2021年12月号 RE100に向けた「純水素型燃料電池」
ビジネスのこれから

  • パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
    スマートエネルギーシステム事業部 水素事業推進室 事業企画課
    河村 典彦

「水素は、クリーンかつ安定的に供給が可能なエネルギーで、長期貯蔵や運搬が容易という特長を持っています。
太陽光・水力・風力発電などの再生可能エネルギー(以下再エネ)との組み合わせによって電力の有効活用が期待されています。脱炭素社会に向けた次世代エネルギーとして、また余剰電力を蓄える役割として、グローバルに関心が高まっています。今回は、パナソニックで長年水素の利活用の推進に携わってきた河村氏にお話を聞きました。

世界における脱炭素の動きと、再エネの供給と活用における課題

―日本は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとすると宣言していますが、世界ではどのような目標を掲げているのでしょうか。

河村:欧州、英国、米国、韓国、カナダでは日本と同様に2050年までに、中国は2060年までに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとするカーボンニュートラルを目標としています。
カーボンニュートラルを実現するためには、再エネの導入が欠かせません。主な再エネには、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどがありますが、欧米や中国など多くの国々の主要な再エネが風力なのに対し、日本では太陽光の割合が最も高くなっています。
太陽光や風力による発電は気象条件に左右されやすく、日中に使い切ることができない分の夜間利用など、主力電源として利用するためには蓄電池などに電力を蓄えておく必要性があります。
今、日本をはじめ、世界中で注目されているのが水素(H2)です。水素は世界中に存在し、発電や燃料などに使用可能で、燃焼させる場合にも燃料電池※として発電に使用する場合にもCO2が発生しないため、クリーンな次世代エネルギーとして注目されています。特に、「発電装置」とも言える燃料電池としての役割に期待されています。

  • ※燃料電池:水の電気分解の原理を利用し、水素と酸素を化学反応させて直接電気を発生させる装置のこと。化学エネルギーから電気エネルギーへと、燃料から直接電気エネルギーをつくることができる。

カーボンニュートラル実現に向けて鍵となる水素の役割と活用

―水素にはどのような特長と活用方法がありますか。また日本では水素はどのような位置づけとなっているのでしょうか。

河村:水素は電気分解 によって水から取り出したり、石油や天然ガスなどの化石燃料、メタノールやエタノール、下水汚泥や廃プラスチックなどの資源からもさまざまな方法によってつくることができます。生成した水素は逆に酸素と結びつけることで電気を生み出しますが、その過程では水しか排出せず、また燃焼させて熱エネルギーとして利用する場合でもCO2を発生しないクリーンなエネルギーです。したがって、太陽光・水力・風力発電などの再エネとうまく組み合わせた活用方法も可能です。
また、水素は大量に長期で貯蔵することができ、長距離輸送が可能です。燃料電池によるコジェネレーション(発電と熱源活用)など、さまざまな用途に利用できます。実は日本では、政府が2017年12月に「水素基本戦略」を発表し、官民を挙げて水素の利活用の研究に取り組んでおり、水素を「つくり」「はこび」「ためて」「つかう」取り組みを、世界に先駆けて推進してきました。
水素の利活用による脱炭素を進めるためには、利用時のみでなく、製造時や貯蔵・輸送時なども含めたサプライチェーンの構築が不可欠で、経済産業省や環境省が中心となり、官民一体となって取り組んでいます。

脱炭素化の動きが全世界でさらに加速していく| 水素の特徴

パナソニックが開発・発売した「純水素型燃料電池」の役割

―「純水素型燃料電池」の脱炭素社会における役割と可能性についてお聞かせください。

河村:「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」サプライチェーンの中で、「つかう」分野であるパナソニックの「純水素型燃料電池」は、家庭用燃料電池「エネファーム」で培ってきた技術を生かしており、日本で期待されている役割は大きいと感じています。
私はカーボンニュートラル・脱炭素を実現するためには、再エネだけでは限界があると思っています。再エネを最大限に活用することが不可欠であり、その一つの出口が水素での発電や燃焼であり、発電方法の一つが「純水素型燃料電池」であると考えています。つまり、化石燃料で賄っていることを再エネや電化で代替するけれどもそれができない領域は、最終的には水素の燃焼や発電によって代替するであろうという意味において、日本でのビジネスの可能性は無限にあると思っています。

脱炭素化に向けた水素サプライチェーンとパナソニックの事業領域

「純水素型燃料電池」と太陽電池を活用したRE100化ソリューションを実証

―事業活動で消費するエネルギーを100%再エネで賄う「RE100化ソリューション」の実証が2022年春から草津拠点内でスタートします。その意義についてお聞かせください。

