2022年12月号 環境に配慮した天然ガスを利用しZEBを実現。
地域の防災拠点として事業継続性を向上。岡山ガス株式会社様[岡山県岡山市]

  • 谷 征純様

    岡山ガス株式会社
    取締役総務部長
    谷 征純

岡山ガス株式会社様は1910年に岡山の地に創業。
以来110年以上、岡山県内で都市ガスを供給されてきたインフラ企業です。
2021年11月に、同社は地上5階建て・延べ床面積約4,000㎡の新本社ビルを竣工。
同社の主要取扱商品であるガスを活用し、BELS認定(ZEBReady)を取得したオフィスビルとして、県内外の注目を集めています。ZEBリーディングオーナー及びZEBプランナーとして、「ガスでもZEBが可能であること」を証明した同社の取り組みについて、お話を伺いました。

屋根に設置されている太陽光発電パネル

国土交通省が定めた「建築物の省エネ性能表示のガイドライン」に基づく第三者認証「BELS」の最高ランクを獲得。

1階の受付にはコジェネレーションシステムによる発電量、太陽光発電による発電量を示すモニターを設置し、来訪者にアピールされています。

※BCP…災害などの緊急事態における企業や団体の事業継続計画(Business Continuity Planning)のこと。企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、 事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと。

先例がほとんどないガスでのZEB認定にチャレンジ

岡山市内を流れる旭川沿いに位置し、スタイリッシュな外観が印象的な岡山ガス様の新本社ビルは、この地におけるシンボル的な存在である旧本社ビルのすぐそばに建てられています。
1973年に建設された旧本社ビルは老朽化が進み、現行の耐震基準も満たしていませんでした。インフラ事業を担っていることから24時間体制で社員が常駐。地域の防災拠点でもあるため、耐震化は必須でした。当初は耐震改修も検討されましたが、課題となっていたBCP※対策や、社員の働き方改革なども踏まえ、遊休地での新社屋建築が決定しました。
階建てのビルの1階部分には、社員の方々の安全や災害時のBCP対策を考慮し、エントランスと会議室・応接室を配置。社員が働く執務室は2階~4階に集約し、5階には講習会などに使用するホールを設けています。
プランニング段階からZEBへの取り組みを行い、断熱材やLow-Eガラスを採用するなどして、ビル全体の外皮断熱性能を強化。空調機器にはパナソニックのガスヒートポンプエアコン(GHP)や廃熱回収吸収式冷凍機(ナチュラルチラー)ジェネリンクなどを導入し、空調にも給湯にもガスを利用するガスコージェネレーションシステムを構築。全国的にも珍しいガスエネルギーを主体にしたZEB運用を実現されています。さらに創エネ・蓄エネ面では、パナソニックの太陽光発電と蓄電池を採用。ビル全体の電力・動力・照明設備などを、ビルディング・オートメーションシステム「WeLBA」により監視・制御し、設備運用の一元管理による省エネ化・省力化を図っておられます。
こうしたZEBへの取り組みには、当初からパナソニックがZEBプランナーとして参画。2021年1月、岡山ガス様は建築物省エネルギー性能表示制度の「BELS評価」において、「ZEB Ready」の認定を取得されました。
一般的にはすべて電気にした方がZEBを達成しやすいのでしょうが、我々はガス会社であり、ガス空調やガスコージェネレーションシステムは非常に重要な販売品目です。今後はオフィスビルにZEBが増えることが予想でき、ガスがその対象から外れてしまうことに危機感を持っていました。ガスでのZEB認定は我々にとって敢えての挑戦であり、チャレンジングな取り組みでもありましたが、ガス空調やガス給湯にすると、災害時に停電が起きても使うことができ、BCP対策にもなるというメリットがあることも、同時にアピールしたかったのです」。
と、同社取締役総務部長の谷征純様。さらに、ガス機器から再生可能エネルギー関連機器、LED照明器具まで、多くのパナソニック製品を採用された理由を、谷様は次のように説明されます。
ガス空調ひとつ取り上げても、パナソニックはガスヒートポンプエアコンやジェネリンクをオールラインアップで持っており、ひとつのパッケージに取りまとめることができます。そのうえ、LED照明やビルディング・オートメーションシステムもありますので、ビル全体をすべてお願いできる点が、いちばんよかったですね」。

