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織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム

2024.7.10

# イベント・ウェビナー

パナソニック汐留美術館で開催中の
「ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」をご紹介。

こんにちは。今回は、6月29日(土)からパナソニック汐留美術館で開催中の「織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」をご紹介します。

パナソニック汐留美術館は、社会貢献事業の一環として開館し、これまでに「ルオーを中心とした美術」「建築・住まい」「工芸・デザイン」といったテーマで企画展を開催。2023年4月に20周年を迎えました。

パナソニック汐留美術館
織田コレクション 北欧モダンデザインの名匠 ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム(2024年)

20世紀デンマークを代表する家具デザイナー
「ポール・ケアホルム」

今回の「ポール・ケアホルム展 時代を超えたミニマリズム」で紹介するポール・ケアホルム(1929~1980)は、20世紀デンマークを代表する家具デザイナーです。

51歳で亡くなるまでの約30年間で生み出した家具デザインは、素材の特性をいかしたミニマリズムを極め、洗練された不朽の名作として、特に建築やデザインの分野で高く評価されてきました。

日本国内でも北欧デザインに対する多様な視線が注がれる中、本展は国内美術館でケアホルムを本格的に紹介する初の展覧会として、代表的作品が一堂に会する貴重な機会となります。

ポール・ケアホルム
Poul Kjærholm(1929-1980)

ポール・ケアホルム 自邸にて
1961年頃
写真提供:フリッツ・ハンセン
1929年
1月8日、デンマーク・オスターヴロ(Østervrå)に生まれる。
1944~48年
トーヴァル・グロンベック(Thorvard Grønbech)の下で家具職人の徒弟として働き始め、ヒョーリング技術学校(Hjørring Technical School)で学ぶ。
1948年
19歳でマイスターの資格を修得する(ライティングキャビネットを制作)。
1949年
コペンハーゲン美術工芸学校(Danish School of Arts and Crafts Copenhagen)に入学する。
夜間コースでハンス・J・ウェグナー(Hans Jørgensen Wegner)やアイナー・ラーセン(Ejner Larsen)、建築家のヨーン・ウッツォン(Jørn Utzon)らにデザインを学ぶ。
1950~52年
ハンス・J・ウェグナーの事務所に非常勤で勤める。
1951年
エレメントチェア(PK 25)をデザインする。
1952年
コペンハーゲン美術工芸学校を卒業する。
1952年
フリッツ・ハンセン社に入社する。プロトタイプ(PK 0)を製作する。
1955~80年
ウェグナーの紹介でアイヴァン・コル・クリステンセン(Ejvind Kold Christensen)と出会い、提携する。彼との協働関係の中から様々な名作が生まれる。
1957年
PK 22により、第11回ミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞する。
1958年
ルニング賞を受賞する。
1976年
オーレ・ヴァンシャー(Ole Wanscher)の後任として、デンマーク王立芸術アカデミー建築学部家具デザイン・空間芸術学科の教授に就任する。
1980年
4月18日、デンマークのルングステッド・クイスト(Rungsted Kyst)で死去する。

ミッドセンチュリーの北欧家具といえば、温もりのある木調のデザインを思い浮かべるかもしれません。しかしケアホルムの特徴は、当時では珍しく、石や金属などの硬質な素材を取り合わせた厳格なデザインにあります。

それでいて各々の家具は決して冷たい印象を与えず、置かれる空間に心地よい緊張感をもたらします。古びることのない、ミニマルで清潔な造形に凝縮されたケアホルムの仕事は日本の建築ともよく響き合い、国内の愛好家の間でも根強く支持され続けています。

以下、パナソニック汐留美術館ウェブサイトより、展覧会の見どころと特徴をご紹介いたします。

ORIGINS 木工と工業デザインの出会い

はじめに、ポール・ケアホルムの人物と、デザイナーとしての背景を紹介します。

ケアホルムは木工家具製作のマイスターの資格を取得することから出発しましたが、コペンハーゲン美術工芸学校でインダストリアルデザインを学び、当時の工業材料にも関心を持ちます。その過程で、スチールを用いた、後の代表作につながるプロトタイプを生み出しました。

家具職人として木材の材質美を体得していたことは異素材を主体としてからも息づき、また後に手がけることとなるミリ単位で計算された厳格なデザインは、構成要素を最小とすることで構造の豊かさを体現したミニマリズムを極めてゆくこととなります。

ここでは、主に年譜や写真などの資料展示により、ケアホルムの主要な足跡や20世紀デンマークデザインの系譜における位置づけを概説します。

(左)(上)ポール・ケアホルム《エレメントチェア(PK 25)》
1951年
スチール、フラッグハリアード
織田コレクション/北海道東川町蔵
撮影:大塚友記憲

(下)ポール・ケアホルム 1953年
写真提供:フリッツ・ハンセン
自宅でイームズDCMダイニングチェアに座るポール・ケアホルム。
右手前に写るのがPK25プロトタイプです。
(デンマーク、コペンハーゲン郊外のレズオウアにて)

1948年、家具製作修業を終えたケアホルムは、デンマーク北部のヒョーリングから首都に移り、コペンハーゲン美術工芸学校で工業デザインを学びます。

1951年、当時教鞭を執っていたハンス・J・ウェグナーが出した課題により、ケアホルムはデンマークの建築家ハルドー・グンロクソン(Halldor Gunnløgsson)の自邸の家具デザインを提案します。そのひとつに描かれたラウンジチェアが後に卒業制作へと発展し、家具デザイナーとしての最初の作品である本作品に結実しました。

