この企画ではワークプレイスの空間だけでなく、実際の使われ方を通して「場」がどのように育てられていくのか、オフィス研究の第一人者である仲隆介先生と、住まいやモビリティなど新しい生活空間の創出を事業にされている余合繁一さんに、その新しい価値や視点をお聞きしながらさまざまな事例に触れていきます。
ナビゲーター・イラスト/西濱愛乃
西濱まず、タカノ株式会社さんの会社概要についてお伺いします。オーニング(可動式シェード)の開発経緯と、ここ「ルビーの里」が生まれた背景を教えてください。
大槻さんうちの会社は、もともとバネづくりから始めて、その技術を生かして折り畳み椅子を作るようになりました。今ではOEMでオフィスチェアも作っています。そこから事業が広がって、ヘルスケアやエクステリアの分野にも展開し、2003年からは自社ブランドでオーニングやパラソルの販売も始めています。現在はさらに、産業機器や画像検査装置、アレルギー診断測定システム、アグリ事業など、分野はどんどん広がっています。
「ルビーの里」については、もとは屋外の製品試験場だったのですが、2015年に社員が中心となって整備を始め、必要に応じて業者さんにもご協力いただきながら今の形になりました。今は新製品の展示や検証の場として使いながら、地域の方々にも開放していて、散歩したり赤ソバの花を楽しんだり、タカノのものづくりを身近に感じてもらえる場所になっています。
西濱今回は外で働く「ソトワーク」というテーマでお伺いしているのですが、オーニングやパラソルなど、外で気持ち良く過ごすためのものづくりで難しい点はどんなところにありますか。
大槻さん外で使うものなので、どうしても風の問題は出てきますし、「日除け」と言いながら実際は雨も防ぎたいという声が多いんです。そこで、特注で雨どいを付けたり、暑さや寒さへの対策として、周りをカーテンで囲って冬でも使えるようにしたり、ヒーターを入れて快適に過ごせるようにしたりと、いろいろ工夫しています。
写真左から西濱、余合さん、タカノ株式会社 樋屋さん、タカノ株式会社 大槻さん、仲先生、パナソニック エレクトリックワークス株式会社 笹田さん。旅人のプロフィールは「旅人について 」をご覧ください。
スマートデザインの自立型オーニング「カシオペア Rタイプ」。キャスター搭載の移動式タイプは必要な時だけ使いたいニーズも実現。
突風に対応したベンチレーションシステムを搭載した「ステラ」。片持ち大型パラソルで、支柱を中心に360度回転可能。
2013年度グッドデザイン賞を受賞した「自立型 リパーロ」。空間に合わせて自在に連結でき、オプションでサイドスクリーンなども組み合わせ可能。
和の空間に自然に溶け込む和傘モチーフのパラソル「MIYABI」。高さの違うテーブルが選べ、キャスター付きで移動も簡単。
西濱仲隆介先生は Vol.1 でも、外で仕事をする環境が知的生産性を高めるということを語っておられました。今、改めて「ソトワーク」という言葉も含めて、その思いを教えてください。
仲先生「ソトワーク」という言葉は僕が作ったものです。大学を辞めた後、オフィス環境の研究を続けるなら、室内だけじゃなく外の環境も研究したほうが良いと思って、実験的に場所づくりを始めたんです。
人間って頭で考えているようで、実は思考という行為に身体が大きく影響しているんですよね。認知科学では、「身体知」と呼ぶのですが、歩くとアイデアが浮かぶのもその一例で、気持ち良い環境のほうが脳も働きやすい。だから外で働くだけでアウトプットが変わる可能性があります。
もう一つ大事なのが「静寂の質」。自然って、滝の音や風の音があって、実は静かじゃない。でも、人はそこに「静けさ」を感じる。こうした感覚的な静寂は、集中や思考に凄く良い影響があると感じています。
最近の脳科学では「デフォルトモード・ネットワーク」という概念が注目されていて、リラックスしている時に脳の複数の領域が緩くつながり、アイデアが生まれやすくなると言われています。自然の中だと、そのスイッチが入りやすいんですね。
