この企画ではワークプレイスの空間だけでなく、実際の使われ方を通して「場」がどのように育てられていくのか、オフィス研究の第一人者である仲隆介先生と、住まいやモビリティなど新しい生活空間の創出を事業にされている余合繁一さんに、その新しい価値や視点をお聞きしながらさまざまな事例に触れていきます。
ナビゲーター・イラスト/西濱愛乃
西濱まず、株式会社ソーシャルインテリアさんの概要を教えていただけますか。
町野さん当社は、法人・個人向けに家具の販売やサービスを展開している会社です。掲げているミッションは「インテリアの世界を変える。インテリアで世界を変える。」インテリアそのものだけでなく、業界のあり方にも変化を起こしていきたいと考えています。
日本には「衣食住」という言葉がありますが、衣と食は世界レベルだと思うんです。一方で住、特にインテリアの分野は、欧米と比べるとまだ遅れている部分が多い。そこに対して、インテリアの側から新しい仕掛けをつくっていきたい。そんな思いを込めて、このミッションを掲げています。
事業としては、個人・法人向けの家具販売のほか、日本最大規模のインテリア受発注プラットフォームも運営しています。複数の事業を通して、インテリア業界に変革を起こしていきたいと考えています。
西濱御社の特徴としてよく挙げられるのが、家具を「所有」ではなく「サブスクリプション」で利用する仕組みだと思います。その発想は、どんな課題意識から生まれたのでしょうか。
町野さん創業前、私はインテリア業界の人間ではありませんでした。ただ、家具そのものは昔から好きだったんです。
欧米では、良い家具を孫の代まで使うという文化があります。建物も、海外では長く価値を保ち続けるものも多いですが、日本では30年ほどで価値がなくなると言われます。家具も同じなんですよね。だから良いものを買いたいという思いはあっても、なかなか高くて手を出せない。業界を変えていくためにはまず「買い方」を変える必要があると考えました。
そこで、新品の家具をサブスクリプションで利用できる仕組みをつくったんです。利用期間が終われば返却してもらい、私たちが二次販売する。そうすることで家具を廃棄せず、循環させることができる。良い家具が部屋に増えれば生活の質が上がる。結果としてごみも減り、空間の質も良くなる。そんな世界をつくりたいと思っています。
もちろん我々だけで業界を変えられるとは思っていません。ただ、そのためにいろいろな角度から取り組んでいて、サブスクはその一つなんです。
写真左から 西濱、余合さん、株式会社ソーシャルインテリア 町野さん、仲先生。旅人のプロフィールは「旅人について 」をご覧ください。
西濱個人住宅向けだけでなく法人のオフィス向けにもサービス提供されているのは、どのような経緯があったのでしょうか。
町野さん法人向け事業を始めたのは、創業当時、個人向けだけでは事業として成立させるのが難しいという現実があったからです。実際にやってみると、100人に1台ずつ売るより、1社に100台売るほうが圧倒的に早く広がる。結果として法人向けが大きく伸びていきました。
その中で考えてきたのは、日本のインテリア業界に影響を与えたいなら、まず法人市場でシェアを広げるべきだということです。法人で事業を拡大し、その仕入れ力を活かして個人にも展開する。今はその戦略で進めています。
余合さん最初は、サブスクありきの新しいサービスなのかなと思っていました。でもお話を伺っていると、「良いものを長く使っていく」という考え方が根底にあるんですね。
私も経営者として、社員にはできるだけ良い環境で仕事をしてほしいと思います。ただ、実際にオフィスをどう変えていけばいいのか、正直よく分からない。そこでオフィス設計をしている知人に見積もりをお願いすると、やはりかなり費用がかかるんですよね。見積もりを見ると「20年くらい使わないと償却できない」「本当に回収できるだろうか」と不安になって、どうしても踏み止まってしまう部分があります。
サブスクという仕組みは、良い家具を循環させるためのひとつの手段だと理解しつつも、企業にとっては費用面で導入しやすく、とても魅力的な選択肢ですよね。
