舞台の照明
舞台照明設備
舞台照明は、舞台における演劇、舞踊などの総合芸術になくてはならない分野です。舞台照明の必要なものとして、歌舞伎(古典物、新作物)、現代劇、新劇、軽演劇、洋舞(バレエ、創作舞踊)、オペラ、⽇舞、ミュージカル、洋楽、邦楽などがあります。舞台照明は、舞台の規模や、芸術の内容によってその設計の仕⽅も異なります。我が国の舞台は、そのほとんどが多⽬的に利⽤されています。いわゆる多⽬的ホールと呼ばれるもので、市⺠会館、公⺠館などの舞台照明は、そこで演じられる内容を良く調査し、どんなものが演じられても対応できる最低限必要な舞台照明設備を考えておかねばなりません。
1.舞台照明の考え⽅
(1)舞台照明の4要素
視覚正しく⾒せること。
写実現実らしく⾒せること。
審美美しく⾒せること。
表現⼼理を描写すること。
(1)-1 視覚
観客が劇場に訪れる⽬的は、⾒ること、聞くことです。舞台がどのような場⾯であっても、観客にはそれが正しく、効果的に⾒えなければなりません。そのためには光の量と質が適正に提供されている必要があります。
- 光の量(充分な明るさを得ること)
舞台照明の場合、演出により、光の量が変化しますので、照度基準は決められていませんが、どのような催物にしても効果的に⾒えるだけの照明設備が必要で、⼀般的に客席中央の視線を基準としては、最低1,000 lx以上必要です。また多⽬的ホールなどでTVの公開録画などがある場合は、カメラの感度を考えて2,000 lx以上が望ましいとされています。
- 光の質(適当な照度分布、⾊彩等を考えること)
演出の総意によって、舞台照明器具からの光を巧みに分布し、また、⾊光を使って演出の意図を観客へ明⽩に⽰します。
(1)-2 写実
演劇における写実とは、舞台を現実らしく観客に⾒せることを意味し、そのための演出が照明の重要な要件になります。現代の演劇は劇場という空間内で、⾃然界のあらゆる事象や現実の⽣活を観客に⽰します。舞台での演出によって、観客は舞台上の事象や⽣活が現実に⾏われているもののように受取り、写実的効果を⼀層⾼めます。舞台照明が写実的に表現できるものとして次のものがあります。
- 時
舞台において時を⽰す要素として舞台照明ほど適切なものはありません。舞台照明により四季の変化や、また1⽇中の時間経過などは、昼は明るく、夜は暗いという単純な場⾯から、暁⽅から朝へ、⽇没から夜へと極く⾃然に徐々に変化させていく複雑な場⾯まで、時の変化は⾃由にできます。
- 天候
晴れた⽇、曇天、⾬、または太陽、⽉、星、雲、稲妻、雪、虹など、いろいろな⾃然現象の描写を舞台照明は光の変化によって現実らしく表現することができます。
- その他、物の描写
⿃や蝶、その他動く乗物、⿂などの⽔中のもの、炎、煙、花⽕などを描写することができます。このような舞台照明器具は、光の当て⽅や⾊光のみならず、各種効果器具を使⽤して舞台を写実的に演出することができます。
(1)-3 審美
⼣焼けや⽉光など、⾃然の情景を⾒て美しいと感じるのは、そこに光と影があるからです。舞台においても物に美しさを与えることは必要で、舞台照明は演出により美しく舞台を描写できます。俳優の着る⾐裳や、舞台装置などを、光の当て⽅や、適当な⾊光によって観客に美しく⾒せます。
(1)-4 表現
演劇は単に感覚的な要素だけでなく、⼼理的な⾯も多分に持っています。
舞台照明の⼀般的要件として視覚や写実は感覚的な要素ですが、この表現作⽤は、⼼理的な⾯が⼤きく、光の変化や、⾊彩によって、また舞台での溶暗、溶明その他の調光操作によって観客はさまざまな感情を引き起こします。舞台での演出は、俳優の⼼理の動きを舞台照明により観客に訴えることが多く、また、⾳楽にしても曲のイメージに合せた舞台照明を考えます。
2.舞台照明器具の役割と配置