僕自身、外で働くと視点が引いて、行き詰まっていても「そもそも何のためだっけ?」と立ち返れる瞬間があります。流れで作業して迷い込む前に、状況を俯瞰して方向を調整できるんです。そういう意味でも、「ソトワーク」は良い仕事につながりやすいと思っていて、世の中にもっと広めたいんですよね。
西濱「ソトワーク」を広めていくために、働く空間の作り方でアイデアや構想はありますか。
仲先生「理想は、外と中を気軽に行き来できる環境なんです。ずっと外だと寒かったり暑かったり、集中できない時もある。でも1回中に入っちゃうと、もう出なくなる。だから、その日の気分で「外に出よう」「中に戻ろう」と自然に選べるつながり方が良いと思っています。
最近は半屋外のスペースがあるオフィスも増えてきましたが、まだ発展途中という印象です。
外と中の中間領域がもっと上手に作れれば、働く場所の選択肢が広がって、その価値は大きいはず。だから僕はよく「新しいビルには全フロアにテラスを」と言っています。
大事なのは、働く場所を固定するのではなく、光や風との距離感を自分で調整できること。人の状態や気分は毎日変わるので、それに合わせられる空間が理想です。まだ完全ではないですが、これからそういう場所がもっと増えていくんじゃないかなと思っています。
西濱タカノさんの社員さんは、こんな気持ち良い環境があるので外でお仕事されることはあるんですか。
樋屋さん行き詰まった時に、外に出て少し休憩することはあります。外で少しぼーっとしたり考えたりしていると、さっきまで悩んでいたことが急にばかばかしく思えたり、締めつけられていた心がふっと緩むような感覚が何となくあるんですよね。
仲先生そうなんです。“何となく”、自分の微細な変化に気付けるという状態が大事で、外に出ることでその感度が上がると思います。ただ、僕自身まだ超えられていない壁があって、それは「外は働く場所じゃない」という既成概念なんですよね。行き詰まって外に出ると、サボっているように見られることもある。まずその価値観をほぐしていかないといけないなと思っています。
西濱都市部のオフィスで働いていると、広々とした気持ちの良い自然があれば外に出たくなると思うんですが、既に自然の中で暮らしている地方の人に「ソトワーク」と言っても、その受け止め方には差がある気がします。むしろ地方の人のほうが外に出なかったり、車移動が中心で歩くことが少なかったりして、自然が身近にあるのに触れる機会が意外と少ないように思います。
仲先生確かに富士山のそばに住んでいる人に「富士山、いいですね」と言うと、「何が?」と言われることもありますね。常にあるから、その価値が分かりにくくなるんだよね。
西濱自然との距離感という面で、余合繁一さんは、移動時間や移動空間を含めた「ソトワーク」をどのように捉えていらっしゃいますか。
余合さん外って「効果があるから行く場所」じゃなくて、単純に気持ち良い場所なんですよね。都会で暮らしていると、そういう自然の場所に行くには移動が必要になるんですが、途中で車窓を眺めている時に心が整理されたり、気持ちが切り替わったりする。だから「ソトワーク」は外の環境だけじゃなく、そこへ向かう移動体験も含めて価値があるんだと思っています。
最近は「車はいらない」と言う若い人が増えたり、海外に行きたい人が減ったりと、全体的に内向きになりがちだなと感じています。でも、移動そのものがもっと快適で、自分の部屋の延長みたいに感じられるモビリティがあれば、知らない場所にも行きやすくなるし、「外に出ること」や「移動すること」がもっと身近になるはず。都市から自然へ移動して、外で働く。その一連の体験がもっとシームレスにつながれば良いなと感じています。
西濱私は自転車で通勤しているんですが、ちょっと遠回りでも川沿いを選んで走っています。川沿いは信号もなくただまっすぐの道なので、考え事がしやすいんです。すると、細かく考えていた事がふっと俯瞰できて、着く頃に解決していることも多いんですよね。移動しながら考えるのも、ある意味「ソトワーク」なんだなと思います。
仲先生クリエイティブな仕事ほど、いかに「自分が良い状態でいられるか」が鍵になってくるんだね。「ソトワーク」や移動は、これからの働き方においては全く違う価値を持ってくるんじゃないかなと思います。
