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住まいに求められる機能の中心は、心身のリラックス(休息)とリフレッシュ(清新化)で、この面で照明の担うべき役割は大きいものがあります。
戦後、蛍光灯の導入とともに一貫して“明るさ”を求め続けてきた住宅照明の発展の跡は、まさに量志向の歴史であったと言えます。
しかし、省エネルギーが地球的課題である今日において、経済産業省(2009)によれば、一般家庭における照明器具の電気使用量は、一年中稼動している冷蔵庫に次いで第2位の約13%を占めています。各部屋ごとにさまざまな種類の器具が設置されているため、全体の電気使用量が多くなっているのです。照明の省エネには、こまめな消灯が大前提となりますが、最近ではLEDのように照明器具の省エネ性能も向上し、より便利で快適性の高いものも登場しています。
生活の舞台とも言うべき住空間の、真に快適性を担うべき照明の姿を追求するために、視覚生理と心理の両面から照明の機能が解明され、より快適な照明環境を得るための、ソフト・ハード両面からの照明技術の研究開発が進められています。
住宅照明の基本機能は以下の3点です。
?@ 夜間の安全な視行動を支援する。
人・物の存在や通路などの環境を十分に視認でき、安全で不安なく行動できるだけの最低限の視環境を得ること。
?A 視作業に対して十分な視覚情報を与える。
視作業の種類に応じて、必要十分な明るさを得、障害となるグレアや照度ムラを排除し、色彩情報のための光色を配慮された視環境であること。作業別の維持照度についてはJISで推奨されています(表1)が、これは20才程度の健康な視覚を礎にしたものであって、高齢者に対しては次節に述べるように、特別な配慮が必要です。
?B 心身がリラックスし、リフレッシュするための快適な視環境を与える。
照明の及ぼす生理的および心理的な影響効果の大きさに鑑みて、これを巧く活用することは、人のサーカディアンリズム(体温、脳波、脈拍、呼吸数、ホルモン分泌などに表われる、覚醒と休息のリズム)に影響を与え、健康的な生活リズムと豊かな情緒性を得るのに有効です。
また日常的に、照明で美しく演出された空間に身を置くことの気持ち良さは言うまでもないところです。
良い照明とは、生活者ひとりひとりの住まい方や、その時々の生活シーンに相応した〝あかり環境〟を提供するものであり、しかも現代の社会的ニーズとしての環境保全にも配慮されたものでなくてはなりません。
言い換えれば「人に優しく(快適性の追求)、環境に優しい(エコロジカルな配慮)」というものであるべきです。良い照明の条件をキーワードで示したのが図1です。
(1) 明るさ(照度)
生活行為の内容に応じて必要な明るさが異なるため、維持照度の目安は各部屋ごとにJIS(Z9110-2010)で設定されています。表2に、主要な生活行為ごとの維持照度を抜き出していますが、手芸・裁縫・読書など、細かいものや対比の少ないもの、および動くものを対象とした視作業には、特に高照度が必要になります。このため、部屋全体を照明(全般照明)するための照明器具とは別に、その視作業範囲だけを照明(局部照明)して必要な照度を確保するための照明器具を設置する〝適所適照″は、無駄なく必要な明るさが得られるだけでなく、それぞれの生活行為に応じた視環境が形成され、その生活行為が効果的に行えるものになります。
なお、同じ視作業をするにも年齢によって明るさの必要量が異なり、高齢になればなるほど高い照度が必要となりますがこれは後述します。
照明器具も部屋の広さに合ったものを選ぶことが重要です。そのために日本照明工業会から適用畳数表示基準が出されていますが、LED器具の登場により改訂されています。表3にLEDシーリングライトの適用畳数の表示基準を示します。
(2) 明るさのバランス(均斉度、コントラスト)
(2)-1 部屋内における明るさのバランス
