総務部門の業務とは何か。機器や備品の管理から、社内行事の運営、福利厚生業務に至るまで、企業における総務職の仕事は実に多岐にわたっている。そうした中で、コロナ禍の今、にわかに大きな注目を集めることになったのが、オフィスの空気質だ。プロの総務として、数々のグローバル企業で経験を積む株式会社Hite&Co.代表取締役社長で戦略総務コンサルティングの金英範氏に話を伺った。
コロナで変わる総務の役割——FMの機能を強化する
公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)の定義によれば、FMとは広義に「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」のこととされている。多くの場合は総務部門がそれを担わなければならない。
「実は総務のお財布的な事情から考えても、これからFMのあり方が大きく見直されるとされています」。そう話すのは、戦略総務コンサルティングとして活動する株式会社Hite&Co.代表取締役社長の金英範氏だ。
「元来FMは、中長期的な視点で考える必要があります。特に今回のコロナ禍でテレワーキングが広く普及したことで、本社機能自体が再定義されている状況です。時間・場所を自由に選択できるABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)化も進んでいくでしょう。もちろんこれは働き方改革に大きく寄与するものですが、総務的な視点でいえば、社員1人当たりの執務面積が減少する分、不動産コストが縮小していきます。となれば、その分を業務支援サービスや生活支援サービスに回すことができます。FMはおそらくハード的投資からソフト的投資への移行が進んでいくはずです」
ウェルビーイング経営に不可欠なキーワード「空気質」
こうしたソフトへの投資が着目されつつあるなか、近年は総務やFM部門の業務に新たな視点が加わりつつある。それは、社員の身体的・精神的・社会的に良好な状態を維持する経営のあり方——「ウェルビーイング(Well-Being)」の視点である。金氏が続ける。
「だいたい7〜8年くらい前からウェルビーイング経営が加速度的に注目されるようになりました。かつてはオーストラリアやオランダがウェルビーイング先進国でしたが『健康的なオフィスを提供することで高い生産性が維持できる取り組み』として2014年にアメリカで認証制度がスタート。健康経営とは別の文脈から『ユーザーの生産性』に配慮したこの概念はすでに世界中に広がり、日本も例外ではありません」
現行のウェルビーイング認証制度「WELL
v2」は「空気、水、食物、光、ムーブメント(運動)、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティ、イノベーション」の11コンセプトで構成されている。中でも特に“加点項目”として重要な位置を占めているのが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からも着目される“空気質”である。
「施設管理やオフィス環境整備の観点に置き換えれば『空気質=換気』ということになりますが、総務やFM部門の業務と照らし合わせても、環境・換気への責務は意外とヘビーです。ましてや今のコロナ禍でメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行が加速しています。総務部門が全国に数十万あると言われている中、いまだ総務職の大多数が漠然と総務の仕事に従事しているのが実状です。これから総務のジョブ(ミッション)を今一度見直して、FM業務に特化した取り組みや働きかけが求められていくはずです」
専門家・ビル管理者・コンサルティング企業との連携が必要
では、具体的に総務視点でのオフィス環境・空調・換気の重要性とは何なのか?
金氏がそのキーワードの1つとして挙げるのは「換気コントロール」だ。コロナ禍で「3密(密閉空間・密集場所・密接場面)を避ける」という行動様式が広く認知されるようになったが、それはオフィス空間も同様だ。特に換気の悪い密閉空間を避けるため、一定の換気量を確保する取り組みがオフィス空間では不可欠となる。
特に換気コントロールに役立つのが、換気設備の導入だ。例えば、計画的に給気口から外気を取り入れ、空気の流れをコントロール。それに伴い、給気口にフィルターを搭載することで室内に入り込もうとする汚染物質を大幅に減少させられる。給気・排気、そして居室内の空気循環をコントロールすれば、近年話題のPM2.5や花粉などの大気汚染物質の侵入も抑制できる。
「住居・オフィス空間での換気は、換気扇による『機械換気』と窓の開放による『自然換気』に大別され、換気方法にも第1種換気(機械給気+機械排気)、第2種換気(機械給気+自然排気)、第3種換気(自然給気+機械排気)などの組み合わせがあります。しかしこうした知見は元来建築設備の領域であり、総務部門にとっては専門外。建築設備の専門家やPM側(ビル管理者)と十分意思疎通を取った上、メーカーやコンサルティング企業と進めていく必要があります」
空気質コントロールを実現するテクノロジー
室内の空気質コントロールが、オフィスのクオリティの大きな要因であることに加え、新型コロナウイルス感染症対策にも気を配る必要がある今、オフィスの空気質マネジメントを可能にするソリューション提供を目指しているパナソニック
ライフソリューションズ社は次のようなソリューションを用意している。
●空間除菌脱臭機「ジアイーノ」による空間プランニング
空間除菌脱臭機「ジアイーノ」は、空気中の浮遊菌やウイルスを吸引し、本体内の次亜塩素酸で活動を抑制、さらに本体内から放出した次亜塩素酸で室内に付着した菌・ウイルスも抑制する。これに加えて換気設計のナレッジを組み合わせ、オフィス空間に放出される次亜塩素酸の濃度をシミュレーションする空間プランニングをオフィス向けに提供している。
●画像センサによる空調制御
画像センサ技術を用い、混雑度・密集度とともにCO2濃度が高くなるエリアを把握。オフィス空調機を制御するテクノロジー。本来オフィスビル内の照明制御などで数々の実績があり、空調・照明両方の省エネ効果も期待できる。
●次世代健康イオン「ナノイー」による空気清浄機能
花粉、アレルギー物質、におい、カビ、菌・ウイルス、PM2.5、そして美肌・美髪など7つの効果がある「ナノイーX/ナノイー」を搭載した空気清浄機をオフィス空間にも活用。オフィスで使える製品ラインナップとしては、天井埋込形ナノイー発生機「エアイー」、天井埋込形空気清浄機「エアシー」、ナノイー搭載のLED小型シーリングライトなどがある。
これら物理的安心感を享受する空気質ソリューションの他、同社はセンサ技術を活用して換気の状態を可視化するソリューション、さらには気流(風)と光・音・映像などを組み合わせたソリューションなども提供している。
金氏はこうしたテクノロジー活用について、次のように所感を述べた。
「換気コントロールには環境負荷やコストの問題も付きまといますが、何よりも“ワーカーファースト”の取り組みが肝心です。その解決の糸口となるのが、こうした数々のテクノロジーです。特に見える化のテクノロジーは、今まさに進化の著しい分野です。FMの世界では『測れないと管理できない』と言われますが、社員の位置情報、スペースの利用度チェック、コミュニケーション度の確認、場所による空気の状況などを“測る”ことのできるテクノロジーは、ますますニーズが高まっていくでしょう。テクノロジーを実装した“イケてる”ビルは、ビルの価値向上にもつながっていくはずです。ビル管理者には是非検討していただきたいです」
金 英範氏
株式会社Hite&Co. 代表取締役社長