舞台に使⽤される照明設備は、舞台の⼤きさや⽤途、構造によって異なりますが、照明器具の配置は⼤別しますと、舞台上部・舞台床上・幕前(フロント)の三つに分けることができます。
(1)舞台上部のあかり
舞台と客席の間にあるプロセニアムより舞台側の上部に取り付けられた照明器具をいいます。舞台の天井には、すの⼦があり、緞帳・カスミ幕・中割幕・ホリゾント幕・背景吊バトン等多くの吊物が下げられますが、照明はこの間に吊下げられて使⽤されます。
(1)-1 ボーダライト
舞台上部に吊物装置により吊下げられ、舞台全体を上部から平均に照らす樋状の照明器具で、平板な拡散光で影を⽣じさせることなく、地あかりを与えます。
ボーダライトの⻑さは舞台の⼤きさにより異なりますが、通常アクティングエリヤの⼱の⻑さは必要です。⼜、舞台の奥⾏に対しては、緞帳のすぐ後に第1ボーダを設け、これより舞台奥へ1.5〜2.5m間隔で第2、第3……と必要な本数を設置します。
配線は普通3回路、3⾊配線になっています。
図1:刈⾕市総合⽂化センター
(1)-2 サスペンションライト
ボーダライトと同じように、舞台の上部に吊下げられたフライダクトに取り付けて、演技⾯だけのポイントあかりを主体にした照明器具です。電源はフライダクトに設けられたコンセントより供給されます。このフライダクトの⻑さもボーダライトと同じ程度で、ボーダライトの後⽅0.5〜1mの位置に配列します。舞台の奥⾏に対しても1.5〜2.5m間隔で第1、第2、第3……サスペンションライトを設置します。フライダクトのコンセントはC型20Aを0.3〜1m間隔に1ケ付けますが、その数は多い程便利です。このコンセントの配線の回路数も多い程便利です。
(1)-3 アッパーホリゾントライト
舞台後部のホリゾント幕を照明するために、上部の吊物装置に吊り下げられます。ホリゾント幕に均等な垂直照明をほどこし、フットライトやその他の照明による有害な反射光によりホリゾント幕に投影される影を消すとともに、背景を美しく染めて、空・海・川などの周辺環境の雰囲気をかもし出すような照明をします。
(1)-4 トーメンタルスポットライト
舞台の上⼿、下⼿の側⾯より照明する器具で、ボーダライト、サスペンションライトなどの吊物と直⾓になるようにパイプで枠組をして、その枠にスポットライトを設置します。舞台の横から照明することにより、舞台床⾯での使⽤器具の数量が少なくなり、⼤道具・⼩道具の移動操作にも邪魔にならないので、設備する⽅が効果的です。
(2)舞台床上のあかり
舞台の床⾯に設置され、下⽅より照明する器具をいいます。
(2)-1 フットライト
舞台床⾯最前部にあり、舞台を下から平均に照明する樋型の器具で、フットライトは使⽤しない時もありますので、床⾯に溝を切込み格納できるような構造にしておきます。⼜、⻑さは舞台間⼝の⻑さだけ必要ですが、花道のある場合は花道の接点まで必要です。配線は普通3回路、3⾊配線になっています。
(2)-2 花道フットライト
通常、花道の客席側に埋込み、花道の⻑さだけ設備します。配線は普通2回路、2⾊配線が多いといわれています。
図2:刈⾕市総合⽂化センター
(2)-3 ロアーホリゾントライト
ホリゾント幕を下部より均等に照明する器具で、アッパーホリゾントライトと同じようにホリゾント幕を美しく染め上げ、地平線付近の明るさを出したり、暁⽅や⼣暮時の地平線の⾊光、明るさの変化を表現し、ショーの雰囲気を盛り上げます。⼀般にこの器具は⼤道具・⼩道具の移動操作の邪魔にならないように、床⾯に埋込むか、持ち運びできるような可搬式のものにします。⻑さはホリゾント幕と同⼀の⻑さを必要とし、配線は3⾊、4⾊配線で、電源は床⾯に埋込まれたフロアーコンセントより供給されます。
(2)-4 タワースポットライト
