2021年1月号 VR※1/AR※2を活用した大分市の官民一体のまちづくり

  • 大分経済同友会 常任幹事 地域委員長(当時)鬼塚電気工事株式会社代表取締役社長 尾野 文俊様

    大分経済同友会 常任幹事 地域委員長(当時)
    鬼塚電気工事株式会社代表取締役社長
    尾野 文俊

大分市では、市制100年を迎える2010年に「大分都心南北軸構想」を提示しました。
これに対し、大分経済同友会では「市民も交えた議論の場が必要」という考えのもと、市民も参画する「まちづくりビジョンフォーラム」を開催しました。
その際にイメージの共有と可視化に活用されたのが、パナソニックの環境計画支援VRです。
このVRのデータは継続的に活用され、2018年にはARアプリにも展開。
まちづくりに対する市民の意識向上に大いにお役立ていただきました。
当時、大分経済同友会の常任幹事であり地域委員長を務めておられた鬼塚電気工事株式会社の尾野様にお話を伺いました。

VRによる大分駅北口のイメージ(市民の提案)
  • VRによる大分駅北口完成イメージ
  • 現在の大分駅北口
VRによる大分駅南口のイメージ(市民の提案)
  • VRによる大分駅南口完成イメージ
  • 現在の大分駅南口

市民の間でまちの将来イメージの共有、可視化にVRを活用

VRをご活用いただいたきっかけは2008年、JR大分駅南側の区画整理に伴うシンボルロード整備計画でした。この時、整備の具体的なプランが提示されなかったため、大分経済同友会が中心となり、行政などと共に第一回「県都大分のまちづくりビジョンフォーラム」が開催されました。その結果、「まちづくりのビジョンを持つべきだ」という意見を受け、2010年に大分市がまちなかを縦断する道路を中心とした「大分都心南北軸構想」を発表。大分駅周辺の高架化と、駅ビル・商業施設等の計画などが併せて提示されました。この南北軸の設計をプロポーザルで行うことになりましたが、「設計者から提示されるプランをそのまま進めるのではなく、市民が自分たちのまちをどう使いたいのか、市民目線で考えるべきだ」という想いから、第二回目のまちづくりビジョンフォーラムが開催されました。
「フォーラムでは、ビジョンや方向性を言葉で決議することが一般的ですが、言葉だけでは百人百様のイメージになります。そこでイメージを統一するために可視化することが必要だと感じましたが、パースでは描き切れないと悩んでいたところ、パナソニックのVRを知り、合意形成のツールとして使えると直感しました」。また、「大分経済同友会では、議論のたたき台として、ヨーロッパ視察などで得た知見やアイデアをVRに反映し可視化。駅前の交差点、減車線、LRT※3などをシミュレーションすることで有意義な議論に繋がりました。特に駅南のシンボルロードのデザイン検討に大いに活用されました。これまで専門家だけのものだったまちづくりが、VRによって市民が参画できるものになったのです」 と尾野様はおっしゃいます。

データをオープンにすることで継続的な活用を促進

その後も度重なる市民意見交換会が開催され、VRは継続的に活用されています。大分県がまちなかに県立美術館の移転を決定した際には、まちのにぎわいづくりといったソフト面の提案をVRで行い、多くの市民の賛同を得たと尾野様はおっしゃいます。「ハード面だけでなくソフト面でもシミュレーション可能なのがVRです。VRはまた、市民に渡せば市民が自分たちで考えたアイディアを積み上げていくことができるので、作成したVRは2次利用も可能なように一部のデータをオープンにしました。ですから今後も市民の方に自由に使っていただけます」。

ARが市民のまちに対する意識向上のきっかけに

2018年には、VRのデータを活用しパナソニックがARアプリを大分市に納品。市民にとってシンボル的存在である大分城址公園の利用促進を目的として、往時の府内城の復元イメージをARで再現しました。現存しない天守閣がARで甦ることによって府内城に対する市民の意識が高まり、跡地活用の世論も高まりました。現地では、建設足場を使って天守閣を再現し、夜にはライトアップで浮かび上がるようにすることで、大いに人気を博しました。
VRやARの活用で魅力的なまちづくりに繋がれば、商業施設やマンションなどが建設され、結果として自社を含む工事業者が潤うことになります」。また、「BIM※4の普及も加速しています。多面的に活用できる3Dの情報が増えてくれば、VRの精度もより高くなり、新しいビジネスが生まれそうな予感がします。パナソニックのVRがSociety5.0※5の花形ツールとなることを期待しています」。

ARアプリにより270年前の府内城を再現

  • 府内城の天守の骨組(鉄パイプで再現)によるイベント時の状況と、ARによる復元イメージが並んだ様子 (左:昼間、右:夜間ライトアップ時)。
    ARアプリ上で、両者を重ね合わせることができ、現地で閲覧する人々が臨場感をもって体験することができた。

お客様の円滑なコミュニケーションを促進する、都市データ&VR。
5Gなどの最新技術との連携で、さらなる飛躍を目指します。

パナソニックの環境計画支援VR(Virtual Reality System)は、3D空間の中で、計画検討、プレゼンテーションが可能な事業推進ツールです。VRの持つ役割やこれからの展望について、VR事業担当の大石氏と、大分電材営業所の則氏より、お話を聞きました。

