学校の照明
学校の照明とは
学校照明は、児童⽣徒が視対象物を⾒やすくするのを助け、近視の予防、学習効果の向上などを図る上で⼤切です。また学校照明は、夜間の学校施設開放には不可⽋な設備としてますます重要になっています。
⼀⽅、地球環境の保護がいま世界的なレベルで注⽬されるなか、⽇本でも省エネ化への対応が求められており、学校施設でも、“エコスクール”をはじめ、“環境への配慮”という思想が浸透してきています。従って、これからの学校照明は、学習のための適切な視環境の確保と省エネの両⽴が求められています。
⼀般教室の照明
教室の照明設計をする場合、⽣徒(学⽣)の机の上での読み書き、先⽣と⽣徒の顔の表情の判別、⿊板の⽂字の⾒え⽅などに留意して、快適に能率的に学習できる環境をつくることが⼤切です。
良い照明環境をつくるには、
- ①⽣徒から…成⻑期の⽣徒の視⼒を守るため、⽬の疲労が少なく、快適な雰囲気の中で気分を集中して学習ができる。
- ②先⽣から…授業がしやすい雰囲気の中で、⽣徒の反応がよく分かり、教育効果の確認ができる。
などの要求を満⾜させる照明設備とするため、全般照明・⿊板照明ともに照度(昼光を含む)・グレア・かげなどを⼗分検討することが⼤切です。
1.⼀般教室の全般照明
(1)照度
⽂部科学省の「学校環境衛⽣の基準」1)(2004年2⽉改訂)において、照度基準は、JIS Z 9110:1979の付表3-1及び3-2に⽰されている範囲(教室の場合200〜750 lx)の下限値以上であることとされています。ただし教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300 lx、さらに、教室及び⿊板の照度は500 lx以上であることが望ましいとされていますので、⼀般的には500 lx以上で設計します。
(2)照度分布
教室内のどの机の上でも、なるべく均⼀な照度となるような照明器具の配置とします。⽂部科学省の「学校環境衛⽣の基準」においても教室及び⿊板のそれぞれの最⼤照度と最⼩照度の⽐は、10:1を超えないこととし、やむを得ず超えた場合でも20:1を超えないこととされています。照明器具のタイプによりその配光特性は異なりますが、⼀般的に蛍光灯器具の取り付け間隔最⼤限(S/H)は、照明器具のA⽅向(管軸に垂直)よりもB⽅向(管軸に平⾏)の⽅が短くなります。従ってB⽅向は連結するなど接近させて配置した⽅が照度均⻫度はよくなります。
(3)まぶしさ(グレア)
快適な学習環境をつくるためには、視野内に⼊る照明器具の不快なグレアを除かなければなりません。⽣徒から⾒て、まぶしさを抑えて⿊板上の⽂字が読みやすくなるよう、遮光⾓24°に設計した照明器具をお奨めします。この遮光⾓24°を実現した器具として、スクールコンフォートがあります(図1)。なお、スクールコンフォートを使⽤する時は、⿊板と平⾏に配置します(図2)。
また、JIS Z 9125「屋内作業場の照明基準」ではグレアの制限値を設定しており、教室の場合、UGRを19以下にすることを推奨しています。これを満⾜する照明器具として、スクール⽤スペースコンフォート照明器具(図3)があります。スペースコンフォートは、ルーバの輝度を適度にすることで、快適な明るさ感を確保しながら、不快グレアを抑制できる照明器具です。最近では、⼀般教室でもパソコンやテレビを活⽤する機会が増えていますが、スペースコンフォートは、液晶ディスプレイ(LCD)への照明器具の映り込みを抑えるように輝度設計されています。
図1:スクールコンフォート(直管LED2灯)
図2:スクールコンフォートの取り付け⽅向
図3:スクール⽤スペースコンフォート照明器具
(4)Feu