西濱今回訪れているこの「THE MUSEUM」は、ショールームでありながら、実際に社員の皆さんが働くオフィスでもあります。この場所をつくろうと思われた背景には、どのようなお考えがあったのでしょうか。
町野さん「THE MUSEUM」をつくったのは2024年で、すでに8年ほど事業を続けていました。ただ、普段提案しているようなオフィスを自分たち自身がつくらなければ説得力がない、という思いは以前からあったんです。
実はアパレル業界のような洗練された業界でも、オフィスにはあまりお金をかけていないというケースは珍しくありません。店舗はとてもおしゃれなのに、オフィスに行くと「ここはお金をかけていないんですよ」と言われることもよくあります。
個人的にはその考え方には共感していなくて。僕たち自身が良い空間に座り、どう感じるのか、気持ちがどう変わるのかを体験していないと説得力がない。そう思って、半ば追い詰められるような形でこのプロジェクトを進めました。
余合さん見てもらう場所があるというのは大きいですよね。ショールームができる前は、提案力だけで勝負されていたということも、それはそれですごいと思いました。
町野さんリアルなものを売っているので、リアルな使い方を見せる必要はありますよね。最近は特に、オフラインの価値が年々上がっていると感じます。
窓側から見たショールームの全景。システム天井を有効に活用。ゾーンによって照明の色温度が異なる。
西濱私は前職の設計事務所で、オフィスづくりの提案をする立場にいました。家具を選定する際には、デザイナーが候補を提案し、実際に見てもらうために何脚か取り寄せるのですが、その場ではなかなか決めきれず、また別の家具を用意して……ということを繰り返すことも多く、決定までに時間がかかるケースがよくありました。
今回こちらに伺って、ショールームでありながら、実際に社員の方が働く様子まで見られることに驚きました。
空間の使われ方がリアルに伝わり、クライアントにとってもイメージしやすく、意思決定しやすい環境ですよね。ここは、働き方そのものを見せるショールームになっているんですね。
町野さんここ、実はかなり大規模な投資になっているんですよ。スタートアップが単独で実現するのは簡単ではない規模です。だからこそ、スタートアップとして新しいやり方を考える必要があった。そこで、協賛型という形で家具メーカーの皆さんにご協力いただき、実現を逆算してつくったんです。
昇降デスクやモニターなど、多様なオフィス家具が充実したワークスペース。
大きなアーチ壁とガラスで区切られたミーティングスペースとマグネットスペース。
吸音パネルに包まれたオープン型の個人用ブース。
オフィス改築の必要がなく、手軽に設置できるクローズ型の個室ブース。
周囲からの視線を遮り、リラックスできる個人用スペース。
パンチング加工によって閉塞感なく空間を仕切る吸音パネル。
モバイルバッテリーやコーヒーメーカーが設置されたマグネットスペース。社員同士の自然な交流を促す。
打ち合わせスペースを緩やかに区切るストリングカーテン。
西濱家具メーカーさんが、このプロジェクトに協賛されているということですか。
町野さんそうなんです。ここにある椅子も、ディスプレイも、基本的には全てお借りしているものです。こういう場をつくりたいとお話しすると、皆さん「それは面白いね」「新しい考え方だね」と言ってくださって。結果として、約50社に参加していただくことができました。
西濱これだけの最新家具を一度に見られるというのは、すごいことですよね。
西濱これまでのオフィス設計は家具のレイアウトから考えることが多かったと思いますが、こちらの空間は働き方や場の体験から設計されている印象があります。仲先生は長くオフィスデザインに関わってこられていますが、その考え方はどのように変化してきたのでしょうか。