勉強や裁縫などの長時間の視作業をするための視環境としては、“見やすい明るさ”と“良好な均斉度”が要件となります。
十分な明るさがあっても、視野内に大きな明暗差があったり、手暗がりを生じていたりすると、眼は明暗順応を頻繁に繰り返すことになり疲労を招く要因となるからです。
従って理想的な明るさの対比は、
・作業対象とその周辺との輝度対比が3:1以下
・作業対象とそれより離れた暗い面との輝度対比が10:1以下
と推奨されています。(アメリカIES)。
ただし、均斉度が問題となるのは、勉強室・家事室・仕事室のような部屋の場合であって、会話や音楽やTVを楽しむ居間のような空間では、均斉度の良いフラットな印象より、むしろ明暗差によるコントラストをもっと大きくしたほうが、変化に富んだ情緒性の豊かな印象となって効果的です。シーリングライトなどの主照明の他に、ダウンライト、ブラケット、スポットライト、スタンドなどの補助照明の活用が望まれます。
(2)-2 部屋と廊下および部屋と部屋における明るさのバランス
人が部屋から廊下へ、あるいは部屋から部屋へと移動する場合、あまり明るさの変化が大きいと、眼の感度調整が追随できず、不安感を覚えたり、危険を感じたりすることがありますので、部屋や廊下などの明るさは、その動線に合わせて滑らかに変化するようにする必要があります。
例として、車で帰宅した場合、車庫から出て着替え、さらに入浴し、食事を済ませて寝るまでの行為に従って、それぞれの場所の明るさの変化の好ましいものの一例を図2に示します。
(3) まぶしさときらめき(グレア、スパークル)
(3)-1 不快なまぶしさ(不快グレア)と、
視力を阻害するまぶしさ(減能グレア)
太陽を直視したときのように、目の明るさの調節範囲を越えた強い光が目に入っておこるまぶしさのほかに、視野内の平均的な明るさ(目が順応している明るさ)に対して著しく明るい部分が視野内にある場合に感じるまぶしさがあります。
一般に住宅で問題になるのは後者の場合です。これは、視野全般と特に明るい部分との対比が大きすぎることが原因であり、例えば昼間まったくまぶしさを感じない懐中電灯の光でも、まっ暗な中では明るさの対比が大きく、きついまぶしさとなって物を見分けられなくなる場合もあります。また、それほどまぶしさが気にならない程度の場合、短時間であれば問題はありませんが、長時間になると知らず知らずのうちに影響を受け、眼が疲れたり、不快感を生じたりしますので注意する必要があります。
なお、高齢になればなるほど眼の生理的な問題により、まぶしさは増大しますので、高齢者の場合はできるだけまぶしさの少ない照明器具および照明手法を選ぶことが望まれます。
(3)-2 心地良いきらめき(スパークル効果)
シャンデリアやブラケットなどの適度な輝度がもたらす“きらめき感(スパークル効果)”は、照明空間にいきいきとした印象や高級感を与え、明るさ感を高める効果もあります。
また、光源のきらめきばかりでなく、電球などの高輝度光源の光で照射された物体(ガラス、金属、氷等)に生じるハイライトも、インテリアがもたらす視覚情報の質感を高めるものです。
(4) 光色(色温度・演色性)
(4)-1 色温度の効果
光色から受ける印象を表4に示します。
一般に高色温度の白ないし青白い光は人を活性化させ、低色温度の赤っぽい光は人を休息的にさせるようです。
さらに、色温度と照度には相性があり、図3に示すように、高色温度の光には比較的、高照度の方が快適と感じ、低色温度の光は、比較的、低照度の方が快適と感じます。
また、図4〜図6は、当社における心理評価実験の結果の一例です。
(4)-2 演色性の効果
“演色性”には、物の色の見え方の忠実性を示す“忠実演色性”と特定の物の色をより美しく効果的に見せる“効果演色性”とがありますので区別しておく必要があります。
一般に演色性を言う場合は前者を指すことが多く、平均演色評価数Raが指標として用いられます。