VRのカタログはこちらから

  • ライティング事業部 エンジニアリングセンター 都市・空間VR推進課 課長 大石 智久

    ライティング事業部 エンジニアリングセンター
    都市・空間VR推進課
    課長 大石 智久

  • マーケティング本部 九州電材営業部 大分電材営業所所長 則 太介

    マーケティング本部 九州電材営業部
    大分電材営業所
    所長 則 太介

5Gとの連携で遠隔会議や地域学習など様々な分野への応用が期待

2000年の事業開始以来、全国で様々な建設プロジェクトの推進を支援するツールとして、お客様の目的に応じた都市・空間に係る情報の可視化と、その実現のためのVRコンテンツ提供を行ってまいりました。
時々の課題に合わせて継続的にデータとコンテンツを更新することが可能なため、大分市の事例のように、長きにわたりご活用いただくことが可能です。
パナソニックのVR/ARは、ソフトウェア販売でなく、専門知識を持つコンサルタントがお客様のご要望に応じて様々なデジタル技術を用い対応しているのも特長です。
今後の展望としては、近未来技術の実装で、新たなサービスを展開する予定で、既に幾つかの実証実験もスタートしています。2020年10月に開催された「キャナルアートモメント品川2020」では、ローカル5Gとクラウド連携により、街・照明空間演出の事前検証・制御をVRで行いました。他にも、離れた場所にいる人々が同じ仮想空間を見て共有できる「AR会議システム」。まちづくりシミュレーションソフト(Cities:Skylines)上で独自開発の修正プログラムを用いた地域学習を宗像市とともに行いました。今後のVR/ARの飛躍にどうぞご期待ください。

VRは地域と電気工事業界とパナソニックをつなぐコミュニケーションツール

我々は日頃、電気工事業界の中で、電設資材を中心に「商品(モノ)」でのお役立ちがメインとなっていますが、VRはまちづくりという「サービス(コト)」で付加価値をご提供できるものだと感じています。
VRは「都市計画においてまさに無から有を生み出す」。これは決して我々パナソニック単独でのサービス形成ではなく、電気工事業界を含めたお客様皆様と共にまちづくりを一から行うことです。またその成果物も最終的には地域で生活される方々と共有できるものであると考えます。
また、まちづくりをするなかで、電気工事を担う工事会社様はとても重要なポジションにいらっしゃいます。電気工事会社様にVRをご提案・ご活用いただくことは新たなビジネスを生むきっかけとなるのではないでしょうか。
VRはこれからも様々な機能を拡張し、お客様により喜んでいただけるサービスとして進化していきます。
今後も業界の皆様と共に、VRを通じて地域のお客様へ付加価値サービスの提供を行ってまいりたいと考えております。VRによるご提案をいただける場合は是非、パナソニックの営業所にお声掛けいただけたらと思います。

実証実験中の先進的なVR/AR技術・サービス

演出VRデジタルツイン

デジタル技術を用いて仮想空間に現実の物理空間を再現し、シミュレーションすることができる“デジタルツイン”を、「キャナルアートモメント品川2020」のイベント会場で実現しました。
VR上の画面から街や照明空間の演出を事前検証し、制御まで行える仕組みを構築しました。ロケーションオーナへの付加価値の高いサービス提供が今後期待されます。

  • IoTクラウドで既設の照明・音響・映像・カメラ等のデバイスを統合。

遠隔AR会議システム

スマートグラスを活用し、離れた場所にいる人々が同じ仮想空間を見ながら会議ができる仕組みです。従来、模型で行っていたまちづくりの検討がよりスムースに進みます。今後5G時代に通信環境が向上すれば、普及が期待されます。

  • スマートグラスから眺めた都市の様子。
  • 複数人で仮想空間を同期しているイメージ。

まちづくりシミュレータ(Cities:Skylines

自治体とパナソニックが協働し、国のモデル事業で開発した教育コンテンツです。中学校の社会科授業でこのソフトを用いた地域学習を行いました。将来的には、一人一台のタブレット上で5G通信を活用した学習も期待されます。

  • 再現された大分駅周辺の現況のイメージ(広範囲の都市を、自治体の都市計画の情報から一定、自動的に生成ができる)。
  • シミュレーションした将来の大分のまちのイメージ(将来予測や、市民のアイデアに基づいた都市を、自由に再現ができる)。

※Cities:Skylines は、フィンランドの Colossal Order 社の開発によるシミュレーションゲームです。

  • ※1VR=Virtual Reality(仮想現実)
  • ※2AR=Augumented Reality(拡張現実)
  • ※3Light Rail Transitの略。次世代型路面電車システム。低床で乗降が容易であり、定時性、速達性、快適性などの面でも優れた特徴を持つ。
  • ※4Building Information Modelingの略。コンピューター上に立体モデルを再現し、設計、施工、維持管理までのあらゆる工程で活用を行えるよう情報が蓄積される。
  • ※5IoTによりサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を連携し、すべてのモノと人をつなぎ、知識や情報が共有され、新たな価値が生まれる社会のこと。

他の記事一覧へ

パナソニックの電気設備のSNSアカウント