パイプ・アングルで枠組し、下に移動⽤の⾞を取り付けたタワーにスポットライトを取り付けたもので、主に舞台側⾯からの移動⽤照明として使われます。
タワーにはスポットライトの⾓度調整などで、⼈が上れるようになっています。電源は床⾯のフロアーコンセントまたは、すの⼦からケーブルにより供給されます。
(2)-5 フロアーコンセント
舞台床上の照明器具の電源として、床⾯にて、必要に応じて電源がとれるようにコンセントを設置します。コンセントの数は多い程便利ですが、アクティングエリヤ内は⼤道具などの造作がありますので、避けたいものです。普通アクティングエリヤ5m2〜7m2に1ケ、1回路の割合でアクティングエリヤの周囲に設置しますが、設置する場所にはフロアコンセント1ケ⼝〜4ケ⼝を、ある程度まとめてあまり場所をとらないようにします。
(2)-6 ステージスポットライト
タワースポットライトと同じように使⽤されますが、舞台床⾯の低い位置より照明される器具で、電源はフロアーコンセントより供給されます。
(3)幕前あかり(フロントあかり)
プロセニアムより客席側に設置する照明器具で、舞台上の⼈物や事物の前あかりとして⽴体的に照明します。客席の天井や壁⾯に取り付けられるスポットライトが主になります。
(3)-1 シーリングスポットライト
客席上部の天井内より舞台に向って照明し、前からの⽴体的なあかりを与えます。シーリングスポットライトの照射する範囲は、舞台の最前部からホリゾント幕の最下部までで、この範囲を照明出来る位置に設置します。舞台への投光⾓度は35°〜45°位が適当です。シーリングライトの数はプロセニアムアーチの⼱(m数)と同数あるいはその1.5倍位です。シーリング室の⼤きさは出来るだけ⼤きく取る⽅が良いのですが、普通舞台間⼝⼱の80%以上の⼤きさを必要とします。⼜、舞台の奥⾏が⻑い場合、エプロンステージのある場合は第1、第2、第3シーリング室を必要とします。この場合、第3シーリング室にはフォロー⽤のキセノンピンスポットなどを設けます。シーリングスポットライトは観客席の上部にあるので、調光室より制御できる⾃動⾊切換装置を付けておくと⾊交換などに便利です。
図3:刈⾕市総合⽂化センター
(3)-2 フロントサイドスポットライト
客席の両サイドに設置して舞台を側⾯より照らし、⽴体的に照明するための器具です。舞台の⼤きさや上演種⽬によって異なりますが、通常両サイド合せてシーリングスポット数と同数、⼈物フォロー⽤として、ハロゲンピンスポットライトなどを各2台程度設置されます。両側のフロントサイドスポットより舞台を照明する⽔平⾓度は55°位がよく、フロントサイドスポット室は通常舞台のプロセニアムアーチより5〜10m客席側に寄った位置が適当ですが、建築上限られた場所を有効に使⽤せねばなりませんので、スポットライトは2段〜3段吊りにして、使⽤します。
(3)-3 バルコニースポットライト
最近テレビの公開放送などにホールが使⽤されることが多く、その場合、特に前あかりを必要とします。⼜、ホールの観客席もワンスロープではなく、ひな段式客席が多いので、2階、3階のバルコニーにスポットライトを取り付けて前あかりを取る例が多いようです。しかし、舞台への⾓度が浅いために、ホリゾントの効果を悪くする場合もありますので、充分に注意して設置しなければなりません。
(3)-4 センタースポットライト
客席の後部⼜は第3シーリング室などに設置し、キセノンピンスポットなどで舞台上の⼈物をフォローします。舞台⾯に対する投光⾓度は20°〜25°位が適当です。⼈物フォロー⽤として輪郭をはっきりと出せるもので最低中央に2台必要です。3台以上設置する場合は上⼿、中央、下⼿と分けて、夫々の位置より舞台上の⼈物をフォローします。