また、一般的に演色性(忠実演色性)の高い光は、低い光よりも明るく感じる(“明るさ感”が増す)という効果も特筆すべきことです。
(5) 反射と陰影(モデリング)
指向性のある光によって人や物に生じる陰影や、光源輝度の反映として生じる物体表面の輝度や光沢感は、視環境の質を左右する要因です。
●反射や陰影が適切であれば、
?@人物の表情が好ましく見える。
?A食卓では食物が美味しそうに見える。
?Bインテリアを構成するエレメンツの素材感や質感が
生かされ、個性的印象をつくる。
?@は適度な暗さの中でソファーに腰掛けた人物の顔に、前側方からスタンドのセード越しの柔らかな光が射して陰影をつくっている状態等がそれです。(図7)
?Aは白熱灯テーブルペンダントによって食卓面に生じた光溜りで、器や食物に生じている適度のハイライトや陰影が、視覚に好ましい印象を与える現象です。(図8)
?Bはダウンライトやスポットライトの指向性のある光によって、カーテンや壁面、家具、壁装品、各種の置物に生じる効果です。
●反射や陰影が強過ぎると、どぎつく、固い印象を与え、日常的な空間には好ましくないものです。
(6) 生活シーンに対応する明かりの変化
(フレキシビリティー)
演劇の舞台では種々の照明が縦横無尽に駆使されて、それぞれのシーンの雰囲気が創られていきます。住まいもいわば生活の舞台であり、さまざまな生活シーンが織り成されていくのですから、その時々に応じた最もふさわしい照明環境をつくりたいものです。
生活シーンを決める要素には、“生活行為”“生活時間帯”“生活部位”などがあり、それぞれにふさわしい照明のシーンの構成要素を表5に示します。
例えば玄関ホールの場合、雨の日などに暗く陰気になりがちですが、これを補うための“昼間補助照明”として、建築化照明やウォールウォッシャによる壁面照明によって“明るさ感”を演出するのが効果的です。それも昼間は白色ないし昼白色の光が適当ですが、夕刻以降は電球色に切り替えられれば“夜”らしさの演出になります。
またリビング・ダイニングでは、食事の準備、夕食、食後の賑やかな家族団らん、TVの観賞、夜更けのくつろぎなど、さまざまな生活シーンに対応して、照明もその機能を大きく変える必要があるわけです。これは1室1灯方式の照明では難しく、1室多灯化が望まれるゆえんです。
このように多様な生活シーンに対応するためのLEDシーリングライトも登場しています。「調光」・「調色」・「配光」を組み合わせて、「普段のあかり」、「くつろぎのあかり」、「シアターのあかり」、「勉強のあかり」など、生活シーンに適したライティングが楽しめます。
明るさに合わせて心地よい光色に変化するLED照明も開発されており、暮らしのシーンや気分に合わせて容易に演出ができます。(図9)
(7) 使い易い照明設備(利便性、メンテナンス性)
(7)-1 取り付け易さ
天井に照明器具を取り付ける作業は肉体的負荷の大きいもので、その省力化は重要な課題です。
引掛シーリングでコードペンダントの着脱が簡単にできるように、近年シーリングライトやシャンデリアにおいても、引掛シーリング応用の取り付け機構(カチット方式)や、これに類するものが種々実用化されています。これらの機構の普及は、取付工事を省力化したばかりでなく、部屋の用途変更や模様替えに合わせて、照明器具の移動・交換を生活者自身で簡単にできるという便利さともなります。(図10)
(7)-2 使い易さ(日常操作性)
ランプの点滅は従来、器具に内蔵したプルスイッチ(引紐式)か壁スイッチで行ってきましたが、壁スイッチでは切替えができず、プルスイッチはインテリアの美観上の問題がありました。また、1室多灯化が進むと、複数回路の点滅・調光の操作が面倒になるという問題が生じてきました。
より便利で、より高度な照明演出のために、以下のような制御システムが活用され始めています。
?@ リモコン(赤外線搬送式点滅制御機構)
