がいし引き配線の活用でレトロな空間を演出!【特設】
古民家ビフォーアフター

安藤 義孝

がいし引き配線は、昭和30年代ごろまでは低圧屋内配線工事が主流であった。当時の電線は、今のようなビニールではなく布製で覆われていたので、配線の絶縁性能を高めるためにがいし(磁器製のノッブがいし等)を使って電線を造営材(建物の壁や柱、天井など)から浮かして配線をしていた。しかし、直接造営材に固定できるケーブル工事(VVFケーブル等)が登場して以来、がいし引き配線はほとんど用いられなくなった。がいし引き配線が使われる箇所は、主に建物の外部の軒先などの引き込み幹線工事くらいである。
一方で、古民家をリフォームしたカフェなどの店舗において、レトロ感やアンティークな雰囲気を醸し出すために、あえてがいし引き配線を行う現場もある。また、既存の古い建物には、いまだにがいし引き配線が残っている所もあり、その保守や管理も必要である。このことからも、がいし引き配線は現在でも必須の技術であるといえるが、正しく理解し、適切に施工できる技能者が少なくなっている。
そこで、電気工事の原点でもあるがいし引き配線について、古民家のリフォーム事例を踏まえて必要な規定や手順について解説する。

1.がいし引き配線が残っている古民家

具体的な工事方法に入る前に、がいし引き配線が用いられていた時代の電気器具や配線などについて簡単に紹介する。
写真1~4は築60年ほどの古民家で、リフォーム工事の内部解体前に撮られた写真(提供:(株)戸田工務店)である。
この建築物は、天井の板があらわし(現しとも呼び、仕上げ材を使わず露出させること)になっている。1階は化粧の天井、2階は逆に床になり、1枚の板でできている。これを「踏み天井」(写真1)と呼ぶ。昔の家はこのような造りで、電線を配線するにも現在のような天井、壁などに隠ぺい配線するスペースがないため、がいし引き配線(写真2)が主流であった。電線に関しても現在のVVFによる配線はなく、写真3のように布で包んである袋打ちコードによる配線であった。
次に、電線を壁貫通させたいときは「がい管」(筒状の中に電線を通すもの、写真4)で保護する。電線を通してからは、壁の手前と反対側にがい管がずれないようにバインド線で留める。このがい管は電線同士が交差し、干渉するときにも使用する(写真2)。電線2本を上下のがいしではさむものをはさみがいし(写真1、3)という。照明器具を吊る場合、現在はシーリングで吊るが、昔はローゼットという陶器でできた丸いおわん型のものを使用していた(写真2)。
がいしには小ノッブ、中ノッブ、大ノッブ、特大ノッブのほか、はさみがいし、ピンがいしなどがある。これらの材料は、今ではインターネットでも購入可能である。

  • 写真1 踏み天井とはさみがいし
  • 写真2 昔のがいし引き配線、ローゼット、がい管(電線交差部)
  • 写真3 袋打ちコードとVVFをSスリーブで結線
  • 写真4 がい管(壁貫通部)

2.がいし引き配線の各種規定類

がいし引き配線は、「電気設備の技術基準の解釈」(以下、電技・解釈)(第157条等)や内線規程3105節などに規定がある。

(1)施設場所

がいし引き配線の屋内における施設場所は電技・解釈第156条「低圧屋内配線の施設場所による工事の種類」により定められている。「展開した場所」と「点検できる隠ぺい場所」において、それぞれ「乾燥した場所」および「湿気の多い場所または水気のある場所」となる。
また、がいし引き配線の屋側おくそくまたは屋外における施設場所は、電技・解釈第166条「低圧の屋側配線又は屋外配線の施設」に規定されている。雨線内、雨線外ともに「展開した場所」および「点検できる隠ぺい場所」(300V以下)に限る。

(2)配線方法の規定

がいし引き配線は造営材の下面、もしくは側面に取り付ける。ただし、やむ得ない場合は上面に取り付けることができる。
ノッブ間同士の支持の長さは2m以下(1.5m程度が望ましい)、線間同士は6~8cm程度で取り付ける(第1図)
電線と造営材との離隔距離は、使用電圧が300V以下の場合は2.5cm以上、300V以上を超える場合は4.5cm以上であること。ノッブ、またはこれより大型のがいしを使用し、はりから梁に飛ばす場合などは原則として6m以下とする。電線が造営材を貫通する場合に使用するがい管などの両端は造営材から1.5cm以上突き出すこと。
現在では袋打コードは使用せず、主にビニル絶縁電線を使用する。また、電線の太さに応じてバインド線の太さも変わるので、注意が必要だ(第1表)

第1図 がいし引き配線の支持点間距離および離隔距離
第1表 バインド線と使用電線の関係

3.具体的な工事方法

ここでは、がいし引き配線の具体的な工事方法について解説する。

(1)材料の準備

まずは、がいし引き配線で用いる材料を準備する。主に、ノッブがいし、木ねじ、バインド線、そして敷設する電線となる(写真5)

(2)ノッブがいしの取り付け

次に、ノッブがいしを造営材に取り付ける(写真6)。ノッブがいしを握り、がいしに適した木ねじをがいしの穴に通す。ドライバでねじを押しながら、ねじの先端を造営材の取り付け位置にあてがう。この際、ねじと取り付け場所が直角になるように注意すること。ドライバでねじを強く押しながら、時計回りに回して締めていく。
なお、化粧梁(見せ梁ともいい、デザインのための梁)でもまっすぐな梁から曲がりくねった梁までいろいろある。まっすぐな梁に施工した場合は、見た目もきれいで施工もあまり難しくないが、凹凸のある梁はノッブを留める場所などを考えなくてはならない(写真7)

  • 写真5 がいし引き配線の材料
  • 写真6 ノッブがいしの取り付け
写真7 ノッブがいし(全体)
写真8 引留バインド工法と通りバインド工法

(3)がいし引き配線の工法の種類

ノッブがいしを造営材に固定できたら、次はバインド線を使って電線をノッブがいしに固定する方法を解説する。
がいし引き配線の工法には、「引留バインド工法」と「通りバインド工法(片たすき)」がある(写真8)
前者は電線の最初と最後、および力の加わる所などで使う工法である。後者は引留のノッブがいしから延線してきた電線を次のノッブがいし(約1.5m離す)に支持するための工法である。

最後に

私(著者)は22歳から電気工事に携わり、28歳で独立して現在に至っています。昭和30年代ごろまではがいし引き配線が主流で、私が電気工事を始めた40年ほど前には、もうすでにがいし引き配線はなくなってVVF配線に代わっていました。しかし、建物の外部の軒先などに、がいし引き配線による引き込み幹線工事などはいくらか携わっていました。また近年、アンティークな味わいを出すためにがいし引き配線をする機会もあります。
これらの経験をもとに、今回、解説記事を執筆しました。がいし引き配線は、すでに絶滅危惧種のような古い技術ではありますが、まだ確実に需要はあります。この解説記事で一人でも多くの若い技能者に、この技術を継承していければと考えています。
また、執筆に協力くださいました(株)戸田工務店の戸田由信氏(愛知県古民家再生協会理事長)には、この場を借りて感謝申し上げます。

(有)アンシン電工(アンドウ ヨシタカ)

電気と工事2019年3月号

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