2022年6月号 経済的で心地よい住空間を提供する首都圏初の
実証事業として採択された超高層ZEHマンション。東京建物株式会社様[東京都 中央区]

  • 幸地 浩一郎様

    住宅エンジニアリング部
    建築企画1グループ
    グループリーダー
    幸地 浩一郎

  • 飯高 聡様

    住宅エンジニアリング部
    建築企画1グループ
    課長
    飯高 聡

2050年脱炭素社会の実現に向けて「ZEH」の考え方が注目されるなか、集合住宅・マンションにおいても建物全体のエネルギー量の収支をゼロに近づける「ZEH-M(ゼッチ・エム)」の普及が課題とされています。東京建物株式会社様は、「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」を経済産業省により初めて公募された「平成31年度超高層ZEH-M実証事業」に応募。2019年9月に首都圏初・唯一の事業として採択されました。業界でも注目される、ZEH-M事業への先導的な取り組みについてお話を伺いました。

ZEH-M事業はサスティナブルな暮らし・住まいの実現の一環

―「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」を「超高層ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」に応募された背景についてお聞かせください。

幸地様:当社の分譲マンションシリーズ「Brillia」事業は、自然環境への負荷を最大限に滅らし、サスティナブルな「暮らし」と「住まい」を目指しています。具体的なアクションの一つとして、高断熱で省エネの「ZEHマンション」の開発を推進し、積極的に展開しています。「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」は、その実現を目指したマンションの一つであり、「平成31年度超高層ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」として採択されました。
実は、2018年に「Brillia弦巻」が経済産業省「平成30年度高層ZEH-M実証事業」に東京都内初・唯一の事業として採択されており、実績がありました。私たちが積極的に取り組みはじめたのは、その2018年からなのです。

高層・超高層ZEH-M実証事業への取り組みの流れ

飯高様:2018年2月に「集合住宅におけるZEHの定義」が定められ、基準が明確になりました。そして4月「平成30年度高層ZEH-M実証事業」の公募要領が公表されたのですが、公募締め切りがなんと2ヵ月後。応募するにはあまりに短期間でしたが、すでに進んでいた「Brillia弦巻」の仕様をできる範囲で変更し、「ZEH-MOriented」の基準をクリアできるのではないかと前向きに検討するようにしました。

幸地様:再生可能エネルギーの導入が必須ではなかったので、あまり迷うことなく応募を決めました。採択されなかったとしても応募したことで知見を得られますし、メリットは十分あると思いました。短期間で応募するため社内の説得が必要でしたが、ZEH-M事業は当社としても、社会にとっても重要であるため、理解を得ることができました。

高断熱サッシと高効率設備の採用で「ZEH-MOriented」の基準をクリア

―「ZEH-MOriented」の基準を満たすために「Brillia弦巻」で仕様変更をされたのはどういった点でしょうか?

飯高様:1つめは断熱仕様の見直しです。断熱材を補強し、開口部の仕様を変更。アルミと樹脂のハイブリッド構造の高断熱サッシを採用しました。
2つめは、高効率設備の採用です。「Brillia弦巻」の設計はかなり進んでいたこともあり、給湯器を一階だけエネファームに変更。その他LED照明、高効率エアコン、節水シャワーを採用しました。
そして重要だったのは、HEMSシステムを採用することでした。実証事業の要件として、専有部と共用部の電気とガスのエネルギー使用状況を入居後2年間、SIIへ報告する必要があります。各住戸のエネルギー使用量を、入居者の手間をかけずに収集することを念頭に置き、設備を検討しました。
パナソニックのHEMSは戸建てでの実績も多く、機能や性能においても信頼できましたし、何よりも「データダウンロードサービス」が採用の決め手になりました。各住戸のエネルギー使用量がパナソニックのサーバーに蓄積され、管理会社が一括ダウンロードできるため、報告書作成の負担を大幅に軽減できました。

「平成31年度 省エネルギー投資促進に向けた支援補助金 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業のうち超高層ZEH-M実詞事業公募要領」より引用
「平成31年度 省エネルギー投資促進に向けた支援補助金 ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス支援事業のうち超高層ZEH-M実詞事業公募要領」より引用

―「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」も同様の設備なのでしょうか。超高層マンションということで採用が難しかった設備はありますか?

幸地様:基本的には、同レベルの設備を採用しています。異なる点といえば、弦巻ではHEMSモニターとしてプライベートビエラを採用していましたが、聖蹟桜ヶ丘ではHEMS連携ができるインターホンをモニターとして採用。HEMSコントローラは弦巻同様に、パナソニックのAiSEG2を採用しています。
また超高層33階建ての本マンションは520戸あり、ゲストルームやエントランスラウンジ、コミュニティラウンジ、キッズルームといった共用施設が充実。超高層マンションではこうした共用部のエネルギー使用量も多くなります。本マンションと同規模の超高層マンションでもゲストルームの稼働率は高い傾向にあり、ラウンジは今後テレワークのスペースとして活用されることも想定されます。そのためLED照明をはじめ高効率設備や太陽光発電システムも採用しました。創ったエネルギーを共用部の消費エネルギーに供給し、光熱費削減を図っています。
共用部にもエネルギー使用量の計測機器を設置。エントランスや廊下、共用の各部屋のLED照明や空調設備のエネルギー使用量をまとめて把握できます。こちらも各住戸のデータと同様にエネルギー使用量をダウンロードし、SIIへの報告書が必要なため、共用部全体の管理ができることで管理会社の工数削減につながります。そのため不可欠な設備といえます。もう1点クリアしなければならなかった課題が開口部でした。超高層マンションの場合、サッシに求められる耐風圧性能が高く、その基準を満たす高断熱サッシは存在しません。そのため、開口の外側にアルミサッシ、室内側に樹脂サッシで構成された二重サッシを採用しました。その他、壁の断熱材を40mmにするなど断熱性能を高めています。

―「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」の防災対策、レジリエンス対応について教えていただけますか?

