2021年1月号 [特別インタビュー] ローカル5Gに見える近未来

  • 大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 情報通信工学部門 ワイヤレスシステム工学領域 教授 三瓶 政一様

    大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻
    情報通信工学部門 ワイヤレスシステム工学領域
    教授 三瓶 政一

2020年春より次世代通信規格の5Gが導入され、いよいよ5Gの時代が始まりました。
これに先立つ2019年12月、電波法関連訓令の制度改正を受けてローカル5Gが利用可能となり、地域や産業のさまざまなニーズへの適用が期待されています。そこで今回は5G技術研究の第一人者であり、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)技術委員会委員長などを務め、移動通信システムの高度化、国際標準化、研究開発の推進及び国際競争力の強化に多大な貢献をされている大阪大学の三瓶政一教授に、ローカル5Gが社会生活の中でどのように新しい日常を創り出していくのか、お話を伺いました。

ローカル5Gの「自営通信」によるバーティカルセクターシステムとは

―電気工事業に携わる方々にとって、電気通信の技術革新への関心は非常に高いものがあります。まずは5Gとローカル5Gの違いについて、教えていただけますか?

三瓶様:「広く知られているとおり、5Gとは一般的に携帯電話のネットワークを指します。ユーザーは携帯電話会社に加入し、通信料を支払って回線を利用します。
一方、ローカル5Gとは、携帯電話で使っている5Gの機器やネットワークをそのまま「自営通信」に適用するものです。「自営通信」とは、携帯電話会社の「公衆通信」の対極にある言葉で、企業や自治体などの事業者が自分たちで運営する通信、という意味です。通信機器は自前で調達しなければなりませんが、通信費はかかりません。

―5G・ローカル5Gで暮らしはどう変わるのでしょうか?

三瓶様:そもそも私たちになじみ深い4Gは、スマートフォンに対して情報を配信し、それを人が見る、というサービスでした。それに対して5Gでは、これまで携帯電話のネットワークに接続されていなかった世界に、携帯電話の無線接続機能を導入することになります。そのようなシステムを「バーティカルセクターシステム」と呼びます。「バーティカル」とは、「直交している」「垂直な」という意味で、これまで携帯電話と無関係だったシステムが接続されることを意味しています。
例えば産業分野なら、工場内の機械やオフィス内のさまざまな機器が5Gで接続されるスマートファクトリーやスマートオフィス、農林水産の分野なら「スマート農業」という言葉もあるように、農場や養殖場への監視・制御、農業機器のネットワーク化などでしょう。交通の分野では、今後普及する自動運転システムに5Gは必須のものです。さらにロボットを接続することで、人に代わって何かをする。AIやビッグデータを介してネットワーク内に頭脳を持たせることにより、人に代わって判断を担う。この「人に代わる」点が5Gの非常に重要なポイントだと思います。
もうひとつ重要な点は、5G・ローカル5Gネットワークが、我々の生活の中で重要なプラットフォームになりつつあることです。5G・ローカル5Gネットワーク自体に特徴があるというよりも、そこにいろいろなものを接続できる性能をネットワークが持つこと。これにより、我々の生活を支えるさまざまなものが構築できる。そんなプラットフォームになり得るのが5Gなのです。

5G時代の携帯電話システムの活用領城

ローカル5Gとは

ローカル5Gとは、通信事業者に頼らない、自営のネットワークのこと。地域の企業や自治体などが自ら5Gシステムを構築することを可能とするものです。例えば企業の地方拠点や工場、農場、建設現場、スタジアム、医療機関などがそれぞれのニーズに応じて独自に基地局を設置し、5Gシステムを構築することができます。これにより、ローカル5G事業者は伝送できる情報量を引き上げ、高速伝達することが可能になります。
すでに総務省は4.6~4.8GHz帯と28.2~29.1GHz帯の周波数にローカル5G向けの帯域を用意。キャリア以外の事業者が事業免許を取得できるよう整備しています。これにより、キャリア以外の小回りの利く多様な事業者を取り込み、局所的ニーズにきめ細やかに対応することが可能になります。さらに、地方から5Gシステムを構築させ、地域創生を図る狙いもあります。