仲先生「ソトワーク」でまだ十分じゃないと思っているポイントがあって、それが椅子なんです。オフィスチェアの座り心地はどんどん良くなっているのに、外の椅子はまだ快適とは言えません。一日中いたくても、長く座っていられないんですよね。これが変われば、外で働く人はもっと増えるんじゃないかと思っています。
余合さん例えばEV車のエアコンって凄く非効率で、車内全体を温めるために走行エネルギーと同じくらい電力を使うんです。でもシートヒーターなら、身体に直接触れて温めるので、必要な電力は4分の1で済むんですね。そう考えると、椅子自体が温かくなる仕組みがあれば、小さなエネルギーで快適に「ソトワーク」ができるんじゃないかと思っています。
笹田さん電源周りって、パソコンはもちろん、照明やちょっとした冷暖房でも配線が必要で意外と大変ですよね。e-blockは配線なしで使えるので、外でも中でも気軽に持ち運べるのが特長です。普段の仕事や生活の電源として使えますし、いざという時は非常用電源にもなります。オフィス家具に組み込んだり、モビリティ用の電池にも使えたり、どんなものにも搭載しやすいようできるだけコンパクトな物をめざして開発しました。
今は「働く時間」と「遊ぶ時間」の境目がどんどんなくなってきていて、仕事と余暇がシームレスにつながる時代だと思います。そんな中で、どちらの時間にもフィットして柔軟に使える電源として役立ったらと思っています。
e-block(イーブロック):https://www2.panasonic.biz/jp/energy/chikuden/e-block/feature/
また最近では、屋外にキッチンカーが並ぶマルシェやイベントが増えていますよね。そんなシーンで、e-blockは室内用の個人の電源から、まちの活動を支える電源へと広がる可能性があると思っています。そんな未来に少しでも貢献できたらうれしいですね。
(左)本部正面にe-blockとイメージパネルを展示。(中央)キッチンカーでは業務用炊飯器の保温用にe-blockを使用。(右)ビールサーバーを冷やす氷の冷凍庫と、スマホ充電やスピーカーなどで使用。
(左)商店街での夜市のにぎわいを演出する提灯をe-blockで点灯。(中央)立ち飲みスポットの提灯はe-block1台で最後まで稼働。(右)メインゲートのネオン管風看板の電源として使用。
端切れとして残った生地を再活用したサスティナブルなトートバッグ
西濱今後、タカノさんとして「ソトワーク」に関連するような事業の可能性や構想があればお聞きしたいです。
大槻さん一つは歩道の活用です。今「ほこみち(歩行者利便増進道路)」という、歩道をもっと自由に使おうという取り組みが全国で広がっています。大阪の御堂筋でも仕組みづくりが進んでいますよね。そうした環境が整っていけば、歩道がもっと活用しやすくなり、まちの風景や使われ方も変わっていくはずです。そういった流れに、私たちも関わっていけたらと思っています。
仲先生海外では、道路脇の駐車スペースにソファを置いて、ちょっとした居場所にしている例がありました。車のための場所を、人が使える多用途な空間に変えることで、まちににぎわいが生まれるんですよね。日本でも、そういう動きがもっと広がると「ソトワーク」も自然と広がると思います。用途の規制が少しずつ緩和されてきているのは、外で過ごす価値が国にも理解され始めているということなのかもしれません。
余合さん名古屋では、駅前の大通りを1車線ずつ削って歩道を広げ、特区として規制をなくして活用しようという計画が動き始めています。飲食などもできるようにするそうです。その時に、什器をどう移動するか、どう片づけるか、収納方法まで含めて仕組みを作れたら、期間限定の活用や多様な使い方がもっと広がりそうですね。
西濱「ソトワーク」を広げていくには、ただ外で働く人を増やすだけではなく、それぞれの活動の場を社会に開き、社会の仕組みごと変えていく必要があるのかもしれません。最後に、タカノさんとして「ソトワーク」や外で働く環境づくりについての思いをお聞かせいただけますか。