発光ダイオードから発する36.7kHzの赤外線を搬送波として、点滅や調光の指令コード信号を送り、これを器具や受信用アダプタ(リモコンアダプタ)に組み込まれたフォトダイオードで受けて蛍光灯の点滅や段調光の操作、白熱灯の点滅や連続調光の操作を行わせるものです。
部屋内のどこからでも、居ながらにして照明をコントロールできる便利さは、さまざまな生活シーンのあるリビング・ダイニングや、寝室等に重宝なものです。
当社のこの方式には、送信器を使わなくても壁スイッチの操作のしかたで順送り点滅ができるような配慮もされています。(1・2スイッチ機能)
?A 人検知センサ(熱線センサ)
人体から放射される赤外線を焦電素子で検出するものです。これは複眼のレンズで見張っているようなもので、どれか1つのレンズにでも入る輻射熱に変化を生じれば、検知してスイッチ回路をONします。
逆に人が不在の時は、その存在を検知しないことになるので、設定時間後にはOFFされます。
門、勝手口、ポーチ、玄関ホール、廊下などに実に便利で歩行の安全を保証してくれるものですし、寝室のベッドの足元などにも重宝です。
?B シーン切り替え(図11)
お気に入りのあかりパターンや各あかりの調光を記憶して、いつでもワンタッチでシーン切り替えができます。記憶されたシーンの切り替えは、雰囲気を損なわず、ゆっくり自然に変わるようにします。生活シーンに合わせて点灯パターンを切り替えると、シーンに適した明るさのあかりだけが灯るので、無駄な電力消費を抑えます。
LEDや蛍光灯、白熱電球など、回路ごとに接続する負荷を気にせずプランできる住宅用ライコンもラインナップされています。
7)-3 メンテナンスのしやすさ
?@ 器具取付位置の配慮
ランプ交換や器具清掃などは、高所作業になると危険を伴いますし、特に高齢者にとっては、椅子や脚立に上って作業すること自体に危険性があります。低位置のブラケットの活用が望まれます。
玄関ホールや階段ホール、吹き抜けリビングルームなどでシャンデリアやペンダントを用いる場合は、電動昇降装置の利用を配慮したいものです。
?A 分かりやすく簡単なカバー着脱機構
照明器具のカバーやグローブ等は、その取り外し方が分かりやすく、かつ簡単でなくてはなりません。特に女性や高齢者のレベルで吟味された着脱機構でありたいものです。
例えば、浴室用のガラスグローブタイプのブラケットの場合、ネジ込み式で外し方は分かりやすいのですが、ゴムパッキンが締め付け部に喰い付いてしまって、大きな力をかけないと外れないというようでは不都合であって、パッキンをシリコンゴムにして、すべりやすくしておくといった、細やかな設計的配慮が望まれます。
?B 長寿命ランプの活用
最近ではLED電球が長寿命ランプとして注目されています。一般電球形は約40,000時間、小型電球形は約20,000〜40,000時間と非常に長寿命で、一晩中点灯させたり、ランプ交換が難しい場所に設置する場合にも提案できます。
(8) 安全・安心の配慮
これは日常的な安全性の確保と、非常時の安全への備えといった両面があります。
夜間の行動に必要十分な明かりの確保を、主要部位について述べます。
?@ 門、アプローチ、ポーチ、庭まわり
近くに街路灯などがない場合は相当に危険な部位です。特に段差のある所や路面の凹凸などが、明瞭に視認できるように明かりを配置しなければいけません。またこの部位の照明には、暗くなると自動的に点灯する「明るさセンサ」付の器具か、人が近づくと人体の赤外線に反応して点灯する「人検知センサ(熱線センサ)」付の器具が便利です。(図12)
防犯のためには常夜灯の役割が大きくなりますが、これには省エネルギーの点で蛍光灯が有利であり、コンパクト蛍光ランプの電球色のものを用いた器具が主流となります。また常夜灯ではなく、人検知センサを利用したスポットライトで、闇に乗じて忍んで来た泥棒に対する撃退効果のあるものもあります。(図13)