舞台照明の設計は、舞台の⼤きさやその舞台の使⽤⽬的・性格によって千差万別ですが、中規模の市⺠会館のホール及び中劇場の器具配置例として図4に、体育館・講堂などの⼩規模舞台の配置例として図5にその参考例を⽰します。
図4:市⺠会館ホール及び中劇場の器具配置例
名称 | 名称 | 名称 | |||
---|---|---|---|---|---|
A | 第1ボーダーライト | G | アッパーホリゾントライト | M | トーメンタルライト |
B | 第1サスペンションライト | H | ロアーホリゾントライト | N | 花道フットライト |
C | 第2ボーダーライト | I | 天井⾳響反射板ライト | O | 客席ウォールコンセント |
D | 第2サスペンションライト | J | フロアコンセント | P | フロントサイドライト |
E | 第3ボーダーライト | K | フットライト | Q | シーリングライト |
F | 第3サスペンションライト | L | プロセニアムサスペンションライト | R | センターピンスポットライト |
図5:体育館、講堂及び⼩舞台器具配置例
名称 | 名称 | ||
---|---|---|---|
A | フットライト | F | シーリングスポットライト |
B | ボーダーライト | G | フロントサイドスポットライト |
C | サスペンションライト | H | フロアコンセント |
D | アッパーホリゾントライト | I | フロアコンセント |
E | ロアーホリゾントライト |
3.舞台システム
(1)調光信号について
調光操作卓から調光機器に送る信号は、アナログ、アナログ時分割、そしてデジタル時分割へと変化してきています。このデジタル時分割⽅式としてDMX512(DMX512/1990)が、国際的に統⼀され使⽤されている調光信号です。DMX512信号は、1対の信号ケーブルに512チャンネルの制御信号をのせて送ることができ、⼀般の調光制御以外にムービングライトやLEDなどの制御信号としても使⽤されています。
しかし、ムービングライトなどの数⼗チャンネルを使⽤する機材が多く使⽤される状況に伴い、DMX512信号の使⽤ケーブル本数の増加が発⽣し、更なる進化としてイーサネットワークを調光に使⽤し多くの制御を可能とするシステムも増えてきています。このイーサネットシステムを使⽤することでチャンネル数の増加に伴う配線本数の増設などが不要となるなどの利点があります。
今後は、単なる⼀⽅向の通信信号ではなく双⽅向通信による制御及び状態監視などが⾏える通信⼿段へ更に進化して⾏くものと思われます。
(1)-1 DMX512信号システム
DMX512/1990という信号伝送システムは、調光操作卓から調光装置に送られる信号を共通化するために⽶国劇場技術協会(USITT)が規格化したもので、信号形態は、多重信号伝送のうち、シリアル転送(直列転送)《マルチプレックス・トランスミッション=多重伝送》といわれる、多種類のデータを2線あるいは3線などの少数の信号線で伝送できるシステムです。
DMX信号はマルチプレックス・トランスミッション⽅式のうち、時分割⽅式という、信号線に供給する電気信号の順列を決めて、繰り返し送信し、受信側でそのデータの順列を確認して受信する⽅式です。
代表的なものが、EIA規格で定められたコンピュータ・ネットワークに⽤いられているRS-232Cがあり、DMX信号は、その上位規格であるRS-485の規格に準じており、⾼速で⻑距離にデータを送ることができる通信インターフェースです。
DMX512信号は、時分割⽅式デジタル信号であり、各機器間をワンケーブルで配線するだけの省施⼯となります。
(1)-2 ネットワーク化
