AI・GX社会に向けた電材業界の未来~エッセンシャル技術技能職の時代の始まり~

全日本電設資材卸業協同組合連合会 会長
小島電機工業株式会社 代表取締役社長
小島 寿之様
近年、生成AI(人工知能)の発展は著しく、各産業のさまざまな職種・職域に影響をもたらしています。
電材業界では、真の「働き方改革」実現に向けて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。
さらに、新たに取り組むべき課題として、GX(グリーントランスフォーメーション)も顕在化してきました。
こうした外部環境の変化と共に、業界を担う経営者や人材の確保といった内部環境における課題に対し、
電材業界はどのように未来を切り拓いていくべきなのでしょうか。
全日本電設資材卸業協同組合連合会の小島会長に、お話を伺いました。
若手経営者が中心となって環境を俯瞰
将来を見据えてアクションプランを策定
まずはじめに、全日本電設資材卸業協同組合連合会様(全日電材連)の概要について、教えてください。
小島様:
当連合会は、電気設備材料の製造会社の販売窓口として、また、電気設備工事会社との橋渡しとして、商品の流通、商品情報の提供、信用の供与といった卸機能を持った電設資材卸会社の、各都道府県の組合の全国組織として、昭和48年に任意団体として発足し、昭和58年に法人化しました。
2025年11月現在、全国11のブロックに29の組合があり、所属している組合員数は685社、本社数483社です。会員のために必要な共同事業を行い、電気設備工事に必要な資材、機械器具および関連材料の販売に従事する電設資材卸会社の運営に関わるさまざまな総合調整指導、および情報の収集、ご提供等の活動を通じて、会員の経済活動の自主性を重んじつつ、社会的地位の向上を図ることを目指しています。
目的を達成するために「総務」「市場活性」「経営」「広報」「次世代プロジェクト」の5つの委員会を組織し、業界課題の解決に向けた事業を推進しています。
中でも「次世代プロジェクト委員会」は、平成30年に私が副会長の時に「SIプラス委員会」から名称変更し、平成28年に立ち上げた「若手経営者の会」のメンバーを中心として将来ビジョン策定のために発足されました。そして令和2年に策定したのが「アクションプラン2030」です。
アクションプラン2030について、詳しく教えてください。
小島様:
アクションプラン2030は「WAKU WAKU DENZAI」のスローガンを掲げ、2030年に向けての事業指針の立案です。2050年カーボンニュートラルや生成AIの台頭をはじめとする電材業界を取り巻く外部要因と、電力の自由化やECなど商流の変化といった業界内部要因を、経営的観点から俯瞰し、10年後、20年後の次世代の働き手たちが集い活躍できる、魅力的で持続可能な業界の創出を目指しました。
「WAKU WAKU DENZAI」の「WAKU WAKU」とは、業界・組織への愛着が高まって気持ちがワクワクする意味と、業界の需要が高まって「仕事が湧く」を掛けています。重点施策を成長拡大戦略と安定戦略から考え、製品単体の販売から、省エネ・SDGs関連、脱炭素商材の提案営業といった、ソリューションビジネスに転換しました。また、業界の知名度向上、市場規模の拡大、工・製・販の連携強化といった3つの方向性を掲げました。このアクションプランを通じて、若手経営者が中心となって、将来に向けた需要と成長性、継続性が高いインフラ市場を担う電材業界の未来の構築を試みています。
「W」は人を表現。
どのような支援策がありますか。
小島様:
代表的なものが機関誌「NEW WAVE」の発行です。設立の翌年から発行してきましたが、時代の流れに即して内容を刷新し、最近では、各賛助メーカー様にSDGsへの取り組みについて、毎月インタビューさせていただき、掲載しています。
また、近年特に力を入れて取り組んでいるのが「ワクワクYouTube」です。こちらは研修動画になっており、パナソニック エレクトリックワークス創研株式会社と協力して制作しています。以前はリアルで研修会を行っていましたが、地方の会員の方はなかなか参加できませんでした。動画ですと、いつでもどこででも視聴していただくことができ、大変好評です。また、内容も旬のものだけを十数本残すことにして、古いものは順次削除しています。
「若手経営者の会」には、30代から50代後半までの約100名が入会されています。定例会にはWEBでの参加も可能で、毎回70名ほどが参加しています。「うちはこんな取り組みをしている」といった声を出し合って、研修会で講師となって事例発表をしてもらっています。例えば最近では、社内でのAI活用事例を発表してもらいました。
かつては自社のノウハウは社外に出したくないという風潮でしたが、今は「共有」「共創」の時代です。一緒に業界全体を盛り上げていく気風に時代が変わってきていますし、またそうでなければなりません。
全日電工連とも定期的に情報共有
「eスポーツ大会」で人材確保に成功
情報共有は、全日本電気工事業工業組合連合会様(全日電工連)とも交流されているとお聞きしています。
小島様: 全日本電気工事業工業組合連合会様とは、とても仲良くお付き合いをさせていただいています。年に1度、リアルで交流会を行い、3カ月に1度、WEB会議を行っています。人材不足など共通の課題が多いため、成功事例を互いに共有しています。
人材不足解消へのお取り組み事例がありましたら、お聞かせください。
小島様:
「WAKU WAKU DENZAI」の活動の一環として2023年から始めたeスポーツ大会「DENZAI CUP」は、これまで3回開催しましたが、大変好評で結果を出し始めています。