豊かな創造性を育むためには、教室の開放感を⾼めることが⼤切です。先にも述べたように、⼀般的に明るさは照度(lx)で表しますが、空間の明るさ感を表す指標にFeu(フー)があります(Feuに関しては、照明設計・計算編の「Feu」を参照してください)。図4のようにFeuは開放感とも相関があります。現在の標準的な教室は、Feu10〜12程度ですが、より開放感を⾼めるためには、最低限Feu13以上、望ましくはFeu15以上を確保する必要があります。
図4:教室におけるFeu
(5)省エネ
学校の教室の特徴として、窓が⼤きいことが挙げられます。つまり、昼間は昼光によって相当の明るさが得られますので、その分照明器具の出⼒を下げて省エネを図ることが出来ます。昼光利⽤する場合は、1台のセンサで複数の照明器具を調光できる明るさセンサ(図5)がお奨めです。但し、窓からの距離によって昼光による明るさ(昼光率)が異なりますので、最低限、窓側と廊下側の2系統に分ける必要があります(図6)。こうすることで、窓側と廊下側の明るさの差を軽減できますので、視環境の改善にもつながります。
また、明るさセンサは、常に照度を⼀定に保つことができますので、ランプ初期の無駄な明るさをカッ⼘する初期照度補正機能を併せ持ちます。初期照度補正による省エネ効果は、約10%以上あります。⼀⽅、昼光利⽤による省エネ効果は、窓の⼤きさや⽅位によって⼤きく異なりますが、少なくとも約10%以上が⾒込まれますので、合計で約20%以上の省エネ効果が期待できます。
図5:明るさセンサ
図6:明るさセンサの配置例
2.⼀般教室の⿊板照明
教室の照明で最も重要なものは、⿊板の照明です。特に⼀般教室の⿊板の利⽤度は⾼く、⽣徒はもちろん先⽣の⽴場も考える必要があります。
(1)照度
⿊板の明るさは、JISの推奨照度では500 lx以上となっています。
「学校環境衛⽣の基準」でも、教室及び⿊板の照度は500 lx以上が望ましいとされていますので、500 lx以上で設計することをおすすめします。
(2)まぶしさ
⿊板照明でまぶしさをなくすためには、次の3つの条件を満たすことが必要です。
- (条件1)…⿊板照明が⿊板⾯で反射して⽣徒の⽬にはいらないこと
- (条件2)…⽣徒の⽬に⿊板照明の光源が直接はいらないこと
- (条件3)…先⽣が⿊板照明をまぶしいと感じないこと
これらの条件を満⾜する⿊板灯の取り付け位置を求めますが、そのための標準的な教室の位置関係を図7に定めます。
図7:標準的な教室の位置関係
(条件1)⿊板灯が⿊板⾯で反射して、⽣徒の⽬にはいらないこと
⿊板最上点に⿊板灯の光源が反射して、⽣徒の⽬にはいる時の⿊板前⾯から⿊板灯までの距離をℓ1とすると、ℓ<ℓ1であれば条件1を満たします。
に⿊板灯を取り付けることにより条件1を満たすことができます。
図8:条件1の位置関係
(条件2)⽣徒の⽬に⿊板灯の光源が直接はいらないこと
⿊板灯の光源が直接⽬にはいらないようにするため、⿊板灯の遮光⾓αは60°以上、少なくとも45°以上が必要です(図9)。
図10に⽰す⿊板灯は、正規の取り付け状態(55°⽅向照射状態)で遮光⾓60°以上を有していますので、取り付け位置にかかわらず、条件2を満たすことができます(図10)。
図9:条件2の位置関係
図10:条件2を満たす⿊板灯
(条件3)先⽣が⿊板灯をまぶしいと感じないこと
条件3については、先⽣の位置から仰⾓45°以内に⿊板灯の光源が⾒えないことが必要です。
仰⾓45°の位置での⿊板前⾯から⿊板灯までの距離をℓ3とすると ℓ<ℓ3であれば、条件3を満たします。
従って、(図11)の斜線側〔ℓ<h-1,400〕に⿊板灯を取り付けることにより条件3を満たすことができます。
図11:条件3の位置関係
(3)⿊板灯の好ましい取り付け位置
