図書館の照明
昨今の図書館
最近の図書館は、情報化の急激な進展の影響を受けて、⼤きな課題に直⾯しています。
第⼀の課題は、急増する蔵書数への対応です。近年、印刷物の発⾏は多岐にわたります。書籍や雑誌、論⽂やカタログなどの⽂字情報が、⽇々⼤量の印刷物となって発⾏されていると⾔ってよいでしょう。したがって、もともと保有する蔵書数が膨⼤になっているところへ、更に多量の本が⽇を追って⼊庫してくるため、従来のように⼈⼒に頼った⽅法では、本の分類、整理、保管、貸し出し業務などの対応ができにくくなってきています。そこで、利⽤者が必要とする本を的確、迅速に閲覧できるようにするためにコンピュータ、搬送機械などに頼らざるを得なくなってきています。
第⼆の課題は、メディアの多様化への対応です。AV機能の発達によって、映像や⾳声など印刷物以外の周辺情報も、その守備範囲となることが求められるようになってきています。これらの情報を利⽤者に提供するため、AV機器の設置や専⽤ブースの確保など、従来の図書館には⾒られなかった機能が要求されてきています。
第三の課題は、開架スペースの拡⼤です。利⽤者の利⽤の仕⽅として、資料を探すという図書館の本来の⽬的以外に、気軽に書籍に触れたいとする欲求が強くなってきています。そのために開架スペースを広くとった、くつろげる空間づくりが求められています。また、読書や閲覧スペースを広く取るだけでなく、書架を低くして、閲覧を容易にすると共に、⾒通しの利く利⽤しやすい空間を確保しようとする傾向も⾒受けられます。
以上のような課題に対して、⼤規模な図書館と中・⼩規模の図書館では対応が異なります(表1)。都道府県や政令都市が設⽴主体となる⼤規模な図書館(中央図書館)では、これらの課題を全てクリアし、利⽤者があらゆる情報に接触できる「総合情報センター」を⽬指す傾向があります。そのため、ネットワーク化とAV機器の充実が図られています。
⼀⽅、市町村レベルの中・⼩規模図書館では、図書館という本来の機能以外に地域コミュニティとしての役割が強く求められるようになってきており、開架スペースの拡⼤と充実、展⽰室やセミナー室など周辺施設の充実が優先して図られる傾向にあります。
表1:規模による相違
⼤規模図書館 | 中・⼩規模図書館 | |
---|---|---|
設⽴主体 | 県・政令指定都市 | 市町村・法⼈ |
延べ⾯積 | 1万m2以上 | 1,000〜1万m2 |
蔵書数 | 100万冊以上 | 3万〜40万冊前後 |
閲覧⽅式 | 閉架式 | 閉架式 |
要求される役割 | 総合情報センター | 地域コミュニティの核 |
照明計画に際し考慮すべき事項
図書館には、読んだり調べたりする場所以外に多くの場所があります。すなわち、会議室、セミナー室、展⽰室、希書室、視聴覚室、データ処理室、ラウンジ、事務室、製本室、⽞関ホール、ロビーなどです(表2)。
表2:図書館の構成
部⾨ | 内容 |
---|---|
開架貸出 |
開架貸出室・児童コーナー・談話室・軽読書コーナー・ 閲覧室・カウンター |
レファレンス | レファレンス室・郷⼟資料室・希書室 |
集会 | 集会室・視聴覚室・視聴覚資料室・セミナー室 |
事務 | 事務室・整理作業室・館⻑室・会議室など |
書庫 | 開架書庫 |
通路など |
ロビー・廊下・階段・エレベーター・休憩・ラウンジ・ 便所など |
設備 | 機械室・電気室など |
照明は、⼀般に、視作業のための照明と環境の照明とに分けられますが、図書館では本を読むという⾏為が主体になります。したがって図書館では、特に前者が重要になります。図書館には、児童の本、新聞、雑誌、単⾏本、古希書(ペンや鉛筆の⼿書き、古い紙、⿊ずんだ紙)など、⾒やすい本から⾒えにくい本まで種々なものがあり、これら全てのものに適した照明でなければなりません。また、AV機器やコンピュータの利⽤に対する配慮も必要です。
⼀⽅、後者は、建築デザインのエレメントとしてのものであって、その建築家の意図する空間の雰囲気を助⻑する働きのものです。開架スペースのくつろいだ雰囲気や、⽞関ホールの豪華な雰囲気を演出するために有効です。
以下、⽤途空間別に解説することとします。
読書室
読書は机やラウンジの椅⼦、貸し出し部の付近など様々な場所で⾏われます。正式の読書机としては、⻑机をローパーティションで個々のコンパートメントに分けたものや、パーティションをもった独⽴の机が使われます。
