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欧州市場向けにヒートポンプ式温水暖房機(A2W)の業務用タイプを
新たに開発。脱炭素社会に向けた取り組みを拡大。
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パナソニック株式会社 空質空調社
HVAC欧州事業部 事業推進室
室長(兼EHP課 課長)
渡部 岳志
カーボンニュートラルの実現に向け、世界各国でさまざまな取り組みが加速する中、欧州市場においてヒートポンプ式温水暖房機(A2W)の需要が伸びています。
パナソニックは既存の戸建て住宅用に加え、2024年11月に業務用も発売しました。
欧州市場で需要が持続的に拡大するA2W(Air to Water)
パナソニックの空質空調社では、2024年11月、集合住宅や店舗、オフィスなどの中規模建築物を対象とした業務用ヒートポンプ式温水暖房機(Air to Water、以下、A2W) 「Aquarea T-CAP M Series 20、25、30kW」を発売しました。本誌にて2022年にも取り上げた戸建て住宅向けに加えて、非住宅市場を含む幅広いお客様のニーズに対応します。
A2Wは、大気中の熱を集めて熱交換で温水をつくり出し、建物に循環させることで暖房するシステムです。欧州ではボイラー式の暖房機が主流でしたが、A2Wは数倍以上の効率が良いヒートポンプ式によりCO2排出量を抑えることができ環境への負荷が少ないだけでなく、ランニングコストも低減できるため、欧州において需要が伸びています。2024年はガス料金の値下げや補助金終了の影響でピーク時よりは落ち込んでいますが、2030年までに300万台に拡大すると見込んでいます。
システムエア社をパートナーとし他社と差別化。
日系メーカー初、自然冷媒を採用
空質空調社はスウェーデンの大手空質空調機器メーカーであるシステムエア社の空調事業部門※1を買収しました。同社は欧州における業務用市場および水循環型空調機器に強みがあります。また、同社は環境へ配慮した製品開発に長けており、自然冷媒採用の実績があります。A2Wにはエアコン同様に冷媒が使用されていますが、欧州では冷媒に対する環境規制が進んでいるため、システムエア社とタッグを組むことで、欧州市場に適応した製品をすばやくお届けすることが可能になります。
その第一弾として2023年5月には、日系メーカーとして初めて自然冷媒を採用した住宅用のA2Wを発売しました。住宅用は3kW~16kWの6種の展開ですが、今回、大幅に暖房能力を高めた20、25、30kWの業務用を新たにラインアップしました。集合住宅や中規模建築物までカバーできる自然冷媒を採用した日系メーカー初の業務用のA2Wとなっています。
室外機に水熱交換器を配置するA2Wは室外機のみで冷媒を循環させるため、使用する冷媒の量自体が少ないのですが、今回の新製品では自然冷媒「R290」を採用しており、極めて温室効果が低いタイプです。従来の製品で使用していたHFC冷媒「R32」も、オゾン層破壊係数※2がゼロ、GWP(地球温暖化係数)※3が675で、環境負荷は比較的に低く、今も空調機の主流の冷媒として使用されています。しかしながら、環境意識の高い欧州では冷媒規制が厳しく、多くのA2Wは2027年よりGWPが150以下の冷媒しか使用できなくなり「R32」も使えなくなります。そこでGWPが3と極めて低い自然冷媒「R290」を早期導入し、他社との差別化をはかりました。
「R290」の成分はプロパンであり強燃性冷媒のため、万が一漏えいした場合の安全設計が必要であり、当社ではそのノウハウを持つシステムエア社とともに安全性を十分配慮した製品作りを実現しました。
※1 システムエアS.r.l.、テクネアS.p.A、システムエアAC SAS。それぞれフランスとイタリアに本部がある。
※2 冷媒R11を基準値とした場合、大気中に放出された単位重量あたりの物質がオゾン層に与える破壊効果を相対値として表した値。
※3 二酸化炭素を基準にして、ほかの温室効果ガスがどれだけ温暖化する能力があるかを表した値。
欧州の建物事情や景観に配慮した
コンパクトサイズとカラーリング
今回の新製品の大きな特長はコンパクト性とデザイン性です。まず、大容量の30kWまで横吹きスリムシャーシを採用し業界トップクラスの設置面積最小化を実現しました。限られたスペースでも設置が可能になることと、景観を大切にする欧州においては見た目のサイズ感がデザイン要素としても重要視されます。
また、欧州では冬季の寒さが厳しい地域が多いため、コンパクトでも強力な暖房能力を維持するために、専用のコンプレッサーとファンを新規開発し、マイナス15℃まで暖房能力を維持できるようにしました。インジェクション付きスクロールコンプレッサーの採用により横吹きスリムシャーシのコンパクト性と低外気暖房性能確保を両立させています。
デザイン面でのもうひとつの特徴が、カラーリングです。欧州では、建物のデザインだけでなく、建物の周りに置かれる設備にも親和性が強く求められます。これまではベージュだった室外機の色を、昨年発売の住宅用A2Wより採用したマットなダークグレー色が非常に好評であったため、これを踏襲しています。
脱炭素化実現のため、近い将来、国内でも自然冷媒を使用する流れに
欧州はかつては夏は涼しく冷房がいらない地域が多かったですが、地球温暖化により冷房が必要となる地域も増えています。A2Wは、暖房と冷房のサイクルを逆にすることで冷房としての使用も可能で、その点においてもボイラー式よりもメリットがあり、新築だけでなく、リニューアル需要においても、当社のA2Wへの置き換えが可能な市場と見ています。
欧州向けA2Wに採用されている自然冷媒は、いずれは日本国内のエアコン市場にも応用される日が来ます。またヒートポンプは脱炭素社会に貢献できる有力な技術であり、今後も幅広く普及が進むものと期待されます。電気工事会社の皆様には施工面での更なるご支援をお願い申し上げます。
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