※携帯電話の通信サービスを提供する通信事業者のこと。キャリア(carrier)の語源は「運ぶもの」という意味。一般的には、NTTドコモ・au・ソフトバンクの3大キャリアを指す。

「人」と「コト」を分離し、再融合する仕組みづくりを

三瓶様:さらに、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響も見逃せません。新型コロナのような感染症拡大時期は、ソーシャルディスタンスを保たなくてはならないため、「人がその場所で何かをする」ということができません。我々の日常生活は、必ず「人が、ある場所で、何かをする」ということがセットになっているにもかかわらず、新型コロナ禍では「人が、その場所で、作業ができない」状況が生まれました。災害復旧を例に挙げると、それまでは家の中の泥をかき出したり、避難所を運営したりする「コト」に対して、人をうまく活用することがポイントでした。しかし、新型コロナ対応では人を活用することができません。あらゆる作業において、人と「コト」を空間的に分離した上で、改めて人と「コト」を仮想的に融合できる仕組みに変えていかなくてはなりません。その結果はご存じのとおり、多くの企業や現場で一気に在宅勤務が導入されました。同時に、5Gが通信ネットワークを介して動作を伝達し、それにより作業をすること、人に代わる作業をする機器を導入し、それを遠隔からオペレーションすることを可能にしつつあります。
2019年末までは、5G・ローカル5Gの話題になると、「すごいですね」「いつから始まるんですか?」など、将来の話として捉える方がほとんどでした。ところが、コロナ禍で人と人との接触を限りなく減らす必要性が生じ、5G普及への人々の期待が一気に高まったと感じています。

―アフターコロナでの5Gの活かし方はどうなるでしょうか?

三瓶様:これまでの世界はグローバル経済を推進する流れで進んできましたが、これからはそうでない可能性の方が高いでしょう。従来はシステムの構想は先進国、製造拠点は新興国という図式が一般的でしたが、新型コロナ禍では例えば中国の工場が機能停止してしまうと、世界中で製品供給がストップしてしまう事態が起きました。製造拠点を分散化させるとリスク回避が可能ですが、その結果、物流費や人件費などのオーバーヘッド(追加の負荷)が生じる可能性があります。しかし、5Gにより交通システムの無人化が進めば、物流コストが下がったり、人手を抑制できるようになりますし、1か所で多拠点のコントロールが可能になれば、分散化の効果が表れます。例えば製造機器であれば、製造機器の内部情報をデジタル化し、その分身をサイバー空間の中に仮想的に構築します。そして、各部の動作をサイバー空間内の分身に反映させることで、動作分析が可能になります。その結果、故障する前に察知して定期点検で修復することができます。これもまた、5Gネットワークだからこそ初めて可能になることです。
もともと5Gのポテンシャルは非常に高かったのですが、コロナ禍が未来の話から目の前の現実へと変えてしまいました。

高所作業や災害対策にローカル5Gが力を発揮

―電気工事業界では、働き手不足や技術継承に問題を抱える事業者が少なくありません。こうした問題にローカル5Gはどのような変革をもたらしていくでしょうか?

三瓶様:例えば高所での作業の場合、ローカル5Gなら人の代わりに機械が作業をし、人は遠隔でコントロールするだけでいい、というシステムが今つくられています。機器開発は必要ですが、地上からオペレーションできるとなれば、いずれ現状に取って代わるでしょうし、グループ作業も必要なくなって働き手不足も解消します。
また、地方の事業者の後継者不足の背景には、若者が都会に出てしまうという事情があると思います。しかし今、コロナの影響が首都圏一極集中にかつてない大きなインパクトを与えようとしている気がします。今後、地方に人材が流れる可能性は充分あり得ますし、そうなると地方で人々が楽しめる娯楽に、ローカル5Gを利用したサイバー空間が利用されるのではないでしょうか。
実は地方でいちばん重視されるのは災害対策です。山や川や崖などの危険ポイントを自治体が動画映像を使ってモニタリングし、その状況を住民にリアルタイムで流せるようなシステムを確立すれば、住民の方々はより的確に避難の判断ができます。これは日本という国の大きな特徴なのですが、いちばんインパクトが強く、社会を急速に動かすのは災害なのです。一例を挙げると、東日本大震災の際のLED電球の普及がそうでした。
実は2008年に経済産業省が白熱電球からLED電球へのシフトを促したわけですが、イニシャルコストの高さもあって、とくに変化はありませんでした。それが2011年の東日本大震災で電力不足が生じ、省エネが最優先事項になり、一気に普及が進みました。同じことが新型コロナ禍においても起きていると言えるのではないでしょうか。

