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Vol.4

夏の家
[長野県北佐久郡軽井沢町]

軽井沢の自然を取り込む木造モダニズムの別荘

ダイナミックにスロープを配した夏の家の居間。窓を開放すれば自然との一体感が生まれる。柱を敷居の位置から外へずらす「芯外し」の手法も開放感を高めている。
©軽井沢タリアセン

長野県北佐久郡軽井沢町の夏の家は、モダニズム建築家アントニン・レーモンドの別荘兼スタジオとして昭和8年(1933)年に竣工した。V字型屋根のモダンな建物には日本民家に着想を得た構造や軽井沢の風土と調和する工夫がみられる。昭和61年、軽井沢タリアセン内へ移築(現ペイネ美術館)。

レーモンドは木造でモダニズムの造形を実現した。シンプルながらV字型と片流れの屋根が印象的な外観。ここで家族や設計事務所員とともに夏を過ごした。
池を臨む高台に建つ夏の家(移築前)。カラマツの小枝で屋根を葺き、断熱・防音を図っていた。
『アントニン・レイモンド作品集』城南書院より

大正8(1919)年、A.レーモンドはモダニズムの巨匠、フランク・ロイド・ライトと帝国ホテル建設のために来日し、その後も留まって東京に設計事務所を開設。多くのモダニズム建築を手がけ、前川國男や吉村順三などの建築家を育てた。軽井沢南ヶ丘に夏の家を建てると数年間、所員とともに夏を過ごしている。

まず目を引くのはV字型屋根を頂く居間部分である。片方の屋根を高く伸ばして中2階を作り、設計用スタジオにした。V字の形状は吹き抜けになった居間天井に現され、スタジオへ上る折り返しスロープにも同じ勾配を採用している。南面には日本風の引き戸式掃き出し窓が連なり、戸袋に収納することで大開口が生まれる。これにより室内外は連続し、居間は自然を間近に感じられる空間となる。

天井とスロープの勾配は統一され、安定感がある。スロープの上奥がスタジオ。前川國男など選ばれた数人の所員が東京から同行し、働いていた。
©軽井沢タリアセン

居間東にある寝室および使用人室は十字状に配置されているのが特徴。中でも南側の寝室は3面が大開口の窓で、居間同様に眺望が素晴らしい。

  • 移築前の方角で記載。
V字を描き、野趣あふれる居間天井。梁や丸太柱を現しにした点にも日本的なニュアンスが感じられる。
部屋を十字状に配置したことで、各室の多方向に窓を開くことが可能になった。地元産の杉を用いた簡素な外壁は、当初、白木だったとされる。

居間部分のデザインはル・コルビュジエの作品案からヒントを得たが、原案が石造であったのとは異なり木造で完成させている。下見板張りの外壁や内装材は杉、節を残した丸太柱は栗、全ての屋根はカラマツの小枝で覆い、草葺きのような外観とした(移築後は復元されていない)。擁壁に用いた火山岩コンクリートも含め、全素材が地元産である。こうしてレーモンドは軽井沢の風土との調和を図り、建物に周辺の景観を取り込んだ。日本の民家の造りを理解した上で新しく展開された木造によるモダニズム建築。それを「私のデザインの上で新時代を画す建物」(『自伝アントニン・レーモンド』鹿島出版会)と自身は評している。

移築でいくつかの変更が生じたが、現在も保存・活用されており、貴重である。

大きな窓、視界を遮らない細い柱によって室内に居ながら軽井沢の自然に取り囲まれている感覚が楽しめる。
南側寝室のタンス。余った木材で作った家具が随所にある。
用語解説
【A・レーモンド】
第二次世界大戦前後に長く日本に在住。日本の近代建築に多大な影響を与えた。軽井沢では10数棟を建築。夏の家、聖パウロカトリック教会などが残る。
【モダニズム建築】
産業革命以降、工業化による建築部材の出現と構造の技術革新を背景として広まった建築様式。合理的かつ機能的で、過飾を排した様式が特徴。
【ル・コルビュジエの作品案】
南米チリに計画した組積造のエラズリス邸。

建築当初図面

参考: 『日本、家の列島』鹿島出版会
『アントニン・レイモンド作品集』城南書院

長野県北佐久郡軽井沢町長倉塩沢217

協力
軽井沢タリアセン
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