電気交渉人 一之瀬愛理の人を動かすスキルアップ講座電気交渉人 一之瀬愛理の人を動かすスキルアップ講座

登場人物紹介

  • 一ノ瀬愛理

    一ノ瀬愛理

    電気交渉人。この連載の主人公。名前の「愛理」は両親が「愛(あい)と理(ことわり)の両方を持った人に育ってほしい」という願いを込めて名付けられた。後輩の小林さんと田中さんの良き相談相手

  • 田中さん

    田中さん

    真面目で技術に優れているけれど人との関係が苦手

  • 小林さん

    小林さん

    のんびり屋で明るく人から好かれるけれど段取りが苦手

第2回交渉は「初対面」から始まる

電気交渉人 一之瀬愛理

今回は私の後輩に交渉のベース、さらに人間関係のベース、コミュニケーションのベースとなる“ あること” を教えています。これが欠けてしまうと、お互いが合意して本来手に入れることができた果実を失うことも生じます。
ちょうど、友人同士で旅行の計画をしていたのに、ちょっとした言い争いから「じゃあ、旅行なんかやめよう!」となってしまうようなものです。お互いが後で残念に思うことになります。

技術に優れているけれど人との関係が苦手な田中君と、明るく人から好かれるけれど段取りがうまくない小林君と、交渉の基本を学んでいきます。

愛理
愛理

前回は、交渉は「論理」と「感情」の両輪で進んでいくという話をしたが、相手が話をまともに聞かなかったら、交渉技術以前のもっと根本に問題があるよね。

小林
小林

発注者に増減の見積書を出したときに、説明をきちんと聞いて「わかりました」と言ってくれる場合と、最初から疑って、なかなか信用して聞いてもらえないこともあるなぁ。

愛理
愛理

そう、それだよ。信用されていないからガードがかかってしまい、相手の話を聞く扉が閉じてしまっているんだ。もし、信頼できる上司と信頼できない上司がいたときに、同じ注意を受けたとしたらどう受け取るかな?

田中
田中

信頼できる上司から「田中君、君らしくない失敗だな。気をつけるように。」と言われたら、ありがたく思うし素直に聞けるけれど、信頼できない上司から「田中君、こんな失敗してたるんでるぞ、今後気をつけるように。」と言われたら、あなたから注意を受けたくないと思ってしまうかもしれないですね。

愛理
愛理

交渉においても同じで、相手との信頼関係を築くことは、お互いのコミュニケーションをスムーズにし、より良い合意を得るためのベースとなるものなんだ。

小林
小林

観光地のお土産屋とかで値段をふっかけたり過剰に良いものに見せたりして、うまく利益を得ている人がいますね。

愛理
愛理

世の中には短期的な利益のために、相手の裏をかいたり騙したりして交渉をする人もいるが、発注者や協力会社などの工事関係者に、私恨を残したくないだろう。工事関係者の協力を得るには、人と人との関係の基本は信頼関係につきるんだよ。

信用されてないの?
愛理
愛理

鳩山首相が普天間問題で、オバマ大統領に「信頼してくれ(トラスト・ミー)」と言ったけれど、期日までに問題解決ができずにオバマ大統領の信頼を失い、オバマ大統領とコミュニケーションがうまくいかなくなったことがあったね。

小林
小林

約束を守れないと、信頼を失うということですね。工事でも同じだな。約束どおりでなく、手待ちや段取りミスがあれば、次からは電工さんから「大丈夫だろうな!」と念を押されてしまいます。

愛理
愛理

少し古い話だけど、小泉元首相はブッシュ前大統領とコミュニケーションが良かったが、お互いに馬が合ったこともあるけれど、人間関係づくりに気を配っていたんだよ。ブッシュ大統領は、小泉首相がエルビス・プレスリーのファンだと知って、エルビス・プレスリーの生家に案内しているし、小泉首相もブッシュ大統領が日本に来たときに居酒屋に招待しているんだ。一緒に食事をしたり趣味を分かち合ったり、交渉の場以外のところが実は重要な役割を果たしているんだ。

田中
田中

電工さんとも、仕事の手配や指示の場だけでなく、普段の関係が重要だということですね。そこら辺が、少し足りなかったかな。

「信頼」をベースに「感情」「論理」を使う
愛理
愛理

小林君は「信用してくれなかった発注者」がいたようだけれど、何か信頼を失うようなことはなかったのか。

小林
小林

そう言われると、最初の打ち合わせのときに、約束時間に遅れて叱られました。後手に回ったために、きちんと挨拶もできなかったし…、そのときに「信頼できない奴だ」と思われたのかもしれません。

愛理
愛理

初対面のときから交渉のベースが作られていくんだ。最初はお互いの信頼関係はゼロからスタートする。徐々に相手との信頼関係の架け橋を築いていくんだ。例えは悪いが、最初は慣れていない野生動物でも、信頼されてくることで、少しずつ近づくことができるようになるよね。

田中
田中

フレデリック・フォーサイスの「ネゴシエイター」という小説で、プロの凄腕交渉人が犯人と人質解放の交渉をする話があります。犯人と電話で話をするんですが、交渉人は犯人との電話のやり取りをある時間で切ってしまいます。警察は「もう少しで逆探知ができたのに」と責めますが、交渉人は「犯人との信頼関係が交渉には重要だ」と言っていました。信頼を失えば、交渉は決裂してしまう。やっぱり“信頼なくして交渉なし”なんだなぁ。

小林
小林

相手の信頼を裏切らないように、しっかりしなくちゃね。

愛理
愛理

相手との信頼関係を続けるためには、お互いにメリットがあるように交渉をしたほうがいいよね。それが長期的な信頼関係にもつながってくる。次回は交渉の「トレード」という考え方をお話しよう。

信頼関係!

著者:志村コンサルタント事務所 志村 満
イラスト:日暮里本社