学校の照明
学校の照明とは
学校照明は、児童生徒が視対象物を見やすくするのを助け、視力を守り、学習しやすい環境を作ることが大切です。
また、自然災害時(非常時)における施設開放においても重要な設備となっています。
⼀般教室の照明
教室の照明設計をする場合、生徒(学生)の机の上での読み書き、教員と生徒の顔の表情の判別、黒板・白板および電子黒板の見え方などに留意した快適な学習環境を作成することが大切です。
学習にとって良い視環境とは、
- ①生徒からの視点で…成長期の生徒の視力を守り、快適な雰囲気の中で集中しやすい環境。
- ②教員からの視点で…授業しやすい雰囲気の中で、生徒の反応もよく分かる環境。
などの要求を満⾜させる照明設備とするため、全般照明・⿊板照明ともに照度(昼光を含む)・グレア・作業面上のかげなどを⼗分検討することが⼤切です。
1.⼀般教室の全般照明
(1)照度
文部科学省が「学校環境衛生の基準」をもとに作成した「学校環境衛生管マニュアル(2018年改訂)」によれば、「教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は、300 lx(ルクス)。また、教室及び黒板の照度は500 lx 以上であることが望ましい」と記載されている。このため、一般教室においては作業面照度を500 lx以上で設計します。
加えて、「コンピュータを使用する教室等の机上面の照度は、500 ~ 1000 lx 程度、テレビやコンピュータ等の画面の垂直面照度は、100 ~ 500 lx 程度が望ましい」とされています。
また、教室の照度設計における反射率は「学校環境衛生管マニュアル」に記載されている推奨範囲の最小値として、天井70%・壁50%・床30%を用いることが一般的です。
(2)照度分布
教室内のどの机でも、なるべく均一な照度となる照明器具の配置とします。文部科学省の「学校環境衛生管マニュアル」においても教室及び黒板のそれぞれの最大照度と最小照度の比は、10:1を超えないこととし、やむを得ず超えた場合でも20:1を超えないこととされています。
また、教室の照度は年2回「学校薬剤師」が、所定の条件が確保されていることを照度計にて計測確認することになっています。
教室の照度は、定められた平面上の9か所であって最も児童生徒の机に近い位置で測定し、それらの最大照度と最小照度を確認することになっています。
同様に、黒板の照度も定められた鉛直面上の9か所であって、それらの最大照度と最小照度を確認します。
(3)まぶしさ(グレア)
快適な学習環境をつくるためには、視野内に入る照明器具の不快なグレアを除かなければなりません。生徒から見て、まぶしさを抑えて黒板上の文字が読みやすくなるよう、遮光角24°に設計した照明器具をお奨めします。この遮光角24°を実現した器具として、スクールコンフォートがあります(図1)。
なお、クールコンフォートは、黒板に対し平行(遮光角24°が担保できる方向)に設置します(図2)。また、JIS Z 9125「屋内作業場の照明基準」ではグレアの制限値を設定しており、教室の場合、UGRを19以下にすることを推奨しています。これを満足する代表的な器具としてスクールコンフォート用スペースコンフォート(図3)があります。スペースコンフォートは、ルーバの輝度を適度に制御することで、快適な明るさ感を確保しながら、不快グレアを抑制できる照明器具です。一般教室でもパソコンや電子黒板を活用する機会が増えていますが、スペースコンフォートは液晶ディスプレイ(LCD)への映り込みも抑えるように輝度設計されています。
図1:スクールコンフォート
図3:スクールコンフォート用スペースコンフォート
図2:スクールコンフォートの配灯例
| 平均照度 | 700 lx |
|---|---|
| 最小照度 | 574 lx |
| 最大照度 | 912 lx |
(4)省エネ
学校の教室の特徴として、窓が⼤きいことが挙げられます。つまり、昼間は昼光によって相当の明るさが得られますので、その分照明器具の出⼒を下げて省エネを図ることが出来ます。昼光利⽤する場合は、1台のセンサで複数の照明器具を調光できる明るさセンサ(図4)がお奨めです。但し、窓からの距離によって昼光による明るさ(昼光率)が異なりますので、最低限、窓側と廊下側の2系統に分ける必要があります(図5)。これにより、窓側と廊下側の明るさの差を軽減できますので、視環境の改善にもつながります。
また、明るさセンサは、常に照度を⼀定に保つことができますので、ランプ初期の無駄な明るさをカッ⼘する初期照度補正機能を併せ持ちます。初期照度補正による省エネ効果が約10%あり、加えて、昼光利⽤による省エネ効果は、窓の⼤きさや⽅位によって⼤きく異なりますが、少なくとも約10%以上が⾒込まれますので、合計で約20%以上の省エネ効果が期待できます。
図4:明るさセンサ
図5:明るさセンサの配置例
2.⼀般教室の⿊板照明
一般教室における黒板やホワイトボードの利用度は高く、生徒と教員の双方の視点から良好な環境を考える必要があります。
(1)照度
前述の「学校環境衛生管マニュアル」において、教室及び⿊板の照度は500 lx以上が望ましいとされていますので、500 lx以上で設計することをおすすめします。
(2)まぶしさ
黒板照明においては、以下の条件を満たすことが必要です。
- (条件1)…⿊板照明が⿊板⾯で反射して⽣徒の⽬にはいらないこと
- (条件2)…⽣徒の⽬に⿊板照明の光源が直接はいらないこと