?B 寝室
カーテンなどで十分に遮光された寝室は、常夜灯がなければ暗黒に近くなります。就寝中は少しでも光のあることを嫌う生活者に対しては、人の動きを検知して灯るセンサ付の足元灯が便利です。ベッドから足を降ろすと灯るようにセットしておくと便利です。(図14)
日本の高齢者(国連の定義で65才以上)の人口比率は、平成7年に遂に14%を超えて“高齢社会”に突入しました。そして図15のように、2020年には4人に1人が高齢者になるという“超高齢社会化”が急速に進んでいます。
このことは私達が高齢者問題を他人事として見るのではなく、自分のこととして考えるべき時代が到来したことを意味しています。
家造りにおいても“高齢者配慮”はあたりまえのこととなり、照明計画もまた然りです。家庭で過ごすことの多い高齢者にとっては、住まいがいかに安全で、安心して過ごせ、健康的で充足感のある生活の場となっているかは大変重要な問題です。そして照明の機能が、生理的にも心理的にも極めて大きな影響効果を持つものであることに鑑み、その照明要件を以下に述べます。
(1) 視覚機能の低下と、配慮すべき照明要件
図16は人の眼球の構造ですが、これらの組織に加齢による様々な生理変化が生じて、視力や色覚などの視覚機能低下の原因となります。
?@ 角膜や水晶体などの透明組織に生ずる濁りや黄変は、眼球内での散乱光の増大や、入射した光の分光透過特性の変移を生じ、眩しさを感じやすくなったり2)、色差を識別する能力の低下をもたらします。図173)でわかるように、短波長の光に対する感度低下が特に大きく、低照度下での黒地に青色の文字などが極端に見にくくなったり4)、青から青紫系の色の識別力が低下します5)。そのため、用途目的に応じて光源の選択を考慮する必要があります。
例えば、グラビア写真などを観賞するには、電球よりもパルック蛍光灯昼白色が有利ですし、机上面に2000〜3000 lxを得るような高照度形のスタンドでは、比較的に言えば電球色のほうが眩しさが少なくて好ましいものです。
また眩しさを防ぐためには、視野内に高輝度光源(ランプや器具)を置かないようにする配慮が必要で、グレアを生じないような照明手法や照明器具を選択する必要があります。
?A 網膜上の視細胞の減少や、水晶体の濁りなどで視力が低下しますが、照度を上げることで視力向上を図ることができます。(図18)6)
なお、図18の横軸の値(輝度値)のおよそ4〜5倍が誌面の照度に相当します。
?B 暗順応の順応速度が遅く、かつ順応の弁別閾(僅かなコントラストを識別できる限界値)も若年者の10〜100倍の刺激が必要となり、若年者のようには暗さに順応しきれず(図19)7)、明るい部屋から急に暗いところに移動した時などに問題を生じます。そこで動線に沿っての明るさ変化が障害とならないように配慮しなければならず、これを照明における「バリアフリー」と呼ぶこととします。
(2) 高齢者のための推奨照度
前述のように高齢者は若年者よりも高い照度を必要とします。どの程度が適当であるかについては、CIE(1975年)では全般的に若年者の2倍程度を、照明学会の「新時代における照明の調査研究(1984年)では、作業照明についてのみ提唱して、若年者の1.5倍程度としています。しかしこれでは曖昧すぎるので、こうした知見に我々の新たな実験成果を加えて、個々の生活行為に則して推奨照度を設定したものが図20です。(当社案)
高齢者推奨照度の構成は次のとおりです。
(1) 作業照明領域(300〜3000 lx)
主として視作業の領域であり、若年者の2倍程度を目安とする。
(2) 全般照明領域(50〜150 lx)
高齢者であっても、細かな視作業以外の生活行為においては、通常の明るさがあればとくに問題はなく、省エネルギーの観点からも、作業照明としての局部照明の併用を前提とした全般照明の領域では、特に差異を設ける必要はない。ただし廊下や階段などの推奨範囲では、高めの値を用いることにしたい。