仲先生以前は業種や人数からレイアウトを考えれば良かった。でも今は、その会社の文化や価値観まで理解しないと空間は設計できません。社長が何をめざしているのか、社員は何を大切にしているのか。そうした部分まで踏み込んで初めて、オフィスデザインが成立するようになってきていると思います。
今、オフィスは単なる機能空間ではなく、体験を生み出す場所。少し大げさに言えば、感動を感じられる空間のほうが社員の力を引き出せる。最終的には「いかに社員に力を発揮してもらうか」という経営の問題に繋がるんですね。
社員が気持ちよく、前向きに働ける環境をどうつくるか。家具だけではなく、空間全体としてどうつくるかが重要なんです。
町野さんまさに今は、いかに会社に来てもらうかが重要な時代だと思います。正直、リモートのほうが楽ですから。でも強制するのは難しい。だからこそ、「来て楽しい」と思える環境をつくることが大事だと思っています。
仲先生私がこの空間でとくに良いなと思ったのは多様性です。世の中の変化がとても速い一方で、オフィスはハードなので簡単には変えられない。だからこそ重要になるのが、「どれだけ多様な空間をつくれるか」という視点なんです。
今、世界的にはアクティビティ・ベースド・ワーキングが広がっていますよね。仕事の内容や、その時の気分に応じて働く場所を選ぶという考え方です。
ここは家具の種類が豊富なだけでなく、ストリングカーテンで柔らかく空間が区切られていたり、空間の形状にもくぼみや張り出しがあったり、自然と多様な居場所がつくられています。
「ここで休憩」「ここで集中」と機能を決めてしまうのは、デザイナーが陥りやすいミスですが、実際には、人によって合う場所は違う。だからこそ選べる選択肢を増やしてあげること、また、余白を残しておくことがとても大事になってきていると思います。
さらにここは家具が入れ替えられるじゃないですか。だから空間の余白が時系列でも変化していく。そういう意味ではよくできた多様性のシステムですね。
町野さんショールームという側面もあるので、結果的にそういう使い方が自然に生まれているのかもしれません。「君、そこで働くんだ?」みたいな、思いがけない場所で働いている人もいますね。
仲先生今回、窓側に机が置かれていましたが、最初はなかったですよね。 そういうトライアルが自然に生まれてくるのが、良いオフィスの証拠だと思います。ずっと同じ状態のままで変化がないオフィスは、人も同じ場所で動かなくなる。それではクリエイティブな環境にはなりません。
意匠化された吸音パネルを配置した会議室。ホワイトボードの盤面がリアルタイムでディスプレイに反映される。
熟練の職人により丁寧にカットされたクリスタルガラスを通して、幻想的な光を広げるポータブルランプに話が弾む。
気軽に遊びながらコミュニケーションを深めるTrack Shuffleboard (トラックシャッフルボード)。
西濱家具の提供に止まらず、「インテリアの世界を変える」ソーシャルインテリアさんの今後の展開について教えてください。
町野さん今、私たちは、法人向けの受発注プラットフォームとして大きく成長しています。ただ、「インテリアの世界を変える。インテリアで世界を変える。」というミッションを実現するには、その先の個人向け領域も含め、まだ取り組むべき課題が多い。仕入れや物流の問題もありますし、選ぶ側が「どう選べばいいか分からない」という課題もあります。
その上で、今後は、大きく2つの取り組みを進めました。
一つは業界の仕組みの改革。日本ではインテリアコーディネーターが稼ぎにくく、受発注も複雑な構造がある。そこで「INTERIOR BASE(インテリアベース)」という新たな仕組みをつくり、提案したい家具を誰もが提案できる環境を整えました。さらに、AI新機能を実装し、AIが家具選定・検索を支援します。
INTERIOR BASE
https://interiorbase.jp/
もう一つは、消費者に向けた文化づくりです。2026年春に、日本初となるインテリアイベントを開催しました。40組のクリエーターやデザイナーが6畳一間をデザインし、40の部屋を展示する共創型のイベントです。華道家やレーシング好きの建築家など、それぞれの個性を空間で表現してもらいました。
