直射日光を遮る工夫をしよう
気象庁から発表される観測データは「露場」という芝生の上で、日差しなどの放射熱を遮った状態で秒速5m程度の風を強制的に流した条件で気温や湿度を観測しています。それに比べて建築現場などは、直射日光や建物からの輻射、地面からの反射などがある厳しい環境のケースがあります。特に直射日光を遮へいできない日中のアスファルト舗装面などは高温となるため、作業者の体感温度は、さらに高くなるでしょう。
環境省によると、子どもや車いすの人を想定した「50cmの高さ」は、大人を想定した150cmの高さと比較するとWBGT値が平均で0.1~0.3℃高いことがわかっています。さらに風が弱く、日射が強いときには2℃程度高くなった事例もあるようです。そのため日中に日光を遮ることができない現場で、しゃがんだ状態で作業を行う場合は注意が必要です。
汗の気化を促す
人間の体温を下げるには気化熱を利用した冷却が効果的です。そのため、透湿性が高く乾燥しやすい素材のシャツ、ファン付きジャケットなどを着用して汗の気化を促しましょう。また、一般に電気用ヘルメットは感電防止の観点から通気孔がないため熱がこもりやすい設計になっています。しかし、最近の製品のなかには安全性を担保しつつ風が抜けやすい構造を採用したものもあるので検討してみてもよいのかもしれません。そのほか、充電工具のバッテリーを活用した「工事用充電扇風機」の活用も効果が期待できます。こうした熱中症対策アイテムを組み合わせて使用することで対策を強化しましょう。
現場事務所など休憩場所の整備をしよう
作業により上昇したWBGT値を下げるには休憩時の工夫も必要です。
高温多湿な作業場所の近くには冷房を備えた現場事務所や仮設テントなど直射日光を遮る涼しい休憩場所を設けます。休憩所には製氷機やクーラーボックスなどを活用して氷や冷たいおしぼりを用意します。さらに、屋外の休憩所ではスポットエアコンや扇風機に加えてミストシャワー「グリーンエアコン」など身体を冷却できる設備もあるとよいでしょう。
また発汗すると体内の水分と塩分、ミネラルなどが奪われるため、冷たいスポーツドリンクなども用意して補給しやすい環境を整備してください。
水分、塩分の補給の目安
作業場所のWBGT値が基準値を超える場合は、少なくとも、0.1~0.2%の食塩水、または、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンク、もしくは経口補水液などを20~30分ごとにカップ1~2杯程度の摂取することが望ましい、とされています(身体作業強度などに応じて、さらに摂取量が必要なケースもあり)。
エアコンを使用しよう
熱中症予防にエアコンの活用は有効です。現場事務所など使用が可能な場所では積極的な利用が望ましいでしょう。ただし、家庭用エアコンの多くは新型コロナ対策に必要な換気機能が備わっていないことに気をつけましょう。暑い日などは、冷気が外部に逃げないようにと換気がおろそかになるケースも考えられます。エアコンの設定温度を下げるなどの調整をして、定期的な窓の開放や換気扇を活用して対策しましょう。 また、次亜塩素酸空間除菌脱臭機や殺菌灯などの除菌アイテムの併用を検討してもよいのかもしれません。
休憩時も体調の確認をしよう
休憩時は体温計や体重計などで体温の上昇の有無や脱水による体重の大幅な減少がないかなどを確認しましょう。なお、以下のケースに該当する場合は、熱のばく露を避けることが必要とされている兆候が表れている状態です。
- Case1.
- 心機能が正常な労働者の1分間の心拍数が180から年齢を引いた値を超える状態が数分間継続する。
- Case2.
- 作業強度のピークの1分後の心拍数が、120を超える。
- Case3.
- 休憩中などの体温が、作業開始前の体温に戻らない。
- Case4.
- 作業開始前より、1.5%を超えて体重が減少している。
- Case5.
- 急激な激しい疲労感、悪心、めまい、意識喪失などの症状が発現した。
作業者の管理を徹底しよう
作業などに集中した状態では、のどの渇きを感じにくいことや「トイレが近くなるので水分補給を控えよう」と思うこともあるでしょう。管理者は、作業の前後や作業中の定期的な水や塩分の摂取を指導します。そして、巡視などを実施して各作業者の健康状態を確認します。熱中症が疑われる兆候がある人を発見した場合は、速やかに休憩などの必要な措置を講じます。
熱中症への対処方法
環境省HPにある「Ⅱ熱中症になったときには」における「3.熱中症を疑ったときには何をするべきか」「4.医療機関に搬送するとき」を参考に対策をまとめます。
身体を冷却する
重症者の救命のカギは、「体温をどれだけ早く下げられるか」にかかっています。熱中症が疑われるときは、自力で対応できないケースもあります。そのため、管理者もしくは周囲にいる人は、熱中症の人(熱中症を疑われる人も含む)のベルトを緩めます(腰道具を装着している場合は、胴ベルトも取り外す)。そして衣服を脱がせて、熱の放散を促した状態で露出させた皮膚に濡らしたタオルをかけて扇風機などで風を当てて身体を冷やします。冷やした水のペットボトル、ビニールに入れた氷(氷のう)等を首の付け根、脇の下、大腿の付け根の前面、股関節部に当てて血液を冷やすことも効果的です。そのほかにも服や下着の上から少しずつ冷やした水をかけて冷却する方法もあります。
こうした身体の冷却は、救急車を要請する場合でも到着前からの開始が必要です。
水分を補給させるときの注意点
「呼びかけや刺激に対する反応がおかしい」「意識障害がある」など自力で水分補給できないときに、無理に摂取させると誤って気道に流れ込む危険があります。また「吐き気を訴える」「吐く」症状が見られるときは、すでに胃腸の動きが鈍っているため口からの水分摂取は禁物で病院での点滴による補給が必要です。
日ごろの健康管理も忘れずに
対策を心掛けていても、体調や持病など、さまざまな要因が日射病を発生しやすくします。
特に夜ふかしによる睡眠不足、前日の飲酒、朝食の未摂取、風邪などによる発熱、下痢などによる脱水などの体調不良や糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全などの疾患は、熱中症の発症に影響があるおそれがあるといわれています。持病などがある場合は、事前に管理者などに報告して作業内容、場所を検討してもらうようにします。そして、管理者は産業医などに相談して適切に対処してください。