WeLBAによりビル全体の設備をコントロールし快適な労働環境を維持

働く環境を支える照明や空調機器は、ビル全体を「WeLBA」によりコントロールされています。照度計や温湿度計を組み合わせることにより、照明や空調の無駄をなくし快適さを保ちます。空調には足元から冷気や暖気が染み出すように吹き出るダクト空調を採用し、出勤時間に合わせてタイマーでオン・オフされています。
「ZEBに取り組んでいる我々が狙うのは、もっとも効率よく空調ができるギリギリのラインです。足元から染み出す空調は場所による温度ムラが少なく、外皮性能の高さもあって効果的に適温を保ちます。また、当ビルの執務室は地震等で天井が落ちてこないよう、天井材を張っていません。その分、空間が広くなるため、上からの空調だとコントロールが難しくなると考え、床からの染み出し空調を選びました。暑さ寒さのない快適な環境は働きやすさに直結し、とても好評です」。

足元から冷気や暖気が染み出すように吹き出るダクト空調。
フロアカーペットの小さな穴から染み出す仕組み。

インフラ企業として災害時には防災センターの役割も

岡山ガス様はインフラ企業であるため、新本社ビルには「災害に強い建物」というコンセプトもあります。万一、岡山に災害が発生したときには近隣から応援要員を受け入れ、防災センターの役割を果たすべく、50インチ×8面のシームレスモニターを設置。マンホールトイレ、雨水タンクなどの防災設備も豊富に備えており、「お客さまの安全で快適な暮らしの創造に貢献する」という岡山ガスグループ様の基本理念が、このようなところにも発揮されています。

パナソニックの50インチシームレスモニターを組み合わせてご使用。
(左)中央指令室:12面、(右)災害対策本部:8面

各方面から見学希望が絶えないガスによるZEBのインパクト

岡山県は「晴れの国」と称されるほど、全国的にも晴天率が高いことで知られています。その岡山において、「ガスでもZEBは可能である」ことを証明された岡山ガス様には、各方面から注目が集まっています。日本ガス協会様からは今回の取り組みについて大変高い評価を受け、見学の申し込みが多数。日本建築士事務所協会様からも見学の希望が届いています。新本社ビルの建築には地元のゼネコンやサブコン、設計事務所、コンサルタントなど、さまざまな建築関連業者が携わられましたが、こうした協力会社様の間でも施工中・施工後に多くのスタッフの方々が見学に来られたり、若手社員の教育の場にも使われていたとおっしゃいます。
「ZEB関連の設備等に、大変興味を持って見学していただいています。少しでも多くの方に見ていただくためにも、今後いかに維持するかが課題です。また、外部の方の目が入った方が、社員も設備を丁寧に使用すると思います。こうした先進のビルで働くことで、省エネの意識づけが自然にできますし、ZEBの知識もレベルアップしていけるのではないでしょうか」。
ZEB導入効果を計測する試みも、今まさにスタートしたところです。「まだ各種機器の細かな活用方法をいろいろ試すところまでには至っていませんし、データ蓄積や分析も我々だけでは難しいところです。パナソニックにはぜひ、その辺りのメンテナンスのアドバイスや、データの分析方法などを教えていただきたいですね。また、ビル・オートメーションシステムの活用についても、我々はまだまだ未熟ですので、今後も手厚いサポートを期待しています」。

県内のZEB推進に先例企業として貢献したい

ZEB取得後、岡山ガス様はZEBリーディングオーナーだけでなく、今回の経験を活かしてZEBプランナーにも登録されました。その背景には、我々だけがZEBを取得して終わりにしたくない。今後岡山でZEBに取り組む企業のバックアップや、先例企業としてアドバイスができる機会を増やしたい、という想いがあるとおっしゃいます。
「県内のZEB認定は数が少なく、“まだまだZEBなんて”とおっしゃる地元の企業様やビルオーナー様が少なくありません。そういった方々にも当ビルを見学していただき、県内の採択事例が増えていってくれれば、当社もZEBを取得した甲斐があったと思います。
当ビルが先例となり、ガスでもZEB取得が可能であることを近隣のガス会社様や設計事務所様にもお伝えしていきたいですね。ガスでも、ガス+電気でも、環境にやさしいZEBが増えていけば、こんなにうれしいことはありません。電気設備工事もZEBとは切り離せないものですので、ぜひいろいろな知見や技術をお持ちの電気工事店様にZEBに興味を持っていただきたいですね」と語ってくださいました。

左からパナソニック岡山電材営業所松平、岡山ガス谷様、パナソニック岡山電材営業所所長横山、川本

岡山ガス様新社屋にて採用されているパナソニック製品

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