大槻さんこれまでは「外の快適空間づくり」を軸に、主に飲食や観光向けのサービスを展開してきましたが、今はインドア家具を外へ、アウトドア家具を中へという新しい流れが生まれてきています。そうした動きの中で、私たちもオーニングやファニチャーを組み合わせながら、外で働ける環境づくりに取り組んでいければと思います。
丈夫なキャンバス地の端切れを使用した「ルビーバック」などのルビーブランド製品を販売している、ルビーショップ。店舗内にはタカノ株式会社が販売する介護・福祉製品や健康食品、アウトドア用品も。
西濱『ワークプレイスメイキングをめぐる旅』は、ワークプレイスの空間だけでなく、働き方を含めて生き方や、その新しい価値観を探っていく企画です。「場」をつくるだけでなく、どうアップデートしていくのか。その中で人と人とがどうつながって触れ合っていくのか。「場」や自然、人がどう関わり合っていくのかを旅をしながら探っていきます。次回もご期待ください。
ルビーの里 エクステリアガーデン
https://www.rubynosato.com/exterior/
長野県駒ヶ根市赤穂14-353
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ご期待ください。
Vol.07
「ソトワーク」の最適環境を考える
「ルビーの里 エクステリアガーデン」
Vol.06
ゲンバをWell-Beingな空間に
大成建設「ウエルネス作業所」
Vol.05
移動するフェーズフリーのワークプレイス
TOYOTA「eXトレーラー」+ 大塚商会「次世代ハイブリッドLPガス電源車」
Vol.04
WeWorkが拓く新しい働き方
「WeWork 赤坂グリーンクロス」
Vol.03
多拠点を行き来する働き方の可能性
「TORIKKA TABLE & STAY」
Vol.02
モビリティとワークプレイスの可能性をさぐる
「LEXUSヨット」
Vol.01
仕事・遊び・生活を交ぜる
「生きる場プロジェクト」
1983年 東京理科大学大学院修士課程修了。PALインターナショナル一級建築士事務所。1984年 東京理科大学工学部助手。1994年 マサチューセッツ工科大学建築学部客員研究員。1997年 宮城大学事業構想学部デザイン情報学科専任講師。1998年 同大学助教授。2002年 京都工芸繊維大学デザイン経営工学科助教授。2007年 同大学教授。2023年 同大学名誉教授。
1992年 トヨタ自動車株式会社入社。2001年 東富士研究所研究員として次世代ハイブリッドや、モーター制御による車両運動コントロールを研究。2004年 製品企画リーダーとしてLEXUSLS600hプロジェクトを牽引。2008年 トヨタ自動車を退社。2009年 余合ホーム&モビリティ代表取締役社長に就任。
京都工芸繊維大学デザイン経営工学科にて仲研究室を卒業後、設計事務所でワークプレイスデザインに携わる。2017年に株式会社NINIを設立し、京都に「HOSTEL NINIROOM」淡路島に「TORIKKA TABLE & STAY」を企画運営。
近年、働き方の多様化に伴い、ワークプレイスのあり方が変化してきました。在宅勤務が普及したものの、集まり、コミュニケーションを深める重要性が見直され、オフィスも再評価されています。オフィスではABWの考え方が広まり、働く場所を自分で決めるようになりました。これからの働く空間はどのようなものになるのかを考えました。この企画にあたって、タイトルに、「ワークプレイス」と、まちづくりで使われる「プレイスメイキング」を取り入れています。
これは、「人」を中心に「まち」を考え、つくり続けることと通じるからです。そして、ワークプレイスを什器やデスクのレベルから、「ワーク」と「ライフ」を分けないライフスタイル、そしてまちづくりのレベルまで広げ、さまざまな場所を訪れる計画を立てました。訪れるのは、オフィス研究の第一人者である仲隆介先生と、住まいやモビリティなど新しい生活空間の創出を事業にされている余合繁一さん。ナビゲーターは京都と淡路島で宿泊施設を企画運営している西濱愛乃です。