eスポーツ大会を開催することにより、全日電材連の社員同士のコミュニケーションの向上を図り、出場社員の社内での存在価値を高め、また、社内の活性化につなげることが狙いです。きっかけは、山陰パナソニック株式会社様が、社内のクラブ活動として2020年にeスポーツ部を立ち上げられたことで、若手とベテランの交流が深まり、人間関係が円滑になったり、人材確保にもつながっているというお話をお聞きしたことです。今や高校や大学にeスポーツ部がありますので、対戦相手にもなれ、交流がきっかけで就職にもつながっています。
次に、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)等、業界でのDX推進についてお聞かせください。
小島様:
EDIについては20年以上前から取り組んでいたものの、業界としてあまり進んでいませんでした。冒頭にお話した「次世代プロジェクト委員会」の中で先進事例として取り上げた四国の宮地電機株式会社様が構築された仕組みを標準コードとして共有することで、少しずつ浸透してきました。
今年は東北地区の4社で試験的に実施し、どれだけ業務効率化につながるかを検証し、それを共有することでDX推進につなげていきたいと考えています。
これからの電材卸業の役割とは
今後の電材卸業の役割について、ご意見をお聞かせください。
小島様:
電材業界は、工・製・販の3つでひとつの業界と考えています。「工」と「製」を結ぶのが「販」です。電気工事業の方々が技術者として電気工事に専念できる環境づくりが電材卸業の役立ちであり、商機です。そのために重要なことは、市場でさまざまな需要が潤沢に回っていることであり、新築着工数が減少傾向に向かう現在、業界として、リニューアル需要を主体としたご提案がその肝であると認識しています。
今年は来年の蛍光灯生産終了を目前に控え、照明器具のリニューアル需要が既に昨年以上に大幅に増加しています。我々としては、双方に付加価値のある照明器具一体でのご提案や、照明器具と他の商材を一緒にご提案することで電気工事会社様の元請け単価アップにつなげたいと考えます。昨年11月11日の「配線器具の日」にパナソニックが「でんきの設備でeくらし」をリリースしましたが、反響が大きかったです。新築住宅着工数が減少するなかで、1軒あたりの電気設備の単価アップにつながりますし、施主様のお困り事を未然に解決することにもつながります。
また、DXなどで電気工事会社様の業務効率化のお手伝いをさせていただいたり、電気工事会社様で人手が足りない時は、我々が下請けに入るといったお手伝いもさせていただいております。
最後に、業界の未来像について、お聞かせください。
小島様:
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、今後ますます法改正や補助金制度により、電材業界は需要の拡大が予想され、とてもポテンシャルの高い業界であると考えています。直近では、前述のいわゆる蛍光灯の2027年問題もそうですし、変圧器(トランス)のトップランナー方式採用も然りです。また、ZEB・ZEHに関わる省エネ法の改正やリニューアル促進政策、創エネ・電化促進、インフラ保全、レジリエンス対応など、さまざまな需要の追い風になります。データセンターや半導体工場などAI関連の建設需要や設備投資も当面は旺盛な状況です。また、別の側面から見ても、電材業界は将来性の高い業界です。
昨年頃から、生成AIの浸透が進む欧米では、オフィスワークから現場・技術職へ転職する「キャリア転換」がトレンドとなっています。この背景には、生成AIによる業務の自動化で一部の業務職に余剰人員が増えてきたこと、一方で現場技術者の慢性的な人手不足の拡大が挙げられます。
アメリカでは、生成AIに代替されにくい熟練した配管工、電気技術者、建設従事者などの中で年収1,000万円を超える人々も現れ、「ブルーカラーミリオネア」という言葉も生まれています。
かつては土日勤務や長時間労働など過酷な労働環境によって離職する人々も多かったですが、業界では近年、エッセンシャルな技術技能職として見直されるとともに、労働環境やオフィス環境、雇用条件も改善されてきています。
電材業界としては、人材不足に対し、女性の方へのアプローチや外国人の育成も視野に入れていますが、まずは多くの若い方々にこの業界に関心と魅力を感じていただけるよう、SNSやWEB、テレビなどのメディアを通じて発信していきたいと考えています。電気工事士を主人公としたドラマや漫画なども新たな関心を呼び込む効果を生むかも知れません。面白いですね。
生成AIのさまざまな職業への影響や可能性について盛んに調査や議論がされています。すべての仕事を生成AIに置き換えられるわけではないため、さまざまな職種の労働需要の総和に対して全体供給不足を生成AIなどが補うというのが理想と言えますが、その過程の難しさ、不透明さは推し量れません。
生成AIは膨大な情報を使って答えを出すのに優れているようですが、経験を積み重ねた暗黙知の理解は不得意のようです。生成AIに代替されにくい職業は、既にアメリカでは顕在化してきていますが、日本でも電気インフラを支える業界の高い需要環境や技術専門性を発信することにより、エッセンシャル技術技能職として相乗的に認知される環境が整備されていくものとして、電材業界の未来を描きたいと考えています。(編集部)
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