DMX512信号をイーサネットに変換し、イントラネット、インターネットを介して情報を伝える調光ネットワークシステムの構築が進んでいます。これは劇場・ホールのネットワーク化により、調光制御信号以外に、ネットワーク上の調光卓・調光盤・昇降装置・ホール内の管理サーバー、ネットワークPC等の間で、双⽅向による情報のやり取りを⾏い、バーチャルシミュレーションソフト等、様々な新しい技術をネットワーク上に展開し、より先進的な調光制御機器操作を実現しています。
また、必要な情報を適時にユーザーへ積極的に提⽰し、調光システム全体の安全性の向上も実現します。
さらには、エンジニアリング会社とのメンテナンス契約等により、インターネットを介してリモート監視を⾏うことで、トラブル回避や万⼀の故障時のより迅速な対応を可能にしています。
(2)調光器について
従来の調光器は、位相制御に特化していましたが、負荷設備の移動や持込機材の使⽤などによる漏電や短絡、負荷設備の仕込み変更などに伴う容量以上の負荷接続など、使⽤状況や負荷状況の変化に対する安全機能として、従来の調光器にインテリジェント機能を追加し、漏電、短絡、過負荷などの検知を⾏い、調整室などのモニターに状態表⽰が⾏えるシステムが近年多く設備されています。この考え⽅は、固定設備としての調光器盤だけではなく、移動型調光器などの⼩型調光機器にも展開されており、会館全体としてのインテリジェント化が⾏えるようになってきています。
しかし、今後はLED化へ進むなか、位相制御の調光器システムから電源供給システムへ変化が起こるものと思われます。LED器具は、電源と制御信号で調光が可能となります。この時の電源は、純直電源回路が必要となるため、従来の位相制御電源ではなく、分電盤的な電源設備になること、LED器具によっては、待機電⼒などの電⼒ロスを無くすために電源管理回路(電源の⼊り切り回路)などを考慮する必要が今後あると思われます。
(3)調光操作卓について
調光操作卓は、記憶が可能な機種が殆どとなっているなか、⼤きく従来の多段プリセットフェーダ⽅式とプリセットフェーダを持たない⽅式(ノンフェーダ卓)の2種類があります。また、操作できる照明設備も、⼀般照明の調光操作を⾏う機能(HTP制御機能)とムービングライトやLED照明器具などの操作が⾏える機能(LTP制御機能)に⼤きく分類されます。
記憶機能としては、各場⾯を記憶し時間軸の再⽣が⾏える機能や、単⼀シーンをフェーダで⼿動再⽣が⾏える機能(サブマスタフェーダ)、更に調光や点滅操作が⾏えるエフェクトやチェイス機能などがあります。
記憶されたシーンは、GO押釦操作や⼿動によるムーブフェーダ操作などで再⽣が⾏えます。また、⼀つのシーンのなかを分割しそれぞれを別の異なった時間で制御する機能としてパートなどもあります。
従来のプリセットフェーダのシーン転換⽤としてはクロスフェーダがあります。
(3)-1 HTP(Highest-takes-precedence)調光操作⽤
複数の制御系からレベルをセットしようとした場合、その中で最も⾼いレベルによってコントロールされる調光制御⽅式です。
(3)-2 LTP(Latest-takes-precedence)ムービングライトなどの操作⽤
チャンネルのレベルが、もっとも最近指定されたレベルを維持する⽅式で、ムービングライトやカラーチェンジャーを使⽤する際、変化を指定しない時に、そのつど0レベルのポジションに戻らない様にします。
(4)調光データの共通化
会館などで作成した演出データを他の会館の公演でも、そのデータを使⽤したい場合に国内各メーカで共通に扱えるデータとして、JASCIIがあります。これは、キュー番号やチャンネルレベルなどが共通データとして扱えるようになっています。
JASCIIは⼀般的なテキストファイル形式であり、市販のパーソナルコンピュータで取り扱うことができます。 JASCIIでは、フェード、ディレイ、ウェイトの時間データと、パート関係のデータを規格範囲に加えました。また調光データと時間データ、時間軸に対応するパートデータの正確な互換性を優先しています。記憶媒体は、ハードウェアの進歩を考慮し規定なしとしました。1)
