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Vol.17

朝香宮あさかのみや[東京都庭園美術館]

日仏の技術を結集したアール・デコの邸宅

東京都庭園美術館
本館 大広間
アール・デコ室内装飾の大御所、ラパンが手がけた大広間。装飾を抑えた空間に、規則正しく並ぶ天井照明が印象的である。
垂直・水平線やシンメトリーのアーチなどにもアール・デコの美しさが際立つ。

東京都港区の旧朝香宮邸は1933(昭和8年)の竣工。当時、ヨーロッパで流行していたアール・デコの美しさに魅せられた朝香宮夫妻の意思を取り入れ、フランス人室内装飾家、H.ラパンらと宮内省内匠寮くないしょうたくみりょうによって建てられた。日仏の技術の粋を集めた見事な装飾が特長である。国指定重要文化財。

アール・デコで統一された建物として世界的にも貴重な旧朝香宮邸。外観はシンプルだが曲面バルコニーや通風口の意匠に特徴がある。

朝香宮鳩彦やすひこ王は1922(大正11)年からのフランス留学中、自動車事故に遭い、療養のためアール・デコ全盛期のパリに允子のぶこ妃とともに長期滞在した。その間、1925年に開催されたアール・デコ博覧会を見学するなどして、その様式美に感銘を受けたとされる。その後帰国し、関東大震災で倒壊した邸宅に代わる自邸として建設したのがアール・デコで彩られた朝香宮邸である。

玄関のガラス扉はラリックが朝香宮邸用に作った物。天然石のモザイクの床は宮内省内匠寮の制作でギザギザ模様がモチーフ。 (左)東京都庭園美術館 正面玄関 
(右)東京都庭園美術館 正面玄関 ガラスレリーフ扉(部分) ルネ・ラリック

仏海軍から贈られた噴水器。来客時、妃殿下が上部の照明に香水を垂らしたと伝わる。
パイナップルとザクロをかたどった照明がある大食堂。植物模様のレリーフが壁を覆う。(上)東京都庭園美術館 本館 大食堂
大客室。歯車の歯のようなデザインが見られるシャンデリアや幾何学模様の扉に加え、イオニア風の飾りを持つ柱もあり、典型的なアール・デコ様式である。東京都庭園美術館 本館 大客室

1階は宮家やさまざまな来客を迎えた、もてなしの空間。来客が最初に通される大広間や、大客室、大食堂などの内装にはアール・デコ博覧会で数々のパビリオンをデザインしたラパンを起用した。また、玄関の女性像のガラスレリーフ扉はR.ラリックが、大広間や大食堂のレリーフはI.L.ブランショが制作するなど、そうそうたるフランス人芸術家の作品を配している。大広間の直線を強調したしつらえや整然と並ぶ天井照明はアール・デコの中でも、より近代的なデザインである。ラリック制作のシャンデリアが目を引く大客室にはギザギザ模様、モチーフの繰り返し、古代ギリシャ建築を参考にしたデザインなど、アール・デコ特有の多様な装飾が散りばめられ、邸内で最も華やかな部屋になっている。

ステップや手すりに最高級のイタリア産大理石を使用した第一階段。
宮内省内匠寮が手がけた二階広間。当時はピアノや蓄音機が置かれ、家族が寛いだ。東京都庭園美術館 本館 二階広間

2階は寝室や浴室も備えた家族の暮らしの場として設計された。多くを担当した宮内省内匠寮は精鋭の技術者集団。ヨーロッパ視察や建築雑誌を通してアール・デコを学び、最高級の木材や大理石で見事な内装を作り上げたほか、部屋ごとに異なる照明も制作している。後に、邸宅は吉田茂首相兼外相の公邸などとして使用され、現在は美術館になっているが、昭和初期の日本に開花したアール・デコの美しさを今日まで損なうことなく維持しており、貴重である。

ドーム型天井と間接照明が特徴の書斎。机の底部は可動式で、回転できる。
妃殿下の居間(写真上)や寝室の暖房器カバーは妃殿下自身がデザインした。(上)東京都庭園美術館 本館 妃殿下居間
用語解説
【朝香宮】
久邇宮くにのみや朝彦親王の第8王子・鳩彦王が1906(明治39)年に創立した宮家
【允子妃】
明治天皇の第8皇女
【アール・デコ】
1910~30年代に流行した装飾様式。社会の近代化や工業発展を背景とする幾何学的なデザインが特徴
【アール・デコ博覧会】
現代装飾美術・産業美術国際博覧会の通称
【R.ラリック】
アール・デコのガラス工芸家として名をはせた
【I.L.ブランショ】
フランスの彫刻家、画家。滞仏中の允子妃に絵画を教えた
【宮内省内匠寮】
宮内省所管の建物の設計監理を行った部署

東京都港区白金台5丁目21-9

協力
東京都庭園美術館

画象提供:東京都庭園美術館

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