意匠を継承しながら機能の「回復」と「拡張」により、最適な展示空間に​

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広島市現代美術館

1989年、国内初の現代美術を専門とする公立美術館としてオープンし、2023年3月にリニューアルオープンした広島市現代美術館。経年劣化した箇所の「機能回復」と、これからの美術館に求められる機能を追加する「機能拡張」を行い、設計者・黒川紀章による意匠を継承しつつ、新しいスタートを切る美術館に生まれ変わった。照明計画は、徹底した既設照明の調査と実験を行うことで「元の意匠を極力変えない」よう配慮しつつ、LEDならではの機能を持たせる特注器具を設計。多様化する展示空間に対応可能な光環境を実現した。

1F

B-1展示室:既存デザインを踏襲しながら、照明の調整機能を強化。
独自の光学設計で美しい光環境に。

地上1階のB-1展示室は、高さが異なる2つの天井面を持った空間。高い天井側に設置されたトラス型の照明器具が、壁面のウォールウォッシャと床面への配光の2つを担っている。また、間仕切りにより、2つの空間を分けることも可能。様々な展示に対応することが可能となっている。

回転構造のトラス型照明で、様々な展示形態に対応

  • B-1展示室は2つの高さが大きく違う天井面を持つため、それぞれに合った照明を採用。天井が低い側の照明は地明かりにダウンライトを用い、壁面への照明はベースライト型の埋め込み照明にてウォールウォッシュしている。高い天井側にはトラス型の照明器具を設置。照射方向が変更可能な回転構造となっており、壁面展示物への照射と床面への配光の2つを担う。また、1本1本が調光調⾊できる機能で調光・調色システム マルチマネージャーExを用いてタブレットで操作、管理可能。上下で配光・照射方向の異なる光源を組合せる事で、トラスの影が出ない壁面への均一な光を実現した。

直射方式と反射板方式を組み合わせ、均斉の取れた壁面に

  • LED照明は直射⽅式と蛍光灯時代からの反射板⽅式の2タイプを使い分けており、全国的にも珍しい仕様となっている。反射板方式は、独自設計の鏡面反射板を用いることで、展示作品へ過不足なく均一な光を照射できるようになった。また、美術館専用の高演色・調光調色LEDを採用する事で、作品に最適な光色を選択できる仕様としている。

  • 展示室 B-1 推定照度分布図(1)

    G1について:均斉度を表す数値で照射面照度の均一の度合いを最小/平均で確認します。
    G2について:均斉度を表す数値で照射面照度の均一の度合いを最小/最大で確認します。

    設計条件
    展示エリアのG2(最小/最大照度)を0.6以上になるように設計します。

  • 展示室 B-1 推定照度分布図(2)

    設計条件
    展示エリアのG2(最小/最大照度)を0.6以上になるように設計します。

A-1展示室:光ムラがなく、均一に美しく面発光する光天井

改修前から最も天井意匠を変更した展示室。折り上げ天井を光天井にすることで空間全体を均一に照らすことが可能に。内部に直付ベースライトを設置した内照式とし、パネル面と照明の距離を考慮しつつ配置することで、ランプイメージが出ない工夫をしている。調光・調色可能なライトバーを使用し、様々な企画展示の雰囲気に容易に合わせることが可能となっている。

A-2展示室:ルーバーで照明器具の存在感を抑えつつ、天井から光が降り注ぐ空間

天井全体がルーバー照明になっており、天井から光が降り注いでいるような特徴ある展示室。改修前は白色の蛍光灯(4200K)とハロゲン電球(2800K)を併用していたが、調光調色タイプのLED照明器具を用いることで、2700K~5000Kまで作品にあわせて色温度を変更することが可能となった。また、1台ずつの制御が可能なため、様々な使い方に対応できるようになっている。
壁面のウォールウォッシャは縦方向に2灯タイプと1灯タイプを配置し計3段の光源を設置。それぞれの照射方向をうまく調整し、均等な明るさを実現。こちらも1台ずつの制御が可能で、作品ごとに異なる光環境を作ることが可能となっている。

採用照明器具

B1F

A-3展示室:半円形の壁面を均一に照らし、特徴的な展示室を引き立たせる照明

R状の壁面を照らすウォールウォッシャ照明とスタジオ風の天井が特徴的な空間。1台に2灯の光源があるウォールウォッシャ照明は、各光源の角度と光をぼかすバッファを組み合わせることで、均等な明るさを実現。また、横方向の光ムラが出ないよう、照明器具側も光源間のピッチが均等になるように配置。検証を繰り返すことにより最適な光源位置と⾓度を割り出した。天井ルーバーの内部には黒色の直付ダウンライトを用いることで器具が目立たないよう配慮している。

  • 曲面の空間を直線の照明器具で均一に照射するため、シミューレ―ションを繰り返し行った。A4展示室と同じく展示エリアの均⻫度を0.5以上に設定。現場ではシミュレーション時よりもパワーの高い光源を採用。調光率を操作することで壁⾯の上部と下部の明るさの調整を可能とし、より幅のある演出や、さまざまな展示品に対応できる光環境を実現した。

A-4展示室:両サイドをウォールウォッシャで均一に照射した展示室

  • 5000K

  • 3500K

  • 3000K

  • 2700K

壁面はウォールウォッシャ照明で照射。天井面には特注のダウンライト内蔵のシーリングライトを採用。電球色のPWM調光タイプだが、他の調光調色器具同様に、タブレット端末での調光操作が可能となっている。調光は1〜100%まで設定可能。改修前の調光率と同等レベルの調光をおこなうことで、“暗さ”を演出することも可能とした。

照度シミュレーションでは、目線高さで500 lxを確保しつつ、展示エリアの均⻫度を0.5以上に設定した。

B-2展示室:円柱を囲む空間を均一に照らし、展示品の鑑賞に没頭できる展示室に

中央部に円形の壁面がある特徴的な形状の展示室。円形壁面用の照明は壁面間近に設置されていることもあり、この円に沿って器具もR状になったものを使用。また、壁面から照明までの距離がほぼゼロであることから壁面の上部が明るくなりすぎることが懸念された。これを解決するため、器具の内部には非常に長いバッファを用いて壁面上部への配光を大幅にカット。これにより既設の照明よりも均斉度をアップさせ、調光調色により光色の調整も可能とした。既設の建築意匠を重視しながら均斉度をより高める事で、より活用しやすい展示空間となるよう意識した。

採用照明器具

物件情報

所在地 広島県広島市南区比治山公園1−1​
施主 広島市​
設計 黒川紀章建築都市設計事務所
K構造研究所
施工 清水・共立建設共同企業体
電気工事 きんでん
竣工 2023年3月

採用照明器具

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