(3) 1室1灯の照明方式による居室の場合(50〜250 lx)
一般的な和室のような1室1灯の主照明方式の場合は、作業照明を兼ねるので全般に明るくせざるをえず、平均照度で1.5倍を目安とする。
(4) エクステリア照明領域(3〜30 lx)
門、通路、ポーチなどエクステリアの領域は、高齢者にとっては暗くてハンディが大きく、かつ危険性も高いので、若年者の3倍を目安とする。特に明るい室内からの出口であるポーチや勝手口などは、バリアフリーの観点からも20〜30 lx程度の十分な明るさが確保できるように配慮したい。
(5) 深夜照明領域(1〜10 lx)
深夜の寝室から廊下、トイレに至る動線上の明るさは、若年者の5倍程度を目安としたい。高齢者の多くは睡眠深度が浅く、トイレに通う回数も多い。その際、活動時間帯と同じ明るさに曝されると、光刺激によって覚醒してしまうことがあるので、これを避けねばならない。その閾値は30 lx辺りに在りそうである。それゆえ深夜(睡眠時間帯)の明かりは、トイレなどへの通行と、トイレ内での視作業に必要な最小限度の明るさ、もしくはこれに安心感を加味した程度のものに抑える必要があり、高齢者による実験によってこれを求めると、歩行のためには1〜10 lx、トイレは10〜20 lx程度が好ましいレベルである8)。こうした明るすぎない明るさ、言わば深夜モードの明るさをどのようにして得るか、その実現手段は重要な課題となっています。
(3) 心の健康のために配慮すべき要件
在室時間の多い高齢者が不安感や孤独感に陥ることなく、できるだけ快活に過ごせるように、また孫や友人達も集いやすい快適で楽しい雰囲気を演出するように、照明を配慮します。
?@ 昼間の補助照明を設けること
部屋の奥が暗いと気分が沈みがちになります。老人室やリビングルームの奥の壁面にウォールウォッシャやダウンライト、ブラケットなどを用いて“明るさ感”を演出するのが効果的です。
また、雨天などで暗い時は明るい主照明を点灯すべきです。これらの昼間に灯す照明の光色は“昼白色”が適当で、電球や電球色は異和感のあるものです。
?A 夕刻から初更にかけての照明は、できるだけ明るくすることです。ただし、空間全体をフラットに明るくするより、明暗のある明るさで、効果的に“明るさ感”を演出するほうが、情緒性と省エネルギーの両面で好ましいものです。
?B 出窓やニッチに照明を設け、絵画や置物にスポットを当てるなど、局部照明を活用して明暗の変化に富んだ美しいインテリアをつくりたいものです。
?C ランプの光色を選びます。一般には色温度の高い白っぽい光のほうが、明るいと感じる人が多いようです。電球色蛍光灯を用いれば、照度は昼白色(パルック色)と同等に明るいのですが、明るさより落着いた感じややわらいだ感じが強く、眼にも優しい視環境となります。また蛍光灯を用いる場合は高演色性のものを用いると、肌色や食物などを美しく見せるだけでなく、明るさ感が増すという効果がありますので、三波長形(パルック蛍光灯)を用いたいものです。
?D 様々な生活シーンに対応して変化する照明とすることが必要です。画一的でない照明は、生活に変化と潤いを与えます。変化を楽しむためには、簡単な操作でシーン切替えのできる制御システムを用いる必要があります。
(1) 照明方式
部屋の照明の方式は、主に次の3つの照明手法で構成されます。
(1)-1 タスクライティング
本・新聞・人の顔などの視対象物ごとに、狭い範囲を個別に照明する方式で、生活行為に合わせて使いやすいように配置し、光を有効に活用する方法です。たとえば、読書や調理・手芸・裁縫・洗顔など、作業に近い機能的行為を行うときに用い、視対象物が十分に見え、長時間細かい作業を安全に効率よく行えるようにする照明方法です。
さらに、この照明を全般照明の中に付け加えることにより、部屋内の明るさに変化がつき、平板な雰囲気をやわらげることができます。