三瓶様:働き手不足を5Gが補うという例をもうひとつ挙げます。例えば大規模な設備を整備する際、補助金を活用する機会は多いと思います。ただ補助金をもらえている間はいいのですが、終了すると人を手当できなくなったり、システムの更新が必要になってお金がかかり、そこで止まってしまったりすることがありました。その点、5Gはごく少人数でメンテナンスだけをすれば、あとは機械がやってくれる。つまり、後年度負担が減るのです。これは非常に重要なことです。
もうひとつは、自治体の枠を超えること。過疎地の問題は、現状では自治体ごとに税金で賄っていますが、これを補助金で機器だけ用意し、オペレーションは民間が担当し、その会社が広いエリアの複数の自治体をカバーするとしましょう。すると住民はリーズナブルな金額で、そのサービスを受けることができるようになります。前述の災害対策のモニタリングカメラもそうですが、各種ハード機器は自治体が補助金で用意し、後年度負担は広いエリアの住民が負担する。これも「場所を問わない」という5Gネットワークの特徴を活かしたサービスのひとつです。

―今後、ローカル5Gはどのようなかたちで導入されていくのでしょうか?

三瓶様:基地局を自前でつくるにはライセンスが必要ですが、パナソニックには是非この領域にチャレンジしてもらいたい。これまではキャリアが通信網を担い、メーカーはモノだけつくって納品すればよかったのですが、ローカル5Gではキャリアがやって来たことをベンダー※が代行することも可能です。取り組める領域が広がるとも言えます。
電気工事会社さんは5Gの技術を使いこなす必要はありません。ただ、性能だけは知っておく必要があります。5Gのプラットフォームは複雑ですし、年々進化する要素もあるので、性能要件で必要なものがあればベンダーに伝え、ベンダーがそれを受けてどんどん進化させていくのです。5G・ローカル5Gの重要なポイントは進化すること。新しいビジネスはもう始まっています。

パナソニックのプライベートLTE(ローカル4G)・ローカル5Gへの取り組みのご紹介

お客様の用途に応じて最適なネットワークシステムをご提供

パナソニックでは、ローカル5Gに先行して「プライベートLTE(ローカル4G)」を開発。工場などに納入し、IoT化による現場業務の効率化や生産性の向上を実現しています。ローカル5GやプライベートLTE以外にもWiFiやLPWAなど、お客様の用途に最適なネットワークをご提供させていただきます。

パナソニックにおけるローカル5Gの実証実験

パナソニックでは、2020年12月に制度化が進められているローカル5G(スタンドアローンタイプ)の免許取得に向けて取り組み中です。これまでパナソニックが培ってきた無線ネットワーク技術やセンシング技術、自社工場での作業効率化ノウハウなど、ハード+ソフトの組み合わせで現場プロセスイノベーションやセンシングソリューションをご提供いたします。

特長①オンプレミス型でコンパクトなシステム設計
  • ●システムの独立性を確保
  • ●外部回線遮断時も稼働する耐災害性
  • ●閉域ネットワークによる秘匿性を確保。
特長②コンサルティングから構築・保守運用までトータルサポート
特長③ソリューションを実現する豊富なEDGE端末
  • ●5Gゲートウェイも国内自社工場で生産
  • ●インフラ構築から機器・端末のご提供まですべて
    ワンストップで実現するのはパナソニックならでは
5Gゲートウェイ
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※IT業界における製造元、販売供給元のこと。

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