河村:RE100とは、企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的な企業連合のことです※1。本格的に水素※2を活用する工場のRE100化は、世界で初めて※3の実証への試みとなります。
再エネ電力の調達手段は自家発電と外部調達に二分されます。企業は消費再エネ電力比率が100%になるように、これらの手段から選択することになります。
自家発電設備として太陽光発電を設置する工場は増えていますが、事業活動に必要な電力の全てを賄うには広大な設置面積が必要である上、天候の影響を受けるので発電量が不安定になるのが実情です。
そこでパナソニックは、これらの課題解決に向けたご提案と実証事業として、滋賀県草津拠点に「純水素型燃料電池」と太陽電池を組み合わせた自家発電設備、そして余剰電力を蓄えるリチウムイオン蓄電池を備えた大規模な実証施設を設置します。ここで発電した電力で草津拠点内にある燃料電池工場の製造部門の全使用電力を賄うとともに、3電池連携による最適な電力需給運用に関する技術開発および検証を行います。
この実証の組み合わせにより、天候の影響を受け発電出力が不安定な太陽光発電の課題を補完し、限られたスペースに設置した太陽光電池と、単位面積当たりの発電量が大きい燃料電池を組み合わせて、事業活動に必要な電力を効率的かつ安定的に賄います。また、蓄電池を組み合わせているため、電力需要に応じた適切な運用が可能なほか、工場非稼働日の発電電力も有効に活用できます。
本実証を通じて「純水素型燃料電池」の運用を含めたエネルギーマネジメントに関するデータとノウハウの蓄積と、実効の検証を進め、電力を再エネで賄う「RE100化ソリューション」の事業化を目指しています。
太陽電池と「純水素型燃料電池」の発電量の割合は2:8になる予定です。太陽電池を大きくしても需給ギャップの調整ができなければ、RE100への到達は困難です。ある程度導入できるだけの太陽電池を導入し、不足分を水素+燃料電池で賄う、という考えが今後は普及していくと期待しています。

草津拠点 RE100化ソリューション実証施設完成イメージ
草津拠点 RE100化ソリューション実証施設完成イメージ
純水素型燃料電池 連携制御イメージ
純水素型燃料電池 連携制御イメージ

「純水素型燃料電池」の現状の課題と10年後を見据えたパナソニックの取り組み

―「純水素型燃料電池」の実用化への課題と、将来を見据えた取り組みについてお聞かせください。

河村:再エネの課題は、変動性があることと、設置場所の問題であると思います。オンサイトで発電できることは需給調整においても重要なポイントですが、最大の課題は水素の価格と供給です。今はガス改質などの化石燃料由来の水素であればオンサイトである程度価格も見えているのですが、カーボンニュートラルという点ではグレー水素(P2右下コラム参照)として課題が残ります。ただ、再エネでつくられた水素が普及するには時間がかかると考えられますので、導入時にはガス改質でのオンサイト水素製造は、移行期のステップとしてある程度普及すると考えています。
再エネ由来のグリーン水素が100%普及するにはおそらく10年ぐらいかかるでしょう。「純水素型燃料電池」が普及する過程には、以下のような3つのシナリオが発生すると考えています。

①再エネ余剰分を水素に変換して蓄え、オンサイトにて好きな時に燃料電池で電気に変換する(実証が中心)
②輸入された水素を使って好きな時に燃料電池で電気に変換する
③オンサイトでガス改質等を使って水素を製造し、好きな時に燃料電池で電気に変換する

また、水素をどのように入手(供給)するかも今後の課題ですが、再エネの電気を使って水電気分解によりつくられたグリーン水素は価格が高いのが難点です。エネファーム技術と同じようにガスから水素を生成するグレー水素は比較的安いのですが、生成時にCO2が排出されるのが難点です。これらの課題においても、「純水素型燃料電池」はお役に立てると考えています。
パナソニックの「純水素型燃料電池」の発電効率は熱エネルギーが39%、電気エネルギーが56%で、業界では最高水準※4です。技術的にはさらに高くできますがコストに影響します。熱エネルギーで60℃くらいのお湯ができますので、ボイラーで蒸気を発生させている半導体工場などではこのお湯を利用することでボイラーの消費エネルギーを減らすことができます。消費する場所の近くに燃料電池・発電機を置くことで熱も取り込めるのもメリットです。エネルギーの地産地消ですね。業務用・家庭用の両分野での利活用にどうぞご期待ください。

RE100化ソリューション実証施設レイアウトとRE100化ソリューション実証施設システム構成
  • 加盟企業数はグローバルで309社、うち日本企業は54社(2021年5月現在)、パナソニックは2019年8月に加盟
  • 環境価値証書の活用を含む再生可能エネルギーにて生成されたグリーン水素を活用することでRE100に対応可能、実証開始時は再エネ由来の水素を用いるものではありませんが、将来的には再エネ由来の水素を使用したRE100化を目指しています。
  • 工場の稼働電力を賄う自家発電燃料として本格的に水素を活用した実証において。2021年5月24日現在、パナソニック調べ
  • 2021年10月1日現在、純水素型燃料電池における発電効率において パナソニック調べ

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