接着や接合を用いずに一体のスチールを折り曲げることで、簡潔な曲線を基調とした骨組みを作り上げ、フラッグハリアード(ヨットの旗を張るための頑丈なロープ)で組成された座面と背面は、心地よい緊張感を体現しています。

DESIGNS 1951-1980 家具の建築家

本展のメインとなる本章では、ポール・ケアホルムがデザインを手がけた椅子や家具など代表的作品約50点を厳選して展覧します。

ケアホルムがデンマーク家具の正統を受け継ぎつつも、いかに素材の選定や構造のディテールづくりに挑戦し、またどのように建築空間との関係を意識しながら、今日にも通ずる革新的な家具をデザインしたのかを見つめます。

ポール・ケアホルム《PK 0》 1952年
成型合板(塗装)
織田コレクション/北海道東川町蔵
撮影:大塚友記憲

二つの合板を座部の裏面で接合した構造で、合板の素材上の制約をデザインにいかした、彫刻のような佇まいの椅子です。

単一の素材から三つ脚の椅子を製作することを試みた意欲作でしたが、当時の技術や量産の難しさからケアホルムの生前には製品化されませんでした。1997年、フリッツ・ハンセン社創立125周年を記念し、本作品は妻で建築家のハンナ・ケアホルム(HanneKjærholm)の命名で《PK 0》と称して限定復刻されました。その600体のうちの一つです。

(左)(上)ポール・ケアホルム《PK 22》 1956年
スチール、革
織田コレクション/北海道東川町蔵
撮影:大塚友記憲

(下)《PK 22》のフレームを検証するポール・ケアホルム
1957年頃
写真提供:フリッツ・ハンセン

ケアホルムがデザインした家具の中で、今日までに最も普及したラウンジチェア。1950年代初頭、ケアホルムに才能を見出したアイヴァン・コル・クリステンセン(Ejvind Kold Christensen)は、1956年に
コル・クリステンセン社を設立し、ケアホルムのビジネス・パートナーとなります。コル・クリステンセンとの協働により、ケアホルムは強度と柔軟性を備えたスチールを用い、自らの望む精巧なデザインを実現できるようになりました。本作品では《PK 25》にみられる側面のスチールをなくし、代わりに座面下部の両脚の間を増強しています。脚は一つのスチールから成形し、背面は最小限のスチールの骨子を革や籐などで覆っています。

素材の柔らかさが強調された、より快適な椅子を作り上げました。本作品のデザインで、ケアホルムは1957年第11回ミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞するなど高く評価されました。

ポール・ケアホルム《PK 24》 1965年
ステンレス、籐、革
織田コレクション/北海道東川町蔵
撮影:大塚友記憲

18世紀以降ヨーロッパには寝椅子(シェーズ・ロング)の伝統がありますが、ル・コルビュジェやシャルロット・ペリアンが考案した座面と土台を分離した構造の長椅子が、本作品の源流にあります。

スチールのフレームを籐張りした座面を、土台となる二点で支える構造となっていることからハンモック
チェアと称されています。

EXPERIENCES 愛され続ける名作

最終章では、ポール・ケアホルムがデザインした家具の図面や関連写真などの資料を一堂に紹介します。

ケアホルムが現代生活や日本建築においてどのように受容されてきたのを示す写真資料や書籍などを展示するほか、デザインを基軸とした北海道東川町の取り組みや、椅子研究家・織田憲嗣氏による椅子のグラフィック画を展示し、ケアホルムを多角的に体験していただく場を創り出します。

ポール・ケアホルム《PK 9》 1960年
スチール、革
織田コレクション/北海道東川町蔵
撮影:大塚友記憲

三つ脚の椅子はデンマーク椅子にみられる伝統ですが、本作品は緊張感のあるカーブを描いたソリッドな三つ脚のダイニングチェアで、今日まで生産が続くケアホルムの最高傑作の一つとされています。

スチールと座面を接合する六角ボルトがアクセントとなり、凛とした佇まいをもって構造の美しさをみせています。

織田コレクションが語るケアホルムの魅力

本展は、長年にわたり椅子研究と収集を続けてきた織田憲嗣氏(東海大学名誉教授)のコレクションを中心に、ケアホルムの主要作品を網羅した、日本の美術館では初めての展覧会となります。

織田コレクションとは?

世界各地の椅子約1400脚をはじめ、椅子研究家の織田憲嗣氏が長年かけて収集、研究してきた、20世紀デザインの家具と日用品群で構成されています。北欧を中心とした椅子、テーブル、照明、食器、カトラリー、木製のおもちゃ、関連資料など多岐にわたって系統立てて収集されており、近代デザイン史の変遷を俯瞰できる学術的にも極めて貴重な資料とされています。2017年、北海道東川町によりコレクションが公有化されました。

織田コレクションを有する北海道東川町の協力のもと、家具約50点と関連資料を紹介するとともに、ケアホルムのデザイン哲学と洗練された家具の造形美を、気鋭の建築家・田根剛氏(ATTA)の会場構成により楽しむことができるのも見どころのひとつ。

ぜひ、パナソニック汐留美術館にて、ポール・ケアホルムのデザインが織りなす、時代を超えたミニマリズムをご体感ください。

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