以上述べてきた、まぶしさを与えない条件1と3に、均⻫度を良くする条件を加えると、図12の太線上が好ましい取り付け位置となります。
図12:⿊板灯の取り付け位置関係
教職員室の照明
JISの推奨照度は、300 lxと設定されていますが、この部屋では昼間だけ でなく夜間にも、講義の下調べやテストの採点・成績表の作成など、細かい業務を⻑時間にわたり神経を張りつめて⾏うため、照度は500 lx以上にし、器種は⽬を疲れさせないようにまぶしさの少ない器具を選定します。また、職員室の特徴として、授業などで職員の離席率が⾼いことが挙げられます。つまり、職員の在・不在を検知し、不在時は消灯または必要最⼩限の明るさで点灯することによって、省エネを図ることが出来ます。センサには、明るさセンサに⼈の在・不在を検知する⼈感センサ機能が付加されたひと明るさセンサ(図13)がお奨めです。ひと明るさセンサは、数多く設置した⽅が、省エネ効果が⾼く明暗変化による不快感も軽減されますが、コストが⾼くなるので、⼀つの島単位で回路分けし、⼈の検知範囲が⾜りない部分はセンサの⼦機を設置するのが経済的です(図14)。
ひと明るさセンサによる省エネ効果は、職員の離席率や夜間の利⽤時間によって異なりますが、仮に不在時調光による省エネ効果を15%とし、昼光利⽤による省エネ効果を10%、初期照度補正による省エネ効果を10%とすると、合計で約35%の省エネ効果が期待できます。
図13:ひと明るさセンサ
図14:ひと明るさセンサの配置例
体育館の照明
屋内スポーツをする場である体育館の照明では、明るさだけでなく、均⼀さ、グレア(まぶしさ)、演⾊性(⾊の再現性)などに配慮する必要があります。
また、⾼所にある照明器具はメンテナンスの⼿間と費⽤がかかることから、光源の寿命やメンテナンスに対する配慮も必要です。その他、式典、催事、⾮常時の避難場所としても使われることのある体育館ですので、あらゆる⽤途に対応しながら快適性と省エネ性を両⽴させた照明器具を選ぶことが⼤切です。
体育館における照明器具選択のポイントを以下に⽰します。
(1)瞬時始動・再始動
すぐに点灯する照明器具であれば、休憩時間のこまめな消灯、制御による間引き点灯、消し忘れ防⽌による省エネが可能となります。さらに、⾃然災害時の⾮難場所照明として、すぐに点灯し、停電時でもすぐに再始動することができる照明は、安全、安⼼につながります。HID光源では難しかった瞬時始動・再始動が、今では光源にLEDを採⽤することで、可能になっています。
(2)連続調光
体育館は講堂として利⽤されることもあります。瞬時点灯に加えて連続調光機能があれば、催し物などの開催時に快適な光環境を実現することができます。
(3)⻑寿命
⻑寿命光源として知られるLEDを採⽤した器具では、60,000時間(1⽇8時間の使⽤で20年以上)もの⻑期間に渡る点灯が可能になっています。リフターが不要なので、設計・施⼯のイニシャルコストも軽減されるとともに、リフター故障の⼼配もありません。
(4)グレア・光ムラ
器具のグレアや光ムラはスポーツをする上での妨げとなりますので、グレアや光ムラの軽減に配慮した照明器具を選択する必要があります。拡散パネルを設置することにより、グレアを軽減させる⽅法もあります。JISの「照明基準総則」2)でも、学校体育館のUGR制限値は22と設定されています(UGRの詳細に関しては、照明の基本編の「視環境の評価」をご参照ください)。
図15に体育館の照明設計を⾏った結果得られた、器具の配置と照度分布図の⼀例を⽰します。この時には、LEDを光源とする直付型⾼天井⽤照明器具(図16)に拡散パネルを設置した器具を⽤いて照明設計を⾏いました。
図15:器具配置と照度分布図
図16:直付型LED⾼天井⽤照明器具