自然との調和を理想としたF・L・ライト設計の住宅
Vol.1
ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)
[兵庫県芦屋市]
兵庫県芦屋市のヨドコウ迎賓館は近代建築の巨匠、F・L・ライトが酒造家、山邑太左衛門の別邸として設計した鉄筋コンクリート造の建物。六甲山の地形を生かした階段状の外観で知られ、国の重要文化財に指定されている。また、ライトの母国・アメリカ以外に現存する希少な住宅作品でもある。
ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)は兵庫県の灘の酒造家、8代目山邑太左衛門の別邸として大正13(1924)年に竣工した。大正7年にフランク・ロイド・ライトが基本設計を完了、愛弟子の遠藤新、南信が建設した。当時、ライトは帝国ホテル建設のために来日中で、遠藤新と山邑家の娘婿・星島二郎が親友であったことから設計が実現した。
機能主義を掲げる欧米の近代建築に対し、ライトは異端ともいわれる「有機的建築」を提唱、自然から学んだデザインを多用し、自然との調和、一体化をテーマとする建物を手がけた。旧山邑家住宅も山の斜面に沿うように4階建ての各階を階段状に設計。3階北側を東へ曲げたのも、3階屋内に複数の短い階段を設けたのも地形を生かすためとされる。
自然との調和をめざしたデザインは邸内の随所に見られる。2階応接室の入り口は狭くしつらえてあり、室内の広さを強調する趣向。入室すると、東西に開けた2つの大窓から近隣の自然が風景画のように望め、ドラマチックである。それまで日本では屋外用素材だった大谷石を屋内に使用したことも特徴で、彫刻を施した大谷石の壁を屋外から室内へ続けて屋内外の一体化を図っている。また、3階西側廊下に外開きの大窓があるが、これも「室内を屋外と関連させ、外に向かって自由な開放を得る」というライトの考えを反映したものである。邸内のあちこちに見られる植物の葉をモチーフにした飾り銅板をこの窓にもあしらってあり、西日の頃には木漏れ日のような光と影が廊下に落ちて、美しい。
かつての山邑家には使用人がおり、客用とは別の廊下や厨房への階段、風呂もある。この住宅はライトの思想を表すとともに、当時の暮らしを伝えていて貴重である。
- 【星島二郎】
- 犬養毅の秘書を務めた後、政治家となる。
- 【大谷石】
- 栃木県宇都宮市大谷町付近から産出する石材。凝灰岩の一種で耐火性に優れている。石垣や塀・門柱などに用いられる。
兵庫県芦屋市山手町3-10
- 協力
- 株式会社淀川製鋼所