これらの机は、図1に⽰すように、⼀般にさまざまな⽅向を向きます。したがって、照明で問題となるのは、パーティションによって⽣ずる影です。この影をなくす⽅法としては、個々の机に照明をつける⽅法と、天井全⾯を光天井にする⽅法があります。
また、昼光利⽤のためと共に、外景が⾒えることによる開放感を得るため、読書机が窓際に置かれることがあります。この場合は視野内の輝度分布に注意して対策をたてておかなければなりません(照明の基本編を参照)。最近では、検索⽤のコンピュータディスプレイの設置が当たり前になってきているので、これらに対する窓⾯の映り込み対策も重要です。
なお、最近の図書館では、正式の読書エリアよりもリラックスした感じの場所で読書することを好む傾向があるため、喫茶店のように落ち着いた読書エリアや、⼦供が楽しく本に親しめるよう配慮したスペースが設けられているところもあります。これらの空間には、環境の照明が重要な役割を果たします
図1:読書机の標準的な配置
書架
書架での視作業は、本の背に印刷されている⽂字を読み取ることであって、棚の下部の本では床上10㎝位の位置のこともあるし、棚の上部の本では、床上2m近くの⾼さとなる場合もあります。これらを⾒る場合、書架と書架の間の通路の幅が狭いときは、視線の⾓度が⼤きくなって⾒えにくくなります。また、棚の上部の列の本を⾒るときは、本の背にツヤがある場合、正反射が起こって⾒えにくくなることがありますので、照明器具の位置を決める場合に注意が必要です。
書架の明るさは、300 lx以上あることが望まれますが、現実的には、天井から照明する以上、上部棚が明るく下部棚が暗くなるのは避けられません。したがって、設計としては、書架の中央⾼さで300 lx以上得ることを⽬標とします。書架の⾼さと間隔に配慮して照明器具の選定と配置を決定することが⼤切です。
表3:照明器具の配置⽅式による⽐較
書架に平⾏とした場合 | 書架に直⾓とした場合 | 光天井とした場合 | |
---|---|---|---|
⻑所 | 書架に対して均⼀な照度が得られやすい。 | 照明器具の配置換えをせずに、書架の間隔を変えることができる。 | 均⼀な照度が得られ、書架の配置換えも任意に⾏える。 |
短所 | 書架の間隔を変えられない。もしくは制限がある。 | 書架に対して均⼀な照度が得られにくい。 | CRTなどが配置されると明るすぎて⾒づらい場合がある。 |
備 考 | 書架が低い場合や天井が⾼い場合は、双⽅の差は無くなる。 | ルーバ式が望ましい。 |
なお、照明器具の取り付け⽅向は、書架の列に対して平⾏にする場合と直⾓にする場合、光天井にする場合とがありますが、いずれの⽅式も⻑短があり(表3)どの⽅法がすぐれているかを⼀概に決めることはできません。種々の状況を含めて検討しますが、最近の図書館は、利⽤しやすさに配慮して書架の⾼さを低く抑えたり、あるいは天井⾼さを⾼くとる傾向にあるため、照明の配置による差は少なくなってきています。
会議室、セミナー室
市町村レベルでは、図書館は地域コミュニティの中⼼施設となります。そこでは、各種⽂化活動や、グループ研究会などの⽣涯学習の場を提供することが求められ、会議室やセミナー室がなくてはならないものとなってきています。これらの室では全般照明だけでなく、講演者、⿊板などに対する照明も必要です。
視聴覚機器室
前述したように、最近は、映像や⾳声など印刷物以外の周辺情報を提供することも、図書館の役割として求められるようになってきました。そこで、これらの情報を利⽤者に提供するため、AV機器を設置した専⽤の視聴覚機器室が設置されるようになってきました。
視聴覚機器室の照明は、⾳を聴くことを⽬的とした室と、映像を⾒ることを⽬的とした室を区別して考える必要があります。⾳だけの場合は、照明は普通の読書エリアと同じで問題ありませんが、ビデオテープやDVD、マイクロフィルムなどの映像を⾒る場合は、照明にはかなりの注意が必要です。すなわち、ビュースクリーンの輝度とノートをとるときのノート⾯の輝度の差を少なくすることが重要で、⼤抵のタイプのビューアのスクリーンは照度が低い⽅がよく、⼀⽅、ノートをとる⾯は明るくしなければなりません。従って、全般照明を暗めにして、スタンドなどで⼿元の明るさを調整できることが望まれます。どうしてもビューアが⾼照度のところに置かれる時は、スクリーンにフードを付ける必要があります。
なお、これら視聴覚機器の設置が予想される場合には、床の適当なところに⼗分な数のコンセントを設けておく必要があります。