幸地様:実は本マンションの設計を推進していた2019年、記録的豪雨をもたらした東日本台風(台風第19号)が発生し、内水氾濫の被害を多数もたらしました。タワーマンションでは電気設備が浸水したことにより、ライフラインが1週間以上途絶えるといった状況となっていました。聖蹟桜ヶ丘の計画地は多摩川に隣接しており、設計段階で地下1階に計画していた電気室や非常用発電機、給水設備を地上に配置変更しました。また当社オリジナルの「Brillia防災対策ガイドライン」を基準に各住戸と共用部の設備などを整備し、防災性能を確保しています。

飯高様:また住戸の一部ではありますが、レジリエンス機能を搭載したエネファームを設置しています。停電時にエネファームが発電している場合は、発電を継続して各住戸の停電時専用コンセントに電力を供給します。今後は蓄電池の設置も検討が必要かと感じています。

「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」のHEMS・MEMS機器系統模式図
520戸の超高層マンション「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」ならではの多彩な共有施骰。
520戸の超高層マンション「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘BLOOMING RESIDENCE」ならではの多彩な共有施骰。

Brillia弦巻の入居者に高評価。
冬の快適さ、光熱費軽減を実感

―「Brillia弦巻」に入居されている方は住み心地についてどのように評価されていますか?

幸地様:引き渡し1年半後にアンケートを実施したのですが、快適性や光熱費の面で特に冬場の評価が高いことが分かりました。以前の住まいと比較して、室内全体を暖かく感じられており、快適に過ごされているのだと思います。そのうえ、光熱費がそれほどかかっていないということに驚かれ、満足いただいているのではないかと考えています。

飯高様:電気設備のなかで高く評価されているのは、床暖房です。床暖房だけで十分暖かく、エアコンの使用頻度が減り、おトクに感じられているのではないかと。また約7割の方が今後価格が高くてもZEH-Mの物件を購入したいと回答されました。実際に住まわれて、その価値を実感し、納得いただいているのは嬉しいことですね。

―「Brillia弦巻」がZEHマンションであることが、やはり購入の決め手となっていたのでしょうか?

幸地様:マンション販売当時ZEHについて、理解がある方は少なかった印象があります。ご存じの方は10%ぐらいだったのではないかと。ZEHは戸建てをご検討のお客様には認知度は高いのですが、マンションではまだまだ認知が低いです。最近少しずつではありますが、脱炭素、SDGsなどニュースでも取り上げられることが増えてきているので、ZEHは知らなくても、環境への負荷を減らす機能を備えているマンションと伝えると、その価値も理解してもらいやすくなっています。

飯高様:「Brillia弦巻」を販売しているときよりは、本マンションを販売している今の方が、ZEHの認知はやや高いように感じますが、全体的にはまだまだだと思っています。

「平成30年度高層ZEH-M実証事業」に東京都内初・唯一の事業として採択された「Brillia弦巻」
「平成30年度高層ZEH-M実証事業」に東京都内初・唯一の事業として採択された「Brillia弦巻」

ZEHマンションの価値・メリットをどう伝えるかが今後の課題

―いち早く「ZEH-M」に取り組まれ、業界で先導的な立場となり、よかったのはどういった点でしょうか?

幸地様:高層集合住宅では初のZEH-Mの実証事業に取り組み、東京都内で唯一の「Brillia弦巻」が採択されたことで、東京都や経済産業省によばれて発表する機会をいただいたり、競合他社からの問い合わせがあったりして、様々なところとつながりを持つことができました。そうなると自然と情報が集まってくるのです。それは今後のZEH-M事業への取り組みに良い影響をもたらしますし、当社をアピールする機会も増えます。

飯高様:「Brillia弦巻」のアンケート結果は、ZEH-Mのアピールをする良い材料ではありますが、それ以上にもっと価値を強くアピールする手段を考えたいと思っています。

―「ZEH-M」をいかに普及していくか、その価値をどう伝えていくのかは今後の大きな課題といえるのですね。

幸地様:ZEH-Mの普及は、業界全体の課題だと考えています。制度も、電気設備もどんどん新しく変わっていく中、電気工事会社の皆様も国の施策や制度についても理解を深めていただき、新しい電気設備をどんどんご提案していただけると嬉しいですね。ZEH-Mの基準をクリアする電気設備のラインアップも充実してくると普及が加速するのではないでしょうか。
当社は、2050年度までにCO2排出量ネットゼロを目指し、2030年までに原則としてすべての新築オフィスビル、物流施設、分譲マンションをZEB化、ZEH化するという目標を掲げています。経済産業省が掲げた「2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指す」という政策目標を踏まえ、今後もZEH-Mの普及とより上位のZEH-Mの開発を進めてまいります。

東京建物株式会社幸地様(右から2番目)、飯高様(真ん中)当社営業立川(右)、齋藤(左から2番目)、樋口(左)
東京建物株式会社幸地様(右から2番目)、飯高様(真ん中)
当社営業立川(右)、齋藤(左から2番目)、樋口(左)

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