(1)-2 アンビエントライティング
この照明は、視対象物だけを照らすのではなく、天井・壁・床など、視対象面も含めた周辺全体を照明する方式で、部屋全体の雰囲気や快適性を左右するものになります。
部屋全体を照明することにより、部屋内での移動がしやすくなるのはもちろん、視対象物とその周辺との明暗差を低下させることができます。そのため、視線の移動によって生じる明暗差による眼の疲労を防止することができます。
(1)-3 アクセサリーライティング
部屋の雰囲気を演出するために用いられる照明で、部屋内の一画に設けられた額や生花をスポット照明で照らしたり、壁面に装飾性のあるブラケット(壁付灯)を設置したりして、目の注視点を設ける方法です。
(2) 配光分類と照明効果
照明の手法としては、図21に示すように、5つの配光分類(光の出方)で表わすことができます。
直接照明は器具から出た光で直接に視対象を照らすもので、効率が高く陰影がつきやすくなりますが、まぶしさの原因となることもあります。一方、間接照明は器具から出た光をいったん天井や壁で反射・拡散させて照明する方法なので、まぶしさがなく柔らかな雰囲気となりますが、陰影のない平板な雰囲気となる場合も多く、効率が低くなります。その他、半直接照明や全般拡散照明および半間接照明があり、これらはこの2つの中間に位置する照明方式の分類になります。
部屋の照明には、これらの配光で分類される照明を、生活行為に合わせて適当に組み合わせて使用することにより、光と影の調和による立体感やゆとり、および効率の良い明るさ等が得られることになります。
ある部屋にどんな光源が適するかを決めるには、それぞれの光源の特徴(表6)を総合的に判断して選択します。使い分けの簡単な目安として次のことが言えます。
インテリア空間では住まい全体の調和を考えて、家具や内装部材をコーディネイトすることで、住む人の暮らし方や好みに応じた機能や用途を明確にし、それに基づいたインテリアを構成することが重要です。
あかりも同様に、照明器具の形態だけでなく、光源の種類・明るさ・配光(光の出方・方向性)および吊下げか直付けかといった器具のスタイルや器具のデザインなどを、住む人の生活スタイルやインテリアスタイルに合わせて選択しなければなりません。
より上質で統一感ある空間を作るためには、空間をトータルで提案する必要があります。照明だけではなく、キッチンや床材などの空間構成アイテムでインテリアスタイルごとのトータルコーディネイトが必要です。
このインテリアスタイル分類を、洋風─和風、伝統的─現代的の2つの軸によるイメージ座標で図示すると図22になります。
集合住宅の照明は、居住部と共用部に分けて考える必要があります。
集合住宅の居住部分は、基本的に戸建住宅と同じです。ただし、建物の構造や寸法上の制約があるので、器具の選定にあたっては以下の点に留意する必要があります。
集合住宅には、玄関ロビーや集会室、共用廊下やエレベータホールなど特定の機能を有する空間があります。JISでは、これらの空間に対する維持照度を、居住部とは区別して部位別に掲げています。代表的なものを表7に抜粋します。
共用部の照明は、そこで行われる行動に要求される明るさを確保することが基本となりますが、同時にその空間自体が居住者の共有財産となることに配慮する必要があります。従って、経済性やメンテナンス性が重要になりますが、一方、照明の演出効果で空間グレード感を高めることが財産価値の向上に繋るため、両者のバランスをとることが大切です。
また、集合住宅は夜間の景観に与える影響が以外に大きいことに注意する必要があります。戸外に面する共用廊下の照明や外構照明は、住宅地域では大きな光の群になりますので、光色や配置を統一するなどの配慮が必要です。
〔参考文献〕
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