管理が可能な計画とすることが望ましいといえます。
医療はスタッフにとってはハードな仕事であるため、最近では、明るく活気のある執務環境とするために肌の⾊を美しく⾒せる照明をお勧めすることもあります。この場合、医療従事者との事前の⾊の⾒えの確認が必要です。

⼈⼯透析部⾨

⻑時間にわたる透析中の精神的負担を軽減するため、間接照明やカバー付照明器具などのランプの直接⾒えない器具を選定します。

(参考文献)

  1. 1)⼀般社団法⼈ ⽇本医療福祉協会規格:病院設備設計ガイドライン(電気設備編)
  2. 2)本間研⼀、本間さと、広重⼒:⽣体リズムの研究、北海道⼤学図書刊⾏会、1989
  3. 3)⽥淵義彦他:病室における照明⼼理評価分析、昭和60年照明学会全国⼤会90
  4. 4)伊藤武夫他:病室における全般照明⽤壁付間接照明器具の許容輝度の検討、平成10年電気関係学会関⻄⽀部連合⼤会G17-6
  5. 5)松島公嗣他:病室照明器具の配光具備条件の検討、昭和57年照明学会全国⼤会、57

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