- (条件3)…教員が⿊板照明をまぶしいと感じないこと
上記条件を満足する黒板灯の推奨設置を解説するため、標準的な教室における位置関係を図6に定めます。
図6:標準的な教室における黒板灯と黒板面および床面との位置関係
(条件1)黒板照明が黒板面で反射して、生徒の目にはいらないこと
黒板の最上に黒板照明の光源が反射して最前列の生徒の目にはいる時の、黒板面から黒板照明までの距離をℓ1とすると(図7)、ℓ(黒板照明の設置位置)<ℓ1あれば条件1を満たします。ここで、天井高さをhとした場合、黒板の最上部はおよそ2000mmであることから、

となります。したがって、この式から導き出されるℓ1の値より黒板面に近い位置に黒板照明を設置すればよいことになります。
図7:条件1の位置関係
(条件2)⽣徒の⽬に⿊板灯の光源が直接はいらないこと
最前列の生徒を基準として黒板の最上まで視認することを考慮すれば、黒板照明の光源が直接目にはいらないようにするには、黒板灯の遮光角αは60°以上、少なくとも45°以上が必要です(図8)。
一体型LED直付黒板灯は、正規の取り付け状態(水平天面に設置)で遮光角45°~60°を有していますので、取り付け位置にかかわらず、条件2を満たすことができます(図9)
図8:条件2の位置関係
図9:条件2を満たす一体型LED直付黒板灯
(条件3)教員が⿊板灯をまぶしいと感じないこと
教員の位置から仰角45°以内に黒板照明の光源が見えないことが必要です。仰角45°の位置で、光源が視認できる黒板前面から黒板灯までの距離をℓ3とすると ℓ<ℓ3であれば条件3を満たします(図10)。
ここで、天井高さをhとした場合、教員の立位の視点位置はおよそ床面より1700mm、黒板面より300mm室内側であることから、
となります。従って、この式から導き出されるℓ3の値より黒板面に近い位置に黒板照明を設置すれば、条件3を満たすことができます。
図10:条件3の位置関係
(3)⿊板灯の好ましい取り付け位置
黒板照明専用に設計された「一体型LED直付黒板灯」を、生徒にまぶしさを与えない条件1と条件3を満たす位置に設置すればよいことになります。一般的な教室の天井高さは3.0m程度ですので、
- ℓ1=2,444
- ℓ3=1,600
となります。すなわち、一般的な教室では黒板灯を黒板面から1,600mm内に設置すれば良いことになります。
教職員室の照明
「屋内照明基準(JIS Z 9125-2023)」における教育施設(教官室)の推奨照度は300 lxと設定されていますが、昨今の職員室はオフィスにおける一般的な事務作業の場と同様の空間と考えられるため、作業面の平均照度は500 lx以上を確保します。器種も、オフィス照明と同様にグレア制御に配慮した器具を選定します。
また、職員室の特徴として、授業などで職員の離席率が高いことが挙げられます。職員の在・不在によって消灯、または、必要最小限の明るさで点灯することによって省エネを図ることができるため、手元のリモコンで器具1台毎にこまめに減光や消灯が可能な「操作用リモコン対応型」の照明器具がおすすめです。運用条件にもよりますが、こまめな消灯や減光を行うことによって、10~30%の省エネ効果が期待できます。
図11:施設用照明器具 操作用リモコン
体育館の照明
屋内スポーツをする場である体育館の照明では、明るさだけでなく、均⼀さ、グレア(まぶしさ)、演⾊性(⾊の再現性)などに配慮する必要があります。
また、⾼所にある照明器具はメンテナンスの⼿間と費⽤がかかることから、光束維持時間やメンテナンスに対する配慮も必要です。その他、式典、催事、⾮常時の避難場所としても使われることのある体育館ですので、あらゆる⽤途に対応しながら快適性と省エネ性を両⽴させた照明器具を選ぶことが⼤切です。
体育館における照明器具選択のポイントを以下に⽰します。
(1)瞬時点灯・瞬時消灯
瞬時に点灯や消灯が可能な照明器具であれば、休憩時間のこまめな省エネが可能となります。
また、自然災害時の非難場所照明として、停電復旧時にもすぐに点灯する照明は、安全、安心につながります。
(2)連続調光
体育館はイベント会場や催し物の場として利用されることもあります。連続調光機能によって、用途にあわせた最適な照度が設定可能になります。また、避難所生活における生活にあわせた昼夜シーンの切り替えなど、より快適な光環境を実現することができます。
(3)器具の長耐用年限
LED高天井用照明器具を採用することによって、60,000時間(1日8時間の使用で20年以上)の長期間に渡る点灯が可能となります。高所作業での器具交換工事や光源の保守メンテナンスが軽減され、管理コストも軽減されます。
(4)グレア・光ムラ
器具のグレアや光ムラはスポーツをする上での妨げとなりますので、グレアや光ムラの軽減に配慮した照明器具を選択する必要があります。拡散パネルを設置することにより、グレアを軽減させる⽅法もあります。「屋内照明基準(JIS Z 9125-2023)」2)でも、学校体育館のUGR制限値は22と設定されています(UGRの詳細に関しては、照明の基本編の「視環境の評価」をご参照ください)図12に体育館の照明設計を⾏った結果得られた、器具配置と照度分布図の⼀例を⽰します。LEDを光源とする直付型⾼天井⽤照明器具(図13)に拡散パネルを設置した器具を⽤いて照明設計を行っています。
図12:器具配置と照度分布図
図13:直付型LED⾼天井⽤照明器具