(5)LED照明器具
⻘⾊LEDの開発により、フルカラー(RGB)LEDとして近年多くの商品が開発されています。普及はこれからですが、調光特性の改善が進み、スムーズな調光操作がDMX512信号などを使⽤し可能になると思われます。
LEDの⾊再現性は、単なるRGBを使⽤するのではなく、RGBにWを追加、Wでも⾊温度の低い物や⾼い物でより⾊や⾊温度の幅を広げたり、単⾊の濃い⾊再現ができるLEDの開発により、現状のカラーフィルタで再現していた領域まで改善されるものと思われます。
(6)仮設電源や直回路電源など
演出の多様化に合わせて、電源の確保が重要となってきています。調光回路の追加やムービングライトなどの直電源など、更には、LED照明器具への電源供給などのために設ける必要があります。
(7)その他
LED照明器具の制御は、DMX信号での制御以外にPWM⽅式があります。これは、⼀般LED照明器具の制御に使⽤されるタイプです。⼀般照明に使⽤されるタイプですが調光としては、DMX512と同じように扱える制御システムです。
舞台機構
劇場建築の形態は、ギリシャ時代の円形劇場からローマ時代の半円形劇場、ルネッサンス・バロック期以降のプロセニアム劇場へと発展し、現代に⾄っています。
⽇本ではじめて舞台がつくられたのは、8世紀中頃の舞楽においてです。舞楽は、神前や貴⼈の前で演ぜられたため、観客席はありませんでした。能舞台の原形をなす⽥楽・猿楽も特定の場所で⾏われたため、舞台は舞楽舞台の影響が残っていました。
その後、勧進能で、⼊場料が徴収される様になって、幕やムシロを張りめぐらし、劇場としての形態ができあがりました。
歌舞伎・⼈形芝居でも、この形態が踏襲され、やがて観客席にも屋根ができ、亨保年間には、舞台・観客席をおおう全蓋式の劇場となりました。1758年、狂⾔作者・並⽊正三によって発明された回り舞台は、その後の歌舞伎演出に⼤きな影響を与えました。
明治期になると、欧⽶⽂化の移⼊によって劇場も改⾰が⾏われ、プロセニアム劇場へと発展してゆきました。
時代が進むにつれて、舞台で演ぜられる内容は⼱広くなり、すみやかな催物内容の切換・シーン転換が要求される様になりました。
それに伴ない、舞台機構において、いろんな⽅式が考えられ、採⽤されています。
舞台は、⼀種の機械⼯場の様なもので、上部には緞帳・バトン・スクリーン・⾳響反射板・諸幕があり、下部には、迫り装置・回り舞台があり、これらを総称して舞台機構(舞台装置)と呼んでいます。
1.舞台機構の分類
舞台の場⾯転換と演出をはかる舞台機構を⼤別すると、床機構と吊物機構の2つに分けて考えることができます。
2.舞台機構の配置
(1)床機構
3種類ありますが、迫り上舞台が⼀般的です。
- 回り舞台(盆)――――
回転運動によって舞台の転換を⾏います。
- 迫り上舞台――――――
舞台床の⼀部を昇降させるもので、⼤きいもの(⼤迫り)は舞台転換⽤に、⼩迫りは⼈物や⼩道具を載せ演出⽤に使⽤します。
- スライディング舞台――
舞台を⽔平に移動させて舞台転換を⾏うのに使⽤します。
(2)吊物機構
舞台上部には、各種設備(吊物)がもうけられ、それらはぶどう棚と呼ばれる構造物に吊り下げられます。吊物は下部で操作する必要から舞台上・下いずれかの壁際(綱元)にまとめます。この吊物を昇降させる⽅式として、
- ①ロープ引式
- ②カウンタウエイト式
があり、操作⽅法として⼿動と電動があります。
⼜、吊物の幕の開閉操作には、
-
①昇降式
②引割式
③蝶開式
④絞り上げ式そのまま上下させます。
2枚に分けて左右に引きます。
2枚に分けて斜めに引き上げます。