「TOKYOROOMS展 〜40の部屋、40通りの生き方〜」
https://subsclife.com/tokyorooms/exhibition
そういった取り組みを通じてインテリアって面白いよね、という文化の土台をつくりたいと思っています。伝えたいのは、「おしゃれな部屋が正解ではない」ということなんです。人それぞれ心地良い空間は違うはずですから。多様性こそが、インテリアの面白さだと思うんですよね。
西濱『ワークプレイスメイキングをめぐる旅』は、ワークプレイスの空間だけでなく、働き方を含めて生き方や、その新しい価値観を探っていく企画です。「場」をつくるだけでなく、どうアップデートしていくのか。その中で人と人とがどうつながって触れ合っていくのか。「場」や自然、人がどう関わり合っていくのかを旅をしながら探っていきます。
THE MUSEUM | ソーシャルインテリア
https://socialinterior.com/the-museum/
東京都港区南青山2-5-17
POLA青山ビルディング 9F
Vol.08
提案と実践が交わる共創型オフィス
ソーシャルインテリア「THE MUSEUM」
Vol.07
「ソトワーク」の最適環境を考える
「ルビーの里 エクステリアガーデン」
Vol.06
ゲンバをWell-Beingな空間に
大成建設「ウエルネス作業所」
Vol.05
移動するフェーズフリーのワークプレイス
TOYOTA「eXトレーラー」+ 大塚商会「次世代ハイブリッドLPガス電源車」
Vol.04
WeWorkが拓く新しい働き方
「WeWork 赤坂グリーンクロス」
Vol.03
多拠点を行き来する働き方の可能性
「TORIKKA TABLE & STAY」
Vol.02
モビリティとワークプレイスの可能性をさぐる
「LEXUSヨット」
Vol.01
仕事・遊び・生活を交ぜる
「生きる場プロジェクト」
1983年 東京理科大学大学院修士課程修了。PALインターナショナル一級建築士事務所。1984年 東京理科大学工学部助手。1994年 マサチューセッツ工科大学建築学部客員研究員。1997年 宮城大学事業構想学部デザイン情報学科専任講師。1998年 同大学助教授。2002年 京都工芸繊維大学デザイン経営工学科助教授。2007年 同大学教授。2023年 同大学名誉教授。
1992年 トヨタ自動車株式会社入社。2001年 東富士研究所研究員として次世代ハイブリッドや、モーター制御による車両運動コントロールを研究。2004年 製品企画リーダーとしてLEXUSLS600hプロジェクトを牽引。2008年 トヨタ自動車を退社。2009年 余合ホーム&モビリティ代表取締役社長に就任。
京都工芸繊維大学デザイン経営工学科にて仲研究室を卒業後、設計事務所でワークプレイスデザインに携わる。2017年に株式会社NINIを設立し、京都に「HOSTEL NINIROOM」淡路島に「TORIKKA TABLE & STAY」を企画運営。
近年、働き方の多様化に伴い、ワークプレイスのあり方が変化してきました。在宅勤務が普及したものの、集まり、コミュニケーションを深める重要性が見直され、オフィスも再評価されています。オフィスではABWの考え方が広まり、働く場所を自分で決めるようになりました。これからの働く空間はどのようなものになるのかを考えました。この企画にあたって、タイトルに、「ワークプレイス」と、まちづくりで使われる「プレイスメイキング」を取り入れています。
これは、「人」を中心に「まち」を考え、つくり続けることと通じるからです。そして、ワークプレイスを什器やデスクのレベルから、「ワーク」と「ライフ」を分けないライフスタイル、そしてまちづくりのレベルまで広げ、さまざまな場所を訪れる計画を立てました。訪れるのは、オフィス研究の第一人者である仲隆介先生と、住まいやモビリティなど新しい生活空間の創出を事業にされている余合繁一さん。ナビゲーターは京都と淡路島で宿泊施設を企画運営している西濱愛乃です。