【NEXT技術】
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の可能性

カーテンウォールへの導入イメージ

  • 吉田 成男様

    パナソニック ホールディングス株式会社
    技術部門 テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター
    1部1課 課長(Ph.D.)
    松井 太佑

2050年カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの普及が不可欠です。
その代表格ともいえる太陽光発電ですが、普及拡大には設置に関する課題があります。
普及拡大の切り札と注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池。
今回、パナソニックで開発している「ペロブスカイト太陽電池」の最前線について、ご紹介します。

ペロブスカイト太陽電池とは?

太陽電池には、大きく分けて「シリコン系」「化合物系」「有機系」の3つの種類があります。現在流通している大半は「シリコン系」ですが、重量があるため一部の工場や倉庫、住宅の屋根などには設置が難しいことや、積雪地域や日射量の少ない地域では一年を通して安定した発電量を得られない、といった課題がありました。また山が多く平地が少ない日本では設置面積の不足や、景観の問題などもありました。
これらの課題を克服する化合物系の素材として注目を浴び、研究開発が進められてきたのが、ペロブスカイト太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイト構造※1の化合物薄膜を発電層とする太陽電池モジュールです。
パナソニックでは業界に先駆け研究開発を進めてまいりましたが、インクジェットによる大面積塗布法の技術を用いて作製したペロブスカイト太陽電池モジュール※2が、2020年に世界最高のエネルギー変換効率17.9%を達成※3。ここから実用化に向けての開発が一気に加速しました。

※1 結晶構造の一種。ABX3型の有機-無機のハイブリッド構造。
※2 開口面積802cm2:縦30cm×横30cm×厚さ2mm
※3 2020年7月現在。本成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果から得られたものです。

ペロブスカイト太陽電池モジュール

パナソニックのガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の特長

建物一体型太陽電池はBIPV=Building Integrated Photovoltaicsと呼ばれ、現在、世界中でしのぎを削って開発をしています。パナソニックが開発中のBIPVであるガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の最大の特長は、前述のとおり世界最高レベルの発電効率にあります。また、従来のシリコン系太陽電池に比べ、製造時のエネルギー消費が少なく、ライフサイクルでの視点では、製造時に使ったエネルギーを発電で回収できる時間が短いことも、大きな特長です。
そして実用化にあたっての最も重要な3番目の特長は、水分・酸素を通さないガラス基板に直接塗布することで、ガラス建材として長期間の利用が可能で、発電効率を長期間維持できることにあります。目標としては、20年後もシリコン系太陽電池と同等の80%を維持できるよう開発を進めています。インクジェット技術やレーザー加工技術を用いることで設計の自由度も高くなり、サイズや透過度、グラフィックパターンなど、さまざまなカスタマイズも可能になります。
こうした高度な技術開発が可能であった背景には、パナソニックには三洋電機時代からの研究開発を含めて太陽電池の開発に50年近くの歴史の蓄積があります。また、有機ELディスプレイの大型パネル開発で培ったインクジェット技術やレーザー加工技術など応用できる技術があったことも大きな要因でした。また、ハウジングソリューションズ社やエレクトリックワークス社、パナソニック環境エンジニアリング(株)といったグループ会社を持ち、連携しながら開発が可能であったことも欠かせませんでした。

ストライプやグラデーション、透過度を変えることで多様なデザインが可能に。

Fujisawaサスティナブル・スマートタウン内で長期実証実験を開始

昨年、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプ※4を開発し、三井不動産レジデンシャル株式会社様のご協力のもと、技術検証を含めた1年以上にわたる長期実証実験を、神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下、Fujisawa SST)内に新設されたモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURTⅢ」で開始しました(実証期間は2024年11月29日までの予定)。
実証実験を通して、目隠し性と透光性を両立させたデザインとともに、長期設置による発電性能や耐久性などの検証を行いながら、事業化に向けた技術開発を加速します。このガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池を、まち・くらしに調和する「発電するガラス」と位置づけ、再生可能エネルギーの創出(ZEB化促進)と都市景観の調和を両立し、まち・社会全体でのカーボンニュートラルの実現に貢献していきたいと考えています。

※4 ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池プロトタイプの仕様:設置するバルコニーサイズ:W3,876mm×H950mm。ここにグラデーション状の透過型のペロブスカイト太陽電池を配置

バルコニーへの設置の様子。

複層ガラス化(左)、合わせガラス化(右)イメージ

レジリエンスの向上や不動産価値の向上にも貢献

ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、ZEB化促進により環境面と経済面の両面で貢献できると考えています。再生可能エネルギーの活用で電気代を削減でき、創エネによってZEBや環境認証などの取得の一助となる可能性もあります。
また、停電時にも再生可能エネルギーを活用できるため、レジリエンスの向上にもつながることで、不動産価値も高まると考えられます。

5年以内に量産化へ。配線工事には電気工事会社様のお力添えが必要に

パナソニックでは5年以内にガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の量産化を目指しています。
建材でありながら電気の配線工事が不可欠なため、施工の際には電気工事会社様の知識と技術力を必要とします。特に既築建築物への導入には、サッシへの配線経路をいかに確保するかなどの課題があります。電気工事会社様にはこうした施工面において、今後お力添えをいただきますようお願いいたします。

情報リンク

ペロブスカイト太陽電池特設サイト 
https://tech.panasonic.com/jp/pv/

Fujisawa SSTでの実証実験について 
https://news.panasonic.com/jp/press/jn230831-1

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