絞って上にあげます。
の⽅法があります。
以上これらの設備を舞台の使⽤⽬的・⼤きさに応じて組合せて設計を⾏います。
図6:ホール・公⺠館
参考資料:上演種⽬と舞台照明設備 | (建築雑誌・Vol.92) | |
グループ 番号 |
上演種⽬ | 舞台照明設備として留意すべき点 |
---|---|---|
1 |
歌舞伎・⽇本舞踊・新派・ 新国劇・商業演劇など |
溢光照明(フラッド・ライト)を主とし、舞台装置も平⾯的なものが多いので、ボーダライトの設備が必須である。舞台装置の⾼さが4.5m(15尺)以下であることが多いから、舞台開⼝部の⾼さが⾼い必要はなく、⼀⽂字幕で⾼さをつめるため、⾼い位置にあるフロントサイド投光室やシーリング投光室の光はさえぎられて使えない。各投光室の投光⾓度を低くとるとともに、バルコニーライトを設置することもある。 回り舞台のほぼ中央にホリゾント幕を下ろし、その前後に舞台装置を飾るから、ボーダライトの配置に留意が必要である。中央のホリゾント幕のために、ボーダライトにホリゾントライト⽤の器具を補強または共設することもある。回り舞台の床⾯にはポケットの設置が必要である。 |
2 |
クラシックバレエ・レヴュー・ ショーなど |
平⾯的な背景幕を多く使うから、ボーダライトを数多く設置するほうがよい。舞台装置・背景幕の⾼さは4.5m(15尺)以上であることが多い。ステージサイド・ギャラリー・タワーなど舞台側⾯からの光が強⼒であることが望ましく、フロントサイド・シーリング投光室など客席側の照明も明るさを重視すること。ダンサーのためには、舞台の演技⾯の床にポケットは設置しないほうがよい。レヴュー・ショーのためにはカラーチェンジャーを設備したい。 |
3 |
オペラ(オペレッタ、ミュージカルを含む)・新劇・現代舞踊・電気⾳響による歌⼿の リサイタルなど |
⽴体的な舞台装置が多い傾向であるから、ボーダライトは必ずしも必要とはしない。オペラの場合には、舞台装置の⾼さが7.2m(24尺)以上、背景幕は9.0m(30尺)以上であることが多いから、脚⽴などを使って照明器具の位置、⾓度の修正をするのはほとんど不可能である。⾼所で作業のできるポータブルブリッジ・フライブリッジ・ポータルタワーの設備が必要である。光量よりも負荷回路数に重点を置いた設計が望ましく、ことに舞台上部のポケット回路数は多いほうがよい。照明器具もエリプソイダルタイプのものを主⼒とし、プロジェクション・幻燈・特殊効果機などについても⼗分な配慮をすること。 このグループの照明設備にボーダライトを補⾜すれば第2グループの上演種⽬にも適合する。 |
4 | テレビ番組の公開録画など |
舞台前部の鉛直⾯照度が1,000 lx程度あることが望ましい。⼤電⼒の照明器具が多⽤されるから、各所に60A回路を設置するほうがよい。 客席の撮像のために、客席内にテレビ照明⽤のポケットを設置したり、客席の照明と舞台の照明の補強を兼ねて、客席天井に昇降可能のライト・バトンを設置することもある。ただし、上演されているもののテレビ中継については、照明設備として特別なものは不要である。 |
5 | コンサートなど | コンサート⽤の照明は、⾳響反射板にビルトインされた専⽤の照明器具によることを原則とし、フロントサイド投光室・シーリング投光室の⼀部を除いては、舞台照明設備との両⽤は考えないほうがよい。演奏状態の楽員の位置から指揮者への⽬線の延⻑上にある、投光⾓度の⼩さいフロント投光室・シーリング投光室からの照明は、まぶしくて指揮棒が⾒えないという理由で楽員から忌避される。したがって、投光⾓度の⼤きい、⾼い位置の投光室しか、コンサートと舞台照明の両⽤はできない。 |
6 | 講演会・会議など | 特に配慮する必要はない。上記1〜5のいずれの設備でも問題はない。 |